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ReNが海外制作の新曲「HURRICANE」で掴んだものとは? フォーク/カントリーの街で生まれたロック的発想を経て



インタビュー

 現在25歳のシンガー・ソングライター、ReNが約半年ぶりとなる新曲「HURRICANE」をリリースした。ワーナーミュージック・ジャパンからの第1弾シングルとなるもので、ReNとしては初めて海外で制作した楽曲である。現代を生きる人間ならば誰しもが抱える不安感を取り上げ、それをまさしく暴風の如く吹き飛ばさんとする力強い意思に満ちたヴォーカルとアンサンブルが清々しい1曲だ。ナッシュビルにて海外のミュージシャンやプロデューサーと共に、しかしあくまで手綱は自分の手で握りながら行った制作の過程から、ライブにおけるパフォーマンスの手応えまで、本人に話を訊いた。

答えの出ないことを歌うのも音楽だなって

――まずはReNさんの音楽にどんな背景やルーツがあるのか教えてください。

ReN:もともとはレーサーとしてF1ドライバーを目指していたんですけど、ある時にレース中の事故でケガをしてしまって、その夢を断念せざるをえなくなってしまったんです。そんな時に聴いた楽曲に改めて音楽の力に気づかされて、楽曲制作を始めたのがきっかけです。ただ、その当時の何かを追いかけていた時の勢いとか衝動みたいなものは、いまも音楽に引き継がれていると思うし、スピード感とかヒリヒリしたスリルとか、そういった音楽性が自分のライフ・スタイルから引っ張り出されている実感はありますね。もちろんそれとは別に、ずっと聴いていた音楽からインスパイアされたものも多くて、特に楽曲スタイルにおいてもライブ・パフォーマンスにおいても、まず最初に参考にしたのは自分の音楽キャリアのきっかけとなったエド・シーランでした。彼の音楽などを自分なりに分解したりするうち、音楽の素晴らしさや楽しさに気づいて、今に至る感じですね。

――スポーツ選手から音楽家へ。衝動や感情のアウトプット手段としては他にも選択肢がいくらかある中で、結果的に音楽に行きついたのは何故だと思います?

ReN:レースってやっぱり危険が付き物の世界で、ケガをした僕以上にひどい目にあった人もたくさんいる。そんな僕らが抱えていたものって慢性的な恐怖感と、それでもその先にあるものを掴みたいっていう、なかなか言葉にするのが難しい気持ちなんですよ。そんなスリルが常にあった当時、個人的に必要だったものが音楽だったんです。もちろん誰かの応援の声にも助けてもらったけど、自分一人の世界に入ることができる音楽にもすごく鼓舞してもらった。だから僕は音楽活動を始める前から、音楽の力みたいなものに頼って生きていたんです。

――レーサー時代から音楽は人生に欠かせないものだったと。ReNさんは10代の頃、1年間イギリスで暮らしていたんですよね。

ReN:16歳の時にレーサーになるためのオーディションを受けに行って、その後もイギリス選手権に出場したりしていました。でも、それ以前にも行ったり来たりを繰り返していたので、自分にとってイギリスはすごく近い場所でしたね。運転免許もなかったしお酒も飲めない年だったけど、だからこそそういったミニマムな世界をイギリスで過ごした期間は、自分の中でも大切な経験として残っています。

――いまReNさんが奏でている音楽の中にも、当時のイギリス生活から還元されているものはあるのでしょうか?

ReN:僕がイギリスで暮らしていた2010年は世界的にEDMがすごく流行っていた年で、それこそエド・シーランも本国ではすごく大きな存在にはなってましたけど、それ以外の国ではまだそれほど知られていなかったんです。それでもイギリスには常に魅力的なシンガー・ソングライターがいて、ラジオでも日本では絶対に流れない音楽が流れていたし、街に音楽が溢れていた。それを現地で体験できたことは、いまでも宝物のように自分の中にありますね。何より自分が音楽を欲していた時期だったからこそ。

――現地の魅力的な音楽ともたくさん出会った?

ReN:そうですね。ただ、「洋楽って良いな」って思うようになったきっかけは、中学生の頃に聴いたコールドプレイの「クロックス」でした。中一の時に洋楽好きの友達が初めてできたんですけど、彼が作ってくれた10曲くらいのプレイリストの中で、1曲目に「クロックス」が入っていたんです。それがイギリスの音楽との出会いでした。



▲Coldplay - Clocks (Official Video)


――そこからどんどん掘り下げていったと。

ReN:イギリスのアーティストの作り出す音が感覚的に好きだったんですよ。エリック・クラプトンからコールドプレイまで、もちろんエド・シーランもだし、ジェイムス・ベイやベン・ハワードとか……。湿った空気感の中にある熱さみたいなものが自分にすごく合った気がして。しかもその質感って、僕は日本の音楽にもあると思うんですよ。言語こそ違うけど、感じていることや言いたいことは近いんじゃないかって思ったり。

――では日本のアーティストだと?

ReN:気になってるアーティストはたくさんいます。詞に乗せるメッセージ性は日本人のアーティストからインスパイアされることがやっぱり多いけど、サウンド面で言うと、日本の音楽と海の向こうで鳴ってる音楽はかなり違うから、自分がその時に探しているもの、求めているものによって視点を変えるようにしていますね。

――そして今回、ワーナーミュージック・ジャパンからの第1弾シングル「HURRICANE」がリリースされました。タイトル通り、力強いヴォーカルがすべてを吹き飛ばしてくれそうな、パワフルな楽曲に仕上がっていますね。

ReN:ロックって――僕がロックを語れるか分からないですけど(笑)――イメージとしては“感情を提供する”音楽だと思うんです。たとえば「悲しい」という感情をテーマにするとして、自分がなぜ悲しくなったのか綴るのはフォークの世界だと僕は思っていて。でも、ロックはその「悲しい」という感情をみんなで一緒に叫ぶ音楽というか。今作「HURRICANE」には、まさしく僕の考えるロックの在り方がある。ある種の葛藤や不安を歌っている曲ではあるんだけど、それらが具体的に何なのかは敢えて言わない。現代を生きる僕らはみんな、常に得体の知れない不安を抱えていると思うし、それに対して「こうすれば答えが見つかるよ」っていう歌を僕は書けないけど、みんな何かしらの不安を抱えながら生きているんだということを再確認したうえで、「音楽で痛みや悲しみを一緒に吹き飛ばそうぜ!」って伝えられるような曲になればいいなと思ったんです。



▲ReN - HURRICANE (Short Version)


――作詞の根底に時代の閉塞感みたいなものがあった?

ReN:それを世の中のせいにはしたくないけど、僕らも好きでそういったことを感じているわけではないし、ただただ欲求や感情のぶつけ先とぶつけ方が分からないんだっていう葛藤や苛立ちみたいなものを歌いたくなったんです。今まで僕は音楽にいつも答えを求めていて、そういう感情を歌ったことがなかったけど、でも答えの出ないことを歌うのも音楽だなって。何よりそれを「HURRICANE」という壊滅的な現象の中で歌うことによって、ネガティブなものを洗い流すことができればと思ったんです。

――「HURRICANE」というタイトルは楽曲が完成してから思いついたのですか?

ReN:ナッシュビルにいた時、まずイントロのフレーズを思いついたんです。そこからフレーズをループさせて、ビートを足していって、セッションを重ねていく中で歌を入れてみたら「HURRICANE」っていう言葉が出てきて。なんとなく流れの中で浮かんできた言葉だったので、そこから「HURRICANE」って何なんだろうって考えたんです。だからこの曲は、まず最初に景色がバッと浮かんできて、その景色から楽曲に託す思いを紐解いていくような作り方をしました。


ここまで没頭してやってこれたのは、たぶん単純に楽しいから

――ナッシュビルで制作することになった経緯をお訊きしてもいいですか?

ReN:一番の目的は曲作りではあったけど、そのためだけにアメリカに行ったわけじゃなくて。お話した通り、僕にとってイギリスでの生活はすごく貴重な経験になったから、同じ言語でも全く違うカルチャーがあるアメリカの街は純粋に楽しみだったし、その中に身を置いたらどんな曲が生まれるだろうっていう興味があって行ったんです。

――ナッシュビル以外の街にも?

ReN:まずロスで1週間作業した後、残りの空いた時間でナッシュビルに行ったんです。ナッシュビルってフォークとかカントリーの街じゃないですか。さっきのロックとフォークの話に戻ると、その時の自分が追いかけていた音楽はロック的なものだったから、ロスでそういった曲作りに励んだ後、「ちょっと肩の力を抜いた曲でも作って帰ろうか」くらいのノリでナッシュビルに寄ったら、最終的にそこで作った曲が一番派手な仕上がりになったんです(笑)。

――それはナッシュビルの街のどんなところに導かれたのでしょう?

ReN:街の雰囲気そのものより、そこで得た刺激が勝ったんですよね。

――なるほど。その時のReNさんのモードはロックの街、ロサンゼルスに馴染んだかもしれないけど、そういう意味ではナッシュビルは真逆の街だから、反動として刺激も大きかった。

ReN:そうそう。帰り道にふらっと入ったお店で掘り出し物を見つけたような感覚。それは海外で曲作りをする面白さの一つなのかも。

――レコーディングは日本で?

ReN:半々でしたね。アメリカ滞在の最終日にナッシュビルに行ったので、気持ち的にはもう数日残って作業を進めたかったんですけど、とはいえ世界観はほとんど作り上げることができたので、あとは「HURRICANE」っていう景色の中でどういうテーマを歌うかを考えるだけだった。日本語の扱いはやっぱり日本のスタジオのほうが長けていると思うし。アメリカでやるべきことはアメリカでやって、日本でやるべきことは日本でやったっていう感じです。

――制作過程でこれまでと異なるアプローチをした部分が他にもあれば教えてください。

ReN:今回は作詞作曲の段階で僕以外のミュージシャンやプロデューサーがスタジオにいて、みんなで話し合いながら制作を進めたんですけど、それは明らかに今までと違うやり方でしたね。海外ではよくある制作過程ではありますけど。

――いわゆるコライト方式は初挑戦だったと。

ReN:ただ、出てきた意見を使う使わないの判断も含めて、自分が歌をうたって表現するのであれば、最終的にはすべてのエッセンスに自分の意思を通さなくてはいけない。だからこそ、みんなとしっかり話し合って、自分の意思とは異なる要素が入らないように気をつけました。そういう意味でも自分にとっては新しいトライになりましたね。

――完成した作品の手応えも新鮮なものだったのでは?

ReN:誰かの俯瞰的な意見を聞くこともできるし、自分の意見に対する誰かの反応を見ることもできる。これが言語を超えてくると、お互いにすごく一致した感覚が生まれるんですよね。その感覚の中で作る音楽の良さってたしかにあって、その開けた感覚の世界観と一人でしか作れない内向的な世界観を行き来できるのは、シンガー・ソングライターである僕の強みになるんじゃないかと思います。

――ミックス・エンジニアはグラミー受賞歴もあるトム・ロード・アルジです。彼とは前作から引き続きのタッグですね。

ReN:アメリカでほぼ制作した楽曲だったので、ミックスもその世界を知り尽くしている人にお願いしたいなと思って。彼は本当に細かいところまで精査してくれて、普通なら「もうほとんど変わらないよ」っていうところまで付き合ってくれる。それに加えて「HURRICANE」は、僕が頭の中で描いていた音像から考えても、絶対にトムが一番適している領域だろうなって思ったんですよね。

――なるほど。この「HURRICANE」を起点に、今後いろいろな楽曲を制作していくのだろうと思いますが、現段階で描いているアルバムの構想などがあれば教えてください。

ReN:「HURRICANE」は自分にとって挑戦的なやり方で作って、しかも良い手応えを感じることができた楽曲だから、今回のように自分以外の人間と化学反応を起こして作る音楽をもっと学んでいきつつ、一方で自分がいままで自分一人の世界で作ってきた音楽もさらに追求して、次のアルバムではReNらしさをアップデートできたらなと思います。

――海外での評価も視野に入れている?

ReN:そうですね。海外で自分が良いと思える曲を作れたこと、現地のミュージシャンと良いグルーヴを保つことができたことは自信にもなったし、音楽をグローバルに奏でることってきっと誰しもが描いている夢で、もちろん僕の中にも目標として常にある。ただ、そのためには考え方とか言語感覚とか、自分の中で変えていかなきゃいけない部分もあると思うし、ある意味で日本のことを忘れる瞬間も必要なのかもしれない。その感覚を「HURRICANE」ではなんとなく掴んだような気がします。



▲ReN - HURRICANE (Studio Live Version)


――この「HURRICANE」を引っ提げた東阪ワンマンも控えています(※記事公開時点では大阪公演が終了)。ショーを構築していくうえで、特に気にかけていることがあれば教えてください。

ReN:自分の場合はルーパーを使っていることも含めて、その日しかできないライブっていうの強く意識してますね。僕のライブって言ってみれば、お客さんの目の前で料理の工程を見せるようなものだから、常に緊張感がある。それは自分の身体と周りの装置をすべて駆使するっていう意味で、レーサー時代のスリルと繋がるものでもあって。もちろんエド・シーランというすごく大きな存在の影響もあるし、僕以外にもそういうスタイルのアーティストはいっぱいいると思うんです。でも、自分がここまで没頭してやってこれたのは、たぶん単純に楽しいからなんですよ。作った曲を披露していくだけのライブだったら、もしかしたら人によっては飽きてしまうことがあるかもしれない。でも僕のライブは少なくとも自分が飽きることはなくて、その緊張感をお客さんとも共有するために試行錯誤してパフォーマンスするのも楽しいんです。僕はスリルがないと満足できない人間だから、平然とした顔をしながらもちょっと冷や汗をかいているくらいが丁度いい。

――「HURRICANE」もすでにライブで披露済みですよね。

ReN:まだまだトライ&エラーの最中ではありますけどね。今までは「ライブでどうやってパフォーマンスしようか」っていうことを念頭に置いた作り方をしていたけど、この「HURRICANE」に関しては「できた曲をどうやってパフォーマンスしようか」っていう逆の発想になっているので。でも、いつだって試行錯誤は続けてきたので、この曲も今後パフォーマンスを練り上げていって、毎回新しい景色を見てもらえる自信もある。その手応えはすでに感じていますよ。

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Interview by Takuto Ueda / Photo by Yuma Totsuka

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