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T.O 新曲「Liar」Priscilla Ventura×Daniel Bourget 鼎談&単独インタビュー
「“サウンドが古い”は根に持ってる」
この夏、U-NEXT配信の海外ドラマ『ライブラリアンズ4 時を越えた守護者(ガーディアン)』エンディングテーマに起用された新曲「Liar」で、3バージョンを同時に発表してみせたDJ T.O。
前回インタビューで“サウンドが古い”と言われたことを根に持っていたと言う彼が、多彩な表現者 Priscilla Ventura、本場アメリカでエンジニアとしても活躍しているDaniel Bourgetと共に生み出した強烈な意欲作「Liar」について。3者による鼎談&T.O単独の二部構成で迫ります!
T.O×Priscilla Ventura×Daniel Bourget 鼎談「素晴らしい楽曲」
▲YouTube「Liar - T.O feat. Priscilla Ventura, Daniel Bourget」
--おふたりは前作「BURNING」で、T.Oさんと初めて共演されました。
Priscilla Ventura:自分の声もとても気に入っているし、素晴らしい楽曲だと思う。これまでこういった事をしたことがなかったんだけど、歌うのが楽しかったし、とてもいい経験になったわ。 Daniel Bourget:確かに「Burning」の制作はとても楽しかったね。Priscillaと一緒にやるのも初めてだったし、メロディやビートの楽曲構成、彼女のボーカルも本当に素晴らしいと思う。--Priscillaさんはシンガーとして活動しているのでしょうか?
Priscilla Ventura:正直に言うと、今は演技の方にシフトしているのこともあって、アメリカで歌うことは少しストップしてるの。歌って、踊って、演技もできるのが理想だから。でも全てを追い求めるのはハードなので、今はとにかくひとつのことに集中したい。ただ、歌うのであれば、R&BやPopsミュージックを歌いたい。特にR&Bは自分の声にぴったりだと思うから。--シンパシーを感じるボーカリストや好きなシンガーなどはいますか?
Priscilla Ventura:私の歌い方はリアーナに似ていると思う。彼女の歌を歌うと凄くしっくりくるし、自信も湧いてくる。好きなシンガーでいうと、ビヨンセね。歌とダンスと演技の3つを持っているから。もちろんリアーナも好きだし、ジェニファー・ロペスも尊敬している。みんな自分のやりたいことを全部やっているアーティストだと思うわ。やっぱりアーティストとして、どれもできるというのは大事なことだと思う。必ずしもマストではないのかもしれないけれど、HipHopのアーティストなら必要ね。新曲「Liar」3バージョンの違い「リアーナに似ている」
▲左から:T.O/Priscilla Ventura/Daniel Bourget
--そしてこのたび、新曲「Liar」は計3バージョンが存在し、それぞれにまったく違ったテイストを楽しむことができます。
Priscilla Ventura:本当にどれも全く違う印象ね。個人的には、“BPM Shift Mix”には力強さがあって、盛り上がる感じも好き。もちろん他の2つのバージョンもそれぞれに全く違うテーマを持っているのが面白いし、違う曲のように聴こえるのよね。--“BPM Shift Mix”はスロウなテンポのHipHop的なアプローチが斬新でした。
Priscilla Ventura:アメリカでは今、スロウな方が流行っていますよね、SoulやR&Bのような感じというか。イタリアでもそういうテイストが好かれていて、Popミュージックなどもスロウな楽曲が多いと思います。 Daniel Bourget:テンポが速いと楽曲の力強さが増すし、ボーカルにも影響を与えるよね。 Priscilla Ventura:どうやって自分の声を適応させるか、ということも関わってくる。テンポが速いと声のピッチは自然と高くなるけど、私はどちらかというとアルト(低い音域)の方が向いているの。私のスタイルというか音域、一番適したゾーンを考えると、R&BやPopミュージックがベストだと思う。 T.O:「Liar」は2~3年前から構想を練っていた曲だったんだけど、“Normal Version”は今聞くと少し懐かしく感じるところはあるかもしれないですね。“Emotional Mix”は、日本のラジオ業界の人たちが気に入ってくれるかなって(笑)。そして“BPM Shift Mix”は、曲中にテンポが変わっているんですよ。これは海外のリスナーにとって踊りやすいテンポだと思うし、メロウな雰囲気も好まれると思います。リアーナの楽曲と似ているところもあるし、日本で生まれたオリジナリティもある。「Liar」にはJazzとHipHopを混ぜたセクシーなダンスが似合う
--この“BPM Shift Mix”をアメリカのラジオ局でオンエアした場合、どのような反応が得られると思いますか?
Priscilla Ventura:どのラジオステーションで、誰が聴くのかによっても変わると思う。 Daniel Bourget:今、アメリカのHipHop専門ラジオは、もっとシンプルなサウンドをかけるようになっているね。あまり音にレイヤーがないというか。ハーモニーも少なかったり、基本的なベースラインだけだったり。ドラムとベースとラップだけ、みたいな曲が主流じゃないかな。そういった意味では、リスナーに新たな刺激を与えられるかもしれない。--おふたりは普段どのような音楽を聴かれますか?
Daniel Bourget:アメリカの東海岸のアンダーグラウンドなHipHopとか、レイドバックしたスロウな音楽だね。RockやJazz、Bluesも聴くし、クラシックなRockももちろん好き。PopsやCountryはあんまり好んで聴かないかな。 Priscilla Ventura:R&B、HipHop、Popsなど、踊れる曲が好み。私はHipHopダンサーだから。特に深いベースラインやビートがある曲が好きね。--もし、「Liar」のダンスを考えるとしたら?
Priscilla Ventura:ちょうどJazzとHipHopを混ぜた中間のような感じ。2つの要素をミックスした、セクシーな雰囲気のダンスが合うと思うわ。--では、異国である日本で、ご自身が歌う楽曲が聴かれていることについては?
Priscilla Ventura:もちろん日本の方に気に入ってもらえたら嬉しいですね!これからも日本で今までと違ったこともしてみたいし、日本語で歌うことや他のバンドとコラボレーションすることなどもしてみたい!- T.O単独インタビュー「“サウンドが古い”は根に持ってる」
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T.O単独インタビュー「“サウンドが古い”は根に持ってる」
--前回のインタビューから約半年ほど経ちました。その反応は想定内でしたか?
T.O:ヘヴィなラジオリスナーは聴いてくれましたよね。また、不思議だったのがストリーミングではだいたい2~30回くらいの再生数がずーっと続いてる。「BURNING」は『ライブラリアンズ3 呪われた混沌の神』のエンディングテーマに起用されたので、そこからの経由もあると思いますけど。コアなダンス・ミュージックやジャンル・ミュージックではなく、ポップス寄りですからね。--そして今回の「Liar」ですが、実に3バージョンものサウンドが用意されています。
T.O:いや、実はさ、前回の取材であなたに言われた“サウンドが古い”っていう言葉を、根に持ってるんですよ(笑)。--「T.Oさんならもっと今の洋楽のトレンドに乗せた音楽も作れると思うのですが、「BURNING」はそういう音ではないですよね?」という質問ですよね(苦笑)。
T.O:良い意味で根に持ってるんです、ショックで。外国人のシンガーやラッパーを用意して、本格派のレコーディングをして、力のあるプロモーターなども使って、周りを固め切ってるのに、サウンドがダサいって。“外国人が歌うJ-POP”だけは避けるためにやってたのに、作った時期が悪かったり、置きにいくと、どんどん古びたサウンドになってしまう。旬じゃないサウンドだからね。だけど内心ではふつふつと怒りが沸いてきてて、次は絶対気に入らせてやると。ただ、だからといってアメリカやイギリスで流行ってるサウンドに寄せるのも本当は少し違うんだよね。みんなが思う”新しいサウンド”を作るっていうのは、けっこう愚策というか意味がないよね。だから、本当の意味での新しいを自分で解釈して、咀嚼して、作ったのが「Liar」。
--やっぱり“BPM Shift Mix”がすごく面白くて、スロウでメロウなビートの中でテンポがうごめいてく感じなど、非常に耳応えのあるサウンドが楽しめます。
T.O:非常に短いスパンでリズムのチェンジが繰り返されてる。しかも、箇所によっては4倍まで速くなる。こういうのはなかなかないよね。これはスクエアプッシャーのサウンドに近いと思っているんだけど、彼らはドラムン・ベースだよね。これはダンス・ミュージックでポップなのに、ドラムン・ベースやってるんだ。Liarはビルボードへの恨みから生まれた?!
--そうなんですよね。基本的にはしっかりポップスとして聴こえるという、非常にハイレベルな勝負をしている楽曲だと感じました。
T.O:あー、それはすごい嬉しい言葉ですね。音楽は三要素あると言われてて、リズムと、コードと、メロディがある。ただ、コードとメロディで新しい要素を見出すのは非常に難しくて、かといってリズムで新しい解釈というのもなかなか無い中では、これかなって。ドラムン・ベースは狙っていたわけではないんだけど、リズムで新しい解釈を加えて、新しいミュージックを作ろうと思ったら結果こうなった。作り終わって聴いた時、これはドラムン・ベースとヒップホップの融合だな、と。これはもうビルボード様のおかげですよ(笑)。これ、本当にネガティブに捉えないでくださいね。でも正直ミュージシャンってそんなもんなんですよ。ちっきしょーって思った方がやっぱり作るのよ。
--このバージョンを初めて聴いた時に、「これは色々訊きたいぞ」と感動しましたよ。
T.O:でも、作り終わった今思うのは、「日本じゃ売れねーな」っていう(笑)。シンセサイザーがキラキラで、オート・チューンのような新しさだったらわかりやすいけど、「Liar」はリズムで聴かないとわからない。だからあるダンサーに聴かせてみたら「気持ち悪い」だって。そのダンサー、ワック・ダンスで日本2位だった子だよ? まず自分の予測してる通りにビートが動かない。且つ、遅くなったり速くなったりも味わったことがないって。これはフリースタイルでは踊れないから、フリを決めなきゃダメだと。--それって音楽の面白い部分のひとつで、自分が予想できない音が押し寄せてくる楽曲って気持ちいいんですよね。
T.O:それはミュージック・ジャンキーの言葉ですよ(笑)。僕もそうなんですけど、音楽を聴きすぎて退屈しちゃうんですよね。速くなって、ゆっくりになって、サビくるんでしょ?って。この後、盛り上がりますね~みたいな。それをわからなくして、ビルボードを驚かせたかった。一番驚かせたい中の5人に入ってるから。売れたいとか有名になりたい以上に、答えが知りたい
--やっぱり音楽が死ぬほど好きな人が作った音楽ですよ、「Liar」は。
T.O:ミュージシャンなんてそんなもんでさ、答えがほしいのよ本当は。普段言わないけど、プロデューサーでも作曲者でも、音楽を作る奴らはみんな、自分のグルーヴやメロディがナンバー1だと思ってる。もちろん尊敬するプロデューサーやミュージシャンはいくらでもいるけど、ある面では自分がナンバー1だと思わないとやらない。新しいグルーヴを作って、これで古いと言われていたものが新しくなって、みんなが聴けば、それが答えになる。疑問が晴れるじゃない。だから売れたいとか有名になりたいという以上に、答えが知りたい。でも難しいよな。人それぞれ好みだから。「Liar」の“BPM Shift Mix”は後半で好き放題やりすぎたしね。
--でも、「Liar」の3バージョンでのT.Oさんの牙のむき出し方は、めちゃくちゃカッコイイと思います。
T.O:これで答えが出ればね。市場で売れて、「ほらみたことか」って言いたいよね、「これでしょー?」って。でも、やっぱり簡単には答えは出ない。日本のシーンと合わないのかもね。若い子が聴いてる曲と、あまりに違うんだもん。日本語歌詞だったら多少は違うんだろうけど。それならアメリカでやった方がいいのかなあ。--先ほどのDanielさんの話だと、アメリカのヒップホップ専門ラジオは、もっとシンプルなサウンドをかけると。
T.O:つまり俺のサウンドはアメリカでも居場所がないと?またそうやってまた俺の創作活動にケチつけるんだ?ビルボードさんは。--いや、こう言えば次も素晴らしい作品を生み出してくれるかなと思いまして(笑)。