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中川翔子『blue moon』インタビュー
夢のつづきは―――「子どもたちに夢の扉を届けたい」
貪欲に好きなモノを追及し、その多くを仕事にして夢を叶え、その姿勢で夢を与え続けている中川翔子の生き様。舞台モードから約3年半ぶりの新作『blue moon』(アニメ『ゾイドワイルド』EDテーマ)リリースに辿り着くまでの葛藤やアニソンへの想い等、ぜひご覧ください!
夢の種蒔きとなったブログ「明るい遺書ぐらいのつもりで書いていたんです」
--中川さんは好きなモノを「好き」だとブログ等で発信し、その好きなモノを仕事や表現物に昇華し、多くの夢を叶えてきた象徴的な存在だと思うのですが、自身ではどう思われますか?
中川翔子:まだブログという概念がない頃にブログを始めさせてもらったので、全く仕事という感覚もなかったし、誰も見ていないと思っていたからこそ、いろいろ気にしないで書いていたんですよね。「ネガティブな人生だったけど、せめて“これが好きだった”と伝えてから死のう」ぐらいの(笑)、明るい遺書ぐらいのつもりで書いていたんです。そしたら、言葉って念がこもるというか、好きなことばかり独り言のように書いていたんですけど、それが「未来への、夢の種蒔きになっていたんだな」と思うことがいっぱいあって。今日もですけど、当時、夜中の3時ぐらいに更新していた「誰も見ていないだろう」と思っていたブログを見ていた人に巡り合ったりしているので、世界にインターネットを通じて放たれた時点で言葉は念を持つんだなって。なので、当時の自分に「ふて腐れて呪いだけを書き記さなくてよかったね」って言いたいです。一同:(笑)
中川翔子:最初はそういうネガティブなことを書こうとしていたんです。でもそうするとソレを思い出しちゃうし、読み返したときも悲しいだけだから「好き!っていうことをいっぱい見つけよう」と思って。そしたら仕事になるなんて思ってなかったことも次々仕事になっていって。でもブレずに持っていた夢はあって、それが「アニメの曲を歌うこと、歌を歌うこと」で。これは一筋縄にはいかなくて、すぐ叶った訳でもないし、叶ったその先にも“夢のつづき”があって、そこからは失敗したり、心折れたり、いろんなビックリすることもあったけど、嬉しいことも、悲しいことも、出逢いも、別れもあったけど、そういうことも含めて遠回りしたからこそ見えたモノもあったし、ぜんぶ無駄じゃなくて意味があったんだなと思えることもいっぱいあったんです。--今回の新シングル『blue moon』リリースに至るまでも、一筋縄ではいかないストーリーがあった訳ですもんね。
中川翔子:3年半かかりましたからね。この期間にもいろんなことがあって、例えば、舞台に初めて挑戦するときはすごく怖くて。20代まではずっと歌をやらせてもらえて、バラエティも、声のお仕事も、ブログを書いてるときも、絵を描いてるときも、どんな瞬間も楽しくて「好きなことばっかりやらせて頂いてきた」と思うぐらいなんですけど、でもそれはぜんぶ“中川翔子”としてやってきたことで。舞台はいろんな人とひとつになってやるモノだし、何より歌から離れてしまうことがすごく怖くて……。結果的にどの瞬間も経験値として「歌に反映させられたらいいな」とは思っていたんですけど、そのタイミングが3年半かかってようやくやってきたので「キター!」って感じでしたね(笑)。--実際、この3年半、舞台で学んだことが活かせているなと思いますか?
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--ヤバい女を体当たりで演じている。
中川翔子:これは舞台を経験していなかったら出来なかった。いきなり「これ、やります」と言われても「どう演じればいいか分からない!」ってなっていただろうなって。だから「何にでも意味があるんだなぁ」と思いました。20代では気付けなかったこと、今やっと振り返られること、そういうモノがあってこそ『blue moon』の歌詞も書けたと思うし。20代はいろいろやっていると「いろいろやってるんだねぇ」って感心してもらえるけど、30代になると何をやっていても「あたりまえ」だと思われるし、逆にいろいろやっていると浅く見られるから「(やることを)絞ろうか」みたいな話も持ち上がって。--それは苦しい提案ですね。
中川翔子:でも「やっぱり歌はやめたくない。なるべく長く歌いたいです!」と伝えて。その為にも他のことも頑張ろうと思っていたんですけど、今年の序盤は舞台の稽古だけをしていたから、実は不安で(笑)「私、これからどうしよう?」と思っていたら、下半期になってからリリースが決定して、リリースイベントでたくさんの人たち、久しぶりのみんなにも、はじめましてのみんなにも、ちびっ子のみんなにも会うことが出来たので、最終的に「あー、よかった!」と思えるすごく濃い1年になりました。なので、悩んだりすることにも意味があるんだなと思いましたし、どの経験もきっとぜんぶ必要だったりするんでしょうね。- 「自分が歌いたい」という気持ちよりも「子どもたちに夢の扉を届けたい」
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リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
「自分が歌いたい」という気持ちよりも「子どもたちに夢の扉を届けたい」
--再び歌うことができた。ここに結実できた訳ですからね。
中川翔子『blue moon』「ゾイドワイルド」エンディングテーマ
--7親等!?
中川翔子:7親等にもなると似てないんですよ(笑)。--凄まじい集結力ですね。
中川翔子:他にも「子どもを生んでから東京まで遠征できなくなった分、親戚全員連れてきたよ!」みたいな方とか親子三代で来てくれる方、父(中川勝彦)の代から応援してくれている方、小学生のときにポケモンの番組で私を観ていて「今はもう女子大生だから自分のお金でCD買いました!」と言ってくれたおねえさん、そして、今のちびっ子たち。あと、ファンの人同士がたくさん結婚していて! そして赤ちゃんと家族連れで来てくれる方。こんなにもいろんな人たちに会えて、歌を聴いて頂ける。たまたま足を止めて聴いてくれる方も笑顔で最後まで立ち去らず聴いてくれたり、CDを手に取ってくれる方もいて!「やっぱり歌があるから生きた証も思い出も残せるし、歌があるからこれだけたくさんの方たちと出逢えるんだな」と改めて思いました。--歌なしではありえない人生になっていますね。
中川翔子:今年の夏にロスでライブが出来たんですけど、10年前、まだ持ち歌が3曲ぐらいしかなくて、日本でもまだライブを全然したことがない頃、いきなりロスのノキアシアターで単独ライブをしたんです。当然「えー、どうしよう?」となったんですけど、いざステージに立って『空色デイズ』を歌ったら、日本語なのに海外の皆さんが一緒に歌ってくれて、大合唱が巻き起こったんですよ。それで「歌ってたのしい! 歌は人と人とを繋いでくれるんだ!」ということを学べたんです。アニソンのおかげで。その10年後となる今年の夏、持ち歌も増えてきたし、日本でライブもたくさんしてきたし、でもやっぱり不安だなと思ったんですけど……「空色デイズ」は右手を振り上げる曲なんですよ。でも10年経ったらそれだけでは飽き足らず、海外の皆さんも独自のオタク文化を築いていたようで、サイリウムをボキッと折ってぐるぐる回り出したんですよ。「なんじゃこりゃ!?」っていう動きをしていて(笑)。--独自の盛り上がりを見せた訳ですね(笑)。
中川翔子:それもあって「アニソンじゃないと出来ないことがある」と思いました。日本語ではじめましての海外の方たちと仲良くなれるなんて……これは本当に先輩方が切り開いた道だと思いますし、私もそこで歌い続けたいし、それは「自分が歌いたい」という気持ちよりも「子どもたちに夢の扉を届けたい」と思うからで。子どもたちに「嬉しいな」とか「ワクワクしたな」とか「自分もやってみたいな」とかそういうポジティブな気持ちを届ける、そういう役割としてアニソンを歌っていきたいし、いろんな活動をしていきたい。そんな風に夢の形が変わったんですよね。今、アニメ『ゾイドワイルド』を観ている子たちが「懐かしいな」と思う気持ちって“大人の入り口”だと思うんですよ。いつか「こういう意味があったのか」って自分で発見してもらえるような歌詞にしたくて『blue moon』は書いたんです。だから本当に今までがあって出来た曲だし、いろんな風に捉えてもらえる曲になったらいいなって思います。--大きな転機に生まれた作品であり、新たな方向性を示す作品になっている。
中川翔子:結果的にそうなりました。2018年の日々はすごくあっと言う間に過ぎていったんですけど、自分的には「変わったな」と思えることもいっぱいあるし、逆に「変わってないな、ブレてないな」と思うこともあるし。今回『blue moon』が生まれて、3年半ぶりにリリースが出来て、音楽活動に動きがあったということはとても大きいし、少しでも長く歌い続ける為に「今がいちばん頑張りどきだな」と思っています。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
「どうかしあわせと笑顔と寿命の長さを」と思いますね
--また、歌い続ける理由に「子供たちに夢の扉を届けたい」が加わったことも今後活動していく上で大きな変化ですよね。
中川翔子:子どもたちに対しても思うし、祖母がマージャンとシャンソンが好きで、遺言が「マージャンおぼえろ、シャンソン歌え」だったので(笑)、いつか孫が生まれるぐらいまで頑張ってシャンソン歌える説得力を持ちたいし、その孫に「おばあちゃん、ラプンツェルの声をやったのよ」と物心付くまで黙っておいて急にバラしたい。一同:(笑)
中川翔子:孫にいろんなことを伝えたいんですよ。そこまでの行程をいろいろすっ飛ばして話してますけど! その為にも、面白いこと、嬉しいこと、好きなことを探していく。今はその道中だなとも思います。--その軸になるのが「アニソンを歌い続けること」だと思うのですが、いろいろ大好きなモノがある中でそれが軸になったのは何でだと思いますか?
中川翔子:13才の頃「私は友達と上手くやれないんだ。想定していた自分じゃない」と思うような日々を迎えるようになって、ガラガラ崩れ落ちる日々にどう立ち向かっていいか分からない。そんなときに、たまたまパソコンを買ってもらってネットに逃げていたんですけど、そうするとベッドの下からポーン!とアニソンの入った、子供の頃に聴いていた『コロちゃんパック』というカセットが出てきて。それを思春期に改めて聴いてみたら「凄い!アニソンって!」というビッグバンがあって、そこから5年ぐらいアニソンばかり聴いていたんですけど、本当にアニソンにはどれだけ助けられたか……。なので、当時は芸能界に入りたいとは全然思っていなかったんですけど、「アニソンを歌う人になりたい。その為にはどうしたらいいか」と中野ブロードウェイに通っている日々の中でも考えていて。ゆえに私の根底にはアニソンが流れているんです。--ちなみに、しょこたんの世界にビッグバンを起こした『コロちゃんパック』。そこにはどんなアニソンが入っていたんですか?
中川翔子:「悪魔くん」とか(笑)。すごくストレートに勇気とかを歌っている曲たちだったんですけど、今、毎週土曜日にNHK-FM『アニソン・アカデミー』というラジオ番組をやっていて、アニソンを歌っている方や作っている方、レジェンドから若い方までお招きするんですけど、ささきいさおさんがいらっしゃると好き過ぎて号泣しちゃったり。それこそ「悪魔くん」を書いた森雪之丞さんも来て下さって。また、Japanese Musical『戯伝写楽2018』に出演して森さんが作ったミュージカルの歌を歌うことも出来たり……「あの頃の自分に伝えたい!」と思うようなことが山ほどあって、あの頃はいろいろしんどい気持ちも抱えていたけど、絶対に何でもトータル的に考えると「オールOK! 結果オーライ!」になるんだなって!--好きなモノを好きであり続けた先に「結果オーライ!」と思える人生が待っている。とてもしょこたんらしい生き様だなと思います。
中川翔子:あと、学生の頃、友達関係がしんどくて学校に行けなくなったりしたんですけど、それがあったから、今、悩んでいる子たちに向けて何かを伝えられているんだとしたら……今年の夏はそういう機会が多かったんですけど、「あ、あれもしんどかったけど、無駄ではなくて意味があったんだな」と思えたり。本当に最近そういうことが多くて、なんか成仏しそうになっているんですけど(笑)、もうちょっと生きたいなと思っています。--いや、まだまだ生きてください(笑)。
中川翔子:私は『空色デイズ』で「夢が叶った!」とすごく大きく感じて、あの曲があったから日本ではもちろん海外でも、どの国でも歌えたり盛り上がれたりしていて、あの曲が私の名刺代わりになってくれたからすべて出来たと思うんですけど、やっぱり“夢のつづき”は子どもたちに……あのとき自分がいっぱい勇気をもらったように「うわぁ! アニソンって、歌って凄いなぁ!」「この歌詞にはこういう意味があるのか!」って嬉しい気持ちや楽しい気持ちを伝えられたらいいな、という風に変われたことも嬉しいですね。--「好き」を貫き通した結果、それを次世代に繋いでいくフェーズにまで突入した訳ですよね。これは凄いことですよ。
中川翔子:もう赤血球みたいに血の中に「好き」が流れている(笑)。「好き」という永続魔法トラップみたいになってますね! でも「好き」ゆえに悩みどころもあるんですよ。例えば、アニソンを歌いたい気持ちがあっても、アニソンの世界からすると「え、外の人でしょ?」と思われたり、でもアニソンの世界の外からすると「え、アニメ?」という感じの視線があったりして。なので、立ち位置として何の人か見えづらいことが悩みだったりもしたんですけど、加藤登紀子さんプロデュースのライブイベントにお邪魔したとき、同じゲストでいらした夏木マリさんが「私は歌も歌うし、俳優もやる。でもどの瞬間も夏木マリとして楽しむ! それに尽きるわ!」っておっしゃっていて、「うわ!格好良い!」と思ったんです。まだ私はハッキリと「これが私の人生だ!」みたいに言えないんですけど、でも私の場合はすべての瞬間が意味を成していくから、どれも絶対欠かせないモノなんだろうなと思うので、そのすべてを歌に込めて「どうか聴いて下さる方が笑顔で長生きしてほしいな」と願う。実際、ライブで「みんな、約束! 次会うときまで死ぬんじゃないぞー!」「はーい!」みたいな掛け合いをやっているんですけど、それは本気で心から想うこと。--今、しょこたんのファンがなんで根強いのか分かった気がしました。
中川翔子:時間は寿命だし、その貴重な時間や思い出を一緒に過ごしてくれたことって「本当に奇跡だな」と思うので、関われた方や出逢えた方、歌が届いた方には「どうかしあわせと笑顔と寿命の長さを」と思いますね。言葉で夢は叶いやすくなるから、自分の人生を振り返ってみてもそう思うから、絶対にネガティブな言葉は言ったり書いたりしないほうがいいと思うんです。だから私は「どうかしあわせと笑顔と寿命の長さを」と言います(笑)。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
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