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GACKT 『UNTIL THE LAST DAY』インタビュー
“僕らは本当に変わらなければいけない”
昨年、40枚連続TOP10入りを果たし、男性ソロアーティストにおけるシングルTOP10獲得作品数記録を更新したGACKTが再登場! 東日本大震災を経験した日本人には今、どんな変化が必要なのか。武士道を磨かれたという父とのエピソードも含め、根源的な強さや優しさに溢れるインタビューです。
日本人は美徳の中で生きている
--GACKTさんにとって、2011年とはどんな1年だったといえますか?
GACKT:やっぱり日本人が日本人である理由を、考えなければいけない年だったんじゃないかって思うかな。震災っていうのは日本全体にとって ―――それは国という意味ではなく、個人々々にとって、“日本人とは?”ってことを考えさせられるべき、大きな事態だったと思う。“日本人らしさ”って一体何なのかを見つめ直す。凄く大切な機会だと思うんだ。
--GACKTさん自身、自らを振り返った所はありますか?
GACKT:ん~……、そうだな。やっぱり日本人は美徳の中で生きていると感じたかな。例えば海外だとしたら、当たり前に暴動が起きてもしょうがない状況だったと思うんだよ。犯罪や殺人が多発してもおかしくない状況だった。
でも、これだけの被害がある中で、助け合おうとする行為が数多く見られた。もちろんそうじゃない人もいたけれども、行動に伴う心が美しくあること。心の灯し方、生きて行くことへの考え方が美しくあるということが、根底にある民族なんだと感じたよ。
--言葉にするなら、武士道に通じる部分がある?
GACKT:だと思う。例えば、困っている人がいれば手を差し伸べる。日本人にとっては当たり前に思えるような考え方も、海外では少ないんだよ。地球上を見てみれば貧富の差は激しいし、それが当たり前になっている国においては、手を差し伸べる行為が愚かだとする場所だってある。
でも、日本人はそうじゃない。隣人でもなく、顔も知らない人たちに手を差し伸べようとする精神が存在するんだ。理由はないんだよ。やらなきゃって思う心の動き方が、美徳なんじゃないかな。
--また、GACKTさんは震災直後より、Twitterを始めました。
GACKT:まあ、僕の場合はもう“ツイッター”じゃなくて“コタエッター”になってるよね(笑)。みんなが質問してくることに対して、答える1時間。僕はそういう風に使っている。Twitterを通して、少しでもみんなの勇気になればいいと思ってやっているだけであって、何かをつぶやかなければいけないとは思ってないからさ。人のつぶやきに興味ないし。
ただ、あのタイミングで“被災地の人たちもTwitterは見られる”って聞いて、みんなに対する呼びかけとして、メッセージとして使うようになった。今も、Twitterはたまに時間ができたらやっているんだけど、時間を決めているんだよね。1時間、答えられるだけの質問に答える。
自分が共感できる質問を他の人がしてくれて、その答えを読んで「頑張ろう」って思ってくれるんであれば、意味があるんじゃないかと思ってる。別に、世の中の大多数の人に見てもらいたい訳じゃないから、興味が無い人は見なくていいしね。
僕はたまにしかやらないけど、やる時は1時間、怒涛のように答えていくから、恐らく僕をフォローしている人たちのタイムラインは一気に埋まると思うんだよね(笑)。それが嫌だったらフォローを外してしまって構わないから。
--あの返答を見ていると、ファンに対する愛を感じますよ。
GACKT:これは奇麗事に聞こえるかもしれないけど、自分が年を重ねて大人になって、自分だけの人生じゃなくなってきた。自分だけのためではない音楽活動、表現活動に変わってきたんだよ。誰かの背中を押すための存在であっても良いんじゃないかって。30歳までの自分は、己の存在理由を探すための自分だった。でも、それからの自分は、誰かの背中を押すための人生が始まったというか。
--それは明確に30歳から変わったのでしょうか?
GACKT:自分の人生が30歳までだっていうのがあったから、超えた段階で余生というか余暇に入った訳よ、僕の中で。それまでは死ぬのが怖くてさ、30歳を迎えてゴールを超えた時に「ここからは余暇だな」と思ったから、一日一日をもっとできる限りまでやる。明日があるなんて思ってないから、今日をどれだけ熱く生きていけるか。明日が来なかったとしても、後悔しない一日であろうと思っているからさ。無茶な生き方をしているとは思うんだけど、心の持ち方がまったく変わったっていうのはあるよね。死ぬことに対しての恐れはまったく無くなったんだ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
強いか弱いかを、競いたい訳じゃない
GACKT:もちろん誰だって死にたいとは思っていないだろうし、死んで楽しいと思う人はいないと思う。これは覚悟の問題だと思うんだ。みんなノーリミットな生き方をしているよね、感覚的に。無限に時間が続くように思っている人がいっぱいいるけど、時間は本当に限られている。
僕は元々、もの凄く身体が弱くて、殆どを病院ですごすような幼少期だったから、今こうやって動けていること、今生きていることや無茶ができることに感謝してる。でも、これがいつまで続くかなんて、誰にも分からないし僕にも分からない。だからこそ、身体をいたわるのではなく、生きていることを感じていたい。
--個人的に、GACKTさんはミュージシャンで最強だと思っているので、その話は驚きです。
GACKT:アッハッハッハッハ!
--変な話になりますけど、GACKTさんの中で「ライバルだな」と思う方っているんでしょうか?
GACKT:別に誰かよりも強いか弱いかを、競いたい訳じゃないんだよ。自分の弱さと立ち向かうためにやっている訳だから。たまにTwitterでさ、「ミュージシャンの○○さんより強いですか?」なんて質問がくるんだけどさ、強いか弱いかなんて興味ないよ。誰かを守るためだけにやっている訳だから、そんなにくだらない質問はするなって思うよ(笑)。守るべき人を守らないのだとすれば、どんなに鍛えても意味がないよ。
例えばさ、昔から緊張感を持って生きていたり、身体を鍛え続けたりとか、そういう行動に対して「何の意味があるんだ? そんな時代じゃないだろ?」って言われることがあるけど、違う。そういう時代なんだよ。「どんなことが起きても大丈夫だ」と意識しておいたら、誰かを守れるかもしれない。何かが起きた時に心が壊れたら、人は守れないよ。
--そういう部分で、シンパシーを覚えるミュージシャンはいますか?
GACKT:ん~……、そもそもミュージシャンという人種は快楽主義者が多いからなー(笑)。そういう意味では、僕はミュージシャンってカテゴリーじゃないかもしれない。精神的には、格闘家に近いかな。侍イズムや武士道みたいなモノは、小さい頃から親を見てきて磨かれた部分もあると思う。
やっぱり親父の影響って凄くてさ、ガキの頃、親父の運転する車に乗ってたら、ちょっとしたことで数人の男に絡まれたことがあったんだよ。当時、既に僕はヤンチャしていたし、腕に自信もあったから、「うわぁ……」って思いながらも、いかなきゃいけないって覚悟を決めた。
そんな僕に対して、親父は「車の中で待ってろ」ってひとりで出て行って、そいつらをコテンパンにして帰ってきた。その時の親父が一番怖かったからね、「……めっちゃ怖い!」って(笑)。
--それも凄い経験ですね(笑)。ただ、やっぱり活動のペースは尋常じゃないなって心配になる時はありますね。
GACKT:「もっとペースを落とした方が……」って言う人がいるけど、僕のことを心配する前に、お前のペースを上げろっていつも思うんだよ(笑)。僕がペースを決めてやっている。同じ時間をみんな生きるんだとしたら、僕は苦しい方や険しい道を選ぶ。その方が、同じ時間で得られるモノが多いから、精神的にも肉体的にも、経験も感動も。
--そういうGACKTさんだからこそ、自分は今まで発表してきた作品の中でも、今回のニューシングル『UNTIL THE LAST DAY』のような質感の楽曲が好きなんですよね。
GACKT:映画「ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-」のイメージにも合わせて作っているし、自分の人生観みたいなモノを落とし込んで書いてはいるんだけど、自分が傷付いて死にそうになっている時、目の前で逃げ出そうとしている者に対する死に際のメッセージなんだ。
怖いことっていうのは、死ぬことじゃない。逃げることを選択して、逃げ続けなければいけない人生を選んでしまったことなんじゃないのか。ってことを、凄い上から目線で言ってる曲なんだよね(笑)。やっぱり向き合うからこそ得られるモノがあって、そこに生のあたたかさや温もり、安らぎを感じることができる。逃げたら何も見えないよ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
愚かさが続いていくのであれば、僕らの未来はない
--昨年の震災を受けて、逃げ出したくなった人はたくさんいたと思います。この曲の歌詞に、“涙を流すのは・・・ そうさ、今じゃない”とありますが、誰もが泣きたかった状況で、いち早く「SHOW YOUR HEART」を立ち上げたのがGACKTさんでした。
GACKT:僕がやっていることなんていうのは、別に全員の命を救えた訳でもない。やらなければいけないことを、僕ができる範囲でやっただけのことであって……。僕が行動したことで、多くの仲間が一緒に動いてくれた訳さ。
新潟の仲間は、週に2~3回、被災地に車を運んでた。それを全部、手出しの金でやったんだよ? 凄い金額だよ。当時、僕は東京で集めた物資をどうやって保管して、どうやって届けていくのか。その段取りをやっていたから被災地には行けなかったんだけど、その時に“僕はこういう仲間がいて、本当に幸せだ”って思ったことがあったんだ。
その彼は「誰かからありがとうって言われるためじゃない。こういうことをやっている自分が、かっこいいと思ってるから、こんな自分が好きだから、やってるだけなんですよ」って言うんだ。もちろん、それだけじゃないんだよ。けど、人から賞賛されるためにやってる訳じゃなく、これは単なる自分のエゴだからって言える彼が、自分の仲間として誇りだった。彼の活動は多くの人たちの手助けになったし。
「SHOW YOUR HEART」で活動していく中で、バッシングされることも多々あったんだよ。それで傷付いてる子たちもいっぱいいた訳さ。そんな子たちにこの話をして、「傷付いてる場合じゃないだろ? 実際に苦しい想いをしている人たちは、現地にいっぱいいるぞ。笑え、笑え」って。ああいう時こそ、人の深い所がよく見える。
中には、自分は何にも汗かかないで、人の汗のかき方に文句つける奴だっていっぱいいた。そんなのはほっとけばいいんだよ、世の中全員が同じように動くことなんか無いから。ただ、自分の人生の幕が閉じる時を、「そんなに悪いモンじゃなかったな」って笑って迎えられるのなら、そのためにやらなければいけないことをやってもいいんじゃないかな。それが僕らしい生き方だと思ってるよ。
--今のお話は、『UNTIL THE LAST DAY』で伝えようとしていることをそのまま表していると思います。
GACKT:そうだね。自分のことを信じられない、自分の行動に信念を持てない奴に、他人を信用することができるのか。自分の信念を持ってこそ、要は決意しろ、そして行動しろってことなんだけどね。それが生きるための大きな原動力に繋がる。
--この楽曲が、映画「ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-」を通して観客に届く、という点も期待できますよね。
GACKT:だいぶ上から目線だからね(笑)。僕はドSな性格だからね、こういう曲を歌う時は、すっごい上から目線でガツガツいくからさ、勇気のない子たちは、この曲を聴いてケツ叩かれてくれって話だよね。
--では、リスナーに対して、『UNTIL THE LAST DAY』を聴いて何を感じて欲しいと思いますか?
GACKT:もちろん、何を感じるかは自由なんだけど、やっぱり変わらなければいけないんじゃないかって思うんだよ。2012年って、色んなことが言われている年なんだよ。マヤの予言書には2012年までしか物語が書かれていないとか、今年の年末で終わるとか色んな説があるし、自分たちの在り様によっては、本当にあり得る話だよね。だからこそ、僕らの心の改革が必要だと思う。
人類ってこの150年間で、もの凄くダメな方に向かいながら、人口増加を続けている。本当に変わらなければいけない所なんだ。僕らは本当に変わらなければいけない、そう言われている年な気がする。これに気付けないまま、人間の愚かさが続いていくのであれば、僕らの未来はないよ。変わらなければいけない所なんだ、きっと。
--変われる、と思いますか?
GACKT:変われる、ではなく変わらなければいけない、じゃないか? 変わるんだよ。できるかどうかの話じゃないんだ。やるかやらないか、それだけの話さ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
UNTIL THE LAST DAY
2012/02/22 RELEASE
AVCA-49497 ¥ 1,980(税込)
Disc01
- 01.UNTIL THE LAST DAY
- 02.UNTIL THE LAST DAY (D.A.Edit)
- 03.UNTIL THE LAST DAY (instrumental)
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