Billboard JAPAN


Special

<音楽企業×IT企業>2つの顔を持つレコチョクが考える“ハッカソンの意義”とは? ビルボードジャパン×Cip協議会による【Live Hackasong】開催に向けてインタビュー



インタビュー

 2001年7月に創業、2002年には世界初となる「着うた(R)」の配信サービスを開始して以来、常に音楽配信業界を先導してきたレコチョク。ビルボードジャパン×Cip協議会の共催ハッカソンには第1回目から参加しているが、今回は同社の研究開発機関である“レコチョク・ラボ”が初参加する。

 音楽企業であると同時に、IT企業でもあるという会社の2面性を世に知らしめていくことがミッションだというレコチョク・ラボ。同社のCTO室に勤務する山内和樹氏によると、2017年は18回ものテック系イベントを実施したそうだ。今回のインタビューでは、現代のハッカソン事情からVR/AR分野の現在地、そして当ハッカソンのテーマである「未来のエンタテインメント体験」について、話を聞いた。

成果物のクオリティというより、アイディアの切り口次第

――レコチョクさんにはビルボードジャパンとCip協議会による【LIVE Hackasong】に第1回、第2回と参加していただきましたが、レコチョク・ラボとしては初参加ということで、改めてラボ発足の経緯などを教えてください。

写真

山内和樹(レコチョク・ラボ):趣味の多様化が進んで行く中、音楽の聴き方もどんどん変わってきてますよね。音楽に限らずどの業界でも、そういった時代の変化をリサーチしていかなければいけないということで、2014年、レコチョク・ラボが設立されました。基本的には研究開発機関です。

――きっかけはありますか?

山内: 2014年1月に「人と音楽の新しい関係をデザインする。」というCI(コーポレート・アイデンティティ)を制定して、“音楽×IT”、あるいは“音楽×何か”で新しいものを見つけていこう、というメッセージの一つとして、R&Dであるレコチョク・ラボが同時タイミングで立ち上げられました。レコチョクはスタッフの約3分の1がテック系の人間なんです。そんな音楽企業とIT企業の2面性をもっと外に出していこうということもありますね。

――発足当初から企業や教育機関とのコラボレーションを積極的に仕掛けてらっしゃいました。

山内:大学との共同研究は積極的に行ってきましたね。最近では、電気通信大学やお茶の水女子大学では論文発表への協力という形で。早稲田大学のアプリ・コンテストへも協賛しました。

――一方で、アーティストともコラボしたり。

山内:最近の例でいうと、MY FIRST STORYのライブDVDと特典VR映像をセットにして、弊社の運営するアーティストとファンをつなぐ共創・体験型プラットフォーム『WIZY』で販売しました。VR映像の撮影や編集は全部レコチョク・ラボが主導で行ってます。ほかにもアイドルのライブをVRで生配信するといった実績があります。



『MY FIRST STORY “MMA”TOUR 2017 FINAL ONE MAN SHOW “THE PREMIUM SYMPHONY”』VR映像(※本プロジェクトは終了済み)


――そのほか、レコチョク・ラボの今後の展望をお聞きできますでしょうか?

山内:VRの制作は一段落ついてきたところで、次はXRの観点でARに注力していきたいと考えているところです。

――「未来のエンタテインメント体験」がテーマの今回の【LIVE Hackasong】。レコチョクさんにはXR関連の技術を提供していただきますね。

山内:XRによって特にライブ・シーンでの体験が拡張していくと思うので。そこで現実空間と仮想空間をどうやって結び付けていくか、というのが最近の我々のテーマの一つですね。

――レコチョクさんは普段からハッカソンに積極的に参加している方も多いそうですが、レコチョク・ラボさんにとって、そもそもハッカソンに参加する意義とは何でしょう?

山内:私たちは基本的に中の人なんですよ。中の人は、なかなか外の人の発想を教えてもらう機会がないんです。ハッカソンはそんな外の発想、自分たちが知らないこと、思い浮かばない考え方を、身をもって体験できる場なんです。

――外の人の考え方というと?

山内:そもそものアイディアの切り口、つまり発想ですね。それが実際にサービスになるかどうかは二の次だと思っていて、ハッカソン参加者の考え方を吸収するという狙いの方が大きいですね。

――これまでのハッカソンで特に記憶に残っている発想はありますか?

山内:今年の2月にEnterTech Labさんと共催した【Music Hack Day 2018】で2つほど印象に残ったものがありますね。1つは雑誌を楽器にする、ひいてはあらゆるものを楽器にするという発想でした。ジャンプとマガジンでは音が違うみたいな。

――雑誌を叩いて出す音?

山内:そうです。実際は電子で制御しているので、別にジャンプとマガジンそのものには何も意味はないんです。でも僕らが思いつくかと言われたらきっと思いつかないですね。

――たしかに。

山内:もう1つはいわゆるオタ芸のデータベースです。最優秀賞とレコチョク賞を受賞したんですけど、僕はこれをVR/ARにしても面白いのではんじゃないかなと思って。

――モーション・キャプチャーを使ったりするような?

山内:いや、もっとパワー・プレイな感じです(笑)。実際には、成果物のクオリティというより、アイディアの切り口次第なんです。ライブ・シーンなんかは意外にテクノロジーが入りづらい世界で、ああいう風に考えられることもあるんだなぁって、成果物よりは、そのアイデアの新鮮さが僕の中ではインパクトがありました。もちろんハッカソンでは完成度も評価材料だとは思いますけど。

写真

――逆に、これまでのハッカソンで課題だと感じたことはありますか?

山内:いろいろなハッカソンに参加する機会がありますが、アイディアが似てきていると感じることはありますね。既視感があるものが増えてきています。“ハッカソン職人”みたいな方も現れたり。完成度は高いんですが、かえって完成度が高過ぎて違和感を感じてしまうような。

――伸びしろもまた、評価材料の一つですよね。

山内:そうですね。オタ芸のデータベースなんて、ビジネスになるかどうか、全く分からないですよね。でも、そういうことは重要ではないんです。そもそもハッカソンの生まれてきた背景には、身内でわちゃわちゃやりましょうよというノリがあって、そういった始まりと最近のハッカソンがどう折り合いをつけていくのかって部分で、今は過渡期にあるのかなと。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. よりIT企業としての一面も出していければ
  3. Next >

よりIT企業としての一面も出していければ

――次に、今回ご提供いただく各種デバイスについてお話伺えればと思います。まずは360度カメラについて。

山内:今回、僕らがレコチョク・ラボとして、VR映像の制作や実験をしてきた中で使用してきたデバイスを提供させていただきます。360度カメラは、個人ユース・レベルであれば参加される方でも用意できるかもしれませんが、今回提供する『Insta360 pro』は価格も高く、プロ・ユースのものなので、普段はなかなか気軽に使えないカメラかと思います。もちろん撮影した映像のクオリティも高いですが、その分編集作業も大変なので、今回は作業で小回りが利くよう『RICOH THETA S』もプラスして提供してます。

――大きな違いは何でしょう?

山内:まず画質が全然違います。あとはレンズの仕様です。

――ハッカソンへの機材の持ち込みは初めてですか?

山内:初めてです。他の持ち込みデバイスに関してもそうですけど、基本的に僕らが使い方や注意事項を伝えられるものを出すというのが今回のスタンスです。もちろん他社製品なので、100パーセント僕らが解説することはできないかもしれませんけど、実際に我々の活動の中で購入したものなので、最低限のノウハウをお伝えしたり、サポートすることはできるかなと思います。

写真

――VR関連のデバイスもいくつかご提供いただきますが、それぞれ違いはどこにあるのでしょうか?

山内:一般的なVRゴーグルだと、レンズや見た目ぐらいにしか違いはないんですけど、『Microsoft HoloLens 』はそもそもVRではなくMRと言われているものです。仮想世界と現実世界をミックスすることができるんです。『HTC VIVE』は、基本的には普通のVRゴーグルと変わらないんですけど、手で操作するコントローラーがあって、その動きで映像を反応させることも可能です。Samsung『Gear VR』とGoogle『Daydream View』は一般的スマホをセットするVRゴーグルです。

――先程VR領域は一段落ついたとおっしゃってましたが、一般家庭にまで浸透しているかと言われればそうでもない。つまりこの技術領域がある意味で停滞してしまっているということなのでしょうか?

山内:全てのサービス領域で停滞してるかと言われるとそうではないと思いますが、我々のサービス領域では広く普及しているとは言い切れない現状です。

――何が障害になっていると思いますか?

山内:まず視聴用の機材が必要なことですね。VRゴーグルを装着しなくてはいけないことには、心理的な障壁もあると思います。あとはどう楽しませるか。コンテンツを作る側も、まだ、何が正解か分からなくてすごく悩んで試行錯誤を続けているところもあるかと思います。

――対するAR領域はいかがでしょうか?

山内:Appleは『ARKit』、Googleは『ARCore』というARに力を入れているようなので、やはり大きな流れの中で注目されつつあると思います。例えば『ポケモンGO』や『SNOW』だったり、皆さんも知らないうちにAR技術を活用したソフトを使ってるわけで、VRに比べると小回りが利く、手軽な技術になってるということなんだと思います。スマホ一つで完結できることが多いので、やはりそこが違うのかなと思います。

――たしかに自分が持ってる既存デバイスでアクセスできるのは大きいですね。VRでこの課題をクリアするのは難しい?

山内:そうですね。VRだとヘッドマウントディスプレイはなかなか外せないと思うので。ただ、個人ユースはそうかもしれませんが、例えばゲームセンターなどではVRがすごく使われてたりして、結局は技術のハメどころなんじゃないかなって思います。

――加えて今回、『Google Home mini』もご提供いただきます。レコチョクさんは長らく音楽業界の発展に寄与してきたということもあり、スマートスピーカー分野をどう見てらっしゃるかが気になります。

山内:LINEさんやGoogleさん、Appleさん、Amazonさんと様々な企業が参入していますし、注目のエリアではあるかなと。逆に皆さんがどう使っていくのか、特に技術者の方がどういう風に活用していくかというのが、僕も気になってますね。

――XR分野と同じように、いかに生活に溶け込むかが課題なんでしょうか?

山内:いずれデファクト・スタンダードになるものが出てくると思うので、今は見守ろうと思ってます。

――今回のハッカソンのテーマ「未来のエンタテインメント体験」について、改めてレコチョクさんの意見をお聞かせください。

山内:例えば音楽でいえば、聴くだけじゃなく、音楽を通した新しい体験ということが重要になってくると思います。アーティストとファンの繋がりとか、アーティストからの発信、逆にファンだけで楽しめること、そういった体験をより広げることができる仕組みを探求できたらいいなと思っています。

――今回のハッカソンでレコチョクさんのチームに参加するメリットがあれば教えてください。

写真

山内:VRやMRのなかなか触れる機会のない機材を使用いただけます。一にも二にもそれだと思います。あとは僕らが現場でアーティストさんやレーベルさんとご一緒して得たものはフィードバックできるかなと思います。要はエンジニアの考えに対して、現場のプロの方々の意見を知識としてトランスファーできるかなと。

――それも音楽企業とIT企業の2面性があってこそですね。

山内:最近では、ハッカソン以外にも、自社エンジニアの成果の発表とか、他社さんとの交流としてLT(ライトニングトーク)会やハンズオン(体験型)イベントも企画しています。去年は18回実施しました。参加者は総勢400人くらい。申し込みはその3倍以上ありました。

――1年で18回というと、月1~2回以上ですよね。

山内:3週連続開催など、イベントを連発していた時期がありました(笑)。レコチョク・ラボのミッションの一つとして、ITブランディングというのがあります。レコチョクがIT企業でもあるという一面を世間にPRできればと考えています。

――レコチョクとしてのブランディング活動の一環でしょうか。

山内:その一面もありますが、エンジニア一人一人がインタビューやイベントでの実績を重ねたり、テックブログ(https://techblog.recochoku.jp/)でも情報発信しているので、そういったことで、よりIT企業としての一面も出していければと考えています。



Interview by Takuto Ueda / Photo by Yuma Totsuka

関連キーワード

TAG