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David Matthews Legendary Trio来日記念特集~最高のジャズを奏でるレジェンドたちの変わらない魅力
デビッド・マシューズ(p)、エディ・ゴメス(b)&スティーヴ・ガッド(ds)によるピアノ・トリオが、ニューヨークで録音した最強アルバム『Sir,』を携えてのオン・ステージが決定。 3月18(月)はビルボードライブ東京、3月25日(月)はビルボードライブ大阪に出演する。デビッド・マシューズ、エディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドは、リビングレジェンド(後世に残る功績を既に成し遂げた伝説的存在)の名にふさわしい巨匠である。半世紀以上に渡って、シーンの先頭を走り続けている。メンバー全員がまさにレジェンドという本公演に、ファンの期待が高まっている。MJQから始まった3人のコラボ、トリオそして最新アルバム『Sir,』誕生の経緯、彼らが奏でる最高のジャズを楽しむためのエピソードを紹介する。
Text:高木信哉
「マンハッタン・ジャズ・クインテット(MJQ)」に集った「奇跡の3人」
デビッド・マシューズが結成したマンハッタン・ジャズ・クインテット(以下MJQ)は、1984年7月11日、デビュー作『マンハッタン・ジャズ・クインテット』を吹き込んだ。当時のメンバーは、デビッド・マシューズ(p:当時41歳)、ルー・ソロフ(tp:40歳)、ジョージ・ヤング(ts:36歳)チャーネット・モフェット(b:17歳)、スティーヴ・ガッド(ds:39歳)だった。メンバーの中で、最大の注目を集めたのは、スティーヴ・ガッドだった。
ガッドは、クロスオーバー、フュージョンの創成期からその第一人者として高い人気を誇る名ドラマー。彼がはたしてストレイト・アヘッドの4ビートのジャズを演奏できるのかと驚かれたのである。それは下衆の勘繰りだった。ガッドのジャズ・ドラム・プレイは、見事だった。さて、たった一日で録音されたデビュー作は、発売されるや否や一大反響を巻き起こし、15万枚も売れた。日本のジャズ・ファンの心をがっちりと掴み、大人気となったのだ。彼らは、理屈抜きにスカッと本格的な4ビート・ジャズを演奏した。まさに時代が求めるジャズ・バンドだった。このデビュー作を聴いて、ジャズ評論家の第一人者である油井正一(1918-1998:享年79歳)は、ジャズ月刊誌“スイングジャーナル”のディスクレビューに、『デビッド・マシューズは、ジャズという名のプールに小石を投げ、このさざ波は次の世紀まで波を立て続けて行くだろう』と記した。これには、驚いた。まだ1バンドのデビュー作の評価に、ここまで褒めて書くとは。さすが油井先生は、慧眼である。油井先生の予言は見事にあたり、21世紀になってもMJQは活躍し続けている。
1985年11月、MJQはベーシストをチャーネット・モフェットからエディ・ゴメス(当時41歳)に変更して、第2期MJQ(1985年~1987年)がスタートした。遂に、デビッド・マシューズ(p)、エディ・ゴメス(b)&スティーヴ・ガッド(ds)という最強のリズム・セクションがMJQに誕生したのだ。この第2期MJQこそが、人気&実力共に、MJQ史上、頂点を極めたと言っていいだろう。彼らの凄まじい演奏は、1986年4月21日に、六本木ピットイン(現在は閉店している)で行われた実況録音盤『ライブ・アット・ピットイン/マンハッタン・ジャズ・クインテット』で味わうことが出来る。ぜひとも、チェックしていただきたい。
デビッド・マシューズ・トリオの結成
名ピアニスト、デビッド・マシューズは、MJQの活動と並行して、オーケストラ(マンハッタン・ジャズ・オーケストラ)、そして、トリオの活動も行うようになった。 1990年9月、マシューズが、エディ・ゴメス(b)、スティーヴ・ガッド(ds)という黄金の ピアノ・トリオを遂に結成する。日本では、ピアノ・トリオが強い。もちろんジャズの話である。日本では、ジャズ全体の売上の半分以上をピアノ・トリオが占めている。アルバムによっては、ピアノ・トリオを基本編成として、数曲にギターやサックスを加えるものもある。1990年9月23日、デビッド・マシューズ・トリオ(マシューズ、ゴメス、ガッド)は、『アメリカン・パイ』というアルバムを録音した。ボブ・ディランの曲やサイモン&ガーファンクルの曲も加わった楽しい秀逸な作品である。マシューズ、ゴメス、ガッドの3人が一体となって、極上のトリオ・ジャズを創出している。特にエディ・ゴメスのベースが素晴らしい。ゴメスは、モダン・ジャズ・ピアノを代表する名ピアニスト、ビル・エバンスのトリオのベーシストを1966年から1977年の間、11年も務めた。すなわちピアノ・トリオでのベースの役割を知り尽くした達人なのである。ここには、3曲だけ、ヴィブラフォン奏者のゲイリー・バートンが特別ゲストで参加している。
デビッド・マシューズ Legendary Trioの最新作『Sir,』について
デビッド・マシューズ(p)、エディ・ゴメス(b)、スティーヴ・ガッド(ds)による最新作『Sir,』は、2018年3月17日にレコーディングされた。長くトップを走る3人の付き合いは長い。ゴメスとガッドは、第2期MJQ(1985年~87年)。また、第3期マシューズ・トリオ(1990年)のメンバー。すなわち28年ぶりの再会ドリ-ム・セッションだ。待たされただけのことはある。出会うべき理想のパートナーを見つけた男同士の心のときめきが震えるように伝わってくる。互いをリスペクトし、触発しあう。何度でも繰り返し聴きたくなる。充実の一枚である。内容は、バラエティに富んでいる。マシューズのオリジナルが3曲入っている。タイトル・ナンバー「Sir,」は、キャッチーなメロディを持つファンキーな曲。マシューズ節が炸裂する。マシューズは、まるでマイルス・デイビスのように間の取り方が上手い。その隙間をゴメスとガッドが心地好く埋めていく。
デビッド・マシューズは、エディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドのことをどう思っているのだろうか?「若いころの私は、彼らのあまりの上手さ(超絶技巧)に圧され(おされ)気味だった。でも、お互いに年を重ねた今は、彼らとより親密な関係となり、一緒に演奏することがとても心地好くなった。何よりも、このトリオの素晴らしい演奏に、自分自身が幸せになれたよ。選曲は、馴染み深い、僕自身が演奏するのが楽しいと心から思える曲を7曲選んだ。そして、そこに僕のオリジナルを3曲加えた。全10曲は、ほとんどが1テイクだった。わずか7時間で全部を録り終えたんだ。去年の6月に発売されたが、まだ演奏のチャンスがなかった。だから、今回ビルボードの東京と大阪で、生演奏を披露する機会が持ててとても嬉しいよ」。
▲David Matthews, Eddie Gomez & Steve Gadd new album「Sir,」 trailer
リリース情報
公演情報
David Matthews Legendary Trio Japan Tour
featuring “Eddie Gomez”, “Steve Gadd”
Album “Sir” release 記念
ビルボードライブ東京:2019/3/18(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2019/3/25(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
Text:高木信哉
デビッド・マシューズの日本語会話の先生は、ジョン・レノンの先生!?
さて、トリオのリーダー、デビッド・マシューズは、日本語がとても上手い。ビックリするぐらいうまい。彼は、ライブの時のMCを、ほぼ全部日本語で話す。だから私たち聴衆は自然と親しみを感じるのだ。マシューズが日本語を習ったのは、ニューヨークのベルリッツである。「その先生は、ビートルズのジョン・レノン(1940-1980:享年40歳)に日本語を教えていた方なんだ」。マシューズは、日本が大好きで、勉強家で、耳もいいので、急速に話せるようになった。例えば、マシューズは、新宿西口にある「思い出横丁」に一人で行って、「熱燗と煮込み」とオーダーする。たまたま横(隣)に座った人とも気楽に話してしまう。そんな飾らないマシューズは、抜群の日本語会話能力と人柄を買われ、NHKの英会話番組「英語でしゃべらナイト」にもたびたび出演して人気を博した。
デビッド・マシューズLegendary Trioの変わらない魅力の秘密
Legendary Trioの最大の魅力は、リーダーであるデビッド・マシューズの高いアレンジ能力とトリオの高い演奏能力にある。マシューズのアレンジは、彼のジェームス・ブラウン時代(1970年から73年まで、マシューズはソウル・ミュージックの巨匠ジェームス・ブラウンのなんとアレンジャーだったのだ!)のファンク、CTI時代(ドン・セベスキーと並ぶ作編曲家だった)のフュージョン、ポップス・サポート時代(サイモン&ガーファンクルやビリー・ジョエルたちのアレンジを手掛け、ベストセラーを続出した)のポップス、MJQやMJOでのジャズというこれらの全ての経験が巧みにバランスされ、トリオのサウンドの個性となっている。また忘れてならないのが、Legendary Trioの最強のメンバーである。
ベースのエディ・ゴメスは、1944年10月4日、プエルトリコ生まれ。幼い頃、ニューヨークに移住してきた。11歳からベースを始め、ジュリアード音楽院に進んだ。彼のキャリアであまりにも有名なのは、不世出の名ピアニスト、ビル・エバンスのベーシストを務めたことだ。1959年に、エバンスはドラマーのポール・モチアンとベーシストのスコット・ラファロをメンバーに迎え、歴史に残るピアノ・トリオを結成した。彼らは、「インタープレイ」を初めて演奏した。すなわちピアノ・トリオの革新的な演奏を敢行した。ところが傑作『ワルツ・フォー・デビイ』の収録からわずか11日後、ラファロは1961年7月6日に25歳で交通事故死してしまった。エバンスは余りのショックで、ピアノに触れることすら出来ず、しばらくシーンから遠ざかった。そんなエバンスを再びやる気に向かわせたのが、若き日のエディ・ゴメスだった。1966年のこと、エバンスは、当時21歳のエディ・ゴメスを新しいベーシストとしてメンバーに迎える。若いが優れたテクニックを持ち、才能のあるエディ・ゴメスは、ラファロの優れた後継者となる。以降、ゴメスは78年に脱退するまでレギュラー・ベーシストとして活躍し、エバンス・トリオの発展の原動力となった。さて、1973年1月20日、エバンス・トリオは、東京の郵便貯金ホールで、初来日公演を行った。幸い、『THE TOKYO CONCERT』というタイトルで、アルバム化された。ここには、エディ・ゴメスの驚くべきベース・プレイが残っている。1984年には、『ゴメス』というリーダー作をリリースした。共演者は、スティーヴ・ガッド(ds)とチック・コリア(p)だった。MJQの1STアルバム『マンハッタン・ジャズ・クインテット』の録音とほぼ同時期である。
一方、スティーヴ・ガッドは、1945年4月9日、ニューヨーク州ロチェスター生まれ。 エディ・ゴメスより1歳年下である。デビッド・マシューズより、3歳年下である。ガッドは、地元のビッグバンドで活動後、ニューヨークに進出し、スタジオ・ミュージシャンとして大活躍する。ガッドは、クロスオーバー、フュージョンの創成期からその第一人者として高い人気を誇った。数え切れないほどのアーティストのドラムを担当し、ガッドの名声は確立した。日本が誇る名ドラマー、神保彰が、『ボブ・ジェームスの「はげ山の一夜」(1974年録音)で、スティーヴ・ガッドのドラムに感激して、ドラムに開眼した』のは、有名な話だ。
当時、「西のハーヴィー・メイソン」、「東のスティーヴ・ガッド」と言って、人気を二分する有名な存在だった。さて、1986年、スティーヴ・ガッドは、「ザ・ガッド・ギャング」というバンドを結成して、同名アルバム『ザ・ガッド・ギャング』をリリースした。これがスゴいバンドだった。ここに、エディ・ゴメスが参加していた。「ザ・ガッド・ギャング」のメンバーは、スティーヴ・ガッド(ds)、コーネル・デュプリー(g)、リチャード・ティー(p,keyboards)、そしてエディ・ゴメス(b)である。「ザ・ガッド・ギャング」は、とにかくファンキーでソウルフル。メリハリの利いたノリの良い演奏がこのバンドの魅力だった。メンバー同士の結束も固く、全員が実に楽しそうに演奏しているのが伝わってくる。
この前年の1985年11月に、エディ・ゴメスは、マンハッタン・ジャズ・クインテットのメンバーになっている。このように、デビッド・マシューズとエディ・ゴメスとスティーヴ・ガッドの3人は、友情を育み、音楽性を高めてきた。今回のトリオ公演が、楽しみである。
リリース情報
公演情報
David Matthews Legendary Trio Japan Tour
featuring “Eddie Gomez”, “Steve Gadd”
Album “Sir” release 記念
ビルボードライブ東京:2019/3/18(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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ビルボードライブ大阪:2019/3/25(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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Text:高木信哉
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