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NELL/ネル来日直前特集 ~コールドプレイにも愛される韓国の国民的ロック・バンド。その真髄に迫る。

 近年、韓国の音楽シーンは、ここ日本のリスナーにとってさらに身近なものになっている。TWICEに代表されるメインストリームのK-POP勢は、今後ますますJ-POPのヒットチャートに進出する兆しが濃厚だ。また、インディーズ・シーンも身近になり、HYUKOH(ヒョゴ)のような日韓を繋ぐスターも生まれつつある。

 もちろん、韓国の音楽シーンはそれだけではない。本稿の主役であるNELL(ネル)は、いわばメインストリームとインディの中間。オルタナティブで気骨あふれる存在感を放つ、韓国のロック・バンドだ。確固たるキャリアを持つ彼らの音楽性を簡単にレジュメすることは難しいが、部分的にエレクトロニクスも導入しつつ、壮大なバラードから激しいロックまで奏でるその音楽性は、トラヴィスやスノウ・パトロール、ミューズらのUKバンドにも通じる。繊細な表現とスケール感の両立は、多くのバンドが羨むような彼らの武器だ。

 そんなNELLが、11月13日と14日に東阪単独ジャパンツアーを開催する。今回、Billboard JAPANでは、ここ日本でも強力なファンベースを築きつつある彼らを特集。韓国の音楽事情に精通する日韓音楽コミュニケーターの筧 真帆氏による解説と、本人たちのコメントを通じて、この注目すべきロック・バンドのキャリアと魅力について迫ってみたい。

コールドプレイに愛されるロック・バンド

 今年の春にコールドプレイが韓国ライブを行った翌日、メンバーのクリス・マーティンがTwitterに「ありがとう韓国。大好きな韓国バンドNELL」とコメントしながらNELLの楽曲「Gray Zone」のリンクをアップした。実際、コールドプレイのライブへメンバー皆で見に行っていたNELLボーカルのジョンワンは、寝耳に水の話だったという。

「子供の頃から現在まで、ずっと大好きで聴き続けてきたバンドのメンバーが、僕たちの音楽を紹介したということを初めて知ったとき、どんなに嬉しかったことか。ミュージシャンに好まれるミュージシャンになることは、多くの音楽家たちの目標の一つだと思う。それがコールドプレイならば、当然こんな幸せなことはない」

 高校卒業直後の99年の春に地元の4人でバンドを結成し、2001年にデビューしてからメンバーも変わらず現在に至る。インディーズで活動を始めて2年ほど経ったころ、韓国でカリスマ的なロックアーティストのソテジによってスカウトされ、メジャーへ進出。2008年にリリースした「記憶を歩く時間」は大ヒットとなり、当時インディーズ出身バンドとしては地上波の音楽番組で初の1位を獲得。現在も歌い継がれる代表作となっている。

 韓国音楽の主流はダンス系が多くを占め、バンドの場合は2極に分かれる。インディーズには5千組ほどのバンドが存在すると言われているが、メジャーシーンには芸能事務所による売り出しありきで始まった企画バンドが数えるほどしか居ない。そんな環境のなかNELLは、2019年には結成20年のカウントダウンも始まるキャリアの持ち主でありながら、現役感を持ってして第一線で活躍している稀有な存在だ。


▲NELL「記憶を歩く時間(기억을 걷는 시간)」

 NELLの音楽は初期作から一貫して、オルタナティブでサイケなサウンドと、繊細で情緒的なリリックを特徴とする。作詞作曲を手がけるジョンワンは、幼いころから洋楽MVが流れる音楽チャンネルをよく観ていて、6歳の時にスウェーデンのデュオ、ロクセットを大好きになった。また小学生から高校3年生までのほとんどを、カナダ、スイス、バーレーン等で生活しており、韓国音楽にふれる機会はほぼ無かったと言う。

「音楽はこれまで感じたものがベースになるわけだから、やっぱり子供のころに聴いていた欧米の音楽が、大人になっても音作りの感性として活かされているんじゃないだろうか」

 育った環境ゆえ英会話も苦労しないジョンワンは、リフレッシュに海外へ出ることもしばしばある。10月の半ば、ジョンワンとベーシストのジョンフンに加え、旧友のシンガーとの3人でLAへ出かけ、心身ともに刺激を受けてきた。

「久しぶりに余裕のある休みを取った感じだ。最初は見たいショウも沢山あるラスベガスに行こうとしていたが、先日のテロがあったので、急きょLAに予定を変更した。ドジャースの試合も見て、ハリウッドボウルで開かれたデペッシュ・モードのライブや、ライブハウスでローカルバンドのステージも観に行った。音楽的な刺激といえばやっぱり、デペッシュ・モードのライブが大きかったと思う。結成してかなりの時間を重ねたバンドにもかかわらず、彼らは依然としてエネルギッシュで、むしろ今がどんな時代よりもかっこいい。数多くのライブを観て来た中で、指折り数える素晴らしいショウだったと言える」


▲ファン撮影による2017年10月のディペッシュ・モード、ハリウッドボウルでのライブ映像

NELLと日本「いずれ日本のアーティストとのコラボレーションにも挑戦してみたい」

 NELLには「Tokyo」という曲があるほど、ジョンワンはプライベートで度々日本を訪れ、そのたびにSNS等でもアップするため、日本ツウなことがファンの間でも知られている。

「東京には年に2~3回ほど旅行にでかけるが、一度行くとかなり長く居るほうだ。色んなことをするというよりは、ひとつの町に滞在して、その土地の情緒を感じようとする。日本に住んでいる友だちと会ったり、カフェや居酒屋で音楽を聴いたり、歌詞を書くことも好きだ。韓国で体調が悪くても、なぜか日本へ行くと治るんだよ(笑)」

 東京でも彼のそばには、ファッションや音楽を始めとしたクリエイティブな世界で活躍する友人が多数集う。2年前の来日の際に発表した新曲は、最後の歌詞の仕上げを東京のホテルで行った。そんなふうに日本滞在中に生まれた曲たちは、実際のところ結構あるそうで、日本人としてはうれしい限りだ。


▲NELL「ToKyo(도쿄)」(Official Live Ver.)

 本国では5000人規模のワンマンを開催するNELLの主な海外遠征先は、日本である。今年の1月、台湾での初ライブを行ったことを除き、意外にも海外で定期的にワンマンを行っているのは日本だけだ。日本でのワンマンは、2013年に原宿アストロ・ホール、前回が2015年の赤坂BLITZ、そして今年が東京と大阪2都市での開催となる。日本でライブをする魅力とは何だろうか。

「日本の会場は、特に音響面でよく出来ているという印象で、ステージにあがる立場として魅力の一つだと感じる。真剣にライブを観てくれるオーディエンスの姿も、とても魅力的だ。今は2年おきのライブになってしまっているが、次回はもっと短い間隔で開催したいと思っているよ。今回ライブのでは、去年リリースしたアルバムの曲からも沢山できると思うので、楽しみにしてほしい」

 また今回、大阪でのワンマンは初となるが、NELLの日本初上陸ライブとなった2008年のサマーソニックでは大阪会場にも出演した。「8月のステージだったが、生きてきた中で最も暑い夏だったんじゃないかと思うほど、かなり暑かった記憶がある。フェス以外で大阪に行ったことがないので実際はあまり知らないんだけど、今回のライブを機にもっと知りたい」とジョンワン。グルメな彼だけに、食の街・大阪をぜひとも堪能してもらいたいものだ。


▲NELL「Full moon 」(Animation Music Video)

 現在もライブと旅行以外は、ほとんど楽曲制作に時間を割いているというメンバー。来年にはアルバムをリリース予定とのこと、加えて日本での次なる夢も語ってくれた。

「ミュージシャンにはアルバムとライブが最も重要。この2つを通してさらに多くの出会いを持つことが、もっとも幸せなことだ。いずれ日本のアーティストとのコラボレーションにも挑戦してみたい」

 日本への期待を胸に、NELLの4人が2年ぶりにやってくる。

Text:筧 真帆

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