Special
菅田将暉『ロングホープ・フィリア』インタビュー
「末永い希望」この言葉になんか僕は「勇気づけられるな」と思ったんです
映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE -2人の英雄-』主題歌&TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』EDテーマを担当する菅田将暉に初インタビューを敢行! 俳優としてもアーティストとしても活躍する表現者としての菅田将暉にフォーカスし、そのルーツやデビュー前後のストーリーについて語ってもらった。演技の世界でも音楽の世界でも時代の寵児とも言える存在感を放つ表現者の生き方、ぜひご覧頂きたい。
表現者としてのルーツ「大人になったみぎわさんの『プロポーズ大作戦』」
--菅田さんは役者としてはもちろん、今回は映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE -2人の英雄-』主題歌&TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』EDテーマを務めるなど音楽活動にも力を入れていますが、表現者としてはどんな人間だなと思っていますか?
菅田将暉:自分自身をですか? ……僕は高校生のときに上京して、この世界に入ったときに世界がすごく開けた感じがしたんです。自分の知らないモノを知っている人がたくさんいて、一緒にいて「面白いな」と思える人がたくさんいて、食べたことがないモノもたくさんあって。それで「いろんなモノを知りたいな」ってすごく思ったんです。そして、その次に「自分も作ってみたいな」って。そのときぐらいからお芝居に対しても、物作りとしての意識みたいなものが出てきて。プライベートでも何かとこう……それは洋服に対してもそうですし、絵でも何でもそうなんですけど、友達と過ごす時間でさえ「作ることが好きなんだな」と気付いていって。それが面白くて仕方ない感じはありますかね。--あらゆるモノに対して「作ることが面白い」と感じるようになったんですね。
菅田将暉:それを表に出すか出さないか。というところで楽しみ方は変わっていきますけど、自分らだけで満足できるモノ、誕生日のアイツが喜ぶモノっていう楽しみ方や作り方もあるし、今回みたいに大々的に表に出るモノの物作りの楽しみ方もまた違うし。でもどちらも好きなんでしょうね。それは俳優業に対しても変わらないです。--多種多様な表現をされている方は、自分の生活や人生がすべて表現物に成り得る面白さに気付けた人だと思うんですけど、菅田さんもまた「アレもコレも表現物としてアウトプットしてみたい」と思えた人だったんでしょうね。
菅田将暉:そうですね。「そういう場にいる」ということもそうですし、その為にいろいろやってきたところもあるし、やっぱり自由に物作りをする為にはいろんなところで根回しや努力が死ぬほど必要になるんで。「そこを勝ち取ることって実はすごく大変だよね」っていうのは意外とみんな知らないことだったりもするけど。まぁでも物作りに対してあたりまえのように興味が尽きなかったんですよね。僕は「面白いな」と思って自然と興味が出てくるので、そこは常にベースにありますかね。--そのルーツって何だったりするんですかね?
菅田将暉:何なんでしょうね? もちろん音楽も小学生の頃からすごく好きでしたし、その頃からTSUTAYA行ってCD借りてきて「マイベスト」みたいなMDを作ったりして、それを友達と交換したりしていましたし、テレビドラマもすごく好きで観てました。そのときに自分が「作ってみよう」とは全然思っていなかったですけど、よくよく考えてみれば小さいときにピアノをやっていたりとか、中学校のいわゆる学園祭? 文化祭のときに劇をやったんですけど……そう言えばそこで脚本を書いているんですよ。--おぉー!
菅田将暉:当時『プロポーズ大作戦』というドラマで「長澤まさみ、めっちゃ可愛い」と話題になりまして。みんな主人公演じる山P(山下智久)とおんなじ髪型をしている時代。それをパロって、『ちびまる子ちゃん』に出てくるみぎわさんって分かります? みぎわさんは花輪くんのことが大好きなんですよ。でも想いが全然届かないんですよね。だからみぎわさんの十年後を描こうと思って。大人になったみぎわさんの『プロポーズ大作戦』という劇をやったんですよ。我ながら良い題材だったなと思うんですけどね。--今の情報だけでもう観てみたいですもん。
一同:(笑)
菅田将暉:ちゃんとやれば結構面白いと思うんですけどね(笑)。そんなこともしていました。授業中とか暇つぶしで好きな絵を描いたりもしてましたね。これはいまだにやる遊びなんですけど、最初に僕が真っ白い紙にくちびるの絵を描くんです。それを次の人がいろいろ足して、ひとつの絵を完成させていく。これはいまだにコミュニケーションとしては結構良いツールで、毎回予想外の展開になっていくから面白いし、どんな方向に転んだとしても、誰かといっしょに1ページ埋めるとなんか良い感じになるんですよね。だから好きなんでしょうね。そうやって何でも作っていくことが。- カテゴライズを超える役者「風習みたいなモノに違和感があったんですよ」
- Next >
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
カテゴライズを超える役者「風習みたいなモノに違和感があったんですよ」
--そんな菅田さんがいわゆる役者の世界に飛び込んだときは、どんなことを感じたりしましたか?
菅田将暉:最初は何かを感じられるほどの余裕はなかったです。パニックでしたね。標準語を覚えるところから始めて、それから現場でお芝居をする訳ですけど、まずセリフを言うのが恥ずかしいし、そこには人がいっぱいいるし、自分じゃない誰かを演じるということもよく分かんないし。みたいなところからのスタートではありましたけど、でもなんか……今思うとですよ? いつの日からか「仕事としてやっていこう」「いろんな物作りの提示をやっていけたらな」と思っていく中で、最初に感動した部分で言うと……まぁお芝居って嘘な訳じゃないですか。みんな嘘って知ってますよね? 嘘だと知りながら映画館に行って、お金払って、感動しているんですよ。これって凄いことだなと思うんです。作品と真摯に向き合って本物にしていくのが僕らの仕事なんですけど、でもきっと観るお客さんも引いた目線じゃなく前のめりになってもらわないと、そういう時間にはならなくて。これってともすれば無駄な時間な訳ですよ。でもそれが文化として根付いていて、必要とされていて、映画1本で人生変わることもありますし、それをハッと思ってからは「表現って面白いなぁ」と思いましたね。ご飯食べないと人間は死ぬけど、別に映画観なくても人間は死なないですから。でも必要っていうところが面白い。--その世界における菅田将暉の台頭もまた個人的には面白いなと感じていて。浅野忠信や渡部篤郎、永瀬正敏など個性派俳優たちが単館映画からお茶の間まで席巻していく時代を経て、近年はメディア全体が「イケメン俳優」をムーヴメントにしていく流れがありましたよね。でも菅田さんはそこにひとつ風穴を開けようとしている役者のひとりとして現れたと思うんです。自分ではどう思われますか?
菅田将暉:いやぁー、今の話はすごく嬉しいです。僕の想いとしては……この世界に僕が入ったときってカテゴライズがすごくハッキリしていたんです。で、みんなそのカテゴライズをなんとなく気にしながら、でもそれにちょっと違和感も感じながら、なんとなくその場でやっている空気があったんですよ。で、いわゆる銀幕スターと呼ばれるほどの、映画しかやっていない人も減ってきていて。例えばトレンディードラマみたいなところ、演劇というところ、広告というところ、それぞれのジャンルがある訳ですけど、でもミュージシャンの方もだんだんお芝居をやるようになったりとか、お笑い芸人さんがお芝居をやっていたりとか、いろいろ混ざりつつあるような状況だったんですよね。そのときに僕はなんか「全部やればいいのにな」と思ったんですよ。でもそれをやっている役者は意外といなくて。だったら「よし、それを目指そう」と思って。ただ、いざやろうとしたら大変で、「なるほど! だから居ないのか」ということもすごく感じるんですけど……--音楽の世界もジャンルを越えて活動するのは至難の業ですけど、それは演技の世界でも同様なんですね。
菅田将暉:そうなんですよね。でも、僕みたいに映画が物凄く好きでこの世界に入った訳でもなく、実際にやってみながらいろいろ知っていっている人間としては、なんか変に制御する必要も感じないし、その風習みたいなモノに違和感があったんですよ。だからシンプルに、括るとしたら「面白いモノ」っていうところさえ間違えなければ、いろんなところでいろんなことをやるのがいちばん良いかなと思ったんです。僕も飽きるし。いくら好きなモノでもね、同じことばっかり続けていたら飽きるし、みんなそこを飽きないように試行錯誤していくっていうのはあるけど、そもそも僕は好きなモノとか「自分はこのジャンルだ」って決められるまでに至っていなかったんで。それはいまだにそうですけど。だからそんなつもりではやっています。リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
菅田将暉の音楽「楽しめないならやらない。そこは譲らずやっていきたいです」
--そういう意味では誰も歩まなかった道を選んだ訳で、そんな菅田さんが音楽活動も本格始動すると知っていろいろ調べたら、好きなアーティストに吉田拓郎や忘れらんねえよの名前が出てきて、やっぱりそういう人たちが好きなんだなと合点がいったりもして。
菅田将暉:たしかに。なんなんでしょうね。ひとつ言えるのは、親父がすごくフォーク好きなんで、家でふっとい指のスリーフィンガーがうねうね動いている情景をよく家のリビングで見てたし、そこでフォークソングを聴かされていた影響もあるとは思うんですよね。ドラマ『ちゃんぽん食べたか』でさだまさしさんの役をやらせてもらってギターを触ってみたりとか、忘れらんねえよの柴田さん(柴田隆浩)に曲を書いてもらって映画上で歌ったりとか、そういう経験も踏まえてますけど、単純に最初のスタートがそこだったっていう。あと、音楽的知識があんまりない素人からしたら、まずボーカルの声を聴くわけですよ。ベースとか最初は一切入ってこないし、メロディーの美しさとか分かんないから。そうなったときに僕はやっぱり言葉が気になったんですよね。で、なるべく音数の少ないもの……となると、吉田拓郎さんの弾き語りしている楽曲とか映像とか、忘れらんねえよの柴田さんの日常的にムカついていることや「好きな子にフラれた」みたいなことを歌っている感じとかが僕にはすごく分かりやすいし、共感だけじゃなく、物作りをしていて「自分の熱量や想いをすごくシンプルに世の中の人へ吐き出して、それを受け入れてもらうことが難しい」とすごく感じ始めていたからでしょうね。それを成立させている、させようとしている人たちに惹かれたんだと思います。--菅田将暉さんの新シングル『ロングホープ・フィリア』は、もちろんアニメ『僕のヒーローアカデミア』の世界観も踏襲しているとは思うんですけど、amazarashiの秋田ひろむさんが菅田さんにこの歌詞を歌わせるというところに面白さを感じていまして。今日のインタビューでも語られた菅田将暉の生き方とか音楽的嗜好にシンクロする部分がたくさんありますよね?
菅田将暉:たしかに。元々amazarashiさんの曲をいろいろ聴いていて「好きなポイントはやぱりここなんだな」と今回改めて思ったのは、言葉の扱い方というか、その言葉のメロディーへのはめ方というか。歌うのは正直すごくムズいんですよ、この曲。でもいちばんまっすぐに伝わるというか。そこが不思議なところで、まっすぐ歌えばまっすぐ伝わるものでもないんです。で、普段使わない言葉なのに、それがまっすぐ伝わる。このイリュージョン感みたいなものが秋田さんにはすごくあるなと毎度思うんですよね。で、今回『僕のヒーローアカデミア』の曲ということと僕が歌うということを踏まえて作って下さったと聞いて、歌っているとすごくその感じが伝わるというか……デモで秋田さんが歌っているモノを聴いて僕は歌っているんですけど、意外と余白のある歌で。そして、言葉ひとつひとつをハッキリ歌えるように出来ていたりもするんですよ。これって演者側目線、プレイヤー側目線からすると色付けがしやすいんです。向かっていくべき方向だけは示してくれていて、その中で「好きにやってください」って言われているような気もしましたね。--そうして制作した『ロングホープ・フィリア』の仕上がりを聴いて、どんな印象や感想を持たれましたか?
菅田将暉:秋田さんが作った言葉とメロディー。この組み合わせじゃないと成立しない言葉がたくさんあって。特に今の世の中、ともすればみんな簡単に身を引いちゃう。その中で言葉を伝えるって結構難しいことだなと思うんですけど。以前、秋田さんの弾き語りライブにお邪魔したことがありまして、そのときに感じたことが……こんなに莫大なエネルギーで弾き語りをやっているのに、全然飽きないんですよ。で、抵抗感がないんですよ。これって不思議で。いくら体に良いモノでも摂取し続けると飽きたりするじゃないですか。それは音楽でもいっしょで、いろんなバリエーションを駆使したり、いろんな映像を駆使したりして飽きさせないようにする訳ですけど、その秋田さんのライブは本当にシンプルで。お客さんも全員座りで、その中で淡々と聴く、歌う、それのみっていう。なんかこの受け入れたくなる力って何なんだろうなと思ったんですけど、そこは自分も大事にしたいなと思ってやりましたかね。逃げていない感じというか。--そんな菅田さんの新作『ロングホープ・フィリア』がどんな風にリスナーに響いたり、作用したらいいなと思いますか?
菅田将暉:もちろん『僕のヒーローアカデミア』の世界観がベースにある曲なんですけど、先日、自分の地元でたまたま震災があって、そのときに「このタイミングでこの曲か」みたいなことも個人的には思っちゃって。震災に限らずですけど、頑張っている人とか何かを諦めずにやっている人とか、決して「良い」とは言えない状況に立ちながらも、みんな少しの希望を持って歩んでいこうとするじゃないですか。でもそのパッと芽生えた希望があったとしても、どうしたってその後にすぐ現実が訪れて落胆したりとか、なんか冷静になってしまって「あの希望は衝動的なモノでなんか違ったんじゃないか」って考えちゃったりとか、人間って絶対にそうなるじゃないですか。だから前向きに自信を持って一歩踏み出せなかったりすると思うんですよね。で、そんな中での「末永い希望」っていうフレーズ。意外と聴いたことがないこの言葉になんか僕は「勇気づけられるな」と思ったんですよね。だからいろんな場面でこの歌を歌いたいなと思いましたし、そういう曲が出来た感覚があります。--では、最後の質問になります。音楽の道でこの先どんなことがしたいですか?
菅田将暉:いろいろありますね。なんか「まだまだやれそうなことはあるな」とすごく感じたので、とりあえずそれをひとつひとつ昇華していって……最終的には「楽しい人生になればな」という感じでございます。楽しめないならやらない。そこは音楽に関しては譲らずやっていきたいです。リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
ロングホープ・フィリア
2018/08/01 RELEASE
ESCL-5090/1 ¥ 2,090(税込)
Disc01
- 01.ロングホープ・フィリア
- 02.ソフトビニールフィギア
- 03.ロングホープ・フィリア (Instrumental)
関連商品