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ファンキー加藤『今日の詩』インタビュー
「あのとき、歩みを止めなくてよかったな」って本当に思う
ガムシャラに全身全霊で駆け抜けた2017年、その先に生まれたアルバム『今日の詩』についてはもちろん、音楽に対して諦めない気持ちや歌い続けていくことの重要性、40歳を迎える2018年のアレコレについて等々語ってもらった。
聴いてくれる皆さんにとっても「今日という何気ない1日の詩であってほしい」
--新アルバム『今日の詩』の話の前に、そこへ繋がるストーリーとして昨年の話も少し振り返りたいのですが、2017年はどんな1年になったなと感じていますか?
ファンキー加藤:意図的にガムシャラになっていたかな。全力で走りきる、その風を切る音で雑音を意図的に消していた感じがしますね。あと、音楽というすごく包容力のあるモノに自ら飛び込み続けていたなって。もしかしたらどこかで無理していたのかもしれないけど、でもそれぐらいやっておかないと、正直自分を保てないと思っていたんです。だから頭のてっぺんまでどっぷりと音楽に浸かっていましたね。--その甲斐もあってか、新しくまた始まっていくムードが生まれましたよね。
ファンキー加藤:そうですね。だから今振り返ってみると、歩みを止めなくて良かったなと思っています。止めたくもなりましたけど、ずっとキープ・オン・ムーヴィングしていて良かったなって。--そして、あの『冷めた牛丼をほおばって』のフルマラソンMVのような、シリアスなのかコミカルなのか……
ファンキー加藤:どう捉えていいのかよく分からないミュージックビデオ(笑)。--でもらしいと言えばらしい企画でしたよね。
ファンキー加藤:だからもしかしたらあの曲とミュージックビデオにファンキー加藤の2017年は込められていたというか、それを上手く表現できていたんじゃないかなって気がします。--なので、新アルバム『今日の詩』を聴かせてもらって尚更感じましたが、今後のストーリーを紡いでいく上で重要な1年だったような気がします。自分の中では、今回のアルバムにはどんな印象を抱かれていますか?
ファンキー加藤:ずっと音楽に飛び込んでいたからなのか、音楽がまた自分にとって身近なモノになったというかね、日常生活にあたりまえのようにあるモノになったんですよ。パッと目を覚まして、自然と作業部屋に行って、作詞をしたり、制作をしているみたいな。で、昼ごはんを食べて、ちょっと犬の散歩して、また自然と作業部屋に行って……すごくナチュラルに音楽と向き合えて、その結果生まれたアルバムという印象がありますね。良い意味であんまり肩肘張らずにアルバムリリースに対して向き合えた。--前作『Decoration Tracks』は、すべてを振り絞るように制作されたアルバムでしたよね?
ファンキー加藤:鬼気迫るような、自分の中でどこか「ラストアルバムになるんじゃないか」と思うぐらいの振り絞り方でしたね。でも今回はそんな感じはなかった。音楽があたりまえのようにそこにある生活がすごく心地良かったし、充実していたなと思いますね。--そのアルバムのタイトルを『今日の詩』にしたのは?
ファンキー加藤:いつか「今日の詩」というタイトルで曲を作れたらいいなと昔から思っていたんです。それをアイデアとして温めていて、実際に曲として作ってみたんですけど、ちょっとイメージに届かずボツになったりして。そんな中、今回のアルバムタイトルとして捉えたときに「良いんじゃないかな」と思えたんです。僕自身にとってもそうだし、聴いてくれる皆さんにとっても「今日という何気ない1日の詩であってほしい」そう思えて。毎日のBGMであり、玄関から飛び出していく際の登場曲であり、主題歌であり、そういう願いも込めて付けさせて頂きました。--そもそも「今日の詩」というワードをいつか使いたいと思ったきっかけは何だったんでしょうね?
ファンキー加藤:たぶん好きなんでしょうね。今日という1日に歌を付けられるぐらい、ちゃんと日々を大切に生きていきたいし、生きていってほしい。身近な人だったりね、それこそファンの皆さんに対してもある願いなのかもしれない。--ファンキー加藤さんは、ファンモン時代からヒップホップとポップスの融合だったり、今回のアルバムもそうですが、ベースはずっとダンスミュージックじゃないですか。踊れるビートがあるもの。でもこのあいだの『冷めた牛丼をほおばって』も今回の『今日の詩』もタイトルの在り方がフォークっぽくなってきてますよね?
ファンキー加藤:ハハハハハ! 多分そこもナチュラルなんだと思うんですよ。僕がいちばん最初に触れた楽器というのはフォークギターですし、家のリビングにあったそのフォークギターに興味を持って親父から教わって、そこで教えてもらったのもフォーク歌謡でしたし、そこからの流れで長渕剛さんを好きになったりして。だから原点回帰とまでは言わないけど、ナチュラルになればなる分、自分の芯の部分が出てくるんでしょうね。それが今の自分とってすごく心地良いんですよ。--無理がない?
ファンキー加藤:無理がない。ハーモニカ吹いてる自分も好きだし。--加藤さんは、弱くても虚勢を張りながら這い上がろうとする時代の長渕さんの曲が好きだと以前仰っていましたけど、そういった色合いは今作にも出ていますよね。「ダイジョウブルース」なんてまさにその時代の長渕さんの匂いがしますし。ちょっとコミカルなんだけど、言いたいことをそのまま歌い倒すみたいな。
ファンキー加藤:「俺、こういう歌い方できるんだ」ってレコーディングしながらビックリしましたよ。タイトルはポンと面白おかしく浮かんで、「ダイジョウブルース」って響きが面白いなと思って、ワンワードでどれぐらいのモノが作れるのかという、ひとつの実験的要素を盛り込んだ曲なんですけど、プロデューサーの方と一緒にブルースの歴史も調べて。で、その中からブルースの様式美みたいなものを受け取って「なるほど。12小節で、こういうコード進行でブルースは進むんだ」みたいな。じゃあ、それにちゃんと沿って、でもファンキー加藤節もちゃんと出して、自分的には結構手応えがあるというか「妙に良い曲になったな」と感じていて。「ダイジョウブルース」という偶然思いついたワンワードだけでここまで広がるんだな、音楽って面白いなと思いました。- ショッピングモールのファンキー加藤は泣けると(笑)
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リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
ショッピングモールのファンキー加藤は泣けると(笑)
--イントロが鳴り出した瞬間に「ここはちょっとお遊びコーナーなのかな」と感じると思うんですけど、よくよく聴くとめっちゃファンキー加藤節だし、「不器用でも生きろ!」とか歌ってますし。
ファンキー加藤:そうなんですよ(笑)。「泣きながら歌え!」とか。--歌詞が熱いし、ちゃんとブルースなんですよね。
ファンキー加藤:ちゃんとブルースなんです。そこはちゃんと様式美に沿って。あと、本当だったらこういう曲って大体アルバムの8曲目ぐらいに据え置くんですけど、ちょっとだけ前に入れてみたんですよ。ちょっとファンの方の反応が知りたくて。だから6曲目っていうね、自分的には思い切ったし、スタッフから「大丈夫?」と言われたんですけど、そこは「ダイジョウブルース」ということでそこに置かせてもらって(笑)。--こういった曲が生まれてくるぐらいの、音楽を楽しむ余裕みたいなものが出てきたのかもしれませんよね。前作のようにギュウッと詰め込むモードじゃなくて。
ファンキー加藤:上手く言えないんですけど……「ちゃんと良いアルバムを作ろう」という意識があったのかなぁ。音楽を生業としているファンキー加藤として、このタイミングでのリリースが決まったアルバムに対してちゃんと向き合って……--“1枚のアルバム”をちゃんと楽しんでもらいたかった?
ファンキー加藤:そうですね。ちゃんと楽しんでもらえるモノをちゃんと作ろうとしていたんだと思います。前作はとにかく無我夢中でウワァァァ!となって作っていたので、今回は力を抜いている訳ではないんですけど、ちゃんと向き合った。--現在は「アルバムで音楽を楽しむ」という感覚が薄れていて、発信側も「だったらこういう形でいいじゃないか」とか「ケータイで聴くならそれに見合った音質でいいじゃないか」みたいな感覚の人も増えていると思うんですよね。でも加藤さん的には、アルバムはアルバムとして聴かせたいし、それを携えたツアーを毎回やっていきたいし、といった気持ちが強くあるのかなって。
ファンキー加藤:ありますね。時代遅れなのかもしんないですけど、それはもうしょうがないんですよ。それが僕の原体験だし、新しい時代にちゃんとアジャストしなきゃいけないのかもしれないんですけど、今回もマスタリングですごく真剣に曲間の秒数を決めたりしてましたからね。もしかしたら今はそんなことまでしなくていいのかもしれないけど、でも「エンジニアさん、すみません。0.5秒長くしてください」とか言って。--そうなりますよね。曲間の秒数が気持ち悪いアルバムを自分名義の作品として出せないじゃないですか。
ファンキー加藤:そうなんですよね。--その話と一緒にしちゃいけませんけど、我々の世代はカセットテープにいろんな曲をダビングしてオムニバスアルバムを作るのがあたりまえだった訳じゃないですか。その頃から曲と曲の間みたいなものは素人ながらに気にしていた訳で。
ファンキー加藤:やってましたよね! 初デートのときにオリジナルテープを作ったりね、その曲間はめちゃくちゃ大事な訳じゃないですか(笑)。それはデビュー以降作ってきた作品においてもそうで、そういう感覚を無視して「もうここまで拘らなくていいのかな」なんて思っちゃった瞬間、いろんなものがどんどん崩れていきそうな気がするんです。だからちゃんと守るべきものは守っていきたい。--その曲間の話に限らず、まさにアルバムとして聴かせる為のアルバムとして構成させた作品ですよね。最後に「ラストナンバー」なんていう意味深なタイトルの曲も入っていますし、ちゃんとストーリーを感じさせてくれる。
ファンキー加藤:アルバムはそういうものであってほしいなとずっと思っているんです。今回のジャケットは、僕が駅のホームで佇んでいて、イヤホンをしているんですけど、こういう感じで日常と寄り添うものであってほしいんですよね。朝目覚めて、コーヒーを飲んで、食パンをかじって、出勤なり通学なりして、というところに普通に在ってほしい。僕自身も今までのアルバムの中で『今日の詩』がいちばん日常的に聴いているんですよ。犬の散歩のときもついつい聴いちゃうし……自分自身の物語も多いから、もしかしたら僕だからそういう風に聴けるのかもしれないけど、みんなにとってもそういうアルバムであってほしい想いは強いですね。--前回の『冷めた牛丼をほおばって』インタビュー(http://bit.ly/2DELPs7)でも近い話をされていましたが、自分自身のパーソナルな歌がリスナーに響くのかどうかといった部分は、加藤さんがライブでみんなに届けることをイメージして作られている時点で、歌詞や曲の成り立ち方はどうであれ、ちゃんと響くんじゃないかなと思うんですよね。実際に「冷めた牛丼をほおばって」はリスナーひとりひとりの歌にもなったと思いますし。
ファンキー加藤:ライブのことはずっとイメージはしているんですよね。だからそこからすごく掛け離れていくようなことにはならないかもしれない。今回のアルバムリリースタイミングで【ファンキー加藤 全日本フリーライブツアー~超原点回帰~】と銘打って全国でフリーライブをするんですけど、ソロデビューしたタイミングで【原点回帰】という形でフリーライブツアーをやっていて、今回は【超原点回帰】という……「原点回帰を超えるってどういうこと?」って感じなんですけど(笑)、それをやったり、10月からは2018年全国3rdホールツアーが始まったりするので、それらのライブの中で変に掛け離れていくことはないだろうなと思ってます。--ファンモン時代からまわっていたショッピングモールでのフリーライブも……
ファンキー加藤:もちろんあります。--そういう場所で不意に入ってくるファンキー加藤って結構泣けるんですよね。
ファンキー加藤:ショッピングモールのファンキー加藤は泣けると(笑)。--その結果として、たまたま歩いている人がCDを買っていくという現象が起きる。
ファンキー加藤:たしかにそうなんですよね。ライブをする場所としてはいちばん難しかったりするんですよ。ショッピングモールって明らかに不向きな場所じゃないですか。そこでちゃんと自分を100%に近い形で出して、来てくれるファンの皆さんはもちろんですけど、通りすがりのね、ファンキー加藤に全く興味のない人にまでどうすれば響かせられるのか。どうすればCDを買ってもらえるのか。そういう経験をしてきていると、他ジャンルのアーティストさんが集うフェスとかイベントとか何も怖くないんですよね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
「あのとき、歩みを止めなくてよかったな」って本当に思う
--アウェイのフェスに出ても、ショッピングモールのおばちゃんよりは全然盛り上がってくれる訳ですもんね(笑)。
ファンキー加藤:そうそうそう(笑)。だからライブ力を鍛えるという意味でも【超原点回帰】と銘打ってまわれるのは楽しみですよ。--そういった数々のライブで披露する機会もあると思われる、今回のアルバム『今日の詩』の最後を飾る「ラストナンバー」についても話を聞かせて下さい。タイトルからして気になっているファンも多いと思うんですが、どんな想いから生まれた曲なんでしょう?
ファンキー加藤:ツアーの歌を歌いたかったんですよ。爆風スランプさんの「THE BLUE BUS BLUES」という曲があるんですけど、それこそ「Runner」とか「大きな玉ねぎの下で」に隠れちゃってる、でも僕からしたらいちばん好きな名曲があって。爆風スランプさんが売れていない頃、青い機材車で全国をまわっていて、そこにギターとベースとドラムと夢をのせて、天気のいい夜には屋根の上にダンボールを敷いて寝たりして、そこで星を見上げながら「いつか大きな星になれ」と笑い合って。最終的にその機材車は動かなくなって、朝焼けの中でレッカー車に引かれて消えていく……そういう歌で、すごく切ないんだけど楽しげな曲でもあって。ミュージシャンを目指していた僕からしたら憧れの世界だったんですよ。だから自分もいつかデビューしたらそういうツアーの歌を歌いたいと思っていて、応援してくれるファンの皆さんがクスっと笑えたり、身近に感じてもらえるような。そういう想いがあって「ラストナンバー」は作ったんです。で、このタイトルにしたのは、ただのかまってちゃんです(笑)。一同:(笑)
ファンキー加藤:元々「TOUR」というタイトルだったんですけど、ライブの最後に「ラストナンバー」と言ったらみんな心配してくれるかなって(笑)。--俺、まんまと気になって質問しちゃってますからね。
ファンキー加藤:ハハハハハ!--まんまとかまってますよ(笑)。
ファンキー加藤:僕の中の悪いかまってちゃんが出てしまいました(笑)。--〆に入っていきたいのですが、今決まっているだけでも盛りだくさんな内容の2018年、どんな1年にしていきたいと思っていますか?
ファンキー加藤:人生という大きな視点で捉えれば、今年で40歳になる訳で、これは誰かに聞いた話なんですけど、格好良いおっさんになれるか、格好悪いおっさんになるか、40歳はちょうどその境だと。やっぱり格好良いおっさんになりたいじゃないですか。だからそこに向けての、全力の助走ですかね。全力助走で駆け抜けていく1年にしたいです。なので、40歳になることに対してはそんなにネガティブに捉えてないんですよ。--僕も40歳なんですが、不惑の40代って言うじゃないですか。まだ成り立てだからかもしれませんけど、まったく不惑な精神状態になってないんですよね(笑)。
ファンキー加藤:惑わない奴なんていないですよね。まだまだあたりまえのように惑ったり迷ったりする気がしますよ。本当に不惑になったら、歌詞なんて書けないような気がしますけどね。応援ソングなんて作れない(笑)。ウチの親父がね、50ちょい過ぎぐらいのときに事業でいろいろ失敗して、全然ダメになっちゃったことがあって。それで「俺はもう再起不能だ」みたいな感じになっちゃったときに、80歳ぐらいのお父さん、僕からしたらおじいちゃんがブチギレたんですよ。普段はすごく温厚なのに「たかが50のくせに、人生知ったような口を利くな!」って。そのおじいちゃんがすごく格好良く見えたしね、そういうことなのかなと思うんですよね。80歳からしたら50代なんて最高じゃないですか。羨ましいと思うだろうし。--僕らなんて2分の1しか生きてないですしね。
ファンキー加藤:そうなんですよ。鼻たれ小僧ですよ。だからまだまだ迷ったり戸惑ったりしながら生きていくんじゃないですかね。それは全然ネガティブじゃない気がします。特に僕なんかそういうところから生まれてくる音楽もあったりするので、そういう意味では「恵まれてるな」と思います。戸惑いも迷いもアウトプットする場所がある。だから「せめて聴いてくれた人にとってプラスになるようなものであってほしい」とも思えるし、そういう音楽を作りたいと思えるから。--ファンモン時代から言い続けてますけど、ファンキー加藤は続ければ続けるほど面白いと思うんですよね。いくつになってもファンキー加藤を貫き通していったら、どんな世界がそこに広がっているのか。今ある曲がどんな風に響くようになっているのか……
ファンキー加藤:それは僕も想像していて、楽しみなところなんですよね。だから「あのとき、歩みを止めなくてよかったな」って本当に思う。何よりも続ける、継続していくことがいちばん大変なことだし、いちばん尊いことだと思うから。継続している人はどんどんどんどん輝きを増していってますからね。どこかでそれを心の拠り所にしている部分もありますし、だからこそまだまだ歌っていきたいと思いますよ。がんばります!リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
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