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FM COCOLO『J-POP レジェンドフォーラム』7月はサザンオールスターズを特集!初代エンジニア猪俣彰三をゲストに迎えた番組トークvol.1を公開



J-POP レジェンドフォーラム

FM COCOLOで毎週月曜日21:00~22:00に放送されている、音楽評論家「田家秀樹」が案内人を務める『J-POP レジェンドフォーラム』。伝説のアーティスト、伝説のアルバム、伝説のライブ、そして伝説のムーブメント。一つのアーティストを1ヶ月にわたって特集する番組で、2018年7月の特集はデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズだ。歴代のレコーディング・エンジニアをゲストに迎え、これまでのオリジナル・アルバムを5週間に渡って辿っていく。第1回目の放送では、1stアルバム『熱い胸さわぎ』から4thアルバム『ステレオ太陽族』のレコーディングを担当した猪俣彰三が、自身の手掛けたアルバムの中からそれぞれ好きな曲をピックアップ。当時のレコーディング事情や制作秘話などが語られた。

「別れ話は最後に」を聴いて、コンポーズ能力にびっくりした

田家秀樹:猪俣さんは1stアルバム『熱い胸さわぎ』から4thアルバム『ステレオ太陽族』まで担当されました。栄光の初代担当ですね。

猪俣彰三:いや、栄光かどうかはその当時は何も考えてなかったですけど(笑)。

田家:考えてなかったでしょうね(笑)。

猪俣:サザンが、初めて自分が持ったアーティストだったんです。だから、自分のレコーディングエンジニアキャリアもサザンのデビュー日、6月25日で40年。

田家:おお。1953年の生まれで、当時は25歳?

猪俣:ですね。ビクターに入ったのが21、22の頃。

田家:それはアシスタント?

猪俣:そうです。<Invitation>の前身にあたる<FLYING DOG>っていうロック専門のレーベルができて、そこでずっとアシスタントをやっていました。その時に「今度デビューする青学のバンドがあるんだけど、デモテープ録ってくれないか」って言われて。デモテープを録ることはエンジニアにとってステップアップというか登竜門で、初めてメインの卓に自分が座って、「別れ話は最後に」「茅ヶ崎に背を向けて」「女呼んでブギ」を録りました。

――♪「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」



▲サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」

田家:20年前の1998年、20周年の時に『海のYeah!!』というベストアルバムが出ましたが、今回はYeahにOhが付きまして、『海のOh, Yeah!!』になります。「海のオヤー」。「生きてるのはしんどいね」ってこんなことも歌うようになった40周年ですね。この曲はどう思われました?

猪俣:完璧なバランスだなあと思って聴いてました。今はハードディスクレコーディングの時代なので、もう何でもできちゃうんですよ。デビューアルバムはアナログ16chのテープレコーダーで、ある程度トラック数に制約があったんですけど、今はもう無尽蔵にトラックがあるので、逆に大変かもしれないですよね。

田家:そんな中で、完璧なバランスの一曲になってると。

猪俣:はい。

――♪「勝手にシンドバット」

猪俣:この曲は僕のエンジニアとしてのデビュー曲です。当時ビクターの録音部で、3か月に1回所属しているエンジニアが集まって、その当時ヒットしていた音の傾向とかそういうものを全員で聞いてどうのこうのって時間があって。

田家:合評会みたいな。

猪俣:そうそう。その司会やってるのも当然ビクターのエンジニアなんですけど、「次は今週の〇位!ビクター音楽産業・サザンオールスターズ『勝手にシンドバッド』エンジニア・猪俣彰三です!」とか言って、周りの先輩達が「うぇーい!」「ふーふー!」みたいな。それでスタジオのスピーカーフルボリュームで曲が始まるんですよ。その時に思ったのが、レコードやCDって、誰がやろうが同じ価値じゃないですか。裏に『このレコードは新人のエンジニアがやったから音があんまり良くありません』もしくは『500円で売ってるの350円で売ります』っていうのがあったらまだ気が楽だなって思ってました。

田家:やっぱりプレッシャーっていうのは当然あるわけでしょ?

猪俣:ありますあります。それが逆に「次こそは」「ステップアップしなきゃ」って風に気持ちに変わりますからね。

田家:デモを初めて聴かれたときにはどう思いましたか?

猪俣:まず「別れ話は最後に」聴いて、こんなおしゃれな曲を大学生が作れるんだっていうコンポーズ能力にびっくりしました。あとは振り幅の広さ。ああいうおしゃれな曲もあれば、この「勝手にシンドバッド」もあるし、「女呼んでブギ」みたいなのもあるし。「何この振り幅の広さ!」みたいなのは感じました。それは今の桑田君も変わらないです。

田家:「勝手にシンドバッド」を録った時には、デビューシングルということで録ったわけではないんですか?

猪俣:そうではなかったと思います。ただ決まってからは、斉藤ノヴさんにパーカッションをプロデュースというか、アレンジとまではいかないんですけど、してもらいました。イントロにタムのフィルが入ってたんですけど、「こんなん取っちゃいなよ。ラララでいっちゃったらカッコイイじゃん」って。実際ノヴさんは「俺は絶対プレイしない」って一切プレイはしなかったんですけど、毛ガニ(Perc.野沢秀行)は「ええ、俺の出番なくなっちゃう」ってビビってましたね。

田家:サザンオールスターズの公式のデータブック『地球音楽ライブラリー』っていうのがありまして、評論家の佐伯明さんがデビューアルバムのこと書いていたんですが、毛ガニさんのコメントを引用していて、みんなアナログ16chの機材に興奮して、レコーディング始まったら「俺の楽器をもっとあげろ!」ってバランスが取れなくなっちゃったって話がありましたけど。

猪俣:当時はまだコンピューターを使ってミキシングするってところまで行ってなくて、マニュアルでミックスするんですね。ベーシックなミキシングは自分でやって、7、8割できたところでメンバーに聞いてもらって、どう?って。ドラムはドラムのことしか聞いてないし、パーカッションはパーカッションのことしか聞いてないから、「いのさん、あそこだけもうちょい上げてください」とか「もうちょっとリバーブ深くしてください」とか色々言ってきて、一つ一つ自分の中で咀嚼してバランス取り直してるんですけど、やっぱだんだん最初に録ったベーシックが崩れてきて。「ダメだもう一回」って言ってフェーダー全部下げて全部やり直すみたいな。

田家:やっぱり売れるかどうかわからないって感じでした?

猪俣:うーん。この後出てくるエンジニアさんもそうだと思うんですけど、売れる売れないってあまり関係ないっていうか、それは売る専門の人たち、宣伝の人とか営業の人に頑張ってもらって、僕らは良いものを作ろうと。これが売れるか売れないかって考えたことは一回もないです。

田家:サザンの第一印象としては、振り幅が色々あるなと。バンドとしては、ホーンが入ったりパーカッションが入ったり、特にパーカッションがメンバーに入ってるバンドなんてなかったでしょ?

猪俣:はい。あと、高垣さん(サザンの初代ディレクター)に最初録る時言われてたのは、「サザンはロックだからだよ」って。自分も正直ロックってよくわからないでやってた部分があるんですけど、エンジニアってドラムの音が大好きなんです。ドラムの音が良い音で録れると、だいたいその曲良い曲って言うんです(笑)。だから今聴くと、ドラムもうちょっと押さえたらって思いますけど、実はビクターのアーカイブが、当時のアナログマルチもデジタルマルチもすべてHDDにアーカイブに録られてるらしくて。以前、現在サザン担当のエンジニア中山君に、もう一回リミックスしたらどうですか?って言われたんですけど、でも、あのバランスに絶対ならないと思います。自分で録っときながら。

田家:「勝手シンドバッド」『熱い胸さわぎ』の時は、これでなくてはいけない何かがあったんでしょうね。

猪俣:勢いが全然違うんですよ。パワーが。

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「恋はお熱く」の波の音は、葉山一色海岸にわざわざ録りに行きました

田家:ピアノとベースとドラムとコーラス……まさにバンドの骨格ですが、これを選ばれたのは?

猪俣:これ初めて聴いた時、「涙砂にうずめて今年も夏にお別れ」って、その1フレーズが凄く沁みちゃって。

田家:これは言葉のほうだった。

猪俣:小学生の時って、8月31日で夏休み終わるじゃないですか。9月1日から新学期が始まる。8月31日になると、今年も夏終わったなって感覚があって、この詩を見たらそれを思い出して。

田家:これこそサザンって一曲ですもんね。

猪俣:海の歌いっぱいありますけど、この曲はどイントロに波の音が入ってるんですよね。だいたいSEを入れてっていうのは桑田君のアイディアだったと思うんですけど、これは僕らから「波の音入れようよ」って言った記憶があります。ビクターのSEのアーカイブの中から色々チョイスしてもってきたんだけど、いまいちだなあってなって、葉山の一色海岸ってところにわざわざ録りに行きました。

――♪「いとしのエリー」

田家:1979年3月25日発売、3枚目のシングル「いとしのエリー」。アルバムは1979年4月25日に出た2枚目のアルバム『10ナンバーズ・からっと』ですね。「お願いD.J.」から「いとしのエリー」まで10曲入ってました。これはお聞きになってどう思いました?

猪俣:レコーディングがずっと続いている時、3枚目のシングルどうするかって上の事情の話があって、「思い過ごしも恋のうち」っていう16ビートのラテンサウンドをもう一回推すか、こんなきれいなバラードができたんだからこっち推すかって、二班に別れたんです。僕も誰かから『いのどっちが好き?』って訊かれて、自分的にはサウンドもいい感じに録れてるからエリーが良いって言った覚えがあります。

田家:「勝手にシンドバッド」の後にいわゆるコミックバンド的な扱いをメディアにされてたのは、どうご覧になってました? 「サザンはそうじゃないのになあ」みたいな?

猪俣:それも僕らレコーディングの現場的には面白がってましたね。出方がジョギングパンツはいて、ベスト10だかで新宿LOFTから中継するとか。後輩呼んでサクラに使ったりだとか。そういう仕掛け方は面白えって見てました。

田家:テレビ局からレコーディングのスタジオに疲れて来るみたいなのもありましたか?

猪俣:ありましたね。

田家:『10ナンバーズ・からっと』は、薗田憲一さんとかディキシー・キングとか、ちょっと大人のジャズ系のミュージシャンも入ったりしていましたが、楽しかったですか?

猪俣:楽しかった。ディキシーランドって、やっぱりウキウキするじゃないですか。クラリネットにトランペットにトロンボーンにバンジョーと……こういうことも桑田君は楽しんでやりたいんだなって。全部バンドバンド、ロックロックっていうよりは、ちょっと大衆性というかポップスのノリみたいな。(僕も)すごく楽しかったです。

田家:サザンオールスターズとして桑田佳祐さんの持ってるキャパシティであるとか、野心であるとか、実験欲であるとか、いろんなものがあるでしょ。そんなものがこんなに大きくなるある種の全体像みたいなのはいつ見えてきました?

猪俣:路線的なものは僕らはそんなに意識してなくて。今度はこの曲、今度はこの曲とか、そのサウンドに合うかどうかっていうのをディスカッションしながら進めてたので、戦略的に「今度はこれで来たのか!」みたいな感覚はあんまりなかったですね。

――♪「Let It Boogie」

田家:これを選ばれたのは?

猪俣:この曲も聴いていただけるとわかるんですけど、コーラスワークスが非常に複雑なんですよ。何種類ものコーラスが入っていて。このアルバム『10ナンバーズ・からっと』からアナログ24chに変わったのに、それでも足りなかった。女性のコーラスがやんややんややってる後ろで、男性コーラスがAhーとかUhーとか、桑田君もダブルトラッキングでやってたり、桑田君のサービス精神がもう爆発している曲。これと同じように「いなせなロコモーション」もサービス精神旺盛で。どうやってミックスしたか覚えてないんですよ。この頃まだコンピューターなかったけど、これだけのボイス数をアナログ24でミックスしたんだよって、エンジニア学校の教材として使わせてもらったら、学生たちはびっくりしてました。自分的にも結構なかなか良いバランスしてんじゃんって(笑)。

――♪「ふたりだけのパーティ ~ Tiny Bubbles」

田家:(3rdアルバム『タイニイ・バブルス』の)一曲目には、前半と後半が違う楽曲が入ってました。前半が「ふたりだけのパーティ」、後半が「Tiny Bubbles (type-1)」です。

猪俣:これはバンドとしてもちょうど良い具合に熟成してきた頃で、このレコーディングも色々楽しいこといっぱいありましたね。

田家:これは『10ナンバーズ・からっと』が出た後に、半年間の充電期間、曲作りとレコーディングに専念したいんだって始まったレコーディング(で出来た作品)でしょ?

猪俣:一応テレビとか出ないよって、休養しますって。実際、休養は一切してなくて、毎日レコーディングやってました。その頃から、曲の作り方とかレコーディングの仕方とか今でも変わってないと思うんですけど、この曲シングルでレコーディングするよとか、この曲はアルバム曲でレコーディングするよとかって分けないで、出来たらどんどんレコーディングしていっちゃう。出来上がったところで振り分けていく。これはシングルにしようか、これはアルバムにしようかって。【FIVE ROCK SHOW】も誰が言い出したか忘れましたけど、5か月連続でレコーディングしようかって。とにかくレコーディング漬けの日々でしたね。

田家:1980年2月から【FIVE ROCK SHOW】で5か月連続リリース、3月にはアルバム『タイニイバブルス』が発売。つまり、レコーディングは一緒にやってたってことですよね。

猪俣:そうです、ほぼ一緒です。誰がどこに持ってくかとか一切なく、とにかくできたらすぐレコーディングみたいな。逆を言えばすごい楽しかった日々でしたね。それだけやってたら辛いでしょうって言ってもらえることもあったんですけど、それは一切なくて。レコーディングそのものの辛さっていうのはそんなになかったんじゃないかな。

田家:レコーディングに専念できない辛さの方がデビュー当時多かったってことなんでしょうね。猪俣さんはそういう彼らと一緒にスタジオ入ってるのが楽しかった?

猪俣:楽しかったですね。やっとこのレコーディング三昧の頃に信頼関係ができたというか。レコーディングって結構緻密な作業じゃないですか。こういったらすぐレスポンスが返ってくる、桑田君がそういうのを求めていた時期なのかなって。

田家:その試行錯誤が何度も何度も重なるとか、昨日録ったものを「やっぱりやり直そうよ」みたいなことの連続だった?

猪俣:しょっちゅうでした。

田家:一番そういうところにこだわっていたのは?

猪俣:こだわりはその都度、曲によって違っていたと思うんですけど、まだアナログ時代なので、やれることの制限があったりするんですね。今は中山君(現在のレコーディングエンジニア)ももっと苦労していると思うんですけど、なんでもできちゃうし、桑田君もなんでもできることを知っちゃったから(笑)「こんな風にならないかな?」っていうと、「こんなこともできますよ」「おー、こんなのできるんだ」っていうのがたぶん今の桑田君。

田家:このアルバムは「私はピアノ」も入ってますし、「松田の子守唄」も入ってますし、他のメンバーが他の出方をするっていう初めてのアルバムですよね。

猪俣:全員が歌えるっていうこともあってそうなりました。毛ガニも【FIVE ROCK SHOW】の中でソロとったのも唯一この時だけなんじゃないかって。

――♪「涙のアベニュー」

田家:この曲を選ばれたのは嬉しいです。

猪俣:良い曲ですよね。僕、基本的に三連のバラードとか、メジャーコードのバラードとか、結構好きなんで。実はこの曲、高垣さんのフェイバリットサザンらしいんですよ。【FIVE ROCK SHOW】の一作目にこれを選んでる。 

田家:【FIVE ROCK SHOW】の一作目がこの曲なのはそういう理由ですか?

猪俣:そうかもしれないですね。

田家:こういうサザンを聴かせたいんだみたいな?

猪俣:さっきの振り幅の話になりますけど、桑田君って「TSUNAMI」みたいなきれいなバラードもできますし、16ビートもやるし、歌謡曲っぽいのもやるし。その中でバラードは特に秀逸なアプローチになるんじゃないかなと。

――♪「Big Star Blues」

田家:『タイニイ・バブルス』の1年5か月後に出た4枚目のアルバム『ステレオ太陽族』。『タイニイ・バブルス』は【FIVE ROCK SHOW】の最中に出てるわけでしょ。『ステレオ太陽族』のレコーディングは、それまでと違うものはありました?

猪俣:実はこの辺から「ノイズゲート」っていう被りがほとんどない技術が使えるようになって。たとえば、今まではトラックシートに「スネア」って書いてあっても、ソロにしてみるとこのトラックはスネアが一番大きく録音されてますよっていう意味だった。その「ノイズゲート」ができたことによって、スネアがパンッといった時だけ、パッ、ダンッて切れるようになった。それを駆使したアルバムではあります。だからドラムの音とか他のものに比べるとタイトだったりして。あと聴いてくださった方はわかると思うんですけど、コーラスがサザンの人入ってないんですよ。「EVE」っていう沖縄の三人姉妹、すごいファンキーなアメリカナイズされたコーラスグループがやって来ます。誰がどうやって連れてきたかは知らないんですけど(笑)。

田家:このアルバムの前に『モーニング・ムーンは粗雑に』って映画があったでしょう? その影響ってあったんですかね?

猪俣:この『ステレオ太陽族』に入ってた曲ほとんどエンディングとかに使われてて、映画の撮影も同時進行みたいな感じで進んでた時だったんで。

田家:『ステレオ太陽族』は原さんの印象が強い気がしたんです。このアルバムが出る前に、『はらゆうこが語るひととき』っていうソロも出てるでしょう。

猪俣:それも僕がやったんですけど、原さんは割と男勝りというか、ピアノのタッチとかものすごく強いんです。すっごいプレイを随所で魅せてくれて。声も、今の原さんっていうと鎌倉物語のイメージ、ふんわかでダブルトラッキングで、原さんの世界観を作ってらっしゃるじゃないですか。当時は凄い野太い艶っぽい声で、僕的にはすごく好きだったんです。原さんは結構バンドを音楽的な面で、もちろん桑田君を支えつつ引っ張ってるという感じがとてもしましたね。

田家:『タイニイ・バブルス』と【FIVE ROCK SHOW】で、ある種の区切りみたいなものはあったんですかね?ここまで出来たという達成感と、ここからまた次に行くみたいな。

猪俣:その辺の心の変化みたいなのは正直現場で外に出す人たちじゃないんで、僕らがそれを感知して、今こんな状態だからこうしましょうとかは、あまり考えてなかったかもしれないですね。

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「Hello My Love」、この曲はちょっと隠れた名曲

田家:ビクターに入られたのは音楽やりたいから?

猪俣:兄の影響なんですよね。僕がまだ小学生の時に、兄が高校生で中古のステレオ買ってきたんですよ。そこでナット・キング・コールだとかシナトラだとかを聴いていて、僕らはまだ子供でしたから、少年マガジンとか読みながら聴くとはなしに聴いていて。小学校卒業するか中学に入るくらいの時に、ビートルズがどーんと来て。みんな「ビートルズかっこいいね!」ってだーって行っちゃって、僕もかっこいいなと思いながらちょっと出遅れちゃったんです。ムーブメントに乗れず、何がビートルズだよって心の中で(笑)。羨ましさもあったんですけど。で、何に行っちゃったというと、加山雄三さんに行っちゃった。加山雄三さんというよりも、弾厚作さん。メジャーなきれいなメロディで、割ととっつきやすかったから。そっちいっちゃったもんだから、こうなっちゃった。

田家:そういう意味では桑田さんとは合ってるかもしれませんね。

猪俣:かもしれないですね。後々考えると。

田家:じゃあ茅ケ崎モノは加山さんを経由して、俺の世界だ!みたいに思われてるという(笑)

猪俣:ふふふ(笑)。だから、さっきの「恋はお熱く」みたいなの聴くと、わーって思いますよね。

田家:担当されたのは最後は何になるんですか?

猪俣:「チャコの海岸物語」ですね。

田家:「チャコの海岸物語」の時は、これで最後だみたいなのってありました?

猪俣:その81,82年の時から、「僕ビクターやめる」って公言してて。高垣さんにも桑田君にも相談して。そしたら高垣さんが「そういうことなら後釜探さなきゃ」って、池村君をヘッドハンティングしてきた。

田家:これは来週の話ですね。

猪俣:次週お楽しみにって感じですね。

――♪「Hello My Love」

田家:この曲も思い出が色々とあると。

猪俣:今回このお話をいただいた時に、40年前の話なんで、ほとんど記憶の彼方に飛んでいたものを呼び起こそうと、自分の携わったCD、レコード全部聴き直して。この曲はちょっと隠れた名曲で、よく聴いてみるとすごいいい曲でいい音で。八木(正生)さんのアレンジもすごく楽しくて。原坊の間奏のピアノも素晴らしくて。こんないい曲あったのねって再発見した。この曲に特に思い入れがあったわけじゃなくて、たまたま聴いてみたらすげーいい曲じゃんこれって思って、リクエストさせていただきました。

田家:そういう聴き方も今、いいですね。

猪俣:聴かないこともないですけど、たとえばこういう40周年とかで特集組まれたりしないと、改めて自分の携わったものを聴く機会ってそんなにないんです。ですので、今回このお話いただけてありがたかったです。華やかな世界観がすごい好きで。

田家:大人っぽい世界観が、今のほうがピンとくるかもしれないですね。1979年の「勝手にシンドバッド」から、1982年の「チャコの海岸物語」までを猪俣さんが手掛けられました。サザンオールスターズにとって、この時期とはどういう時期だったんでしょう?

猪俣:どうなんでしょう。やっぱりパワーだけで乗り切れてた時代――自分が携わったものを続けて聞いてみて、いろんな要素がちりばめられているとはいえ、根底に流れてるスピリットは変わらないだろうなって感じはしましたね。何度も言いますけど、そんなに意識してレコーディングの現場にいるわけではないので、すごく自然体というか、桑田君との信頼関係のなせる業なんじゃないかなとは思いますけど。

田家:いろんな要素がつまっているという意味で言うと、原石のような時期なんでしょうね。

猪俣:そうかもしれないですね。桑田君はとにかくサービス精神旺盛な、サービス業の塊みたいなやつですから。もちろん自分も楽しみつつ、人を楽しませる。たぶん「Let It Boogie」とか「いなせなロコモーション」とか、桑田君もやってて楽しかったんじゃないかなと思いますね。

田家:人にサービスしてるというよりも、自分が楽しもう楽しもうって入り込んでいくと、そうなっちゃうっていう。

猪俣:そこを突き詰めちゃうと自己満足的な部分が出てきちゃったりするから、そこの辺も上手いことバランスとってるんじゃないかなって思います。

田家:桑田さんはよく「洋楽のロックを日本の大衆音楽のところに引き下げた、わかりやすくした」って言い方がありますけど、当時からそのような意識はあったんでしょうか?

猪俣:あそこまで“桑田語”が連発して、男なのか女なのかわからないのに、心にズキンとくるフレーズがきたりするのって、すごいんじゃないんですか彼の頭の中。全部の音が鳴ってるんですよ。たとえば曲が出来た時点で、「ここは原坊のハーモニーにしよ」「ここは弘にハモってもらおう」「ここは自分でダブってみよ」とか含めて、全部頭の中で鳴ってるんだと思うんですよ。それを具現化するミュージシャンがいて、それをまとめるエンジニアがいてって感覚なんじゃないですかね。

田家:この後もエンジニアの方に登場していただくんですが、サザンオールスターズを担当したエンジニアの人たちに流れてるものって何かあると思いますか?

猪俣:どうだろう(笑)。基本的にこういう公の場に出たがらない人間だと思うんで。

田家:来週も引っ張り出そうと思います(笑)


サザンオールスターズ「海のOh, Yeah!!」

海のOh, Yeah!!

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がらくたライブ
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がらくたライブ
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