Special
ギターと歌をめぐる鼎談:高野寛×宮沢和史×おおはた雄一
それぞれに独自の音楽性を探求する3人のミュージシャン--日本が誇るポップ・マエストロにして名ギタリストの高野寛。THE BOOMでの活動をはじめ国内外の様々な音楽の影響を昇華し続けてきたシンガーソングライターの宮沢和史。そして、奥行きのある歌とギタープレイで注目を集める、おおはた雄一。この3名が集ったスペシャルセッションが、3月14日にビルボードライブ東京で開催される。
各々スタイルは違えど“ギターと歌”を中心とした音楽の可能性に向き合い続ける3人。今回はミュージシャンたち集まってもらい、改めて自身と“ギターと歌”の関係性について語り合ってもらった。三者三様の部分と、相通じる部分。そのグラデーションが奏でる音楽そのものとともに、その言葉にも、ぜひ注目して欲しい。(以下、取材・文:森朋之)
GANGA ZUNBAとブラジル音楽の奥深さ
--3月14日にビルボードライブ東京で「高野寛×宮沢和史×おおはた雄一」によるイベントが開催されます。この3人によるライブは昨年5月21日にも上田映劇(長野県上田市)100周年記念イベントとして行われましたね。
高野:はい。僕とおおはた(雄一)くんは以前から上田映劇に出演させてもらっていたんですが、「100周年のスペシャルなイベントをやりたい」という話をいただいたときに、ミヤ(宮沢和史)のことを思い出して。去年の5月はミヤが久しぶりにライブを再開した時期だったんですよ。最初は代々木公園のフリーライブだったんですけど、その流れもあって「やってくれない?」とお願いしたら、すぐに了解してくれて。
宮沢:僕は2013年に身体を壊したこともあって、2年以上休養していたんですよ。高野くんは「ブラブラしてると老けるよ」ということで声を掛けてくれたんだと思うけど(笑)。5月21日がTHE BOOMのデビュー日だったこともあり、僕にとっても意味があるライブになるだろうなと。高野くん、おおはたくんは素晴らしいギタリストであり、ボーカリストでもあるから、僕としてもすごく心強くて。余所行きではなく、自然な雰囲気でTHE BOOMの曲を歌わせてもらえたし、いいデビュー記念日になりましたね。
おおはた:すごく印象に残るライブでしたね。僕と高野さんがTHE BOOMの曲を演奏して、宮沢さんに朗読してもらったり、3人でハモったり、それぞれのソロコーナーもあって。いろんなアプローチで演奏できたのも良かったなと。
高野:そうだね。最初は「この3人でやるとどうなるのかな?」と思っていたんですが、実際にやってみるととても濃密なライブになったので。今回のビルボード公演は、上田映劇のライブのエッセンスを凝縮したステージにしたいですね。
おおはた:ビルボードは好きなアーティストのライブで行くことも多いですし、好きな会場なんですよ。上田映劇の後も「もう1度、この3人でライブをやりたい」と思っていので、それが叶って嬉しいです。
宮沢:前回は100年の歴史がある映画館、今回は都会のど真ん中の会場なので、雰囲気はまったく違いますよね。ビルボードで僕らが演奏して、それがどんなふうに聴こえて、どういう空間が生まれるのか。僕らもすごく楽しみです。
高野:このインタビューの前に少し話していたんですけど、GANGA ZUMBA(宮沢和史が中心となって2006年にスタートしたバンド。高野寛、マルコス・スザーノなどが参加)の曲をやるのもいいですよね。さきほど話に出ていた代々木公園のフリーライブにはGANGA ZUMBAのメンバーも参加していたんですが、僕は意外とGANGA ZUMBAの曲を演奏する機会が少ないので。
宮沢:GANGA ZUMBAの初期の楽曲は、まるで暴走する列車のように「どこに向かうかわからない」というすごいエネルギーのなかで作られていて。いま聴いても強い生命力を感じるし、まったく色褪せていないんです。しかも、高野くんが書いたものを含めて良い曲が多いから、ギターと歌だけで演奏しても成り立つんじゃないかなと。
高野:GANGA ZUNBAはブラジル音楽がベースになっていて。バンドの活動、メンバーが作り出すグルーヴを通して、僕自身もそういう音楽のギターの弾き方吸収した感覚があるし、それはいまも追求しているんですよ。
宮沢:アップデートしてるんだね。
高野:奥が深いから、たぶん一生かかりそうだけどね(笑)。バンドでやっていた曲をギター1本で表現するためのアイデアも、いまだったら浮かぶんじゃないかなと。
おおはた:楽しみですね。僕もブラジルの音楽は好きで、カエターノ・ヴェローゾやジョアン・ジルベルトの作品を聴いてきたので。
宮沢:去年の12月に久しぶりにブラジルに行ったんだけど、サンパウロでカエターノのフリーライブをやっていて、観に行ったんだよ。土地がない労働者、農民を支援する団体を支援するためのライブで、カエターノは弾き語りだったんだけど、20代の若い人たちが一緒に歌っていて。70代半ばのミュージシャンの曲が世代を超えて受け継がれているのは素晴らしいし、羨ましいなという気持ちにもなりましたね。
▲Caetano Moreno Zeca Tom Veloso :: Alexandrino :: 16/12/2017 ::
3人と弾き語り(の関係)
--今回のライブは“ギターと歌”を堪能できる絶好の機会だと思います。みなさんはギターの弾き語りというスタイルをどう捉えていますか?
おおはた:そうですね…。僕はもともとバンドがやりたくて、「楽器は何でもいい」と思ってたんです。ドラムやベースもやったんですけど、ギターで弾き語りを始めてからは、それが中心になっていって。バンドのメンバーがいなくなったせいもあったんですけど(笑)、「毎日ライブがやりたい」という気持ちもあったので、いちばん合っていたのかもしれないです。
高野:参考にした弾き語りのアーティストっているの?
おおはた:最初に夢中になったのは、ケリー・ジョー・フェルプスというアメリカのシンガーソングライターですね。フリージャズのベーシストからカントリー、ブルースの弾き語りシンガーになった人なんですけど、ギターを横に置いて演奏する方法も、その人を通して初めて知って。あとはボブ・ディランだったり、日本だと高田渡さん、友部正人さんとか。
▲Kelly Joe Phelps- Goodnight Irene
宮沢:トーキングブルースというか。
おおはた:そうですね。僕自身も「いくぞ!」みたいに盛り上がるタイプじゃないし(笑)、まるで話すように歌うシンガーに惹かれていたので。
高野:そうだね。最初は「この3人でやるとどうなるのかな?」と思っていたんですが、実際にやってみるととても濃密なライブになったので。今回のビルボード公演は、上田映劇のライブのエッセンスを凝縮したステージにしたいですね。
宮沢:僕もウディ・ガスリーやボブ・ディランを聴いてきましたが、友部さん、渡さんが素晴らしいのは、ただのマネではなくて、ちゃんと自分自身の言葉に変換していたことだと思うんです。そういう歌を通して、日本人の嘆き、やりきれなさ、社会からはみ出した人たちへの愛を描いていて。世代は違いますが、おおはたくんの歌からも同じものを感じますね。アメリカの音楽をそのまま持ってくるのではなく、自分の言葉とスタイルにしているので。
おおはた:ありがとうございます。ずっと弾き語りをやっていると、いろいろな波があるんですけどね。ライブにしても、すごくいい感じでやれるときもあれば、「どうしよう?」と煮詰まってしまうこともあるので。
--高野さんはどうですか?
高野:僕はかなりネジれているんですよ。中学校の頃からYMOが好きで、学校では友達とハードロック・バンドを組んでいて。ミヤと意気投合したのも、YMOに憧れながら、ギターを弾いて歌っていたという両面性があったからなんです。僕、高校の頃にYMOの「中国女」をアコギでカバーしたことがあるんですよ。シンセが買えなかったから、アコギを多重録音して。その音源、YouTubeにアップしてますよ。
宮沢:そうなんだ? 聴いてみよう。
高野:ぜひ(笑)。ギターはいちばん馴染んでいる楽器なんだけど、おおはたくんみたいにブルースを聴いていたわけではないし、正統派のシンガーソングライターのアプローチではなく、やっぱりネジてれてるのかなと。大人になってから、ちょっとずつルーツに回帰している感じだと思います。
▲LOTUS LOVE (YMO) : 高野寛
--高野さんの新作『A-UN』も生楽器を中心としたアンサンブルになっていて。
高野:そうですね。歌もバンドと一緒に録音したので。最近はライブのほうにやりがいを感じているんです。レコーディングされた音源と違って、後に残らないライブのほうが、意味があるんじゃないかなって。ライブで何を表現するかが重要だし、そこをさらに問われている気がしますね。おおはたくんが言ってた「波がある」というのも、そういうことでしょ?
おおはた:そうですね。僕はセットリストを決めないことが多いんですけど、次にやる曲がまったく思い浮かばないこともあるので(笑)。最近はギターをアンプにつながないライブも増えてますね。生の音だとささやくように歌い出すこともできるし、すごく自由なんですよ。
宮沢:僕も弾き語りのライブを10年くらいやってたけど、やっぱりプラグは差してなかったですね。家で弾き語りしているのと同じような感じで。
--宮沢さんはTHE BOOMのボーカリストとしてデビューしたわけですが、もともと弾き語りにも興味があったんですか?
宮沢:学生のときは弾き語りでデビューしたかったんです。学生のときに地元の山梨でコンテストに出場したんですけど、審査員に「君の歌は暗い。バンドをやったほうがいいよ」と言われまして(笑)。
高野:(笑)その審査員と出会わなかったら、違う人生だったかもね。僕もそうなんですよ。オーディションで出会った高橋幸宏さんに「もっと歌ってみたら?」と言われたのが、日本語のオリジナルを作り始めたきっかけなので。
宮沢:なるほど。いまも弾き語りは好きだし、ワクワクしますね。他の人の曲もやれるし、英語の歌、ブラジルの歌もやれるから、レパートリーも広がって。絢香、中村中、SMAPのカバーもやりますからね、弾き語りのときは。ただ、さっきのおおはたくんの話みたいに「あれ? 俺の曲を歌ったほうがいいのかな」と迷うこともあって。
おおはた:そうですか(笑)。
宮沢:うん(笑)。でも、そのときに歌いたい曲があるからね。
高野:お客さんのリアクションにも影響を受けることもありますね。弾き語りのほうが、会場のエネルギーが循環しやすいんですよ。それが上手く噛み合えば、いいライブになるんじゃないかな。
宮沢:弾き語りは人力だからね。ボートにたとえると、弾き語りは手漕ぎ。バンドはモーター付きのボートみたいなものだから、そこはぜんぜん違いますね。
--今回のライブでは、宮沢さん、高野さん、おおはたさんの間のエネルギー循環もありそうですね。
高野:そうですね。その場でしか起きないこともあるかもしれないし。
宮沢:3人だから、スケートのパシュートみたいなものかな(笑)。
高野:じゃあ、最初はおおはたくんに先頭になってもらって。
おおはた:わかりました(笑)。
--(笑)。最後にギターに対するこだわりを教えてもらえますか? おおはたさんは狙っているギターがあるとか。
おおはた:狙っているというか(笑)、Martinのギターで気になってるものがあるんですよ。ギターによっていろんな味わいがあるし、もちろん好きなんですけど、こだわりと言われると、あるようでないような…。
高野:わかる気がする。海外のプレイヤーと接していると、弘法筆を選ばずというか、高級じゃない楽器でも素晴らしい演奏をするんですよ。自分もそうありたいという気持ちもありますね。ただ、楽器自体が好きだから、いろいろ調べるし、目新しい機種が出たら興味を引かれますけどね。
宮沢:僕もこだわらないですね。ガットギターはいいものを何本か持っていますが、アコギはぜんぜんそんなこともなくて。好きなのはYairiのギターかな。手の届かない値段ではないし、日本の気候にも合ってるので。値段には関係なく、持っていて嬉しくなるギター、懐におさまりのいいギターがいちばんいいですね。
関連商品