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androp『daily』内澤崇仁(vo,g)単独インタビュー
誰もが思わず口ずさみたくなるであろう名曲の数々―――10周年イヤーに突入するタイミングで傑作アルバム『daily』をリリースするandrop。更なる広がり=ブレイクを予感させる今作についてはもちろん、どの界隈にも属さない、andropの音楽や在り方やメンバー等々について、内澤崇仁(vo,g)単独インタビューという形で語ってもらった。
「楽曲で判断してください」と名前すら出さずに活動していた
--最新作『daily』リリースタイミングで10周年イヤーに突入する訳ですが、それだけのキャリアを積んできた今、andropはどんなバンドになっていると感じていますか?
内澤崇仁:最初の頃に「自分たちはどういうバンド像でありたいか」と思っていたかと言うと、よくある「センターだけが目立っていて、他のメンバーのことはよく知らない」みたいなバンドにはなりたくないと思っていて、「ひとりひとりの個が立っていて、その個が混ざったときに途轍もない力を発揮するバンド」になりたい。そこは、まだまだですけど、今もそうで在りたいなと思っています。あとは、ライブのスタンスとしてそんなにキャパシティの広くない、距離感の近いライブハウスでもしっかり音を届けられるし、何千人も集めるホールとかでもいちばん後ろの人まで想いを届けられるライブが出来るバンドで在りたい。両極端ちゃんと出来る、大小関係ないバンドだと思って活動していますね。--その姿勢は音楽性にも反映されていますよね。全方位型というか……
内澤崇仁:いろんな音楽がありますからね。「ひとつのジャンルだけ」というのはイヤだったんです。いろんな音楽の届け方があるなと思っていたし、ただの音楽好き4人組なんで(笑)「いろんな音楽があるよ」ということも自分たちの音楽を通して知ってもらいたい。そういう想いもありますね。--andropが世に出てきた10年前のバンドシーンは、andropのような全方位型のバンドは少なかったですよね。
内澤崇仁:そうですね。2009年あたりでデビューしている人たちは……たしかに僕らみたいなバンドは少なかったです。しかも僕らは当初は顔もプロフィールも公にしないで、楽曲主体で活動していたので。最近は覆面とか顔を出さないボカロの人もいますけど、当時はそういう人がほとんどいなかった中で「楽曲で判断してください」と名前すら出さずに活動していたんです。「4人組」とは言っていたかな?バンドロゴだけを表に出していたので、特殊でしたね。--ひとつのジャンルに特化してライブシーンを賑わせるバンドは多数出てきましたし、いろんな界隈が生まれて盛り上がっていたとは思うんですが、その中でandropのアプローチはあらゆる面で独立していた。
内澤崇仁:そうなんですよ。友達、少なかったです(笑)。--簡単に言うと(笑)。
内澤崇仁:非常に独立していましたね。ライブやるにもコンセプチュアルというか、映像を多様したり、照明も趣向を凝らして「音」と「映像」と「照明」と一体化したライブをやっているので、同じシーンのバンドたちと対バンして一緒に盛り上がっていく流れってあると思うんですけど、僕らはライブにどうしてもその費用がかかってしまうので「一緒に出来ません」という。なので、なかなか相容れない状況になってしまったんですよね。--あと、andropはポピュラリティも重要視しているじゃないですか。ロックやバンドに興味がない人でも口ずさめる音楽をやっていると思うので、それだけでも近年のバンドシーンだと孤立しやすいですよね。
内澤崇仁:だからあまり「一緒に」ということはなかったですし、仰って頂いた通り、僕らは「聴いてくれる人の何かになるモノ」という考え方で曲を創っていたし、それは今も変わらずなんですけど。- 「有名になりたい」「お金持ちになりたい」そういう願望はなくて
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Interviewer:平賀哲雄
「有名になりたい」「お金持ちになりたい」そういう願望はなくて
--今話してくれた音楽表現者としての姿勢、それで突き進んでいこうと思った要因やルーツってどんなモノだったりしたんですか?
androp「Tonbi」(from 1st album "anew")
--いわゆるロックスター的な在り方とは真逆だった訳ですよね。
内澤崇仁:そういうところで音楽をやりたい訳ではなかったんですよね。曲を聴いてもらって、聴いてくれる人の中で何かになればいいなと思っていただけなので、いわゆる「モテたい」とかもなかったです。そもそもバンドやるとモテると思っていなかったですし、モテるんだったら他にも方法はあるだろうし。別に「有名になりたい」とか「お金持ちになりたい」とかそういう願望はなくて、本当に音楽が好きなので、それを創って聴かせたかっただけなんですよね。僕、音が画に見えることもあって、だから音楽でアート的な雰囲気なモノを表現したい気持ちが強かったから、最初は自分たちが表に出る必要もないなと思ったし、目に引っかかるモノはロゴひとつにしようと思って、それで「調べても分からないモノのほうがいいな」と思ったので、名前も当初は出さなかったんです。--いつ名前を出すことになったんですか?
androp「LIVE DVD "angstrom 0.3 pm"@SHIBUYA-AX」 ダイジェスト映像
--満を持して名乗ったのに疑われる(笑)。
内澤崇仁:せっかく公表したのに(笑)。--では、その偽名扱いされてしまった佐藤さん(佐藤拓也/g,key)と伊藤さん(伊藤彬彦/dr)と前田さん(前田恭介/b)が、内澤さんから見てどんなミュージシャンであり、どんなメンバーなのか、教えてもらえますか。まず佐藤さん。
内澤崇仁:佐藤くんはバンドにとってムードメイカー的な存在でもあったりして、いろんなところで潤滑油的な部分を補っていて、バンドの雰囲気を作っているような人ですね。佐藤くんは対バンで知り合ったんですけど、そのときからすごくニコニコしていたことを憶えていて、今でも変わらずニコニコしながらギター弾いてて。その姿が格好良いなと思っていますね。お調子者なところもあって、笑いを起こす人。でも実はすごく細かいところまで気を遣っていて、さらに「記憶力が半端ない」という特殊能力があって。それが尋常じゃないんです。一度記憶したモノを数年後でも鮮明に憶えている。なので、バンドにとってのハードディスク的なところはありますね。検索するより速い(笑)。「この曲はいつぶり?」「○年前にやったきりだ」みたいな。--何かを組み立てていく上ですごく重要なスペックですね。続いて、前田さん。
内澤崇仁:前田くんはバンド内でのアート的な部分を担っている人だと思います。美術にすごく長けていて、andropはミュージックビデオにもすごく拘っているんですけど、そこで「今はこのMVの監督が凄い」とか「今、これが世界的な主流だ」とか教えてくれるのは大体彼なんです。なので、良い監督さんと繋がっているのも彼だし、前田くんが持っている前情報の中で「じゃあ、次のMVはこの人が良いかもね」という話をすることが多い。ツアーの合間とかに美術館に行ったりしていますし、僕も何回か一緒に行っているんですけど、andropにおいてのアート面は前田くんが結構担っていると思います。エド・シーランをみんながまだ知らないときから「声が良くて、これから来ると思うんだよね」と言っていたり、新しい音楽もどんどん教えてくれるので、andropが新しい音楽を取り入れるきっかけにもなっていますね。--続いて、伊藤さん。
内澤崇仁:伊藤くんは僕らの土台ですね。職人気質で、andropを縁の下からずっと支えているし、バンドの中でいちばん頭が良い。ただ、頭が良すぎてなんか凄いんですよね(笑)。--ぶっ飛んでいる?
内澤崇仁:そう、ぶっ飛んでいるんですよね。天才だと思うんですけど、例えば、リュック背負って移動していて、タクシーの中にリュック捨てて帰るとか、打ち合わせが終わった後もリュック持たないで帰るとか、平気であるんですよ! 目の前にあるケータイすらも置いて帰っちゃう。でも本当にいろんなことを考えていて、ドラムに関しての音色もいろんな知識を持っていますし、音楽の歴史についてもすごく詳しいですし、偏差値がすごく高いんですよ。というか、僕以外の3人はみんな偏差値が高いんですよね。実際、良い学校も出ていますし、育ちも良いですし、それによって僕が助けられている部分はあります。あと、伊藤くんは父親的。多くは語らないけど、しっかりみんなの意思を汲んで無言でサポートしている。男らしいですね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
「大衆的ではありつつも玄人が唸るモノ」が創りたい
--では、内澤さんは?
androp - 「Hikari」Music Video フジテレビ系 木曜劇場「グッド・ドクター」主題歌
--そんな4人から成るandropの最新作『daily』。どんな作品を目指し、どんな作品に仕上がったなと感じていますか?
内澤崇仁:まず「Hikari」(フジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』主題歌)という曲が入ったアルバムを創ってもらいたい。そういう話があって、ある程度「こういう形でいきましょう」と決めたのが今年の9月の初めで、それで「年内にはどうしても出したい」という〆切もあったんです。自分たちが今まで活動してきた経験から言うと、盤は大体2ヶ月ぐらい前には完成している。特にアルバムは遅くても2ヶ月前には完成しているモノと認識していたので、12月にリリースするのなら10月には完成させなきゃいけない。で、僕らは9月から3ヶ月間のライブハウスツアーが始まる。だから「たぶん無理です」と言っていたんですが、それでも制作させてもらえるのは有り難いことなので、「年内に間に合うかどうか分からないですけど、死ぬ気で制作はします」と。それでライブハウスツアーと並行して創っていたので、自分たちの日常的なモノが音や歌詞になっていきました。今まででいちばん自分たちの日常が詰まっている。--それゆえだと思うんですけど、その日常の中で誰もが思わず口ずさみたくなるであろう、老若男女に響くであろうポピュラリティ。それを全曲に対して感じました。
内澤崇仁:以前から老若男女というか「大衆的ではありつつも玄人が唸るモノ」が創りたいなと思っていて、その精度は年々上がってきている感覚はありますね。で、今回は日常の中で聴いてくれる人の心に残る、届く何かがある曲たちにしたかったので、それが1曲1曲に表れているとは思いますね。でも「Hikari」以外はタイアップがある訳でもなかったので、意外と自由には創っています。制約がなかったので、5分を越えている曲もありますし、サビまで長い曲もありますし、サビがそんなに盛り上がらない曲もある。そういうこともやりたかったんですよね。自分たちの好きなモノを込める。それも今回は盛大にやりました。その上で単なる自己満足だけで終わるわけではない作品、聴いてくれる人ありきなモノを創ろうと思っていました。インナーで「自分だけのモノ」って別にいつでも創れるんですけど、今回「10周年の幕開けに相応しいモノ」ということも頭の中にあったので、我々を「Hikari」で知ってくれた人に届くモノでもありたいし、自分たちの音楽を長く聴いてくれる人にも届くモノ、それを両立したモノでなければ出したくないと思っていましたね。--そんな今作『daily』リリースと共に10周年イヤーの幕が上がります。どんな1年にしたいと思っていますか?
内澤崇仁:自分たちがこれまで活動できたのは、自分の力じゃなくて、僕からしたらメンバーがいたりとか、スタッフがいたりとか、何よりも聴いてくれる人がいて、ここまで続けてこられたと思っている。なので、この1年は「10年続けさせてくれて、ありがとう」って。自分や自分たちを祝うというモノよりも、自分たちがここまで活動させてもらえたことに対して「ありがとうございます」と返せる1年にしたいなと思っています。--具体的には、どんな活動を企てているんでしょう?
内澤崇仁:活動としては、来年の1月にインディーズの1枚目『anew』の再現ライブ、2月には初めてのファーストフルアルバム『relight』の再現ライブをやる。あとは、ツアーもまわりたいですし、2020年の1月にホールで2daysライブをやりたいと思っていたり、ドキュメンタリーも何らかの形で出したいなと思っています。実は10年間撮りためている映像があるんですよ。どこにも出していないんですけど、いろいろ苦節している部分も含めた素材があって。それを10周年イヤーのうちにまとめて公開したい。あと、例えば書籍を出したりだとか、まだ決まってはいないんですけど、こんな感じでいろいろ考えています!リリース情報
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