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ギター・マガジン編集部にインタビュー「“出会い事故”みたいなものが本を読んで起きたら嬉しい」



インタビュー

 「『ギター・マガジン』が面白い」。リットーミュージックの老舗ギター専門誌、通称『ギタマガ』の勢いが止まらない。2017年に入ってからも、歌謡曲、モータウン、AOR、ジャマイカなどなど、これまでの“ロック”や“ギターヒーロー”といったパブリック・イメージを覆すような特集を連発。デザインにもこだわった誌面でヒットを連発している。快進撃を続ける『ギタマガ』編集部から、編集長の尾藤雅哉氏と副編集長の河原賢一郎氏、またマーケティング・ディレクターの渡邉光一氏から話を聞いた。

10年殺しの特集主義

−−ここ最近の『ギター・マガジン』は攻めた特集や企画が多く、「『ギタマガ』が面白い」という声を各方面から聞きます。特に、これまで『ギター・マガジン』に触れていなかったタイプのリスナーからもお名前を耳にすることが増えている気がするのですが、編集部内ではそのような実感はありますか?

尾藤:ありがとうございます。毎号の反響はすごく大きくなりましたね。今の編集部員には「読者層や年齢層のターゲットは考えなくていい」という話をよくしていますね。ひとつの特集でも、年配向けの内容だと思う人もいれば、新鮮だと感じる若者もいるかも知れない。自分たちがやりたいことやおもしろいと思うことをしっかりと取材して、自分たちが読みたい本にすれば、それが読者にも興味を持ってもらえる第一歩になるだろうと考えています。

渡邉:特集主義に転換してからは、「雑誌が売れない」と叫ばれる現在において平均実売が伸びています。ありがたいです。

尾藤:『恋する歌謡曲。』(2017年4月号)、『ニッポンの偉大なギタリスト100』(2017年8月号)はすでに完売して販売元にも在庫がないんです。いろんな方から見本誌が欲しいと言われるのですが、僕らの手元にもなくて…嬉しい悲鳴ですね。

−−個人的にも『恋する歌謡曲。』は印象的でした。『ギタマガ』と言えば、トップ・ギタリストが表紙に大きくギター一緒にと載っているという画のイメージも強いですが、この号の表紙はかなりテイストが違いますよね。

尾藤:悩みに悩んで“架空の音楽番組に時代を超えてスターが集う”というコンセプトで描いてもらったイラストにしました。誰も知らないことを取材して伝えるという点については、編集部全体で共有していることですが、この号がまさにそうですね。当時の歌謡曲では、多くの人が口ずさめるような有名な曲でも演奏者がクレジットがされていないことが多くて、誰が弾いているのか分からなかった。でも、そんな名手たちこそが日本の音楽を形作ってきたのではないか?と思って取材して調べてみると、矢島賢さんや水谷公生さん、芳野藤丸さん、松原正樹さん、いま福山雅治さんのバックで弾いている今剛さんのような方々が作品に華を添えていたことが判明して。技術もセンスもあるプレイヤーが、良い作品を作り、アイドルやフロントのアーティストを支えていたんです。この号では、水谷公生さんや鈴木茂さん、さらに小室哲哉さんなどに登場していただき、当時のことを語って頂きました。40年ぶりに再会したというCharさんと野口五郎さんの対談もすごく大きな話題になりましたね。

−−新しい切り口の特集が通りやすいということは、編集部内の風通しが良いということだと思います。先ほど渡辺さんからも「方針転換」という言葉もありましたが、現在の状態になるきっかけはあったのでしょうか?

尾藤:僕が編集長になって3年くらいになるのですが、大きなきっかけとして、これからの雑誌に何が求められるのか?を考えたことがあって。かつての雑誌は、情報のスピードも一番早く、雑多な情報の集合体として機能していた。情報のハブ(拠点)になっていたというか。でも、今はネットが足の速い情報を無料で提供している。そのスピード感に比べると月刊紙の歩みはものすごく遅い。そういう状況の中で、既に世の中に出ている雑多な情報を改めて梱包して出す、というのは少し時代に合っていないのかなと思いました。

 それよりも、ひとつの情報の集合体であったほうが、重さがあるというか。立ち読みしてもらった時にも「読み切れないから買って帰ろう」と思ってもらえる。なので編集部にも“10年殺しの特集主義”ということを言うようになりました。例えば10代の読者が『歌謡曲』の号を買ったとして、その時には特集の内容にそれほど興味がなかったとしても、20代や30代になった時に、また違った見方ができるはず。そういう意味で、10年寄り添っていける“ものづくり”として雑誌が違った存在感や意味を持ってくるんじゃないのか、と考えたんです。


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