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ZEDD 来日インタビュー
米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”にて自身最高位をマークしたマレン・モリス&グレイとの「 ザ・ミドル 」や日本でもロングセラーとなっているアレッシア・カーラとの「ステイ」など、ここ1年間で立て続けにスマッシュ・ヒットを放っているゼッド。そんな彼が通算10度目となる来日公演【ECHO TOUR】のために1年ぶりに日本へカムバック。幕張メッセ、神戸ワールド記念ホール公演ともにソールドアウトとなり、初日にはリアム・ペインがサプライズ登場するなど、大盛況に終わった。Billboard JAPANは、ゼッドを幕張公演前日にキャッチすることに成功。音楽シーンの現況や動向を踏まえ、楽曲制作やプロデューサーとしての役割についての話を聞くことができた。
Live Photo: Masanori Naruse
僕が音楽を作るのは、自分にとって最大の趣味で、それが大好きだから
けれど、それがものすごくプレッシャーになった
――昨日、東京ディズニーランドに行ったそうですね。雨は大丈夫でしたか?
ZEDD:最高だった!寒かったけど、すごく楽しかった。雨は降ったり、止んだりって感じだったね。これまでLAのディズニーランドにしか行ったことがなくて、似たようなものだろう、って思っていたら、全然違った。LAのパークより良くて、クオリティも高かった。乗り物もすごくスムーズで、内容も充実してるし、なんとなく新しく感じた。一緒に行った仲間もすごく楽しんでて、いい時間を過ごせたよ。
They say you can’t buy happiness.... but how do you explain this?! pic.twitter.com/7hQL0oPArO
— Zedd (@Zedd) March 21, 2018
――そして、最新シングル「ザ・ミドル」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”(3月24日付)で自身最高位となる6位をマークしました。
ZEDD:え、そうなの?知らなかった!教えてくれてありがとう(笑)。
――ちなみに、曲に参加しているマレン・モリスとグレイにとっても最高位です。
ZEDD:すごい!嬉しいな~。
――とはいえ、曲に合うヴォーカリストに出会うまで随分時間がかかったそうですね。
ZEDD:度々あることで…僕は完璧なヴォーカリストが見つかるまで入念に選ぶことで知られている。今回いつもよりも時間がかかったのは、難易度の高いヴォーカルで、かなり高音だったから。この人なら大丈夫だろうと思ってレコーディングした何人かのヴォーカリストも全くその音域に達することができなかった。だからと言って曲の全体のピッチを下げるのは嫌だったから、僕が思い描いていたヴォーカルにハマる人を探し出すまでものすごく時間がかかったんだ。 「ザ・ミドル」 みたいに1曲のために、15人…もしくはもっと多くのヴォーカリストをレコーディングしたのは初めての経験だった。
▲ 「The Middle with Maren Morris and Grey」MV
――今回のように楽曲のプロダクション部分がほぼ完成していて、ヴォーカリストが決定した場合、 詞などをその人に合わせて変えたりすることはありますか?
ZEDD:もちろん。特に詞に関しては、オープンでいることを心掛けている。自分の望みもあるけれど、僕が歌うわけじゃないから、その辺のバランスはきちんととるようにしている。もしその人が歌ってみて違和感があれば、変更することに異議はない。これはアレッシア・カーラにも言ったことなんだ。「歌ってみて自分に合わない部分やしっくりこないところがあったら変えていいよ」って。面白いことに、彼女が変えた詞というのは、僕自身もそこまで気に入っていなかった部分だった。だから、僕が書いたものをそのまま歌っているという感じでは決してない。歌うのはヴォーカリストなわけだから、彼らに変える権利があると思っているよ。僕よりいいアイディアを提案してくれることだってあるしね。今後もずっとオープンマインドで取り組んでいきたい。けれど、僕が思う“曲の顔”となる詞は変えたくないとも思うんだ。
――今話題に上がった2曲をはじめ、ヘイリー・スタインフェルドとの「スターヴィング」やリアム・ペインとの「ゲット・ロウ」など、次々とヒット曲をリリースしていますが、フル・アルバムに着手していない理由は?
ZEDD:理由は、アルバムを作ることにプレッシャーを感じたから。僕が音楽を作るのは、自分にとって最大の趣味で、それが大好きだから。けれど、それがものすごくプレッシャーになった。音楽は僕の人生だけど、同時に趣味なんだ。
――具体的にはどんなことがプレッシャーに?
ZEDD:3年間を費やして一つの作品を作り上げて、それをリリースする。でも、内容や僕の意図を理解しないで、批判する。物事を理解するには、少し時間が必要だと思う。長い間新曲を発表していない状態から、一気にたくさんの曲をリリースするわけだから。1曲ごとにリリースできるという感覚がすごく心地よかった。1曲に2、3か月費やして、完成したら、次の曲に取り掛かる。
――同時に複数の曲に取り掛かったりすることは?
ZEDD:いくつか書き始めて、その中から1つの曲に焦点を置く感じだね。今も、並行して何曲か作っているけれど、その中の1曲に明確に焦点を絞っている。それが終わると、次の曲に取り掛かる。だから、次にリリースする3曲がどれか、っていうのがいつでもわかっている状態なんだ。
▲ 「Get Low with Liam Payne」(Street Video)
――制作してすぐにリリースできることで、ゼッド自身にとっても曲が新鮮に感じられるでしょうし。
ZEDD:本当にそうなんだよね。シングルばかりリリースするようになってから、僕のキャリアはさらに開花した。それまで成功していなかったわけではないんだけど、1曲ごとにリリースし始めてから自分のキャリアにおいて最大のヒット曲がいくつか生まれた。と言ってもアルバムは作り続けるよ。単純にこのやり方も試してみたくて、こっちの方が楽しめるけど、きっとまたアルバムは作る。ただコンセプトがないとダメだね。たとえば全編インストゥルメンタルのアルバムとか。10曲のヒット曲を3年間で書いて、それを一気にリリースした際に1曲しか記憶に残らないのであれば、割に合わないって、感じるんだ。
――時間と労力を注いだ作品に対する反応がそうだと、もどかしいですよね。
ZEDD:アルバムの出来が悪いとか、ファンのみんなが良さを分かってくれていないということでは決してなくて、僕らが今生きている時代ゆえなんだと思う。60分に及ぶアルバムを出しても、それを全部聴く時間がない。だから脳が自動的に一番好みの曲を選ぶ。選ばれる曲というのは、大体みんな同じだから、それが一般的にシングルとなる。
――現代のリスナーは、それらをプレイリストにまとめて聴くという印象ですね。
ZEDD:そして飽きたら新しい曲を欲するようになる。そこで何か月かおきに曲をリリースすることで、自分が作った曲をすべて聴いてもらえるんだ。
――そういったリスナーの動向を意識した上で、プロダクションや曲の構成を組み立てることは?
ZEDD:プロダクションは影響されていないと思うな。自分の曲のコーラスがどこにあるのかもよくわからないぐらいだから。あまりそういうことは考えないようにしてる。例えば「ステイ」は冒頭6秒のハミングしてる部分で即ハマる。コーラスとかは関係なくて、いい音楽か、そうじゃないかなんだ。コーラスがどこで入ってくると一番効果的か、というデータもあるけど、あまり関係ないと思ってる。
▲ 「Stay with Alessia Cara」MV
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友達を信頼すること、オープンマインドでいること、最も重要なことに焦点を置くこと
――最近のインタビューでカルヴィン・ハリスが「世界で最も有能なプロデューサーたちはEDMを作っていて、中でも最も有能なのはオランダのプロデューサーたちだ」と発言していたのですが、ゼッドの見解は?
ZEDD:当たっていると思うよ。エレクトロニック・ミュージックの作り方を知らないプロデューサーに比べ、プロデュースに関するテクニカルな知識を持っていて、その知識は音楽を作るときに不可欠だと感じるから。
最も有能なのはオランダのプロデューサーか…個人的にはそうは思わないな(笑)。素晴らしいオランダ人のプロデューサーがたくさんいるのは確かで、僕もライブをやる時に彼らの曲…ほとんどは友達なんだけど、よくかけているよ。もし最高のプロデューサーがいる国を選ぶんだったらスウェーデンだね。マックス・マーティンなどは、ジャンルやここ数十年間の音楽に大改革をもたらした。それがよりいいプロデューサーの証、ということではないし、オランダにも素晴らしいプロデューサーたちがいる。オランダは特に音楽の教育や学校が優れている―マーティン・ギャリックスがプロデュースを習うために通っていた学校がいい例。他の国に比べて、音楽教育を推進しているんじゃないかな。
――そもそもゼッドは、自分のことを“EDMプロデューサー”と認識していますか?
ZEDD:あんまりって感じかな。僕は元々クラシックのピアニストで、それ以外の肩書きは単純にその進化系だから。今でもクラシックを軸に音楽を作り、クラシックの観点から音楽を見ている。EDMのプロデューサーやDJであるより長くバンドでドラマーをやっていたから、自分のことを“EDMのプロデューサー/DJ”としてみるのは最初は気が引けた。けれど、人にそう呼ばれることは気にしてない。僕は自分がハッピーになれる音楽を作って、それを世界に向けて発信している。みんなには、エレクトロニック・ミュージックを作っているクラシカルなゼッドまたはドラマーのゼッド、ポップ・プロデューサーなど、好きなように呼んでもらえればいいと思ってる。
So happy I was given the chance to go back to my classical roots and write this piece of music for @natgeo's new project "One Strange Rock," airing tonight. pic.twitter.com/xmmmqHUEKP
— Zedd (@Zedd) March 26, 2018
――今更ですが、プロデューサーの具体的な役割について教えてください。漠然とした言葉ですよね。
ZEDD:プロデューサーの元々の仕事というのは…ちょっと面白く説明すると、スタジオの後ろにあるソファに座って「もう一個のフィルを流して」って言うこと。それで曲は完成で、あとは「最後を半分にカットして」という程度。現代のプロデューサーの役目は何もかもやること。音楽を書いて、プロデュースしてーたとえばキックドラム、スネアドラム、ハイハットなどのセッティングをしたり、コンプレッション、ミキシング、そしてマスタリングまで自分でやる人もいる。だから、その役割を音楽業界に周知され、評価してもらうために、これまでずっと戦ってきた。
僕が、エレクトロニック、またはポップ・ソングを作り始めた時、プロデューサーは何もしていないと思われていた。そして詞を書く人が曲の100%を担っていると。それって意味が分からないよね。なぜならモーツアルトは詞を一言も書いていなけれど、曲の“ソングライタ―”だ。音楽は音楽―僕にとって、楽器、ギター、ピアノ、コード、メロディ、構成、どれも音楽を作る工程の一部だ。プロデューサーという言葉は変わっていないけれど、その意味が変化していて、現代のプロデューサーは、昔と比べて様々な役割を担っているんだ。
2018.3.22 ZEDD @ Makuhari Messe / Photo: Masanori Naruse
――では、いいプロデュサーに不可欠な要素とは?
ZEDD:常に曲のゴールを意識すること。すべてを担ってると、キックやスネアの音が大きすぎるとか…容易に自分を見失ってしまう。時には、距離を置いて、いい曲はいい曲だって判断しなければならない。ギターが完璧じゃなくても、だからこそ感情を喚起するかもしれない。細かなディテールにこだわりすぎて、曲の目的を見失わないようにすることは大切だ。
たとえば「ステイ」は、必要のないディテールをすべて取り除いた。 僕は基本的に音楽的なディテールを加えるのが好きなんだけど、曲が成立するために本当に必要かって一歩引いて考えた。プロデューサーにとって最もハードなのは、自分の曲を初めて聴くという経験が味わえないこと。他のみんなは聴いてみて、そこから評価できるけれど、作り手だと、曲が完成するまですべてのステージに携わっているから、完成した曲を初めて感じることができない。だから時には、信頼する友人に聴いてもらうことに意味がある。そういう時、僕は親友のアルヴィン・リスクに頼んでいる。「ステイ」が完成間近だった時にも聴いてもらったら、「このフィルは必要ないんじゃない」と言われた。その時僕は「こういう効果があるんだ」とクドクド説明したんだけど、最終的にカットしたら、実際曲に必要ない部分だった。要するに自己満足だった。自分が曲を最初に書いた時に感じたことを忘れてしまっていたんだ。友達を信頼すること、オープンマインドでいること、最も重要なことに焦点を置くこと―これらが成功するプロデューサーに必要なことだと思うね。
――ゼッドほど自身のプロセスをオープンでいるアーティストも珍しいですよね。
ZEDD:あぁ、よくマネージャーにデモを送るし、フィードバックをもらうのが好きなんだ。と言っても、何かを「変えろ」って言われて、賛成できなかったら変えないけどね。でも、みんなの意見を聞けるのは有益だと感じる。作り手と聴き手の見解は違うから。
――プロデュースしている時、よく参照するレコードなどはありますか?
ZEDD:昔は色々あったんだけど、最近は止めたんだ。今は曲を作ったら車の中で聴いて、それがいい感触だったら、もうそれでいいと思うようにしてる。昔は酷かったんだよ。頭がおかしくなるほど、こだわちゃって…。ラジオ局に電話して、自分の曲の異なるミックスを順番にかけてと要求したり(笑)。そうすることによってどんな風に聴こえてるか理解できるから。他のプロデューサーから、彼らも僕が使っていたレコードを参照にしてるということを教えてもらったから、意味がないし、必要ないと思って。今は、ただただいい曲を作るのみだ、と思っているよ。
2018.3.22 ZEDD @ Makuhari Messe / Photo: Masanori Naruse
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