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Darjeeling(Dr.kyOn×佐橋佳幸)『8芯二葉~梅鶯Blend』インタビュー
「好きなこと、楽しそうなことばっかりやりやがって!」と言われたいですね(笑)
Dr.kyOnと佐橋佳幸によるユニット Darjeeling(ダージリン)の2ndアルバム『8芯二葉~梅鶯Blend』(ハッシンニヨウ バイオウブレンド)がリリース。こちらを記念して、小田和正、山下達郎、佐野元春、渡辺美里……等々の大物から若手まで日本の音楽シーンを根底から支えてきた凄腕ミュージシャンである二人に音楽史そのものとも言える物語、新作と石橋凌やデーモン閣下などゲストについて等語ってもらいました!
大人の、音楽好きの為のレーベルをやってくれないかということで始まったんです
--Billboard JAPAN.com初登場インタビューになりますので、まず基本的なところから伺いたいのですが、そもそもDr.kyOnさんと佐橋佳幸さんがDarjeelingなるユニットを結成した経緯から教えて頂けますか?
Darjeeling「8芯二葉~梅鶯Blend」 全曲試聴ティザー
--あ、kyOnさんも佐橋さんといつか会うと思っていたんですね?
Dr.kyOn:僕は元々京都のプー横丁というレコード屋さんでずっとバイトしてたんですけど、そこで佐橋佳幸という凄いギタリストがいる噂は聞いていて。 佐橋佳幸:で、僕は東京だからパイド・パイパー・ハウスというレコード屋さんに通っていて、そこでマニアックな音楽雑誌を見てるとプー横丁の広告が載っていたりして「この京都のレコード屋さん、いつも良いの紹介してるな」と思っていて。だから後に仲良くなったときに「え、kyOnさん、京大時代にそこでバイトしてたんですか!」となって(笑)、「じゃあ、聴いてる音楽、一緒だったんじゃないの?」みたいな。そのうちに佐野元春さんがTHE HEARTLANDというバンドを解散して、The Hobo King Bandというバンドを結成するときに、そこでまた一緒になるんですよ。そうすると一緒に音を出す機会が増えるし、自分たちがそれぞれで仕切っているプロデュースの現場で「これ、kyOnさんに弾いてもらおう」とかその逆もあったり、そうしていくと2人のコンビネーションみたいなモノが何となく業界内でも注目されるようになってきて、それを聴きつけた大阪の読売テレビの人が「ふたりで音楽番組のホストをやりませんか?」と。--テレビでレギュラー番組を持たれたんですね。
佐橋佳幸:それが2005年ぐらいから始まった『共鳴野郎』という番組。それは2年以上続くんですけど、僕らに縁のあるアーティストがゲストとして来て、そこで一緒にセッションしたり、ちょっと『タモリ倶楽部』的なノリで「今日はSING LIKE TALKINGの佐藤竹善さんがゲストなので、彼の得意なゴルフを習いましょう」と。--そこは音楽じゃないんですね(笑)。
佐橋佳幸:ゴルフ場に行って竹善からゴルフを習うんです(笑)。で、そのゴルフ場で3人でセッション。そういう番組だったんですよ。あと、ゲストとのセッション以外にも僕らのオリジナル曲も1曲やることになっていって、1回ずつ交代で曲を作っていって、それを2年半もやっていたら曲が溜まりますよね? だからその番組が終わっちゃってからも「せっかく一緒に作ったモノは、この先もやっていこうよ」ということで、六本木にある新世界というライブハウスがあって、串田和美さんの自由劇場という劇場が元々あったところなんですけど、そこをアジトにして同じコンセプトでライブを定期的に続けていたんです。そうするとまた曲が溜まっていきますよね。あと、そこでも番組のときに呼べなかったゲストの方に来て頂きまして。ちなみに『共鳴野郎』の最終回のゲストは細野晴臣さんだったんです。で、その新世界でのライブの1回目も細野晴臣さんに来てもらって、それで始まるんですけど、またこのライブハウスが撤退することになって「kyOnさん、どうしよう?」と言っていたときに、ちょうどこのクラウンレコードさんで……去年? Dr.kyOn:一昨年ですね。2016年に小坂忠さんの『Chu Kosaka Covers』という渾身のカバーアルバムをレコーディングしまして、それにふたりで参加して。 佐橋佳幸:小原礼さんがプロデューサーで、僕らも呼ばれたんです。 Dr.kyOn:屋敷豪太とか鈴木茂さんとか小林香織ちゃんとかも参加してて。そこにこのクラウンレコードさんのね。 佐橋佳幸:篠田さんという方がいらして、僕は中学生のときにヤマハのコンテストにグループで出て特別賞みたいなものをもらってるんですけど、その篠田さんがいらしたバンドが準優勝ぐらいで、そこで優勝したのが佐野元春さんだったんですよ。1976年ぐらいの出来事。その頃に「面白い中学生がいる!」と可愛がって下さった方が今ここの偉い人なんですよ。それで「なんか佐橋が忠さんのレコーディングに参加しているらしいから、俺も見に行っていいかな?」って来たら、僕たちの仕事ぶりにビックリしたらしくて。「あのkyOnさんという人は誰?」ってみんなに聞いたりしながら調べたらしいんです。そしたらDarjeelingというユニットをやっていると。それで閃いちゃったらしくて、忠さんのレコーディングを終わってから呼び出しを喰らいまして「佐橋、話がある。思いついたことがある。クラウンレコードは演歌中心のレコード会社。だから、今は配信とかダウンロードの世の中なんだけど、一応まだパッケージで商売できてる会社なんだ。それで「洋楽でも邦楽でも構わないから良いものだったら聴きたい」という層がいるだろ。そういうところに向けて、2人でレーベルやってくんないか?」という話が来た訳ですよ。--おぉー!
佐橋佳幸:それで「Darjeelingというユニットをやっているらしいけど、アルバムとか出してないらしいじゃないか」ということで、Darjeelingとしてのアルバムも出していくことになったんですよ。で、クラウンさんは昔、細野晴臣さんのトロピカル三部作、鈴木茂さんの『BAND WAGON』、もっと前で言うと、南こうせつさんたちの良い時代のフォーク、そういう歌謡曲ではないモノをやってきたパナムレーベルがあって、その意思を継いでやれるようなレーベルをやってほしいと。演歌の会社だけど、そうじゃなくて「実はこういう会社だったんだよ」という色を出してくれるような、大人の、音楽好きの為のレーベルをやってくれないかということで始まったんです。- 今回はこの4アーティスト(石橋凌、伊藤俊吾(キンモクセイ)、デーモン閣下、中村まり)
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今回はこの4アーティスト(石橋凌、伊藤俊吾(キンモクセイ)、デーモン閣下、中村まり)
--それがソミラミソレコーズだったんですね。
佐橋佳幸:それでみんなとミーティングを重ねているうちに「Darjeelingもリリースするけど、2人がプロデュースしたアーティストの作品も同時に出していくことって出来る?」みたいな話になって。そのほうがレーベルが立ち上がった感も出るし「あの2人が何か始めたぞ」と伝わりやすいじゃないかと。それで川村結花さんや高野寛さんのアルバムをプロデュースしてリリースしていく流れになったんですけど、Darjeelingに関しては恐ろしい数のレパートリーがあるんですよ。それでアルバムを作ろうと思っていたら「2人はいろんなアーティストのプロデュースやライブのサポートを長年やってきている訳だから、縁のある人がその曲に詞を付けて歌う。みたいなことは出来ないかな?」というアイデアがスタッフから出て、「それ、面白いね!」ということになったんです。で、アナログ盤の時代のサイズ感、8曲という曲数にして、その半分は歌モノというコンセプトがなんとなく出来上がってきて、現在に至ると。で、レーベル名はkyOnさんの発案で。 Dr.kyOn:僕はもう完全に関西の人間で、佐橋くんは東京の人間。で、関西と東京では電圧の周波数が違うから、半分冗談で「60ヘルツのkyOnです」「50ヘルツ担当の佐橋です」みたいなことをいつも言ってたんです(笑)。今はどこにどんな家電を持っていっても使えますけど、昔は簡単に引越しが出来なかった時代があって。 佐橋佳幸:転勤先で家電が使えなくなっちゃったりね。 Dr.kyOn:西の60ヘルツで使っていた……例えば、パン焼き機(笑)。トースターを東京に持って行くとすぐ壊れちゃって使えなくなる。そんな時代が実はあったんです。要するに関西はアメリカのゼネラル・エレクトリック社が開発した発電方法で作ったから60ヘルツで、東京はドイツのAEG社で50Hzだったんですね。そんで、それぞれの頭文字を「GEAEG」って書いてみたら数多のミュージシャンが大好きな回文になって、しかもコードになっていて非常に音楽的であると。 佐橋佳幸:パワーコードですよ! いちばんロックっぽいコード! Dr.kyOn:だから「形はもうこれだ。あとは読み方をどうしようか」と。それで「グェなんちゃら」みたいな感じで無理やり読もうとしたりもしたんだけど(笑)、いちばん良いのは音階というか素直に日本語で読もうと。 佐橋佳幸:オリジナルの「サウンド・オブ・ミュージック」よりもペギー葉山のバージョンで「ドレミの歌」を知った国民としてはね、やっぱり「ソミラミソで良いんじゃないか」と。 Dr.kyOn:口に出して言うとちょっとこそばゆいんですけど。 佐橋佳幸:ちょっと噛みそうになる感じがまた良いなと、 Dr.kyOn:「ソミラミソ♪」という音程もなかなか良いなと。 佐橋佳幸:和な感じで良いじゃないかと。 Dr.kyOn:で、ちょっとネタバラシをしちゃうと、前作『8芯二葉~WinterBlend』にも今回の『8芯二葉~梅鶯Blend』にも1ヶ所ずつ「ソミラミソ♪」というメロディーを…… 佐橋佳幸:どっかで弾いてるんです! Dr.kyOn:ちょっとだけ散りばめてある。--枠な遊びですね!
佐橋佳幸:気付いている人、何人いるかなぁ(笑)? Dr.kyOn:クイズみたいになってる(笑)。--そんな試み、誰もしたことないんじゃないですか? レーベル名が……
Dr.kyOn:音として入ってる。 佐橋佳幸:あと、Darjeelingのアルバムはその都度の作品というよりは「シリーズとして作っていくべきなんじゃないか」という話があって、そこでkyOnさんがこの『8芯二葉』というタイトルを考えたんです。 Dr.kyOn:元々「一芯二葉(いっしんによう)」という言葉が元々お茶の世界にありましてね。葉っぱのいちばん上の二枚だけを摘んで作るお茶がいちばん程度の高い、美味しいお茶になると。だから僕らも、ベタですけど、1曲1曲をそういう気持ちで作っている、そういうアルバムにしたいなと思って。あと、8曲というのがすごく重要で、アナログ盤だったら表裏4曲ずつのLPみたいな。なんかもう20曲とか30曲入ってると辞典みたいなもんじゃないですか。作品というよりは。でも音楽を本来楽しく聴けるのは「ちょうど8曲ぐらいじゃないかな」という持論もあったりして、その辺もスタッフの方たちと話していたらまったく意見が一致したので、一芯二葉という作業を8曲分やっているということで『8芯二葉』という造語をタイトルにしたんです。あと『~○○Blend』はケースバイケースというか、出る季節に合わせて変えていこうと。それで1枚目は冬のリリースで、クリスマスの曲も入っていたりしたので『~WinterBlend』で、今回は春なので、でもまだ2月なんで「桜」はまだ早いなと。それで「梅」に「鶯」ぐらいだなということで『~梅鶯Blend』にしたんです。梅鶯(ばいおう)というのは浪曲師の名前にもあります。 佐橋佳幸:そういう意味では、どんな方がゲストに来て頂けるかはスケジュールのこととか現実的なところもありますけれども、選曲はなんとなく、今回のアルバムだったら「あんまり夏っぽい曲は要らないんじゃないか」とかね、そういうことは考えながら決めていたりして。あと、何にしろ元々ぜんぶ僕らがライブで散々やってきたインスト曲なので、歌モノとして出来ている曲じゃないじゃないですか。だから皆さんなかなか作詞は大変だったと思うんですけれども、皆さん面白がってやってくださって。僕かkyOnさんかどちらか、もしくは2人に縁のある方にお声掛けしてやって頂いているんですけど、今回はこの4アーティスト(石橋凌、伊藤俊吾(キンモクセイ)、デーモン閣下、中村まり)と。で、その曲に合わせたミュージシャンたちが手伝ってくれているという感じです。「好きなこと、楽しそうなことばっかりやりやがって!」と言われたいですね(笑)
--せっかくなので、その4組のゲストボーカル(作詞もそれぞれ担当)についても伺いたいのですが、石橋凌さんはお2人とどういう縁があるんでしょうか?
佐橋佳幸:kyOnさんがプロデュースされていたんです。 Dr.kyOn:ARBというロックバンドがありまして、一時期休んでいたんだけど、復活する時期があって、そのときにちょうどプロデュースをする機会があったんです。で、佐野元春さんのThe Hobo King Bandのツアー中に会ったりもして。 佐橋佳幸:たしかあれはZepp Sapporoだったと思うんですけど、前乗りしていて「今日、ZeppでARBがやってるから一緒に観に行こう」ってkyOnさんに誘われて行ったんですよね。僕はそこで初対面だったんです。で、今回、詞のことのご相談でkyOnさんから番号を聞いて電話して「1回、ご挨拶させて頂いただけなんですけど」と言ったら、「いやいや、僕は佐橋さんのこと、ずっとね、ある男から聞いていたんですよ」と仰って。ARBのエンジニアをされていた方が僕のソロアルバムとかのエンジニアと一緒だったんですよ。それで「凌ちゃん、佐橋くんのギター良いから、何か一緒にやってみたらいいよ」とずっと言ってくれていたみたいで。 Dr.kyOn:そういう繋がりもあったんですけど、とにかくこの曲(「タフ ラブ」)をね、歌手でもあり俳優でもある石橋凌が……「もう聴けば分かる」としか言いようのないぐらいの歌詞と歌声で表現してくれているのが凄い。--続いて、伊藤俊吾(キンモクセイ)さん。
佐橋佳幸:キンモクセイは僕がプロデュースしていたので、もう古い知り合いなんですけれども、ソロで最近自主制作したりして活動していると聞いて「あ、この曲(「泣き虫ケトル」)に良いかも」と思ってお願いしました。そういう意味では、ひらめき。で、kyOnさんも「巳年のぺリカン」に関してはひらめきで「これはデーモンでしょ!」って。--デーモン閣下とは、どういう縁があったんですか?
Dr.kyOn:さっき言ってた『共鳴野郎』にもゲストとして来てくれて、一緒に両国のちゃんこ屋行って、相撲の勉強する会をやったりね。他にもいろんなところで会って話したりしたことはあって、僕の場合は普段の……どこまでどう言っていいのかアレなんですけど(笑)、世を忍ぶ仮の姿のときに「なんか聴いたことある声だなぁ」と思ったのが最初の出逢いだったんですよね。見た目が違うから最初分からなかったんですけど。で、こちらはもっと遥か前からね? 佐橋佳幸:僕は幼なじみなんです。--悪魔と幼なじみだったんですね。
佐橋佳幸:そのときは、僕が小学6年生のときに5年生として転校してきた木暮くんだったんです。 Dr.kyOn:10万40年ぐらい前ですね。 佐橋佳幸:10万50年ぐらいかな? 最近、デーモン閣下という芸名にしたから「木暮」と呼ぶと怒るんですよ(笑)。--続いて、中村まりさん。
佐橋佳幸:六本木の新世界でのライブを始めたとき、1回目のゲストだった細野さんが「今度、佐橋くんもkyOnもさ、Darjeelingで僕のやっているレーベルのイベントにゲストとして来てよ」と言ってくれて、それで実際に行ったんです。そのときにいろんな方が出演されていたんですけど、そこに中村まりさんもゲストとして参加していて「何? この子!」ってなったんですよ。ギターはめちゃくちゃ巧いし、声も良いし! Dr.kyOn:1回聴いたら忘れられない。 佐橋佳幸:帰国子女の方なので、基本的に日本語では歌われないんですけど、素晴らしかったから細野さんに紹介して頂いて。いつか何か機会があればと思っていて、僕らのライブにもゲストで来て頂いたりしていたんで、今回「「Funky Tea Race」っていう曲、まりちゃんが良いんじゃない?」とkyOnさんが思いついて、それで参加して頂いたんです。--そんな4者4様のゲストボーカルも参加しているアルバム『8芯二葉~梅鶯Blend』の反応も楽しみなソミラミソレコーズなんですが、このレーベルとして今後どんなことをしていきたいと思っていますか?
佐橋佳幸:パッケージものが売れない時代になっているんだけど、配信、ダウンロードが始まったときにすごく思ったのは、やっぱり僕とかkyOnさんの世代は盤をプレイヤーにかけて、ジャケットや歌詞カードを見ながら、その行為も含めた上で作品を楽しんできた訳でしょ。なので、あの楽しみを残していきたいなと思いますよね。だから「パッケージで聴いている人に目がけて作ってよ」と言われたのは、とっても「よし!」と思うところだったんです。だから今回もね、曲順とか曲間をすごく考える訳ですよ!「……ここ!」ってやる訳ですよ。ダウンロードと配信はその行為がすべて台無しになりますから、それはどうにも納得できないなという気持ちがある。なので、このCDにはそういった想いは多少入っているかな。あとは、とにかく楽しくやらせて頂いているので、これからどんどん「好きなこと、楽しそうなことばっかりやりやがって!」と言われたいですね(笑)。8芯二葉~梅鶯Blend
2018/02/14 RELEASE
CRCP-40542 ¥ 2,547(税込)
Disc01
- 01.J・Tea
- 02.泣き虫ケトル
- 03.タフ ラブ
- 04.2000m above Sealevel
- 05.Funky Tea Race
- 06.遥かなる故郷
- 07.巳年のぺリカン
- 08.MONTE CRIST BOP
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