Special

ザ・タイム来日記念インタビュー:西寺郷太が語る“ザ・タイムとプリンス”

インタビュー

 ザ・タイムが、日本に来る。
 「ミネアポリス・ファンク」を代表する大御所バンドであり、映画『パープル・レイン』ではライバル役を務めるなど、プリンス・ファミリーにおいて重要な存在であるザ・タイム。マーク・ロンソン×ブルーノ・マーズの大ヒット“Uptown Funk”の大きな影響源でもあり、またメンバーのジェシー・ジョンソンはディアンジェロ率いるザ・ヴァンガードの一員として活躍するなど、近年改めてその存在感を示している。

 そしてプリンスの誕生月となるこの6月に、フロントマンのモーリス・デイを始め、モンティ・モイア、ジェリービーン・ジョンソンらによる「モーリス・デイ&ザ・タイム」が来日公演を行い、続いて7月にはジェシー・ジョンソンも自身のバンドを引き連れてやってくる。この絶好のタイミングに、改めてザ・タイムについて振り返りたい。プリンスにとって彼らはどれだけ重要な存在だったのか。そして、ザ・タイムが80年代から90年代、そして現代にかけて与えてきた影響とは。その愛情ゆえの圧倒的な熱量でポップ・ミュージックを研究・分析し、マイケル・ジャクソンやジャネット・ジャクソンらに関する著書だけでなく、『プリンス論』も上梓した西寺郷太(NONA REEVES)に語ってもらった。

故郷のミネアポリスを生涯大切にしたこと

 プリンスのことを考えるたびに、彼が「故郷のミネアポリスを生涯大切にしたこと」に辿りつくんですよね。なぜだろう?って。



 父親のジョン・L・ネルソンは町のラウンジやホテルなどで演奏するジャズ・ピアニストでしたが、昼間は普通にサラリーマンとして働き生計を立てなくては暮らしてゆけませんでした。母親のマッティ・デラ・ショーは、父のバンドに若きシンガーとして入ってきて。父ジョン・Lは、すでに結婚して子供もいたので、「不倫」の関係の後にプリンスが生まれたわけです。

 父ジョン・Lはマッティと再婚し、彼女が妊娠した後も前妻ヴィヴィアンと関係を続けていたようで、プリンスの二ヶ月後にヴィヴィアンとの間に同学年の異母弟デュエインが生まれたり。想像しただけで波乱ですよね。ミネアポリスを擁するミネソタ州は、1970年時点で人口の98.2%が白人という、黒人やアジア系の比率が相当低い地域で。黒人同士という意味ではかなり狭いコミュニティなんです。当初は人種別に学校が分けられていたので、プリンスは異母弟デュエインと同じ学校に通わなければならない、という複雑な環境が生まれたんです。プリンスが、7歳の頃に両親は別居し、10歳で正式離婚。その後、母マッティは再婚しますが、継父とプリンスはソリが合わなかった。そんな十代、プリンスは現実から逃避するかのように「音楽」に没頭してゆくわけです。

 成功者のひとつのパターンとして、逆境から這い上がってスーパースターになった場合、過去や自分のバックボーンをあまり見せなかったり否定するスタイルもありますよね。「自分は生まれ変わったんだ」って、アメリカであれば大都会のニューヨークやロサンゼルス拠点を移して、地元のことに触れないとか。

 でもプリンスって、ミステリアスな存在でありながら、出身地を隠すどころか学生時代からのバンド仲間、モーリス・デイやザ・タイムの面々を筆頭に自分の周りのミュージシャン仲間を大量にフックアップし、「ミネアポリス・ファンク」なる一大ムーブメントを世界的に起こしたわけです。それどころか、生涯ミネアポリスとその郊外に暮らし、ペイズリー・パークを建設してレコーディングやライブを続け、その地で亡くなりました。ネットや携帯電話など通信も発達していなかったあの時代、情報やコミュニケーションの面でニューヨークやロサンゼルスから距離が離れているデメリットもそれなりにあったと思うんですけどね。ただ、大都会ほど人種間の音楽ジャンルが分割されていなかった。それを逆手にとって彼はハードロック・ギタリスト然とした佇まいと、ファンク、ソウルなどすべてをナチュラルに融合することが出来た。プリンスだけでなく、地元の仲間ザ・タイムの面々にも、セッションや競争を繰り返した青春時代の中で同じ感覚が埋め込まれていたわけです。今にして思えば、何故こんな究極の天才ばかりがプリンスの周りには集結していたんだろう?って思いますけどね。その僕なりに考えた理由は、あとでまた触れますね。

 今回のモーリス・デイ&ザ・タイム、ジェシー・ジョンソンの来日公演は本当に嬉しいです。プリンスが他のアーティストに提供した楽曲の、彼自身の歌唱によるデモ集『Originals』が発表されることで、「プリンスの外仕事」にも注目が集まっている時期ですし。まずは、ザ・タイムを若い方に紹介していきましょうか。


NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. パーティ・ファンク・バンドとしての方向性を具現化=ザ・タイム
  3. Next >

関連商品