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ベック 最新インタビュー~最新作『カラーズ』、故トム・ペティ、ファレルとのコラボを語る
1990年代初頭にデビュー作をリリースして以来、様々なジャンルを取り入れながら常に革新的かつ良質なポップ・ミュージックを作り続けてきたベック。2017年10月、約3年ぶりのニュー・アルバム『カラーズ』をリリースし、日本武道館と新木場STUDIO COASTで行われた来日公演も大盛況だった彼が、新作をはじめ、前作『モーニング・フェイズ』での【グラミー賞】受賞、故トム・ペティ、現代のポップ&ロックとヒップホップの関係性やファレルとのコラボについて米ビルボードのインタビューに答えてくれた。
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ただただ心からの作品を作りたかっただけ
――1996年当時、『オデレイ』が【グラミー賞】の<最優秀アルバム賞>にノミネートされたことで【グラミー賞】は先進的と評価されました。そして2015年、あなたの作品の中でもトラディショナルな1枚『モーニング・フェイズ』がビヨンセのアルバムを打ち負かし<最優秀アルバム賞>を受賞した際、アイロニーは感じましたか?
ベック:誰が受賞するか、っていうのはすごく不思議だよね。2001年には、<最優秀アルバム賞>にレディオヘッドの『キッドA』とノミネートされていたんだけど、賞を獲ったのはスティーリー・ダン(『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』)だった。彼らはレジェンドだから当然だけどね。
――ある意味、2015年の時はあなたが遅ればせながら評価されたレジェンドだった。
ベック:僕はまだスティーリー・ダンやトム・ぺティが全盛期だった頃のレベルには至ってなくて、いまだ成長期にある。彼らのように10年間ずっと紛れもなく成功したと感じるような安定期があったことってない。【グラミー賞】の後、僕の音楽を知らなかった若いファンがどれだけ知ってくれたと思う?クラシック・ロックのステーションで24時間かかってるわけじゃないし。なんと言うか新人のように感じた。みんなと同じように驚きだったよ。授賞式の途中、同伴者たちにも「もちろん、ビヨンセが獲るに決まってるよね」って言ってたわけだし。
――授賞式終了後、彼女と話すことはできましたか?
ベック:その時は話さなかったけど、最近話したよ。その会話にはとても感謝している。【グラミー賞】の後、彼女宛に長い手紙も書いた。2人のミュージシャンを対立させてる風潮がネット上であったから。音楽において、どちらのサイドをとるとかって、すごく馬鹿げてるって思うよ。
――カニエとは話したんですか?
ベック:話してないんだ。でも彼の知り合いを通じていくつかのメッセージを貰ったよ。
――カニエはあなたの奥さんと話したと言っていました。
ベック:そう、何度か話したみたい。彼が僕に電話してくることはなかったけれど、とても思慮深く、滔々としていた。(カニエがベックのスピーチを妨害したことについて)僕は気にしてないよ。だって、僕の音楽について彼が知っていたからわからないから。彼が言わずとしていたことは理解できたし。
――トム・ペティの訃報を知った時の心境は?
ベック:胸が張り裂けそうだった。(9月25日にハリウッド・ボウルで行われた)彼の最後のショーを観に行っていたんだ。昔一緒にショーをやったことがあるけれど、一緒に仕事したり長い時間を過ごすことはできなかった。僕が駆け出しの頃にいくつか自分の曲をカヴァーしてくれたのは、すごく嬉しかったね。あれほどのクラスのアーティストで、あんな風に手を差し伸べてくれのは彼が初めてだった。彼らは事実上LAバンドだと思うね、ビーチ・ボーイズと同じように。彼らの音楽を聴くとLAの陳腐な部分でさえ、理想的に思えてしまう。ヴァリーでの美しい夏の日、そういったフィーリング。ここで生まれ育ったのであれば、家族の一員を失うのと同じ感覚だよ。
――セレブの死からテロ、政争など、ここ数か月間暗いニュースばかりでしたが、そんな中で“パーティー・アルバム”をリリースすることに違和感は感じますか?
ベック:複雑なんだ。『モーニング・フェイズ』より『カラーズ』を(先に)出したかったけど、そう上手くいかなかった。ツアーするためにアルバムをリリースしなければならなくて、その時点で既に前作から6年が経ってた。プロモーターも「アルバムが必要だ」と言っていた。『カラーズ』のほとんどは2013年から2014年にかけて書かれたもので、その頃は今と全く違っていた。これらの曲をレコーディングした時、(ファレルの)「Happy」がリリースされ、世界中を席巻する直前だった。今は、その頃とはまるで違う世界にいる。
▲ 「Dreams」 Official Audio
――「Dreams」は初めて聴くと、多幸感溢れる曲に思えますが、「There’s trouble on the way/Get a dog and pony for judgment day.」などダークな詞がいくつかありますよね。
ベック:元々そういう歌詞が多かったんだけど、どんどん変えていったんだ。グレッグにダークな詞を避けるように手助けしてもらい、よりアップリフティングなものを書こうと試みた。それってソングライターとして僕のデフォルトじゃないから(笑)。スティーヴィー・ワンダー、ビートルズ、モータウン、トム・ペティなど自分が好きな音楽の大半には人間臭さがある。それって簡単なことじゃないと思う。スノッブなリスナーや評論家からはで揶揄されることもあるけれど、否定できない良さがある。U2とツアーをやったばかりなんだけど、彼らはリスナーを元気づけることに長けている。ザ・ポリスが再結成した時にもツアーに同行したけれど、彼らの曲はとにかくパワフルで、ハートにガツンとくるんだ。
――「No Distraction」はこれまでのあなたの音楽になかった、ザ・ポリスをやや彷彿とさせる曲ですが、これは意図していたことなのですか?
ベック:ここ20年ぐらい、そういう実験をしてきたよ。ああいう感じで、リリースしたことのない曲もあるんだ。最初はちょっと似すぎているんじゃないか、と思ったんだ。だから話し合って、紆余曲折があった。やり直そうと試みた部分もあったけど、これでいいと思ったんだ。
――あなたの音楽の大半にはシニカルな部分がありますが、このアルバムや『モーニング・フェイズ』からもそれが伺えません。その一面はまだあなたの中にあるのですか、それとも今は全く違う人間になったということ?
ベック:ただただ心からの作品を作りたかっただけで、そこから減ずるものは入れたくなかった。繋がりをテーマしたアルバムで、対話しかったんだ。
――最もポップな作品と形容しても過言ではない?
ベック:現代のTOP40とインディー・ロックでは、そんなに違いがないと思う。具体的なプロダクションのスタイルが聴こえるだけで。ヴォーカルにあまり時間をかけず、ミキシングがはっきりしないものとすごく磨きがかかって、サウンドに力を入れたものと。
何かがポップだというのは、何となく浅薄な考えだ。このアルバムでやりたかったのは、最後までアイディアを貫き通したような、とても完成された感じにすること。僕のアルバムは、意図的にややラフな仕上がりにしている曲が多いような気がする。デモの自然ぽい感じを大切にしているような。でも、ウェルメイドなアルバムの鍛練を自身に課すのも好きだ。『ペット・サウンズ』、『スリラー』、『噂』のように。そういう作品が作りたかったんだ。
――昔は意図的に外れてる感じに聴こえるようにするため、ヴォーカルを録り直したりもしてましたよね。
ベック:確かにそうだけど、僕が若い頃は個性的で変わったヴォーカルの歌い手が多くいたっていうのがある。ニール・ヤング、トム・ペティ、デヴィッド・バーン、ザ・キュア、ディーヴォ、モリッシー、デペッシュ・モード…いくらでも続けられるよ。
▲ 「Colors」MV
リリース情報
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ロックをベースにしている音楽のほとんどは、今ラップで起こっているようなモダンさがない
――「WOW」は、あなたが「Loser」でヒップホップと実験し始めた頃を思い起こさせます。それをトラップ世代のためにアップデートしたような。
ベック:あれはスタジオではなく、フリースタイルで作って、1年間しまっておいたんだ。ある日、子供たちが偶然聴いて、「これはアルバムにいれなきゃ!」って断固として言ってきた。
――クールな子供たちですね。僕にとって一番恥ずかしいのは、公の場で父親がラップすることですよ。
ベック:(笑)。もう10年以上ラップが入ってる曲はリリースしてないけどね。『オデレイ』を作ってる時、内輪でずっと次のアルバムは全編ラップにするって言ってたんだ。
(プロデューサーのダスト・ブラザーズが)スタジオの棚の上の、上の方に808ドラム・マシーンを置いていて、次回作は808ドラム・マシーンとラップと、もしかしたらシンセだけで作ろうって冗談で言ってた。たしか1995年ぐらいまで、そんな風にジョークしてた。その当時は、それだけでアルバムを作るには十分じゃないと思ってたけど、昨今のラップやポップ・ミュージックは、ほとんど808で作られている。だから「WOW」のような曲を作るのは、そこまで突拍子もないことではなかったんだ。
▲ 「WOW」MV
――ラップ、ブルース、サンバ、ソウルなど様々なジャンルの音楽を取り入れていますが、“cultural appropriation(文化の盗用)”と非難されるのでは、という懸念はありますか?
ベック:どうだろう(長い沈黙)。僕の音楽に注入されているのはすべて、何らかの経験があるもの、またはとても深い繋がりを感じたものだ。子供の頃、スライド・ギターを習う前、それをよくレコードで聴いて「これ何だ?」って思っていた。僕にとってものすごく喚情的で、この世の物には思えなかった。時代遅れな音楽の形でもあった。80年代はポップとシンセサイザ―の黄金期で、その当時の大部分はそういったレコードにハマっていた。だから、僕が「Loser」にスライド・ギターを取り入れ、曲がヒットしたことで、スライド・ギターが再びポップ・ミュージックに注入されたのは、すごくクールだったと思う。
今の返答だと文化の盗用についての答えに全くなってないかな。単に自分が好きなサウンドなんだ。僕にとってほとんどの音楽は断面的―常に合流する地点がある、アメリカの音楽だと特に。様々な文化の要素がミックスされていて、それがアメリカの音楽を美しくしている。そのルーツを辿ると、とてつもなくストレンジな場所に到達する。ザディコ(カリブ音楽とブルースをフランスの舞踏音楽と組み合わせた南ルイジアナの音楽)のように。このアコーディオンはどこから来ているんだろう?ドイツが由来だろうか?でも、ドイツではやっていなかったことやっている。そうやってフォーク・ミュージック、ブルーグラス、アパラチアン・バラード、デルタ・ブルース、カントリー・ブルース、フィールド・ソング、ウェスタン・スウィング、カントリー・ウェスタン、R&B、ロカビリー、ロックンロールなど変遷していく。それが永遠と続くんだ。色々な部分が絶え間なく変質する。
――最新のヒップホップだとどんなものを聴いていますか?
ベック:色々ちょっとずつ聴いているよ、どこでも流れてるからね。今、世界的に最もビッグな音楽だ。ケンドリック(・ラマ―)、リル・ヨッティからヤング・サグとフューチャーまで。レイ・シュリマーも家庭内で結構流行ってたよ。
――レイ・シュリマーやリル・ヨッティを聴いていたのであれば、こんなにもハッピーなアルバムを作ったのがなぜか分かるような気がします。あれぐらい喜びに満ちたラップは90年代まで遡らないとないので。
ベック:僕が若かった頃、ヒップホップにはすごく遊び心があった。気取ってなくて、楽しいところが、とても好きだった。パンクの時代にはちょっと幼すぎたけれど、僕たちにとってのパンクはヒップホップだった。
――トウェンティ・ワン・パイロッツやイマジン・ドラゴンズなど、近年ポピュラーなロック・バンドからはラップの大きな影響が感じられます。この二つのジャンルの融合を試みた先駆者として、どう思いますか?
ベック:(最近のロックは)ほぼヒップホップだよね。ギターよりピアノが特出している。とても興味深いと思うよ。これまでずっとギターがないなら、オーセンティックじゃないっていうアティチュードが蔓延していたから。今は逆で、ギターが入ってると、つまらないという感じだ(笑)。ラップは最前線で、音楽的にも先進的だ。ロックをベースにしている音楽のほとんどは、今ラップで起こっているようなモダンさがない。その余地はあると思う。もしロック・レコードのサウンドを進化させる方法があるのであれば。やや抽象的なのはわかってるけど、こういうことも考えている。ある意味、ロックは音に関して新たな表層を見つけなければならない。ラップはローエンドが重要で、生来ギターはミッド・レンジだから。
――南フロリダを拠点としたSoundcloudにアップされているラップで、リル・パンプやXXXTentacionなどは、わざとミックスする時にベース音のヴォリュームを上げたりして、ディストーションがかかるようにしています。
ベック:あぁ、彼らのことは知ってるよ。8、9年前に作ったトラックでいくつか、そういう感じに近いものがあるよ。リリースはしていないけれど、ああいった音楽とそう遠くない感じ。ディストーションされたヘンテコな。ある面、僕にとってエキサイティングだ。音的にどんなものが受け入れられるか、可能性が広がっているようで。少なくとも今の時代において。10年前だと、すべてがクリーンで、デジタルだった。今はよりダーティーな方向へ向かっているね。
――チャンス・ザ・ラッパーに「WOW」へ参加して欲しかったというのを読んだのですが、他にも声をかけたMCはいたのですか?
ベック:そう。OGマコ、もちろんケンドリックもだし、(リル・)ヨッティとレコーディングしたバージョンもあるよ。
――何年か前にファレルとスタジオ入りしてましたが、その時に作った音楽がリリースされる予定は?
ベック:一緒にアルバムを作る予定だったんだ。このアルバム(最新作)を作って、ファレルとコラボをする予定だったんだけど、「Get Lucky」が大ヒットして数年間動けなくて。その時に作った曲を完成させる時間枠がその内できると思うけど。まだ、始めたばかりだったんだ。
――ファレルとの仕事を通じて学んだことは?
ベック:彼のオプティミズムとポジティヴさ。それらは自分が作りたかったアルバムに求めていたものだった。彼の周りにいるだけでとても新鮮だった。音楽が解体され、やや評論的な環境に慣れてたから。
――で、アンチエイジングの秘訣については話し合った?
ベック:(笑)僕の帽子に興味を示していたのは記憶してるよ。当時よく帽子を被ってたからね。
――『モーニング・フェイズ』のジャケットで被ってるやつ?
ベック:そう。「どこで買ったの?」って聞かれたよ。
――彼が巨大な帽子を買うことにしたのは、君のおかげだったのかもね。
ベック:それは分からないよ。なんせ、彼の帽子の方が全然大きいからね。
▲ 「Up All Night」MV
Q&A by Alex Gale / 2017年10月19日Billboard.com掲載
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