Special
ポジティヴな感情が場内をも支配する素晴らしい一夜
ジャック・ブルース/Char/屋敷豪太 "Absolute Live Japan!!"
2012.8月2日(木)at Billboard Live TOKYO
ポジティヴな感情が場内をも支配する素晴らしい一夜
2003年に伝説たるジャック・ブルース、Char、サイモン・カークという組み合わせで「ROCK LEGENDS SPECIAL」というライブが予定されていたものの、ブルースの癌治療のために中止という経緯。今回はドラムに屋敷豪太を迎え、ブルースとCharの激突がようやく現実をみた。ブルースは現在自身のプロジェクト/JACK BRUCE & HIS BIG BLUES BANDを邁進中にて、そちらの音楽性としてはロックというよりもブルーズやジャズのフレーヴァーを多分に含んでおり、Creamタイプのロックトリオとしての演奏は久方ぶりのことである。またCharとしては、盟友ジム・コプリーやハービー・ハンコック&The Headhuntersのベーシスト/ポール・ジャクソンとのユニットはもちろんのこと、99年にはティム・ボガード、カーマイン・アピスらと共に結成をしたCBAという例もあり、改めてのレジェンダリーなロック・パーソンとの共演には注目が集まる。彼らと共にトリオを構築するのは、Simply Redなどで名を鳴らし、英国ロックシーンの中枢に食い込んだ屋敷豪太ということで、人選としては妥当でありながらも異色という顔合わせが話題となったのである。
当日の演奏曲目としては、大方の予想通り全曲がCreamのナンバーとなっており、この日(8月2日/2ndステージ)はアンコールを含め9曲が演奏をされたわけだが、各曲において火花を散らすフリーフォームなインプロヴィゼーション(即興演奏)が展開された。正しく、我々が夢見たロック・トリオとしての姿である。
21:40分、彼らはステージに登場をして一礼、ピース/Vサインをオーディエンスにアピールしながら演奏はスタートをする。ブルースはネックのインレイにLEDを埋め込んだWarwickのベースを、またCharとしてはCreamを意識したGibsonのSGモデルを用いての演奏で、①としてはスローな出だしではあるが、とにかく、半ば生音ともいうブルースの重低音が凄まじい。オーヴァー・ピークを物ともせず、ブルースとしては面目躍如ともいうサウンドを展開するが、それらに呼応するCharのギターもじつに饒舌に、早くもトリオとしてのケミストリーが反応をみせる。豪太のドラムも、これまでのヒストリーからは直接的なジンジャー・ベイカーからの影響は見受けられなかったものの、元祖としてのブルース、そしてギター始めの頃からエリック・クラプトンを始祖としたCharらの演奏にインクルードされれば、まるでベイカー生き写しのタム廻しを十二分に駆使、対等ともいうトライアングルを形成するのである。
続く②でもスリリングなジャミングが繰り広げられるものの、彼らとしてはアイコンタクトもなくサウンドのみでコミュニケーションを計っており、極めのポイントのみで息を合わせ、新たなる展開に突入すること、クールな光景に写る。それでも、彼らの印象がドライで攻撃的というものではなく、暖かみのあるそれであるのは、Char、豪太両氏のブルースに対する敬意の表れでもあるだろう。
オリジナルのCreamバージョンにおいてはクラプトンがリード・ヴォーカルを担っていた③ではCharがメインのヴォーカルを受け持つ。本曲においては、ライブなどで幾度となく演奏を披露してきたCharではあるが、とにかくクラプトンのソロワークをパーフェクトになぞっていたのがこれまでの特徴であった。しかしながら、この日のプレイは独自のアプローチとなっており、7th音をフックとするフレージングが心憎い。本曲のみならず、この日のCharとしては音のトーンからタイム感、多彩なるメロディとスポンティニュアスな感覚など、近年においては出色のパフォーマンスである。
メドレーで演奏される④においてはブルースのベースと豪太のドラムが完全な融合をみせ、Creamの楽曲を演奏しながらも、それぞれのプレーヤー個性が表現される点が興味深い。それは⑤も同様で、かのコードワークが披露されれば、ブルースは元よりCharが現在持ちうる個性のルーツが透けること、本ユニットの裏面としての存在意義にもなり得るであろう。
もちろん、ブルースのヴォーカルにも艶があり、往年のパフォーマンスと何ら変わりはないというのは驚異的でもある。以降、彼らのジャミングは更に熱を帯び、円熟の境地をもって展開がされるため、スリリングでありながらも心地よさをも伴うという理想的なステージとなった。
折しものCharが「My Hero!」としてブルースを紹介していたように、偉大なるブルースを主役とするアティテュードには好感が持て、ミュージシャンとしてのエゴも無縁、ブルースをデディケイトするには現状最良のトリオでもあった。ポジティヴな感情が場内をも支配する素晴らしい一夜であったのは間違いがない。
Writer:御法川裕三
Photo:Sakomizu Moe
アイコン~ベスト・オブ・クリーム
2012/09/05 RELEASE
UICY-75252 ¥ 1,153(税込)
Disc01
- 01.アイム・ソー・グラッド
- 02.ホワイト・ルーム
- 03.ストレンジ・ブルー
- 04.英雄ユリシーズ
- 05.暗い星の下に
- 06.クロスロード (ライヴ)
- 07.スプーンフル
- 08.政治家
- 09.バッヂ
- 10.サンシャイン・ラヴ
- 11.アイ・フィール・フリー
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