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スウィング・アウト・シスター 『オールモスト・パスウェイディッド』リリース記念インタビュー



インタビュー

 6月27日にファン待望となる10年ぶり10作目のオリジナルアルバム『オールモスト・パスウェイディッド』をリリースし、10月に来日公演を行うスウィング・アウト・シスターのコリーン・ドリューリーのインタビューが到着した。約3年の制作期間を経て完成したアルバムについて、そして4年ぶりとなる来日公演について語ってもらった。

TOP Photo:James Martin

最初はビッグ・バンドのアルバムを作っていたの

――まず始めに、(今作の)MISOレーベルというのが気になっています。これは、スウィング・アウト・シスターが設立した自己レーベルですか? そして、MISOとは味噌のこと? もし、そうであれば、なぜこのネーミングにしたのかも教えてください。

コリーン・ドリューリー:そうなの。私たち日本でとてもよく受け容れてもらっているし、お味噌汁も何杯も飲んだから、日本に敬意を表すにはぴったりだと思ったのよ!

――今回の新作、トピックのひとつが“プレッジ・ミュージック”を利用したこと。なぜ、クラウドファンディングでアルバムを制作しようと思ったのか。

コリーン:友人にいいんじゃないかって勧められたの。今イギリスではメジャー・レーベルのA&R部門がついている訳じゃないから、オーディエンスに直接向かうのがいいアイデアだと思ったのよ。

――しかも資金調達だけではなく、曲作りの様子、レコーディング風景の映像をオンラインで公開しながらのアルバム制作。これは、プレッジ・ミュージック側との約束? それともご自身達が考えられて、映像を公開していったのか。 もし、自分達で考えた、ということであれば、どうしてそうしたのか、理由も教えてください。

コリーン:プレッジは最初困惑していたわ。私たちみたいに、アルバムの制作プロセスを最初から最後まで、定期的なアップデートで本格的にシェアした人は今まで誰もいなかったから。バンドは通常グッズや記念品を売ったり、委託されたパフォーマンスをアップしたりするけど、私たちは単にアップデートを投稿したり、出来上がったアルバムを載せただけだったの。

――さらに資料によると、「洞察に富んでいるフィードバックを得られたことも興味深いことだった」とあるけれど、制作過程で、フォロワーからの意見を楽曲制作に反映させていったということですか? どこまでそれらの意見を取り入れたのでしょうか。

コリーン:このような仕事の仕方は初めてだったけど、みなさんソングライティングのプロセスを観察することを楽しんでくれたみたい。私たちが音楽を作るときはいつも心の赴くままに作るけれど、時にはとても孤独なプロセスになることもあるから、自分たちの作ったものを共有する心の準備ができたときにオーディエンスがいるというのは、(今までとは)全く違ったわ。みなさんのコメント、例えばどの曲がお気に入りかなんてことについては耳を傾けたと思うけれど、進行中の作業を定期的に投稿することをデッドラインみたいに利用もしたから、完成させなくちゃっていうプレッシャーは多少あったわ!実は、アルバムのレコーディングには(今までより)時間がかかったの。アップデート用にショート・フィルムを作ったから…でもそれがアルバムのメイキングをむしろパフォーマンスに近い形にしてくれたから、オーディエンスはこの行程の一部を担うことを楽しんでくれたと思うわ。

――実際にプレッジ・ミュージックを利用して、良かった点、いい経験になった点などを教えてもらえますか。次の作品でもプレッジ・ミュージックを利用しますか。

コリーン:ええ、ぜひまたプレッジ・キャンペーンをやってみたいわ。人々と繋がって感想を聞けるのは素晴らしいことだもの。「すぐそこのお店」(corner shop)があるのと少し似ているわね。みんな気軽に立ち寄って、ちょっとおしゃべりしたり、気に入ったものを買ったり…。

――さて、アルバムのクリエイティヴ面についておうかがいします。約3年前に制作を始めた段階であった、原点のアイディアを教えてもらえますか? それは、どのようにして生まれたアイディアでしたか?

コリーン:難しい質問ね…プレッジに初めて投稿したときも、「今あるものを作っています。それが何かは分かりません」って書いたの。最初はビッグ・バンドのアルバムを作っていたの。そのうちそれを他のものとミックスするようになって…そうしたら全く新しい曲へと発展していったのよ。予め考えたアイデアがあると、制約をたくさん設定しすぎてしまうこともあるわ。私たちはただ成り行きに任せて、どこへ行くか様子を見たの。音楽はみんな自分たちの周りにあるから、とにかく耳を傾けるだけだったわ。

――ソングライティングのインスピレーションについて教えてください。歌詞を見ると、愛について歌っていても、いろいろな解釈が出来る歌だと思います。政治、社会など激しく変化する時代の影響を受けたりしていますか?

コリーン:あからさまに書かなくても、私たちはみんな身の周りの出来事に影響を受けているのは明らかよね。このアルバムを作っている間も、世の中ではとても悲しく想像に絶する出来事が起こっていたわ…でも私たちはいつもそれらを乗り越えて、ポジティヴなメンを活かすようにしているの。音楽は、どんなアートもそうだけれど、タペストリーのようなもの。様々な影響やインスピレーションを自分たちが作っているものに織り込むのよ。だからレベルも様々。曲はいつも見かけ通りの内容ではないし、それぞれのリスナーが違う形で解釈すればいいのよ。思考というものが、一旦口にしたら変化するようにね…いつも言い表せるものとは限らないわ。

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新曲のライヴ・バージョンを作るのは楽しかったわ

――アルバムのタイトルにもなった『オールモスト・パスウェイディッド』は、どのように生まれた曲なのか。ビハインド・ストーリーについて教えてください。また、なぜこの曲をタイトルにしたのでしょうか。

コリーン:アンディの曲はできていたけれど、私は歌うのに適切な言葉やメロディを見いだすのに本当に苦労したわ。…これがうまくいくことなんてないんじゃないかって思いながら何度も繰り返し試行錯誤を続けていたの。時にはそういう曲があるのよね。完成されたくないんじゃないかって思うくらい、じらされ悩まされるのよ。1行目はずっと前からあったの。「心の外の世界は 時には非情で 時には寛大 (The world outside my mind is sometimes cruel, and sometimes kind)」…今振り返ると、隔絶された状態についての曲が多いわね。…時間の経過、そして身の周りで起こっている変化。…そんな中で地に足をつけているには、音楽やアートや文学が必要だと思うの。私たちが集中できて、この猛烈な勢いで変化していく世の中で、静止状態を作ってくれるようなもの。私たちが日本が大好きなのもそれが理由だと思うわ。人生のカオスの中で平穏を見いだす場所があるから。タイトルの由来は確信できないけれど、恐らく、曲が完成したって自分たちを説得する(persuade)する必要があったことと関係あるんじゃないかしら。アルバムのメイキング過程にあまりに惚れ込んでしまっていたから、終わらせたくなかったような気がするの。その過程に溺れてしまったような感じね。最後に書いた曲だったから、アルバムのタイトルにぴったりに感じられたのよ。

――プレスリリースにある言葉で興味を持ったのが、「ジェルサンド・ジョルジオのビデオが探索してくれた景色と、その映像の世界が、曲の形ができてくるにつれて音楽と一体化した様子」というところです。これをもう少し具体的にどういうことなのか、説明してください。

コリーン:ジェルサンドは私たちの曲にぴったりのビジュアルを伴わせてくれるの。彼女には、耳にしたものが見えるみたい。プレッジのサイトに新しい曲をシェアするたびに、ショート・フィルムを作るのが大好きだったわ。MTVの出現に始まって、今はYouTubeやインターネットがあるけれど、最近みなさんビジュアル的にも音的にも楽しみたいと思っているみたいだし、こういうショート・フィルムを撮りに行くのにもっともな理由があるというのは、私たちの音楽に新たな側面を与える素晴らしい方法なのよ。

――今回制作に3年もかかっています。一番時間がかかったポイント、苦労したポイントなどを聞かせてください。

コリーン:何でも時間がかかるものよ…それぞれの形でね。考えるのにすごく時間をかけてもあっという間に出来上がるものもあるし、作るのにすごく時間がかかるのに全然完成しなくて…それでも新しいものに導いてくれるものもあるわ。心って複雑な場所なのよ。…その中で迷ってしまうことは素晴らしいものよ。出口さえ見いだすことができればね。一番難しいのは、どの時点でその曲が完成したか、そしてどの時点でアルバムが完成したかを見極めること。ここで現在形(「難しかった」ではなく「難しい」)を使っていることに注意してね。音楽は人生と同じで、終わってしまうまでは完成しないものなのよ。

――アレンジにおいて、華やかになりがちなストリングスや、爽やかになりがちなフルートなどを使いながら、ビターなサウンドになっているところに興味を持ちました。今回アレンジにおいて、どんな方向性を設定されていたのでしょうか。

コリーン:「ほろ苦い」(bittersweet、日本語の質問文は「ビター」)と説明するのがパーフェクトね。私たちは常に音楽と歌詞に矛盾を作っているの。興味深いものって、ちょっとした摩擦がある時に生まれるような気がするから。バラードを書いたら、さりげなくヒップホップのフィーリングを足すこともあるでしょうね。あるいは、アップビートな曲を書くとき、そこに悲しみの要素があるかも知れない。アレンジに関してはもう少し控えめにしたけれど…それでも、カウンター・メロディやもう1つ音を重ねずには要られないわ。曲を書くというのは、内容に含めたものと同じくらい、入れなかったものも大切なの。アンディが「好きなものを葬り去れ(Kill your darlings)」という、作家のウィリアム・フォークナーの言葉をよく引用するのよ。他のものが輝くスペースを残しておくために、愛するものをいくつか手放さなくてはならないって。

――日本盤ボーナストラックとして「Never Let Me Go」が特別収録されておりますが、こちらはどんな曲でしょうか?

コリーン:日本のシンガー/女優の花澤香菜に曲を書くようにと依頼されたの。カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで (Never Let Me Go)』のタイトルを使うことに決めたのよ。その本の中に架空の歌が出てくることと関係しているわ。香菜は日本語で歌ったから、英語の歌詞は聞かれずじまいだったの。私たちは、この曲をアルバムに合うように違った音楽スタイルでやってみようと決めたのよ。これがその結果よ…。

――完成したアルバムについて、ご自身の思いを聞かせてくれますか? こんなところを聴いてもらいたい、といったことでもいいです。

コリーン:勿論、ぜひ全体を聴いてほしいわ!私たちはアルバムを作るとき、最初から最後まで聴いてもらえるように、全体をひとつの旅のように書くのよ。アナログ盤でもリリースするから、私たちが初めて音楽を聴いたときと同じように聴いてもらえるわ。レコードに針を落とした瞬間から、すべてがストップしなければならなかった時代…。

――最後に10月の来日公演について教えてください。どんな構成のライヴになりそうですか?

コリーン:それは来てもらう説得材料になりそうね!勿論新作からの曲、そして昔からのお気に入りの曲も少し演奏するつもりよ。スウィング・アウト・シスターの定番に新しいひねりを入れて…。初代のツアー・バンドからもメンバーがいるわ。ジュンロイ(・ジョンソン)とマイク・ウィルソン…マンチェスターの極上のリズム・セクションよ。カリプソ音楽家のティム・キャンスフィールドがギター、ジョディ・リンスコットがパーカッション、ジーナ・フォスターがヴォーカルを加えてくれて、それから勿論アンディと私。新曲のライヴ・バージョンを作るのは楽しかったわ。…私たちが演奏するのと同じくらい、みなさんにも楽しく聴いていただけますように!そのためにはぜひショウに来てもらわないと…。

スウィング・アウト・シスター「オールモスト・パスウェイディッド」

オールモスト・パスウェイディッド

2018/06/27 RELEASE
SICX-100 ¥ 2,640(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ドント・ギブ・ザ・ゲーム・アウェイ
  2. 02.ハッピアー・ザン・サンシャイン
  3. 03.オールモスト・パスウェイディッド
  4. 04.ウイッチ・ウロング・イズ・ライト?
  5. 05.オール・イン・ア・ハートビート 【レイト・ナイト・バージョン】
  6. 06.アンティル・トゥモロウ・フォーゲッツ
  7. 07.アイ・ウイッシュ・アイ・ニュー
  8. 08.エブリバディズ・ヒア
  9. 09.オール・イン・ア・ハートビート
  10. 10.サムシング・ディープ・イン・ユア・ハート
  11. 11.ビー・マイ・バレンタイン
  12. 12.サムシング・ディープ 【リプライズ】
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