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ラウヴ(LAUV)インタビュー ~「I Like Me Better」が大ヒット中の新星シンガーソングライターに初接近
大学時代に発表した切ないバラード「The Other」で注目を集め、昨年のシングル「I Like Me Better」はたちまちSpotifyでの再生回数が2億を超えるヒットに。またチャーリーXCXの「Boys」、チート・コーズの「No Promises(feat.Demi Lavato)」といった提供曲のヒットでもその確かな才能が証明され、これからより一層の大ブレイクが期待できるシンガー・ソングライターのLauv(ラウヴ)。心の琴線に触れるグッド・メロディを書ける正統派ソングライター/コンポーザーでありながら、モダンなサウンドによる印象付けに長けたプロデューサーとしての才も持つ、そんな彼が3月6日・7日に代官山UNITで日本初公演を行なった。静かにじっくり歌って聴かせるタイプのシンガーを想像していたが、そのパフォーマンスはパッションに満ちた動きの大きなもので、彼自身にスターとして邁進する覚悟がしっかりあることを強く感じさせたりも。大きなホールで大勢の観客を熱狂させるようになるまで、恐らくそう時間はかからないだろう。これはそんなLauvの日本初インタビューとなる。(取材・文/内本順一)
「自分らしくやればいい」
――初の日本公演、観客の盛り上がりの度合いが凄かったですね!
ラウヴ:日本のお客さんは控えめだと聞いていたので、みんな静かに聴き入る感じかと思っていたら、真逆だったので驚いたよ。みんなが僕の曲を一緒に歌ってくれたりして、本当に嬉しかった。今までやってきたライブのなかでも、オーディエンスの反応のよさはベストだと言えるね。
――それはパフォーマンスの熱量の高さゆえだと思いますよ。観るまではそんなに動かず歌いかけるようなライブをする人だと思っていたので、アイドルばりにステージ狭しと動き回ったりダンスもしたりして歌うあなたを観て、僕も驚いたんです。「こんなに熱いパフォーマンスをする男だったのか!」と。
ラウヴ:あははは。ライブは10代の若い頃からやっていて、自力でツアーをブッキングしたりしていたんだけど、ある時期まで「ライブは抑えるところは抑えて、ちゃんと歌を聴かせなきゃダメだ」って考えにとらわれすぎていたんだ。でもあるとき「そんなに自分を抑え込まないで、もっと曝け出したほうがいいんじゃないか。やりたいことを好きなようにやって、自分を解放したほうがいいんじゃないか」と気づいて、実際そういうふうにしてみたら、みんなも盛り上がってくれてね。「自分らしくやればいいんだ」って確信した。それから今のような表現スタイルになったんだ。
――ライブは男性ドラマーと女性キーボーディストとあなたの3人だけというミニマルな編成でした。これからも3人で十分だと考えていますか? それとも大きなハコでやれるようになったら、もっとビッグなバンドでやりたいと考えていますか?
ラウヴ:自分の音楽に何か新しいものをもたらしてくれるミュージシャンがいれば増やすのもいいけど、現在の音楽性を表現するにあたっては3人で十分だと思っている。エド・シーランはスタジアムでも弾き語りをするし、それであんなに引き込む力を持っているよね。つまり、人数は関係ないってこと。それよりもショーの運び方であったり、そこにどうやってストーリー性をもたせるかってことのほうが大事なんじゃないかな。
――なるほど。ところでライブではあなた自身がエレクトリックギターを弾いて歌う場面もありましたが、けっこうロックっぽいギターを弾きますよね。昔からギターを弾いて歌っていたんですか?
ラウヴ:ギターに関して質問されるのは初めてだから嬉しいな(笑)。10歳の頃に弾き始めんだけど、その当時にハマっていたのがグリーン・デイとかああいうポップ・パンクだったんだ。グリーン・デイを聴きながらギターを練習して、曲の構成も学んで、それで13歳から曲を作り始めた。そしてギターが自分に合った楽器だとわかってからはジョン・メイヤーを参考にするようになった。ジョン・メイヤーはグレイトフル・デッドと一緒にやったりもしてるけど(デッド&カンパニー)、そういうところもかっこいいよね。あと、ジャズ・ギタリストからも影響を受けたよ。ジョー・パスとかウェス・モンゴメリーとかね。
▲Dead & Company - Brown Eyed Women(Live)
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取材・文/内本順一
「結局あなたの音楽のジャンルはなんですか?」って訊かれると困っちゃうんだよね(笑)
――では改めて現在に至るまでのベーシックな質問をさせてください。まず、出身はニューヨークなんですよね?
ラウヴ:いや、生まれはサンフランシスコで、すぐにオークランドに移って4歳まで住んで、それからジョージア州アトランタに引っ越して。で、そのあとフィラデルフィアに移って、それからニューヨーク。引っ越しがやたらと多かったんだ。で、2年前にL.A.に移った。
――L.A.に越したのは音楽キャリアのため?
ラウヴ:そう。
――東海岸と西海岸では文化もまったく違うわけですが、自分としてはどっちが合ってると思いますか?
ラウヴ:不思議なもので、ニューヨークに住んでいたときはカリフォルニアのほうが合うんじゃないかと思っていたし、そっちに住んでいる今はニューヨークのほうが自分に合っている気がしてる。ないものねだりしちゃうところがあるのかな。またそのうちニューヨークに戻りそうな気がしてるよ。
――これまで特に影響を受けたミュージシャンやバンドの名前を挙げてください。
ラウヴ:ジョン・メイヤー、ポール・サイモン、コールドプレイ、テイキング・バック・サンデイ……。ほかにもたくさんいるけど、子供の頃や若い頃に大好きだったのはそんな感じかな。
――最近は?
ラウヴ:カシミア・キャット。それからSam Gellaitry。プロデューサー的な才能も持ち合わせたアーティストに注目するようになった。
▲Sam Gellaitry - Jungle Waters
――なるほど。よくわかります。あなたの曲にはポール・サイモンのような正統的なシンガー・ソングライターから受け継いだと思われる抒情的なメロディを持つものがあるし、コールドプレイを想起させるスケール感を持ったバラードがあったりもするし、イマドキのプロデューサーやトラックメイカーに通じる特徴的なサウンドが耳に残るものもありますからね。
ラウヴ:そうだね。クラシックな名曲を残すシンガー・ソングライターとしてやっていきたい気持ちもあるけど、一方ではジャンルを超えた音楽を作るプロデューサーとして認められたい気持ちもあるから。特定のジャンルの枠に収まることなく、いろんな音楽を好きなひとに聴いてもらうことが僕の理想なんだ。
――実際、R&B寄りの曲もシンガー・ソングライター寄りの曲もモダンなポップ寄りの曲もあるわけですが、多様な音楽を取り入れて自分なりに消化したいという気持ちは昔から持っていたんですか?
ラウヴ:うん。というのも、さっき言ったように子供の頃から引っ越しが多かったから。その土地その土地でよくかかっている音楽を好きになって、それら全部が自分のなかに自然に根付いているんだ。ポップ・パンクが好きだったときもあったけど、2000年代はアトランタに住んでいたからその当時のR&Bやヒップホップにずいぶん影響されたし。だから「結局あなたの音楽のジャンルはなんですか?」って訊かれると困っちゃうんだよね(笑)。
――曲はどうやって作るんですか? リリックが先なのかメロディが先なのか、楽器を弾いて作るのか鼻歌から始まるのか。
ラウヴ:曲によりけりだね。「I Like Me Better」はシンセでコードを作って、コーラスが浮かんで、そこからメロディができた。あの曲の印象的なイントロ部分は、アイフォンで録音したものを切り刻んで編集して作ったんだ。ほかにアコースティックギターを弾いて作った曲もあるし、歩いているときに突然歌詞が降りてきて、そこにメロディをつけたものもあるし。いろいろだね。
▲Lauv - I Like Me Better
――メロディラインそのものに抑揚があってドラマチックな感覚の得られる曲もあるし、逆にメロディ自体にはそれほど大きな動きがなくても、「I Like Me Better」のようにイントロのループ部分が耳に残って病みつきになる曲もある。大きく言うと、そのふたつのパターンに分かれるように思ったんですけど、そのへんは意識してますか
ラウヴ:いや、まったく。作るときはそこまで深く考えてるわけじゃなくて、思いつくままなんだ。でも言われてみると確かにそうかもしれないね。面白いな。参考になる分析だね。
――サウンドメイキングやアレンジなんかは全部自分でやっているんですか?
ラウヴ:それも曲によるね。ある時期からほかのアーティストとのコラボーションで作ることも増えてきたから。ただ、僕自身はというと、大きなステジオでの作業があまり得意じゃないんだ。大きいスタジオはあまり居心地がよくなくて、自分らしさをうまく出せない。自宅で曲作りの延長として音を作るか、あるいはホテルの部屋にマイクを持ち込んで録ってPCで作業するか、そのどっちかのほうがリラックスしてやれるんだよね。
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取材・文/内本順一
「ヒットソングを聴きまくって、その構造を徹底的に分析した」
――「I Like Me Better」が大ヒットしたのは、なんといってもあのイントロ部分のエキゾチックな旋律の繰り返しが耳に残るものだったというのが大きいと思うんです。そういうサウンド作りに関しては誰かアドバイザー的な人がいたんですか?
ラウヴ:以前はただ「いい曲」を書くことしか考えてなかったけど、16~18歳の頃にどうやったらヒットソングが書けるようになるのか、その頃に流行っていたいろんなヒットソングを聴きまくって、その構造を徹底的に分析したんだ。ケイティ・ペリーのヒット曲なんかは特に参考になったよ。そうやって自分で試行錯誤しながら、ようやく印象に残る曲が書けるようになったんだ。
▲Katy Perry - Roar
――ただの「いい曲」ではなく、ヒットソングを書くにはどうするかを突き詰めていったわけですね。
ラウヴ:そう。僕はここまでくるのになんだかんだで10年かかってる。若い頃からバンドをやっていて、姉に手伝ってもらって会場まで車で機材を運び、友達にチケットを買ってもらってライブをやっていたんだ。で、13歳から曲を作り始めたわけだけど、15歳のときには「オレはここまでひとりで頑張ってきたけど、もうどん詰まりだ」なんて歌詞の曲を書いていた。Myspaceに自分の曲をアップしても、たいして反応がなかったし、うまくいかなかったからね。それでまた勉強し直すことにして、ニューヨークの大学時代にはスタジオでインターンをやっていたんだ。ジェイ・Zやジェシー・Jがスタジオに来る前に水とか食べ物を揃えたりとかしつつ、録音や制作について学んだり。そうこうするうちに、ほかのアーティストに楽曲提供するまでになったんだけど、あるとき「これこそ自分らしい曲だから、ほかの誰にも渡したくない」と思える曲が書けてね。それが「The Other」で、ネットにアップしたらいくつかのレーベルや音楽出版社から連絡が来るようになった。そこからポンポンポンとスピーディーにことが進んでいったんだ。
▲Lauv - The Other
――昨年の「I Like Me Better」も、やはり自信の持てた曲だった?
ラウヴ:いや、作ったときはまだ途中段階のような気がしていてね。もうちょっと手を加えて完成させるつもりだったんだけど、その前に友達にラフを聴いてもらったんだ。そしたら「これ以上何も加えずにそのまま出せ」って言われた。それでまた別の人に聴いてもらったら、その人も同じように言うんだ。「わかった」と言って、実際そうしたら、こんなにたくさんの人に聴かれることになった。こんなに短い時間で書いた曲は初めてだったよ。
――あれこれ飾り付けるより、シンプルであるほどいいってことは確かにありますからね。
ラウヴ:ホントそう。勉強になったよ。
――その「I Like Me Better」はニューヨークで恋に落ちたという歌詞だし、「Paris in the Rain」というパリでの情景を歌った曲もあります。そうやっていろんな土地からインスピレーションを得ることが多いんですか?
ラウヴ:そうだね。旅からインスピレーションを受けることは確かに多い。ニューヨークに行くのは最初は怖かったんだけど、今思えば自分の人生において本当にいい決断だったと思う。小さな町の居心地のよさを知ってる人間としては、ニューヨークのようなビッグシティだと常に自分と向きあわなければならないし、ちょっとしんどいんじゃないかと思っていたんだけど、音楽をやっていくにはそういうエネルギーが必要だとわかったし、ニューヨークに住んで初めて恋にも落ちた。それで「I Like Me Better」のような曲も生まれたわけだしね。一方、「Paris in the Rain」はというと、僕はロマンティックな人間だから(笑)、ロマンティックな映画が好きでね。(ウディ・アレンの)『ミッドナイト・イン・パリ』って映画を観て、1920年代のあの背景や詩人や画家たちが自由にしている感じを羨ましく思いつつ、自分もその中にいる感覚を思い浮かべて書いたものなんだ。
▲Lauv - Paris in the Rain
――まだまだ訊きたいことはたくさんあるんですが、残念ながらタイムアップです。最後にアルバムの予定を教えてください。
ラウヴ:アルバムについてはまだどうなるかわからないんだ。ただ、曲のストックはめちゃめちゃあってね。たくさんありすぎて困るくらい(笑)。とりあえず今はプレイリストにどんどん曲を足していってる。まあ、アルバムはそのうちって感じかな。いつかは作るからそれまで楽しみに待っててほしいね。
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取材・文/内本順一
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