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プリンス再発記念特集 ~第一弾アルバム『ミュージコロジー』『3121』『プラネット・アース~地球の神秘~』の3作と共に振り返るプリンスの軌跡
プリンスが1995年以降に発表した作品のうち、入手困難なオリジナル・アルバム23タイトルが一気にどーんとデジタル配信されたのは昨年8月17日のこと。それはもちろん喜ばしいことだったが、何しろとてつもない量であるゆえ、そう簡単には聴ききれない。「1作1作、時間をかけて丁寧に聴き込みたい」「やはりプリンス作品はブツとして所有したい」。そう思った人も多かったことだろう。そんな人たちを喜ばせたのが、12月に飛び込んできた「廃盤となっている作品群のフィジカル発売」というニュース。初CD化作品もそこには含まれているが、さらに嬉しかったのは初のアナログ・レコード化の報せだった。そして、まずは今年2月8日に2004年作品『ミュージコロジー』と2006年作品『3121』のCDが発売。続いて2月20日にはその両作のアナログ盤と、2007年作品『プラネット・アース~地球の神秘~』のCD及びアナログ盤が発売されたところだ。というわけで、ここでは当時のプリンスの主だった活動状況と、その3作の内容についてをまとめておきたい。
「キングは何人もいるけど、プリンスはひとりしかいない」
2016年4月21日。世界の色が変わったように見えたあの日からもうすぐ3年が経つが、昨年夏の一挙デジタル配信以降、“プリンスの作品”と“プリンスを愛する人たちの作品”が次々に届いて心のなかが大忙しだ。それら全部を思い切って“プリンスの作品”として括ってしまうなら、まるで彼がこっちの世界にいた時に匹敵するくらいの速さで次々といろんなものが出てくるから、時間が追い付かない。9月にはアルバム『ピアノ&ア・マイクロフォン 1983』が出た。12月には『プリンス録音術』(ジェイク・ブラウン 著 押野素子 訳)が出た。1月には『プリンスと日本 4EVER IN MY LIFE』(監修:CROSSBEAT/TUNA)が出た。ひとつひとつ紹介する紙幅はないが、どれも自分のなかのプリンス観を大きく広げてくれる素晴らしい音源と本だった。
また、先頃行なわれた第61回グラミー賞授賞式の中継でジャネール・モネイやH.E.R.やセイント・ヴィンセントのパフォーマンスを見ていて彼女たちのなかにもプリンスが生き続けていることを感じたし、ほかにも多くの女性アーティスト~LGBTQのアーティストがいろんな賞を獲得しているのを見ながら、プリンスが理想として描いた音楽の世界に現実がようやく近づいてきたのかも、とも感じた。そんなタイミングでスタートした「廃盤となっている作品群のフィジカル発売」。“孤高の天才=プリンス 時空を超えて今、蘇る”とは、「LOVE 4EVER」と名付けられた同プロジェクトのキャッチコピーだが、蘇るというよりはいまも生き続けるプリンスが再び精力的に動きだし、我々にときめきや気づきを与えてくれているという、そんな印象だ。
まず2004年4月にリリースされた28枚目のオリジナル・アルバム『ミュージコロジー』。1999年にアリスタから出した『レイヴ・アン2・ザ・ジョイ・ファンタスティック』以降、NPGからの自主リリースが続いたので(但し『レインボウ・チルドレン』と『N.E.W.S.』はビクターから国内盤も出た)、これは約4年半ぶりのメジャー配給作品となった。少し遡ると2002年11月にワールドツアー「One Night Alone…」の一環での素晴らしい来日公演があったし、それ以降も精力的に作品を出してはいたが、プリンスはここらでもう一度最前線に踊り出る意志を持ち、次なる一手を探っていたのだろう。故に(自らのなんらかの働きかけがあったのかどうかはわからないが)04年2月、プリンスはビヨンセと共にグラミー賞授賞式に出て圧巻のパフォーマンスを見せた。自身の代表曲3曲とビヨンセ「クレイジー・イン・ラブ」のメドレーで、その熱演をテレビで見た世界中の人々が「やっぱりプリンスはかっこいい!」と再確認することになったわけだ。
▲Prince & Beyoncé Prince Medley
続いて3月15日には「ロックの殿堂入り」を果たし、ここでも代表曲「レッツ・ゴー・クレイジー」など3曲をパフォーマンス。グラミー賞同様、テレビ視聴者たちに強い印象を与えた。因みにそのときのアリシア・キーズのスピーチも印象的で、それは「キングは何人もいるけど、プリンスはひとりしかいない」というもの。ビヨンセとアリシアというその時代を代表する歌姫ふたりがリスペクトするアーティストということで、新たにプリンスのことを気にし出した人もきっといたことだろう。またその同日に殿堂入りした故ジョージ・ハリスンの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のパフォーマンスではトム・ペティ、ジェフ・リンら豪華ミュージシャンたちのあとからプリンスが登場してギターを弾きまくり、最後はそれを投げて場を去るなど誰よりも目立っていた。こうした一連の動きが功を奏し、3月27日からスタートした「Musicology Tour」は大動員・大反響を呼ぶことに。プリンスは出来立てのアルバム『ミュージコロジー』をまず来場者たちに無料配布し、それから4月に改めてレコード店で発売するという画期的な方策をとった(日本発売は5月)。
『ミュージコロジー』は全米・全英でチャート3位のヒットを記録。95年の『ゴールド・エクスペリエンス』以来のトップ10入りだったわけだが、実際、いろんな意味で久々にバランスのとれたアルバムだったと思う。久々のメジャー配給作(コロムビア/ソニー)だったこと。3枚組・4枚組といったものではなく1枚で完結するものであったこと。ジャケットがイラストだったりロゴを打ち出したものだったりするのではなくプリンスの魅力的な横顔を写したものだったこと。そういった面での手に取りやすさがあった上、長尺の曲がないこと、キャッチーな曲ばかりであること、そしてファンキーな「ミュージコロジー」で始まりロマンティックなバラード「コール・マイ・ネイム」や明快なロックンロール「シナモン・ガール」を真ん中に配置して牧歌的なスロー「リフレクション」で締めるという全体の構成もメジャー作品として相応しいものだった。歌詞に神の教えが(ないわけじゃないが)その前の作品群ほど強くは打ち出されていなかったあたりも聴きやすさに繋がっていただろう。
▲Prince - Musicology (Live At Webster Hall - April 20, 2004)
「オールドスクールで何が悪い? オレやアースやJ.B.やスライからホンモノのグルーブを学びたまえよ、キミたち」とでも言うようにいい意味で開き直った表題曲は、ストーリー性のあるMVも頻繁に流れ、それもまたクールで、“つかみ”の役割をしかと果たした(ヒップホップ兄ちゃんふたりだけがあの会場に入れないという描写が示唆的。またあの場で自由にカラダをくねらせて踊る人たちの様子が、自分にはアーニー・バーンズが描いたマーヴィン・ゲイ『アイ・ウォント・ユー』のジャケの絵と重なった)。MVついでに書いておくと、ポップなロックンロールに乗せて9・11以降の世界を歌い込んだ「シナモン・ガール」のMVは楽曲そのものよりもさらに衝撃的なので、見たことのない人はぜひ見てほしい。尚、今回アナログ盤が初めて発売されたわけだが、2枚組となったそれで聴くとこの作品の低音の太さと重さが尚更よくわかる。1枚目のB面(SIDE TWO)1曲目は「ライフ・オブ・ザ・パーティー」になるのだが、キャンディ・ダルファーの声が高らかに聴こえて始まるあたりも改めて新鮮だ。
▲Prince - "Cinnamon Girl" (Official Music Video)
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Text:内本順一
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