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FIVE NEW OLD インタビュー:バンドミュージックとしての『Emulsification』=乳化とは?



 9月11日にFIVE NEW OLDが2ndアルバム『Emulsification』をリリースした。直訳すると“乳化”という意味になる今回のアルバムタイトルには、普段の暮らしの中で抱える“悩みや想い”と音楽を楽しむ“喜び”が共存して、人生が豊かになるような音楽を届けたいという想いが込められている。しかし、本インタビューを読み進めていくと、音楽における異なる言語の融合や、バンドという形態に対しても乳化という言葉がキーワードとして挙がってきた。FIVE NEW OLDがポップミュージック、バンドミュージックをどう考えているのか、本インタビューではメンバー全員に語ってもらった。

FIVE NEW OLDなりのポピュラリティ

――前作『Too Much Is Never Enough』以降のこの約1年半はバンドにとってかなり濃い時間だったと思います。この期間でどんなことを考え、このアルバムの制作に向かっていったかというところから話を聞かせてください。

HIROSHI:前作以降に考えたことは、メジャーの素晴らしい環境で活動できている喜びであったり、SHUNくんが正式メンバーになってくれて、もう一度メンバー4人で進んでいくという喜びも実感しながら、純粋に音楽をやれていることが楽しいということが一番ですね。そのうえでさまざまなアーティストとの交流も増え、いろんな刺激をもらっているなかで、自分たちの足りない部分も痛感しました。作品をリリースし、ツアーを回りながらそれをどう埋めていくかということもみんなで話し合ってここまで向かってきたという感じですね。

――足りない部分というのは?

HIROSHI:日本の音楽シーンで活動している中で──僕はユニークなバックグラウンドを持っているので(笑)。インターナショナルスクールに通った経験はないんだけど、セルフインターナショナルスクール育ちみたいなバックグラウンドがあるゆえに、イマイチ日本のお客さんとのコミュニケーションのとり方であったり、音楽に対する考え方もメジャーのフィールドに立ったときに上手く自分の中でハマるようなハマらないような瞬間があって。それは英詞で歌っていることも含めて。でも、そのあたりも踏まえて「多くの人に届く音楽はどういうものなんだろう?」ということをすごく考えたし、今も考えてますね。


▲FIVE NEW OLD - Gotta Find A Light 【Official Music Video】

――なるほど。日本のリスナーに対してポピュラリティを開いていくという意味で、全編日本語詞にすることも一つの選択肢としてあると思うし、それはある種の定石とも言えるんだけど、このバンドはやっぱりそういう簡単なチョイスはしないですよね。今回のアルバムの楽曲には日本語が入ってるものもあるんだけど、それよりもFIVE NEW OLDの音楽性における核を漂白せずに、しっかり成熟させながら、いかにFIVE NEW OLDなりのポピュラリティを獲得するか。そこに強く意識が向いてるなと。

HIROSHI:そうですね。多くのアーティストがそうだと思うんですけど、自分のやりたいことを貫きながら、多くの人に聴いてほしいという願望を両立させたい。ポップな曲を作りながら、リスナーに新しい音楽体験をしてもらう。それが理想だと思うんですね。その戦いはずっとあると思います。日本詞に関しても最初は抵抗感があったんですけど、それも矛盾しているなと思って。このアルバムを作り上げていく過程でそういう矛盾とも向き合って、正解を探していきましたね。

――サウンドにおいてもアルバムの音楽的なジャンルの要素はすごく多いんだけど、絶妙なバランスで引き算が施されているなと思いましたね。

WATARU:そうですね。引き算は意識しました。一つの音だけでも広がりが生まれる可能性があって、その集合体がきれいな円になるように。それは今まで培った経験が反映されていると思います。英詞もシンプルになったし。前作以降にアジアツアーも経験して、ワールドワイドに自分たちの曲を届けたいという思いも強くなったので。そういうところも意識した曲がそろいましたね。

HIROSHI:引き算という意味では、たとえば今まではレコーディングでボーカルを重ねることで自分の頭の中で鳴っていた歌の輪郭を聴覚上でも表現するということをやってきたんですけど。今回は、もしかしたらボーカルを重ねなくてもリスナーが想像力で補完してくれるかもしれないと思うようになったんです。そこに余白があるから感じられるもの、というか。それも矛盾してるかもしれないですよね。ポピュラリティを得たいと思いながら、余白を作ってリスナーに託すというのは(笑)。

――いや、それは表現としてすごく誠実だと思います。

HIROSHI:そっちのほうが文化的でもあるなと思って。

――文化的であれ、ということはこのバンドは当初から大切にしていることであるし。HAYATOくんはどうですか? この1年半でプレイヤーとしてもいろんな変化があったと思います。

HAYATO:変化はすごくありました。ドラムスタイルの話からすると、まずセッテングがゴロッと変わりました。前作以降、ドラムとしてはロック臭が減ったんですね。今作で言えば、唯一それが残っているのが1曲目の「Fast Car」だと思うんですけど。

――オルタナであり、エモ感ですよね。

HAYATO:そう、ちょっとオルタナティブな匂いがこの曲で残っていながら、全体的にはブラックミュージックの要素が多くて、かつポップスを鳴らすバンドのプレイヤーを目指していきたいと思っていて。今作は歌える曲が増えたと思います。さっきWATARUも言ってましたけど、シンプルな英語詞をサビで一緒に歌えるみたいな。英詞だからといって敬遠される時代でもないと思いますし。その中で、僕個人としてもキャッチーなメロディが好きなので、特に印象的なのは「Please Please Please」だったり、バラードでいえば「Always On My Mind」や「Set Me Free」だったり。いろんなアプローチができたなと思いますね。


▲FIVE NEW OLD - Please Please Please 【ASIA TOUR 2019 / 2019.5.25 at MYNAVI BLITZ AKASAKA】

――今挙げてくれた3曲はFIVE NEW OLD流の歌謡性を見いだせてると思いますね。一方で「Keep On Marching」ではマーチングと大陸的なトライバルビートを融合するという突っ込んだアプローチをしていて。英詞と日本語詞をナチュラルにミックスしているところもポイントだと思います。

HIROSHI:僕たちは今までゴスペルを自分たちなりに取り入れてきたんですけど、ここに来てそれがマーチングへと繋がって。で、最終的に帰結したのがアフリカ的な大陸感だった。僕の中でチャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」のサウンドプロダクションとのリンクも感じているところがあって。あとは英詞と日本語詞の融合ですよね。「自分にとって今現在音に乗せたい日本語ってどういうものだろう?」って考えたときに口語的な日本語だったんですよね。僕は茨木のり子さんの詩集が大好きでよく読んでるんですけど、そこからヒントを得て“哭く”とか今ではなかなか使わない日本語のよさを英詞とともに入れたいと思ったんです。それもアルバムタイトルである『Emulsification』=乳化の一つだなと思って。


▲FIVE NEW OLD - Keep On Marching 【Official Music Video】


▲チャイルディッシュ・ガンビーノ – ディス・イズ・アメリカ (Official Video)

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確かにバンドはめんどくさいが、一瞬の刹那的なスパークがある

――SHUNくんは正式メンバーになったのも大きいし、今はバンド内プロデューサー的な役割を担っていると思います。そのこと自体がアルバムに与えている影響もかなりありますよね。

SHUN:メンバーになって最初にリリースしたEP『For A Lonely Heart』でよりメンバーのことを知れた実感があって。自分は全体を俯瞰で見るタイプなんですけど、「ここは自分がやったほうがいいな」とか「ここは引いたほうがいいな」というバランスにおいて、今まで以上に口を出したり手を動かす割合が大きくなりましたね。その分、HIROSHIくんにはソングライティングに集中してもらって。

――SHUNくんから見たFIVE NEW OLDの強みと、まだまだ改良できるポイントってどんなところがありますか?

SHUN:僕はもともとJ-POPも大好きなので、もっと歌謡的な部分は強化できると思ったし、その成果がたとえば「Please Please Please」のような曲に表れてると思うんですね。そういう意味でももっとお客さんと一緒に歌える曲にチャレンジできたアルバムでもあると思います。逆に僕はオルタナやエモ的なロック感がルーツとしては薄いので、そこはメンバーに教えてもらったり。



HIROSHI:僕らの音楽性ってカーリング的だと思うんですよね。

――カーリング?(笑)。

HIROSHI:カーリングって当初はマイナーなスポーツだったけど、オリンピックをきっかけにルールも広まって、競技の楽しさが多くの人に伝わったと思うんですよね。そのきっかけの扉が開く瞬間ってあると思うので。僕らもそれを求めてると思うんです。

――今はソロアーティストの時代とも言われてますけど、やっぱりFIVE NEW OLDはバンドミュージックの可能性をすごく追求していると思うんですね。そのあたりについてはどうですか?

HIROSHI:やっぱりバンドってめんどくさいですよね。みんなと意見を合わせないといけないし、ぶっちゃけ現代のスピード感で言うと思いついた表現を瞬間的に発信したほうが効率的ではあると思うんですけど。でも、バンドならではのめんどくさいやり取りの中に気づかなかった深みとか、人に突き刺さる物語が生まれていく気がしていて。ソロアーティストの時代だけど、なんだかんだやっぱりみんな『ボヘミアン・ラプソディ』を観てテンションが上がるし、『アベンジャーズ』を観たらチームっていいなって思うじゃないですか。あと、これはちょっと話が逸れるかもしれないけど、たとえばここ何年かドレイクがインタビュー取材を受けずにSNSで発信し続けたりとか、インタビュアーやレビュワーが意見を言うと熱狂的なファンの人たちが「おまえはそのアーティストのことをわかってない」みたいな風潮がありますよね。

――ファンダムが重視されている時代。

HIROSHI:そう。アーティストの言っていることがすべてになっている世界。それはコミュニティを大きくしているようで、実はどんどん狭めている、隔たりを生んでいる世界になってしまっているのかなって。そういう時代だとさらにバンドはめんどくさいと思う。メンバーそれぞれの意見があって、それと同時にファンの意見も分かれるわけで。でも、上手く言えないんですけど、バンドはそういう隔たりの世界を崩していけるんじゃないかという希望も持ってるんです。

WATARU:バンドには化学変化がありますからね。メンバーそれぞれが持っている成分が混ざり合って想像もつかないものが生まれたりする。そのエネルギー自体が面白いと思うので。バンドだからこそ、なんでもありの表現を追求できるとも思うし。

HIROSHI:そういう意味でも乳化していくことに尽きるなと思う。新しいことにチャレンジするために乳化するのではなく、今までやってきたことも認めたうえで乳化するというか。


▲FIVE NEW OLD - What's Gonna Be? 【Official Music Video】

HAYATO:確かにバンドってめんどくさいですよね。意見が通らなかったら腹も立つし。でも、赤の他人が4人集まって毎日同じ時間を過ごしているからいろいろあるんだけど、それでもバンドって素敵だなと思う。僕はHIROSHIが書く曲に自信を持っているし、それをバンドで表現できていること自体が可能性だと思うので。

SHUN:バンドだと上手くいかない部分が愛くるしさにもなると思うんですね。「Fast Car」とかもベースはずっと8分音符で刻んでいて、ヨレてるなあと思いながらも、そこに愛くるしさを感じてOKテイクにしたりとか(笑)。そういうものって打ち込みで作ろうとしたらめちゃくちゃ難しいと思うんです。それこそバンドでしか表現できないんじゃないかと。そういうことを大事にしたいなって思いますね。

HIROSHI:ちょうどこのアルバムタイトルが浮かんだときも、AIの時代が来ると言われ合理性の社会が進んでいく中で「人間が人間として証明できることはなんだろう?」って考えてたんです。そしたら不合理とか矛盾こそが人間が証明できることだよなと思って。めんどくささを超えていく、一瞬の刹那的なスパークがあるからバンドをやってるんだって思いますね。

写真

FIVE NEW OLD「Emulsification」

Emulsification

2019/09/11 RELEASE
TFCC-86691 ¥ 2,750(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Fast Car
  2. 02.Keep On Marching
  3. 03.Magic
  4. 04.What’s Gonna Be?
  5. 05.In/Out
  6. 06.Last Goodbye
  7. 07.Pinball
  8. 08.Same Old Thing
  9. 09.Set Me Free
  10. 10.Gotta Find A Light
  11. 11.Always On My Mind
  12. 12.Please Please Please
  13. 13.Bad Behavior

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