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ジョニー・ギル 10 BEST TRACKS~ニュー・エディションも含めた名曲10選
ニュー・エディション、そしてキース・スウェットやジェラルド・リヴァートと組んだLSGのメンバーとしても活躍したR&B界屈指の実力派シンガー、ジョニー・ギルがソロとして久々の来日を果たす。キース・スウェットとの合同ライヴから7年ぶり、ソロとしては11年半ぶりとなる今回の来日公演は、〈playing “Johnny Gill” (from 1990) and other hits〉と題し、再ソロ・デビュー作となったモータウン発のアルバム(90年)からの曲を中心に披露するというもの。ブルーノ・マーズ“Finesse”をキッカケにリバイバルとなっているニュー・ジャック・スウィングの全盛期にリリースされた同アルバムは今こそ振り返りたいR&B作品のひとつであり、2018年にジョニーがビルボードライブのステージで歌うことの意義も大きいはずだ。そんなファン待望のライヴに向けて、ジョニーのキャリアを簡単に振り返りながら、ニュー・エディションも含めた90年前後の名曲を中心に10曲をピックアップしてみた。
曲後半のアドリブで吠え狂うように歌うストロング・スタイルのヴォーカル。熱唱の上をいく剛唱、猛唱。そんなジョニー・ギルの歌の虜になったリスナーは日本にも多い。1966年5月22日生まれのジョニーがデビューしたのは16歳の時に吹き込んだ『Johnny Gill』をアトランティック傍系のコティリオンからリリースした83年のことだが、48歳で発表した現時点での最新アルバム『Game Changer』(2014年)における歌声を聴いてもデビュー時の印象とあまり変わらない。つまりデビュー時のジョニーはそれだけ老成したシンガーだったわけで、現在からすれば衰え知らずのシンガーということになる。過去の来日公演ではルーサー・ヴァンドロスの名曲をメドレーで披露したり、時にテディ・ペンダーグラスの曲を歌うこともある(2000年の映画サントラ『The Ladies Man』ではテディの“Close The Door”のカヴァーを披露していた)ジョニーは、まさしくテディやルーサーの系譜を継ぐスケールの大きい野性的にしてジェントルなバリトン・ヴォイスでR&Bを歌い続けてきたのだ。
ハイティーンの時期にコティリオンからリリースしたアルバムは3枚。83年のデビュー作『Johnny Gill』はジャクソン5やシルヴァーズなどのキッズ・ソウル仕事も得意としたフレディ・ペレンがプロデュースするも、ジョニーはサム&デイヴのバラード“When Something Is Wrong With My Baby”を堂々と歌い上げるなど成熟した歌声を聴かせていた。5歳の頃からファミリー・ゴスペル・グループ、ウィングス・オブ・フェイスのリードで歌っていた彼のヴォーカルは10代半ばにして完成されていたのだ。ソロ・アルバムとしてはもう一枚、85年にリンダ・クリードらの制作による『Chemistry』を出しているが、その間の84年には地元ワシントンDCの幼馴染であるステイシー・ラティソウとの共演アルバム『Perfect Combination』を発表。アルバム表題曲がR&Bチャート10位に輝いているが、そもそもジョニーがコティリオンからデビューすることになったのも、ステイシーと一緒に録ったデモが当時レーベルのトップだったヘンリー・アレンに渡ったことがキッカケだった。
80年代後半になるとジョニーは、既に全米のアイドルとなっていたボーイ・バンドのニュー・エディション(NE)に加入。結果的にソロ活動を始めていたボビー・ブラウンの穴を埋める形での加入となったが、実際には当初離脱予定だったラルフ・トレスヴァントの後釜として誘いを受けたとも言われている。ともあれ、NEに加入したジョニーは88年作『Heart Break』にてグループのアダルト化に一役買う。さらに、これまたステイシー・ラティソウの後を追うようにモータウンとソロ契約した彼は、ステイシーの“Where Do We Go From Here”(89年)でのデュエットを経て、90年に二度目のセルフ・タイトル作『Johnny Gill』をリリース。ここからは“My My My”を含む3曲のR&B No.1ヒットが誕生した。モータウンからはもう2枚ソロ作(93年作『Provocative』、96年作『Let’s Get The Mood Right』)を出し、NEのリユニオン(96年に『Home Again』を発表)を経て、97年からは故ジェラルド・リヴァート、キース・スウェットと組んだLSGとして2枚のアルバムをリリース。この後はLSG、およびNEとしての活動がライヴを中心に続くが、NEの2004年作『One Love』を挿んで2011年に15年ぶりのソロ作『Still Winning』を自主レーベルのJ-Skillzから発表して以降は再びソロでの稼働が増えている。
そんなジョニーがソロとして行う久々の来日公演は、〈playing “Johnny Gill” (from 1990) and other hits〉と題したショウに。ニュー・ジャック・スウィング全盛期にジャム&ルイスとLA&ベイビーフェイスが中心となって制作したモータウンからの再ソロ・デビュー作の曲を中心に歌うというもので、ブルーノ・マーズが“Finesse”(『24K Magic』)でオマージュを捧げた時代の楽曲が、ここにきて当事者のひとりによって演じられるのは興味深い。セットリストは未定だが、本特集では、NEのナンバーも含めて過去のライヴで歌われていた人気曲を中心に10曲をピックアップ。以下、簡単に紹介しておこう。
10 BEST TRACKS
New Edition(1988年)
ジョニー参加後初めてとなるニュー・エディションのアルバム『Heart Break』(88年)のサード・シングル。ジャム&ルイス作/プロデュースのスロウ・バラードで、ジョニーが歌い始め、サビに向かってラルフ・トレスヴァントがリードをとり、中盤ではリッキー・ベルも絡んでくる。雨音などのSEも交えた静かだがドラマティックな曲で、R&Bチャート1位を獲得。ボビー・ブラウンが復帰したNE再結成アルバム『Home Again』(96年)の表題曲は本曲へのセルフ・オマージュ的なナンバーだった。ボーイズIIメンが97年作『Evolution』でカヴァー。
New Edition(1988年)
ニュー・エディション『Heart Break』(88年)のクロージング・ナンバーとなったジャム&ルイス作/プロデュースのスロウ・ナンバー。表題通り“少年から大人へ”と成長する男の歌で、グループ(メンバー)の現状と重ね合わせたものだ。ジョニーが抑制をきかせたヴォーカルでメイン・リードをとり、後半では野獣のような歌声でアドリブを炸裂させる。そんな本曲のタイトルをグループ名にしたのが、NEのマイケル・ビヴンズを後見人としたボーイズIIメン。BIIMがアルバム・デビューした91年、ジョニーが歌うこの曲はシングル発売されている。
Johnny Gill(1990年)
90年にモータウンから発表した再ソロ・デビュー作『Johnny Gill』のオープニング曲にして第一弾シングル。ジャム&ルイス流のニュー・ジャック・スウィングとでも言うべきダンサブルで豪快なアップ・チューンで、襲いかかるように勇ましく吠え歌うジョニーのヴォーカルに圧倒されるしかない。R&Bチャートで1位、ポップ・チャートでも3位を記録した、ソロとしては現時点で最大のヒット・ナンバー。C.L.スムーズのラップをフィーチャーしたリミックス・ヴァージョン〈Extended Hype I〉はニュー・ジャック・スウィング濃度がさらに高い。
Johnny Gill(1990年)
ジョニーの代表曲で、90年代R&Bを代表するバラードとしても語り継がれる名曲(R&B1位/ポップ10位)。再ソロ・デビュー作からの第2弾シングルで、作者はLAリードとプロデュースを手掛けたベイビーフェイスとコ・プロデューサーのダリル・シモンズ。ケニー・Gのソプラノ・サックスをフィーチャーしてスムース・ジャズ感も漂わせながら、ジョニーはアドリブを交えつつ剛柔自在に歌う。バック・ヴォーカルにはアフター7が参加。当初はウィスパーズのために書かれるも不採用となってジョニーが歌ったのだが、後にウィスパーズも録音した。
Johnny Gill(1990年)
R&Bチャート2位を記録した、再ソロ・デビュー作からの第3弾シングル。こちらはLA&ベイビーフェイス流のニュー・ジャック・スウィングとでも言うべきダンス・ナンバーで、突進力がありながらも流れるように美しいメロディラインがいかにもベイビーフェイスらしい。バック・コーラスでジョニーと声を交えているのはキャリン・ホワイトとコ・プロデューサーのダリル・シモンズ。ラフェイス軍団が取り組んだニュー・ジャック・スウィングとしてはボビー・ブラウンの“Don’t Be Cruel”や“Every Little Step”の流れを汲む曲と言っていいだろう。
Johnny Gill(1990年)
再ソロ・デビュー作からの第4弾シングル。これも“Rub You The Right Way”と並ぶジャム&ルイス流のニュー・ジャック・スウィングだが、テンポは若干抑え気味で、ジョニーも抑制をきかせながら歌っている。ジャム&ルイス制作曲としてはラルフ・トレスヴァントの“Sensitivity”(90年)にも通じる一曲だろう。バック・ヴォーカルにはジョニー本人とテリー・ルイスに加えて、フライト・タイム一派が絡んだアルバム『Pleasure And Pain』(90年)をA&Mから発表したUKのシンガー、ランス・エリントンも参加。R&Bチャート1位を記録。
Johnny Gill(1992年)
モータウンから再ソロ・デビューした直後のジョニーはブラック・ムーヴィのサウンドトラックに立て続けに参加していた。『New Jack City』(91年)での“I’m Still Waiting”、『Mo’ Money』(92年)での“Let’s Just Run Away”、そしてラフェイス発の『Boomerang』(92年)にボーイズIIメン“End Of The Road”とともに収録されたのが、LA&ベイビーフェイスとダリル・シモンズが手掛けたこの曲だった。ジョニーの粘りのある力強いヴォーカルを活かしたスロウ・ジャムで、バック・ヴォーカルにはアフター7のメルヴィン・エドモンズらが参加している。
Johnny Gill(1993年)
モータウンからのソロ2作目『Provocative』(93年)に収録され、シングルがR&Bチャート25位をマークしたジャム&ルイス制作の美しいスロウ・ジャム。バック・ヴォーカルの女声はジャム&ルイスのプロデュースで“Romantic”(91年)のヒットを放ち、当時テリー・ルイス夫人だったキャリン・ホワイト。パーカッションで参加したのはジャム&ルイス主宰のパースペクティヴから登場したミント・コンディションのストークリーだ。エモーショナルに歌い込むが優しさに溢れる、“My My My”と並ぶジョニー屈指のクワイエット・ストーム名曲。
Johnny Gill(1996年)
スティーヴィ・ワンダーやロジャー・トラウトマンが客演したモータウンでのソロ第3弾アルバム『Let’s Get The Mood Right』(96年)のタイトル・ソング。ベイビーフェイスが曲を書き、キース・アンデスがプロデュースを手掛けたこれもジョニーを代表するスロウ・ジャムで、R&Bチャート17位をマークした。ベースはネイザン・イースト。バック・ヴォーカルにはベイビーフェイスとその兄でアフター7のメルヴィン・エドモンズ、当時アズ・イェットで活動していたマーク・ネルソンが参加している。フェイスらしい美しいメロディラインが光る。
Johnny Gill(2014年)
15年ぶりのソロ復帰作となった『Still Winning』(2011年)からのスロウ“In The Mood”と並んで自主レーベル=J-Skillz発の曲の中でも人気が高いのが、ニュー・エディション参加曲を含む2014年作『Game Changer』のタイトル・ソングだ。ベイビーフェイスとアントニオ・ディクソンのプロデュースで、ソングライティングにLAのジャズ鍵盤奏者ブランドン・コールマン、ゴスペラーズや三浦大知にも関わるJキューことパトリック・スミスも参加した90年代マナーのバラード。ジョニーの逞しく情熱的なヴォーカルも90年代の頃と変わっていない。
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公演情報
Johnny Gill
playing “Johnny Gill” (from 1990) and other hits
ビルボードライブ大阪:2018/5/14(月) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
ビルボードライブ東京:2018/5/16(水)-17(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
【BAND MEMBERS】
ジョニー・ギル / Johnny Gill (Vocals)
レジナルド・”ウィザード”・ジョ-ンズ / Reginald "Wizard" Jones (Keyboards)
トーマス・マーティン / Thomas Martin (Guitar)
アーロン・クレイ / Aaron Clay (Bass)
メルヴィン・”メリー”・ボルドウィン / Melvin "Melly" Baldwin (Drums)
関連リンク
- ジョニー・ギル オフィシャル・サイト
Text: 林 剛
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