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鈴木茂×INO hidefumi インタビュー
鈴木茂×INO hidefumiのコラボ実現! ギターとローズの音色が響き合うステージ
2012年10月、ビルボードライブ東京・大阪で楽しみなコラボレーションが実現する。鈴木茂とINO hidefumi。片や「日本語のロック」の祖=はっぴいえんどでデビュー、ソロとしても名盤の数々を残してきた日本屈指のギター・レジェンド。片やインスト作品では異例のロング・セールスを記録し、クラブ・シーンとも共鳴し合うフェンダー・ローズの名手。世代を超えた共演は、なぜ実現するに至ったのか。深く、豊かな音色を紡ぎ出すことで知られる両者の演奏は、どんな相乗効果を生むのか。リハーサル真っただ中の二人にインタビュー。
「柔らかな音の響き」への愛着、それが共通点
--お二人が共演することになった、きっかけからお聞かせください。
INO hidefumi:ビルボードライブで何度か公演をさせていただいているんですが、「誰かと新たにユニットを組んで公演を行ってみませんか」というお話をいただいたんです。僕はミュージシャンの友達が少ないし、面識のない方と共演するような経験もなかったので、どうしようかと思っていたところ、何人か候補をご提案くださって、鈴木茂さんのお名前があり、ぜひ共演させていただきたいと思いました。まあ、ただ怖そうだなと思って………
--(笑)それは、そうですよね。多くのミュージシャンからリスペクトされている、大先輩との共演になるわけですから。
INO hidefumi:ティン・パン・アレー時代のリハーサルで、アンプの上にあぐらをかいて座ってらっしゃって、錚々たる顔ぶれのメンバーに指示を出している姿を思い出すと……僕は子供の頃から鈴木茂さんの大ファンで、そんなシーンを見て何かおっかなそうだなと思っていたんですが、こういう機会はなかなかないので「もし、茂さんがOKしてくださるなら是非。」という流れで共演が実現しました。
鈴木茂:僕はオファーをいただいて、INOさんの音源を聞いたんです。それですぐにOKしました。INOさんの音楽が素晴らしかったことももちろんですが、僕はもともと自分の演奏が普段通りできるのであれば、一緒にやるミュージシャン、バンドは世代を問わないと思っていますから。
--最初にINOさんの音楽を聞いて、具体的にはどんな感想をお持ちになりましたか。
鈴木茂:音を聞いて印象に残ったのは、シンセサイザーではなくローズ(エレクトリック・ピアノ)を使い続けているこだわりでした。今の時代、キーボードには便利で手軽な機種はたくさんありますが、どうしても同じような音になりがちで、演奏全体に埋没してしまう可能性があります。そんな中でINOさんのローズの音は圧倒的な存在感がありますので、自分が一緒に演奏した時、ギターの音色とどう重なり合うか楽しみだと思いました。
--茂さんがこれまで参加してきたセッション、バンドの中で、ローズという楽器は、どんな位置づけでしたか。
鈴木茂:60年代や70年代は、やはりキーボードの要でしたよね。エレピではウーリッツァーを使っている人もいましたけれど、スタジオに常設されていたのは、フェンダーのローズが多かった。ローズもギターと同じように、年代によって音質がどんどん変化しているんですが、基本的に楽器の音は、どんどんアタックが強い音になっていく傾向にあります。でも、僕は個人的に昔の音が好きですね。ローズだったら、スティーヴィー・ワンダーの初期のアルバムなどで聞くことができる、柔らかくて、温かい音。レコーディングの時も、キーボードのダビングになると、僕はよく二つあるローズのスピーカーの前に座っていました。ずっと聞いていると、心地いいんですよ、温かい音が。
INO hidefumi:僕もやっぱり、音の響きが好きなんです。ローズの音、そのものが。それに尽きますね。
音を出した瞬間の感動
--INOさんは音楽だけではなく、活動スタイルにも特徴がある方です。自分でレーベルを立ち上げて、セルフ・プロデュースで作品を発表していく活動を、茂さんがご覧になって何か感じることはありますか。
鈴木茂:とてもユニークで、いいスタイルだと思います。僕にも参考になりますね。メジャーのレコード会社には、それなりの事情があるので、僕も今度アルバムを作る時にはINOさんみたいな形態でやりたいと思っています。僕が若い頃には、レコーディングをしようとすれば、設備が揃ったスタジオが必要で、お金もかかりましたから、メジャーな会社に所属するしか選択肢がなかった。今は機材が進化してコンパクトになったり、セールスの方法もインターネットを使うことができるので、大きな組織は必要なくなりましたよね。
INO hidefumi:いや、僕は単にメジャーな会社のどこにも拾ってもらえなかっただけで(笑)。ただ、今振り返ると、こういった形で活動を続けてきて、よかったと思っています。
--ライブに向けたリハーサルは順調に進んでいますか?
INO hidefumi:最初のスタジオリハで茂さんの到着を待っている時に、あの鈴木茂さんが本当にスタジオに現れるのか、それが心配で(笑)。
--まず、その心配ですか!(笑)
INO hidefumi:実際には、きちんと時間通りに来てくださって……アンプ3台とともに、エフェクターボードをかついで登場された姿を見て「わっ! 鈴木茂だ!」と感動しました。最初に茂さんがギターの音を出した瞬間は、鳥肌が立ちました。僕の曲でも、絶妙なギターを入れてきてくださって、もう僕からは何もいうことがなかったですね。うちのメンバーも、緊張していましたが、本当にいい経験になったんじゃないでしょうか。
--今回のライブは、INOさんのライブ・セットであるローズを中心とした3ピースのバンド(INOの他にベースが岡戸一朗、ドラムスに横畠亮)に、茂さんのギターが加わる形なんですよね。
INO hidefumi:今回演奏する茂さんの曲は、「課題曲」のオリジナル音源と、動画サイトで最新の演奏のものと、3パターンくらい譜面をつくり、まずはメンバーとスタジオに入ってリハーサルを始めたんです。
鈴木茂:僕がリハに入る前に、INOさんのバンドである程度演奏を固めてくれていたので、すごくやりやすかったですね。その後も、コードだけの譜面をもとに、それぞれがインスピレーションを出し合ってアレンジしていくスタイルだったので、スムーズに進みました。
インスト+ヴォーカル曲、そして絶妙なカバー
--公演を楽しみにしているリスナーのために、プレイ予定の曲名を少しでも教えていただけると、うれしいのですが……。
鈴木茂:僕の曲は、演奏し慣れているもの選びました。「砂の女」や「100ワットの恋人」などですね。
INO hidefumi:全体的には茂さんの曲と僕の曲、バランスよく演奏するセット・リストになると思います。今回ならではの特徴を挙げると、いつも僕のライブはほとんどの曲がインストゥルメンタルですが、今回は歌ものが半分くらい入るところですね。僕がヴォーカルをとらせていただいたり、茂さんのヴォーカル曲にコーラスで参加させていただいたり。そこにカバー曲が2、3曲加わる予定です。
--そのカバー曲とは?
INO hidefumi:トッド・ラングレンの「ハロー・イッツ・ミー」、スタンダード・ナンバーの「ユー・ビロング・トゥ・ミー」などが候補に挙がっています。
--それはますます楽しみになってきました。最後に、お二人のコラボレーションが行われる、ビルボードライブ東京という会場については、どのように思われていますか。
INO hidefumi:ライブをやる空間として、ビルボードライブはとても好きな場所です。客席の上のほうまで、吹き抜けになっているあの空間で、ローズの音を響かせることができるのは、とても楽しみですね。それとビルボードライブで演奏する時は、独特の緊張感があるんです。特に1stステージは。ステージが低くて、お客さんとの距離が近いですからね。
鈴木茂:僕は初めてですが、とても楽しみですね。ライブを見ながら食事ができる場所というと、ロサンゼルスにある老舗のお店(1957年開店)、トルバドールを思い出しますね。今はきれいになっていると思いますが、70年代は納屋みたいな場所でした。当時は食事もハンバーガーくらいしかなかったですが、ビルボードライブのように今のライブレストランは進化して、ずいぶんと食事も豪華になって、お洒落な場所になったなあと感慨深いです。何よりお客さんにリラックスして見ていただけそうなので、そこがいいと思いますね。
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