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インプレッションズ“最初で最後の来日”記念特集 ~キヨシローやボブ・マーリーも繋ぐ稀有なコーラス・グループの物語



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 シカゴが生んだR&Bコーラス・グループの伝説的パイオニア、インプレッションズによる最初で最後の来日公演が9月に開催される。ゴスペルやドゥーワップのエッセンスを昇華した豊潤なコーラス・ワークと“ブラック・プライド”に根ざした精神性、そしてカーティス・メイフィールドを輩出したことでも、後の音楽史に計り知れない影響を与えた彼ら。全音楽ファン必見の奇跡的な公演に向けて、音楽ライターの内本順一氏に、彼らのキャリアと功績を解説してもらった。

音楽史に計り知れない影響を与えたグループ

 市営グラウンドの駐車場。あの娘とふたりで毛布にくるまっているとき、カーラジオから流れてきたのは、恐らくこの曲だったのだろう。「For Your Precious Love」。インプレッションズが1958年に発表し、全米11位(R&Bチャートでは3位)を記録したスローバラードだ。そう、RCサクセション「スローバラード」の話。もっともオーティス・レディングをこよなく愛した忌野清志郎だったから、そのとき彼が(またはこの曲の「ぼくら」が)聴いたのはオーティス・レディングが1965年にカヴァーした同曲のほうだったに違いないが。

 清志郎はそのようにとても美しくインプレッションズの曲を日本語ソウルの傑作として昇華させたわけだが、一方、トータス松本は、インプレッションズを聴いてのインスピレーションを面白おかしくアップテンポの曲に昇華させた。マーチ風のリズムに乗せて「エ~メン、エ~メン」と歌われる、インプレッションズ、1964年発表のシングル曲「Amen」(全米ポップチャートで7位を記録)。ゴスペルをR&Bに持ち込んだ明るいこの曲の「エ~メン」が兵庫県出身のトータスには「え~ねん」と聴こえたそうで、そこからウルフルズの「ええねん」が生れたのだと聞いたときには思わず(嬉しさもあって)笑ってしまった。

 例えばそんなふうに、ソウルミュージックを愛しているミュージシャンならばなんらかの影響を受けないわけにはいかないグループ、インプレッションズ。ロック好きのリスナーであれば、ジェフ・ベックとロッド・スチュワートがカヴァーした「People Get Ready」(ジェフ・ベックの1985年作『Flash』からシングルカットされて大ヒット)のオリジナルを歌っていたグループとして認識している人も少なくないかもしれないが(因みに同曲はアレサ・フランクリン、ボブ・ディラン、ボブ・マーリー、ミーターズ、シール、ハナレグミほか多数のアーティストがカヴァーもしくは引⽤している)、まあとにかくそんなふうにも後の音楽史に計り知れない影響を与えたグループであるわけだ。


▲Jeff Beck, Rod Stewart - People Get Ready

初期のインプレッションズ ~ドゥーワップからソウル・コーラス・グループへ

 インプレッションズ。1958年に結成されたシカゴ出身のコーラス・グループ。彼らはドゥーワップやゴスペルのエッセンスを加えたソウルを形にすることで人気を博し、カーティス・メイフィールドという素晴らしい才能を世に伝えた以降もソウルミュージックのステキさを歌とコーラスで表現し続けてきた。そして2018年は結成60周年にあたる年。メンバーが交代したり亡くなったりしながらも、とにかく60年続いているというのはとんでもなく凄いことだが、なんと60年目にして初来日公演が大決定!! 今年になって一時期同グループのリード・シンガーを務めたリロイ・ハトソンの奇跡の初来日公演が実現し、それだけでもソウル愛好家たちにとっては十分な驚きと喜びがあったわけだが、まさかそこからわずか4ヵ月後に母体インプレッションズの公演も観れるとは。ソウルを愛する多くの人たちが「長生きはするもんだ」と思ったに違いない。しかも、グループはもうすぐツアー活動から退くことを発表してもいる。即ち今回が最初にして最後の来日公演となる確率がかなり高いわけで、これはなんとしても見逃すわけにはいかないものなのだ。

 何せ長いキャリアである故、その歴史をきちんと辿るとなると相当な長文になってしまう。なので、ここではポイントとなるところだけをギュッと凝縮して紹介しておこう。前身は、サム・グッデン、リチャード・ブルックス、アーサー・ブルックスがテネシー州チャタヌーガで結成したザ・ルースターズで、彼らがシカゴに移ったところでジェリー・バトラーとカーティス・メイフィールド(ふたりはノーザン・ジュビリー・ゴスペル・シンガーズというゴスペルグループで活動していた)と合体し、ジェリー・バトラー&ザ・インプレッションズという5人組グループとしてシカゴを拠点に活動開始。その名の通りジェリー・バトラーが初代リード・シンガーを務め、冒頭に述べた「For Your Precious Love」はそのバトラーの手によるグループの初ヒットだった。しかしR&Bチャートでトップ30のヒットとなった「Come Back My Love」を最後にバトラーが脱退。新たにフレッド・キャッシュが加わり、リード・シンガーはカーティス・メイフィールドが引き継いだ。


▲IMPRESSIONS & JERRY BUTLER Come Back My Love 1959

 バトラーはソロで活躍して成功を収め、1991年にはロックの殿堂入りを果たしもしたが、インプレッションズもまたメイフィールドのソングライター、プロデューサー、シンガーとしての個性と才能を軸に、結成当時とは少し異なる新たな方向性を打ち出しながら成功の道を歩んでいった。まずインプレッションズ単独名義での1961年の初シングル「Gypsy Woman」が全米20位(R&Bチャートでは2位)のヒットに。ラテンを意識した同曲は後にブライアン・ハイランド、ボビー・ウーマック、ライ・クーダーらにカヴァーされてさらに広まった。それからジョニー・ペイト(『Superfly』や『Shaft In Africa(邦題:黒いジャガー/アフリカ作戦)』などで有名)と組んでサウンドを変えての「It’s All Right」が1963年に3位となるヒットを記録。ブルックス兄弟が脱退して、このときはもうカーティス・メイフィールド、サム・グッデン、フレッド・キャッシュの3人組になっていたインプレッションズだったが、それによって彼らはドゥーワップ的なコーラスを断念し、ソウル・コーラスを研ぎ澄ます方向にシフトしていた。1963年にヒットした「Sad,Sad Girl And Boy」などはまさしくソウル・コーラス・スタイルが完成したことを伝えてくるような名バラードだ。

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シカゴから広がり、シカゴへ繋がるインプレッションズの物語

 1964年には「Keep on pushing」がヒット。“高い理想に向かって前進を続けるんだ”と歌われるこの曲でブラック・プライドの精神を前に打ち出し、前述の「Amen」のヒットを経て、翌1965年には信念の尊さを説いた「People Get Ready」を大ヒットさせた。グループは順調にリリースを続け、1967年の暮れに発表したシングル「We’re a Winner」は遂にビルボードR&Bチャートで1位を記録。1968年になるとメイフィールドは自身のレーベル「カートム」を立ち上げ、ますますメッセージ性を強く押し出しながら「Choice of Colors」(1969年)、「Check Out Your Mind」(1970年)といったヒットを放つのだった。そんなこの時代のインプレッションズは、音楽的にはソウル・コーラス・スタイルによってシカゴのさまざまなグループ(シェパーズ、ファイヴ・ステアステップスなど)に強い影響を与えていたわけだが、ブラック・プライドの精神性を打ち出した歌詞はボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズやロックステディのヘプトーンズら、ジャマイカのバンドにも影響を与えたものだった。

CD
▲『Times Have Changed』

 メイフィールドはカートムを立ち上げてからプロデュース業や若手の育成にも励むようになり、インプレッションズのリード・シンガー、ソングライター、プロデューサー、経営者と、マルチな才能を発揮していたわけだが、やがてファンクに気持ちが動いてグループではできない音楽もやりたくなり、1970年にインプレッションズを脱退。ソロ・デビュー作『Curtis』を発表し、それはビルボードのブラック・チャート(当時。現在のR&B/Hip-Hopアルバム・チャート)で堂々1位に輝いた。一方、インプレッションズにはメイフィールドの勧めによってリロイ・ハトソンが加入。メイフィールドは作曲とプロデュースでグループに関わることとなった。しかし、ハトソン加入後のアルバム2作(実質的にハトソンが関与したのは1972年の『Times Have Changed』1枚)は、メイフィールド時代に比べると見劣りするセールスとなり、ハトソン自身がグループではやりたいことができないと限界を感じて1973年に脱退。ハトソンが実力を開花させたのはカートムでソロ活動を始めてからだった。

 ハトソンに替わって、インプレッションズにはラルフ・ジョンソンとレジー・トリアンというふたりの実力派シンガーが加入。そのふたりと、グループ初期からのサム・グッデン、フレッド・キャッシュからなる4人組に生まれ変わったインプレッションズは、1973年に再出発アルバム『FINALLY GOT MYSELF TOGETHER』を発表した。70年代らしいメロウなそのアルバムは非常に充実した出来映えで、シングル「Finally Got Myself Together (I'm a Changed Man)」が5年ぶりにR&Bチャート1位の大ヒットを記録。続く1975年作『FIRST IMPRESSIONS』からは「Same Thing it Took」と「Sooner or Later」も大ヒットした。そして1976年にカートムでの活動を終えてレーベルを去り、その年から1979年まではネイト・エヴァンズがリード・シンガーを務めていたが、その後は地道に活動を続行。チャートに顔を出すことはなくなっていた。


▲The Impressions - Finally Got Myself Together (Soul Train 1974)

 それから長い時間が流れ、サム・グッデン、フレッド・キャッシュ、レジー・トリアンの3人でダップトーンからシングル「Rhythm!」を発表してインプレッションズが復活したのは2013年のことだ。その曲は当時と変わらないコーラスの美しさが嬉しいものだったが、しかし残念なことにアルバムは出ないまま2016年5月にレジー・トリアンが他界。また、トリアンと共にグループに加入し、2000年まで在籍(途中で一旦抜けて1983年から復帰)していたラルフ・ジョンソンも同じ2016年の12月に亡くなってしまった。


▲The Impressions "Rhythm!"

 だが、それでもインプレッションズの物語は終わらない。オリジナル・メンバーとして結成時から在籍し続けるサム・グッデン、そして1960年から在籍し続けるフレッド・キャッシュのふたりはまだ活動をやめることなく、この9月に遂に揃って日本の地を踏むのである。グッデンは現在83歳(来日する9月で84歳)。キャッシュは77歳。そしてそのふたりの大ベテランに加え、この来日公演には比較的最近リード・シンガーに抜擢されて加入した、現在33歳の若手ジャーメイン・ピュリフォリーがマイクの前に立つようだ。そのピュリフォリーは、2010年に『アメリカン・アイドル』のハリウッド予選に参加した後、メアリー・J.ブライジ、チャーリー・ウィルソンらのバックを務めた。YouTubeで彼が歌っている映像を探して見てみたが、かなり柔軟に幅広いタイプの曲を歌えるシンガーのようだ。さらに今回の来日公演には、3人のホーン・セクションを含んだ7人のバンドが帯同。厚みのあるサウンドで、インプレッションズのいろんな時代の名曲・代表曲を味わうことができそうだ。

 昨年来日したラッパーのノーネーム、今年来日したジャミーラ・ウッズ、それに【サマーソニック2018】に出演するチャンス・ザ・ラッパーと、現在のシカゴ・シーンの盛り上がりを日本でも直に感じとれるライブがこのところ続いているわけだが、そのルーツを辿ったところにいるベテランのリロイ・ハトソン、そして今回のインプレッションズと、60年代や70年代のシカゴ・シーンを代表する人たちが、こうして元気に来日してくれるのは本当に嬉しいことだし、実にもって意義のあること。このときを長く待ちわびた40代、50代、60代のソウル愛好家の方々はもちろんのこと、チャンス・ザ・ラッパーら現行アーティストに夢中になっている若い人たちにも、この公演はぜひとも観てもらいたい。

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