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熊木杏里 『流星』 インタビュー

熊木杏里 『流星』 インタビュー

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--こうして熊木さんにインタビューするのは『無から出た錆』のリリースタイミング以来、約1年3ヶ月ぶりになるんですが、この期間は熊木杏里のミュージックライフにおいて実に印象的な出来事がいくつもあった期間でもあったと思うんですけど、自分ではどう思いますか?

熊木杏里:前は内面的なところばかり見ているところがあったんですけど、もっと広く世界を見ることができるようになってきた。『無から出た錆』を作っている頃から自分自身、そういう風になるだろうなとは思っていたんです。ここからもう一歩、次に抜け出すためのアルバムだったので。でも去年の初のワンマンライブをやった頃にはまだそういう風にはなれていなかったんです。あのワンマンライブですごく感じたことは、まだこのキャパの人たちを受けとめるだけの心を持っていない。そこまでの余裕もないし、自分の中でのプライドもあって。でもその受けとめることができない自分がすごく恥ずかしく感じて。それをそのときには感じなかったんですけど、少し時間が経ってからすごく感じて。ちょうどその後に『離島医療にかけるDr.コトーたち』の曲、今回のシングルに入っている『しんきろう』っていう曲を作る話が決まったんですけど、私はその診療所の先生のことも分からないし、その先生が暮らしている島の景色も分からないので、行ったんです、その島に。甑島(こしきじま)という離島なんですけど、そこに行ったことで、そこで出逢った人によって『しんきろう』は生まれたんです。そういう意味では、人からもらった曲なんです。私、それまでは、自分のためだけのモノを作ってた。なのでライブで歌っているときも一人で歌っている気持ちになることがよくあったのですけど、歌は誰かに聴かせるためにあるのだし、声は届けるためにあるのだし、『しんきろう』を歌うことによって私が見た甑島の景色だったり、そこに行かないと感じられないものをそのままそこにお届けできたらいいなって思うようになったんです。そういうのって今まではあんまりなかった気持ちでした。

--なぜそういう風に自分が変わっていけたと思います?

熊木杏里:前は、心を閉ざしていたと思うんです。言葉で言うとすごく簡単だけど、要するにそういうことだと思う。自分にだけ心を開いていたから、なんか、逃げることにも前向きみたいな感じ(笑)。でもそれだと時間ばっかりが過ぎていってしまうと思って「やめよう」って。だってそんなのつまらない。なので実際に自分のラジオ番組とかでも、どこかへ行ったり、何かを見て感じたことを話すようになってきてますし、もちろんすごく悩んでいるときは、内面に逃げている自分について喋ったりもするんですけど(笑)外と内、その両方が自分の中に存在するようになってきた。そんな気持ちになれたのは、誰かの舞台とか、何かにおいて輝いている人たちとか、いろんなものを見たり、いろんな人と会ったからだと思うんです。すごく面白い人がいて、宝塚に憧れているんだけど男の人なんで入れないんです。なので自分でお金を集めて自分なりにいろんなことをずっとやっている人なんですけど、そういう人と会って「すごいな」と思って。「でも楽しいんだろうな」とか。だんだんそういったいろんな人たちと会っていく中で、自分とその人たちを対比させたときに「違いってなんだろう?」って考えるようになってから、「歌よりも先に自分の生き方を変えてみよう」と思ったんです。そこからはその瞬間を生きるようになって、“その瞬間を生きる”っていうことは、心にいろんなものが残っていくってことなんですね。内面だけ見て街とか歩いても何もかも通り過ぎてしまう。でも「私はここにいます」って意識を持って街を歩いてみると、いろんなものが見えてくる。「あ、こんなところにこんなものがあったの」みたいな。それって「大きいことだ」と思う。

--じゃあ、今はひとつひとつのことに発見があったり、感動があったり。

熊木杏里:そうそう。意識的にそれをやろうと思って、その内、それが身に付いていくだろうと思うんです。今はちょうどそこの変わり時だと思う。それから、「あ、私こうだったのかな?小さい子供の頃は」って思って。ただいろいろなことがあって、ちょっとこの現実から逃れていたいような自分がいたのかもしれない。で、だんだん「自分はそこにいないからいいや」って、自分の内側に逃げ込んでいたような気がして。今はそこから抜け出して「次は何を作るか?」「自分はどうやって生きるか?」っていうところへ向かってるんですけど、「周りはいろんなことを言うけど、でも自分はどう思うの?」っていうのをもう少し冷静に、あと芯強く思える自分でいたい。

--日々成長している感じなんですね?今は!

熊木杏里:(笑)。そうですね。楽しいです。いろんなものを吸収できるようになって、急激に今自分の感覚が変わってきていると思います。

--そんな風に熊木杏里が変わっていくひとつのキッカケとなった、昨年9月30日に行われた初ワンマンライブ。正直あの日のライブ、前半は結構観ていて戸惑う感じがあったんですよ、僕の中で。それはなんでかって言うと、今までの熊木杏里のライブからは感じることのなかった「楽しさ」とか「熱さ」みたいな要素が強く打ち出されていたからなんですけど、それをひとつひとつ消化するのが結構大変でした。

熊木杏里:私もそれは感じていました。自分だけ熱い!みたいな(笑)。誰も取り込めてない感じ。だから客席側は寒かったと思う。それは多分、私の余裕の無さだし、やりたかったことなんだけれども、ちょっとまだ早かった。

--でも、それらの要素は逆に言えば、先の「ここからもう一歩、次に抜け出すため」に必要な要素だったわけだよね。

熊木杏里:そうそう。でもみんなで歌うとか、気持ちの問題だと思うんですけど、ちょっとやり方を間違えたのかなって思います。もうちょっとそういう歌に関しては「そういう歌ですよ」っていう自覚があったら良かったのかもしれないですね。とにかく私の心の余裕、隙間が本当に狭くて、人ひとり入れられないぐらいだったんだと思う。これからそこは広げていきたい。

--あと、あの日は『長い話』を弾き語りで披露しましたね。かなり大変そうな表情を何度か覗かせていましたが(笑)あの日のために結構練習したんですか?

熊木杏里:はい。前から決めていたので。

--実際やってみてどうでした?

熊木杏里:やんなきゃよかったかな(笑)。でも、あれは温かい目で見てもらっていいコーナーかなと思っています。あそこだけは。ただ歌がちょっと乗ってなかったかな。『長い話』は、結構私を紹介するには良い歌なんですけれど、それを「ヘタ」って感じで伝わっちゃたのは勿体なかった。それは申し訳なかったかなって。だって、あれをちゃんと聴きたかった人もいたかもしれないですし。

--捉え方によってだと思うんですけど、個人的にはあの不慣れで危なげな感じが『長い話』の内容とリンクして、何かあの曲をよりリアルな物語として聴くことができましたよ。

熊木杏里:それは良かった!ただギターの弾き語りは、自分のワンマンだけでやっていこうと思ってます。へたれな、「現在こんな感じ」というような、そういうところを見るコーナーとして。それをもしかしたら今言ってくれたみたいに私の中の要素のひとつとして捉えてもらえるかもしれないですから。

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熊木杏里「流星」

流星

2006/05/24 RELEASE
KICM-26 ¥ 1,234(税込)

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Disc01
  1. 01.流星
  2. 02.しんきろう
  3. 03.君

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