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ラウル・ミドン来日記念特集~その至高の歌とギタープレイに迫る
華麗なカッティングとタッピングで操るアコースティック・ギターと、ダニー・ハサウェイを彷彿とさせるソウルフルな歌声。一度聴いたら忘れられない歌を紡ぎ続けているのが、“神の声”とも称賛されるラウル・ミドンだ。2005年にソロ・アーティストとしてメジャー・デビューして以来、その圧倒的なパフォーマンスで世界中の音楽ファンを魅了してきた。まもなくビルボードライブ公演を行う彼の足跡を、あらためて追ってみよう。
ラウル・ミドンは、1966年に米国ニューメキシコ州のエンブドという街で生まれた。彼の名前から想像できる通りラテンの血が混じっており、父はアルゼンチン人、母親はアフロ・アメリカンである。ラウルは双子だったが、未熟児だったため兄弟ともに全盲となった。ラウルが最初に音楽と触れ合うのは4歳の時。フォルクローレのダンサーだった父親が、ラウルにドラムを与えた。その後、ギターを習い始め、マイアミ大学ではジャズを専攻した。
1990年に大学を卒業したラウルは、セッション・シンガーとしての道を歩み始める。フリオ・イグレシアスやホセ・フェリシアーノ、クリスティーナ・アギレラといった大物から、マーク・アンソニーやシャキーラ、ルイス・フォンシのようなラテン・ポップまで幅広いジャンルでレコーディングに参加し、ライヴのサポートを務めた。シャキーラのツアーに参加した後の2002年、ソロ・シンガーとしての活動を行うためにニューヨークへ移住。そこでDJ兼プロデューサーのルイ・ヴェガと知り合い、彼のソロ・アルバム『Elements Of Life』(2003年)に大々的にフィーチャーされて一躍注目を集め、日本にもこのチームのツアーで来日した。また、スパイク・リー監督の映画『セレブの種』(2004年)にも楽曲提供するなど、その仕事ぶりは幅が広がっていく。
2005年にはユニバーサル・ミュージック傘下のマンハッタン・レコーズと契約。巨匠アリフ・マーディンとその息子のジョー・マーディンをプロデューサーに迎え、ファースト・アルバム『State Of Mind』でデビューする。本作は、ジャズやソウル、フォークから、ラテンやアフリカン・ポップにまで影響を受けた幅広い音楽性を提示するもので、ジェイソン・ムラーズとスティーヴィー・ワンダーという豪華ゲストでも話題を呼んだ。しかし本作の本質は、ラウルの声とギターだ。パーカッシヴに弾く躍動感に満ちたアコースティック・ギターと、ダニー・ハサウェイやビル・ウィザースを思わせる変幻自在の歌声を武器に、奔放に展開する楽曲群は実に新鮮で、音楽ファンから高く評価された。
▲ 「State of Mind」
2006年にはソロとしては初の来日公演を行ったラウルは、その翌2007年にセカンド・アルバム『A World Within A World』(世界の中の世界)をリリース。楽曲によってはミシェル・ンデゲオチェロやパキート・デリヴェラが参加したが、基本的にはラウルとジョー・マーディンの2人で作り上げた作品である。本作ではすでにラウルの渋みがにじみ出ており、アグレッシヴなギター・プレイだけでなく、多重コーラス、ラップ、マウス・トランペットといったヴォーカル・テクニックも駆使し、その才能の豊かさを見せつけてくれた。アンデス・フォルクローレ風のサウンドが聞けるのもユニークだ。
2008年には自宅兼スタジオを作り、いつでもレコーディングができるような環境を整えた。彼以外でもスタジオとして使用することができ、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにも参加したキューバのピアニスト、ロベルト・フォンセカの傑作『Akokan』(2009年)もラウルの自宅スタジオで制作されている。そして、デッカに移籍した2010年にはこれまた名匠として知られるラリー・クラインとの共同作業により、サード・アルバム『Synthesis』を発表する。本作には、ラリー・ゴールディングス、ディーン・パークス、ヴィニー・カリウタ、パウリーニョ・ダ・コスタといった一流スタジオ・ミュージシャンが参加し、ラウルのプレイを支えた。シンプルなバンド・サウンドは耳馴染みもよく、AORやボサノヴァのテイストもあり、彼のアルバムで最もポップな作品に仕上がった。また、ビートルズの「Blackbird」をカヴァーしているのも聴きどころだ。
2010年にはアルバムのリリースだけでなく、ロバータ・フラック、平井堅とともに日本武道館のステージに立つというスペシャルなイベントも行われた。そして、『Synthesis』の制作のために西海岸に引っ越したラウルは、しばらくツアーなどを行った後の2014年に、4作目のアルバム『Don't Hesitate』を自宅スタジオで制作する。コンテンポラリー・ジャズのレーベル、Artistry Musicに移籍しての本作は、シンプルながらも洗練されたサウンドで心地良い作品となった。ラウル自身のプロデュースのもと、リチャード・ボナやマーカス・ミラーといった強者ミュージシャンが参加し、ダイアン・リーヴスとリズ・ライトをデュエット相手に迎えている。また、ビル・ウィザースとの共作曲「Mi Amigo Cubano」や、ザ・フーのカヴァー「I Can See For Miles」も話題となった。
▲ 「Audiotree Live」
▲ 「Mi Amigo Cubano (Live)」
2017年には前作から3年ぶりとなる5作目のアルバム『Bad Ass And Blind』をリリースする。前作同様に洗練されたサウンドが特徴で、ジャズ、AOR、ニュー・ソウル、フォーキー・ソウルなどの要素が取り入れられた力作となった。本作もラウル自身がプロデュースを担当しており、冒頭からラップを披露するなど、相変わらずのラウル節を聴かせてくれる。サウンドはシンプルでありながら、メロウでポップなナンバーが中心で、ヴォーカル・パフォーマンスの圧倒的な存在感も健在。グルーヴィーなスティーヴ・ミラー・バンドの「Fly Like An Eagle」のカヴァーも見事で、この年のグラミー賞最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞にもノミネートされた。
もちろん、そのパフォーマンスもますます磨きがかかり、世界中のオーディエンスを魅了し続けている。まもなくビルボードライブ公演が行われるが、間違いなく盛り上がるはず。ぜひその目で、至高の歌とギターを楽しんでほしい。
▲ 「NPR Music Tiny Desk Concert」
公演情報
Raúl Midón
ビルボードライブ東京:2018/9/7(金) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
ビルボードライブ大阪:2018/9/10(月) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
関連リンク
Text: 栗本 斉
バッド・アス・アンド・ブラインド
2017/03/10 RELEASE
KKP-1043 ¥ 2,547(税込)
Disc01
- 01.バッド・アス・アンド・ブラインド
- 02.レッド、グリーン、イエロー
- 03.ペダル・トゥ・ザ・メタル
- 04.ウイングス・オブ・マインド
- 05.イフ・オンリー
- 06.サウンド・シャドウ
- 07.ジャック
- 08.ユー&アイ
- 09.オール・ザット・アイ・アム
- 10.ガッタ・ガッタ・ギヴ
- 11.フライ・ライク・アン・イーグル
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