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ジャック・ホワイト『ボーディング・ハウス・リーチ』発売記念特集~全米チャート3作連続首位!21世紀最初のロック・レジェンドの足跡を振り返る



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 2018年3月23日に世界同時発売となったジャック・ホワイトの約4年ぶり通算3作目となるソロ・オリジナル・アルバム『ボーディング・ハウス・リーチ』。ソロ名義でリリースした前作2作に続き、今週の全米アルバム・チャートで初登場1位を獲得した。今作はザ・ホワイト・ストライプス時代から約13年かけて完成した曲「Over and Over and Over」なども話題だが、現代ロック界の天才マルチ・アーティストとして根強い人気を誇るジャック・ホワイトについて、これまでのキャリアを振り返っていきたい。



▲Jack White - Over and Over and Over
今世紀のアメリカが生んだ最初のロック・レジェンド

 ソロ・デビュー以降、リリースした3作全てのアルバムで、全米初登場1位を獲得。2016年には、ビヨンセの傑作『レモネード』で「Don't Hurt Yourself」をプロデュース/ゲスト参加し、グラミー賞の〈最優秀ロック・パフォーマンス〉に異例のノミネート。そもそも、バンド時代まで遡って、あるいはプロデューサーとして関わった作品で、これまでに30回以上もグラミー賞にノミネートされ、12回の受賞を果たしている。その厳然たる事実と数字だけでも、アメリカの音楽シーンが彼に与えている評価の高さを物語っている。ジャック・ホワイトこそ、現在最高峰のロック・アーティストの一人であり、今世紀のアメリカが生んだ最初のロック・レジェンドである、という言い方もできるだろう。



▲Beyoncé ft Jack White - Don't Hurt Yourself ( Official Music Video ) Pre Promo


 では、なぜジャック・ホワイトなのか? 今回は改めてジャック・ホワイトのキャリアとその作品の数々を振り返るとともに、彼の音楽活動の根本にあるものを考えてみたい。

“ザ・ホワイト・ストライプス”でのデビュー

 ジャック・ホワイトの名前がここ日本を含め、世界的に知られるようになったのは、バンド=ザ・ホワイト・ストライプスのブレイクを通してであった。ザ・ホワイト・ストライプスは1997年に結成。ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトの“兄妹バンド”として当初は知られていた(後に二人は元夫婦であったことが判明する)。

 その前後を振り返ると、ジャックは地元デトロイトのいくつかのバンドで活動。最初のプロ・キャリアとなったGoober & the Peasではドラムスを担当。また1999年に地元のガレージパンク・バンド、The Goが〈サブポップ〉からリリースした『Whatcha Doin'』ではリード・ギターも担当した。一方のメグは、ジャックとバンドをはじめるまでキャリアはなく、素人だった。ギターとドラムだけの二人編成で、一人は素人。普通はうまく行きそうにない。だが、ザ・ホワイト・ストライプスでは、そのことがむしろ良い方向に作用した。メグのドラマーとしての拙さに加えて、ミニマムな楽器編成の制約は、ジャックのクリエイティビティを刺激した。ジャックが心酔するブルースやフォークといったルーツ音楽を、モダンなロック・ミュージックとして昇華する上で、大きなインスピレーションとなったのだ。

 1999年のセルフタイトル・アルバムに続き、翌年リリースした2ndアルバム『デ・ステイル』では、20世紀初頭にオランダで起きた同名の芸術運動からタイトルを拝借。また、赤・白・黒という3色のみによってアートワークを構成する、というバンドのビジュアル面でのメソッドも既に確立されている(こうした見せ方に関するセンスも一般的なロック・バンドと彼らの間に一線を画すものだった)。この時点では大きなヒットには至らなかったが、ガレージ~ブルース・ロックを基盤にしつつ、幅広いスタイルを野心的に取り入れた同作によって、気鋭のインディ・バンドとして注目を集めるようになる。また、アルバム2作目にして、既にジャックが完全セルフ・プロデュースを努めていることからも、彼らの非凡さがうかがえる。ジャックはその後、現在に至るまで、基本的にすべての作品を自身でプロデュースしている。



▲The White Stripes - Hello Operator (Music Video)


世界的なブレイク~人気絶頂の中での活動休止と解散

 3rdアルバム『ホワイト・ブラッド・セルズ』(2001年)は、バンドにとってワールドワイドなブレイク作となった。当初、前作と同じくインディ・レーベル〈Sympathy for the Record Industry〉からリリースされた同作だったが、ツアーを通してバンドが有名になっていくことを受けてメジャー・レーベル〈V2〉から再発、バンド初の全米アルバムチャートTOP200位入りも果たした(61位/2002年4月)。また、その勢いは英国にも飛び火し、名門インディ・レーベル〈XLレコーディングス〉からもリリースされた。



▲The White Stripes-Fell In Love With A Girl


 ミシェル・ゴンドリーのMVも話題となった「Fell in Love with a Girl」、ライブの定番ナンバーとなった「Hotel Yorba」など、人気ナンバーも多数収録された傑作。本作のブレイクがきっかけとなって、ザ・ホワイト・ストライプスは、同じ2001年にデビュー・アルバム『イズ・ディス・イット』をリリースしたザ・ストロークスとともに“ロックの救世主”と呼ばれ、当時にわかに盛り上がりの兆しを見せていた“ガレージ・ロック・リバイバル”の急先鋒と見なされるようになった。また、ストライプスの存在が有名になると、ジャックのギタリストとしての腕前も世間的に知られるようになり、瞬く間に“21世紀のギター・ヒーロー”としてのポジションを確立した。

 その後も勢いは留まらず、次アルバム『エレファント』(2003年)はさらなる決定打となった。リード曲の「セヴン・ネイション・アーミー」はバンド初の全米シングルチャートで週間76位を記録。本来ベース・プレイヤーのいないこのバンドにおいて、イントロからベースラインを全面的にフィーチャーした1曲ということも話題となった。同曲は翌年のグラミー賞で「ベスト・ロック・ソング」を獲得。何より、サッカー・ファンやダンス音楽(EDM)ファンにも曲が知られ、それらの現場でベースラインの大合唱が巻き起こる、というバンド史上最大のヒット曲となった。



▲The White Stripes - 'Seven Nation Army'


 『エレファント』はアルバムとしても全米3位/全英1位を記録。以降のアルバムは全て全米TOP10入りを果たすこととなる(5th『ゲット・ミー・ビハインド・サタン』は全米3位、6th『イッキー・サンプ』は全米2位)。それぞれの先行シングル「Blue Orchid」や「Icky Thump」もシングル・ヒットを記録するなど、この頃には同世代最高の人気バンドへと成長。2000年代半ば~後半は、アーケード・ファイアやスプーンなどインディ系のロック・バンドがチャート上でも躍進したが、ストライプスはその先鞭をつけた存在でもあった。だが、2007年、『イッキー・サンプ』のツアーの途中でメグの体調不良を理由に残りの日程をキャンセル。バンドは人気絶頂とも言えるタイミングで、そのまま長い活動休止に入る。その後、何度か復帰の噂もあったものの(メグが新作レコーディングに消極的な姿勢を見せ続けたこともあり)、2011年、バンドからの正式なアナウンスとして解散が伝えられた。



▲The White Stripes - Blue Orchid (live From The Basement, November 2005)


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