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清塚信也『For Tomorrow』インタビュー



清塚信也 インタビュー

 クラシック・ピアニストの枠にとどまらず、作編曲家、さらには俳優としての顔もあわせもつ清塚信也のアルバム『For Tomorrow』が、10月18日にリリースされた。Billboard JAPANでは今回、アルバム収録曲のタイアップ曲や、オリジナル曲での新たな挑戦についてインタビューを実施。清塚信也は、つい引き込まれてしまう軽妙な語り口で様々な話を交えながら、音楽に対する熱い想いをたっぷりと語ってくれた。さらに、普段聴いている音楽や好きな音などについては意外性のある答えを聞くこともできた。

芝居が全部完結していて、そこに色を添えるだけというのが劇伴のあるべき姿だと思います

−−前作であるご自身の名を冠したアルバム『KIYOZUKA』に対しては“自分のできることをまとめた作品”だと仰っていましたが、今作『For Tomorrow』はいかがですか?

清塚:今回は、自分のやりたいことを精一杯出し切った作品になりましたね。劇伴もオリジナルもできて、さらに(高井)羅人との連弾もできましたからね。

−−クラシックの世界から大きく飛び出した作品ですよね。

清塚:そうですね。クラシックの世界というと、僕実は前から、バッハやショパンやベートーヴェンは凄いけど、同じミュージシャンなんだからライバルでしょって思っていたんです。彼らがすでにこの世にいないということもあってか、音大生はどうしてもバッハたちを崇めるんですよ神のように。だけどそうすることによって、彼らを超えたところでの解釈ってできないと思っていて。まるで彼らが上司の椅子に座り続けたまま、僕らはリスペクトで終わってしまいますよね。

−−追い続けるだけになってしまう、と。

清塚:はい。変な話ですが、僕はずっと彼らをライバル視していて、ショパンの良い曲を弾けば弾くほど「こんないい曲を先に世の中に出されちゃったな」って思うんです。もちろん(クラシックの)業界的には、リスペクトしている姿を見せる方がいいことは分かっていますが、「何で俺がショパンの凄さをショパンに代わってこんなに言ってあげなきゃいけないんだ」って。小さい男ですよね(笑)それも含めて「俺は俺だ!」って思っています。

−−そういったライバル心は幼少期からあったのですか?

清塚::いや、もう少し後です。高校生ぐらいからですかね。なので今も、半分はライバルだと思いながら、半分はすごく尊敬しながら彼らの曲を弾いています。

−−アルバム『For Tomorrow』には劇伴作品が収録されていますが、いつ頃から劇伴音楽に興味をお持ちでしたか?

清塚:中学生の頃からいつかやってみたいと思っていました。

−−何かご覧になっていた映画がきっかけだったんでしょうか?

清塚:そうですね。中学生の頃は母もピアノの先生も厳しくて、全く娯楽を許されていなかったんです。ゲームなんてコンクールで良い成績を取る時以外はほとんど触らせてもらえなくて、隠れて遊んでいても何故かばれてすごく怒られました(笑)その点、映画は2時間程度で終わるというのが分かっているし、内容によっては音楽に影響する作品もたくさんあるので、母が許してくれていました。なので映画が僕の唯一の楽しみでしたね。

−−練習の合間にご覧になっていたんですね。

清塚:映画は、2時間の中で感情移入して違う人生を生きられるから、観ている間は辛い人生の出来事を忘れられるんです。やっぱりピアノに四六時中没頭するというのは辛かったんですよね。なので映画に救われていたという感謝と憧れの気持ちから、いつか映画に携わりたいという淡い夢を抱いていました。

−−今作ではドラマ『コウノドリ』のテーマソングと、映画『新宿スワンII』の劇伴を手掛けられていますね。

清塚:はい。だけど『コウノドリ』の楽曲に関しては、劇伴という括りではないと思っています。

−−ドラマの中でもかなり音楽が印象的ですよね。

清塚:あれは、主人公・鴻鳥 サクラのもう一つの顔である“BABY”が奏でる物語の一部なんですよね。一方で、『新宿スワンII』はあくまでストーリーの中に音楽はないものとして作っています。

−−なるほど。2つの作品は対極にあるような世界観ですが、いかがですか?

清塚:本当にそうですね。ただ、世界観こそ違えど『新宿スワンII』も僕が劇伴を担当させて頂いたシーンはけっこう人間味があり、ロマンティックでもありましたので、音楽性の違いには(『コウノドリ』と)さほど歪は感じませんでした。『コウノドリ』の音楽はストーリーを物語る言葉のような音楽ですが、『新宿スワンII』はシーンごとの“空気”を音にしているだけというか、そこにあるのが必然という音なんです。

−−空気を音にするだけ、ですか。

清塚:はい。その音楽が芝居以外に何かを生み出してしまったり、「音楽があるから泣けるね」っていう状況は、本当は作り出してはいけないですよね。芝居が全部完結していて、そこに色を添えるだけというのが劇伴のあるべき姿だと思います。

−−ではご自身で劇伴を作る際に注意されるのは物語を邪魔しないということですか。

清塚:芝居ですね。物語というより、芝居やその場面を邪魔したくないです。音楽が越権行為をするのは違うと思っていますね。なぜここまで言うのかというと、それだけ音楽って強いからです。なので説明というかト書きになってしまうんです。「はい、ここで泣いて」って。

−−その通りに泣いてしまう人たくさんいますよね。

清塚:そうですよね、僕多分あの雰囲気が苦手なんだと思います。

−−先ほど『コウノドリ』の音楽は「劇伴とは少し違う」と仰っていましたが、それこそ物語のここぞという時に「Baby, God Bless You」がかかるものだから、前シーズンでは毎回泣かされていましたが…(笑)

清塚:だけど、あのドラマは音楽がなくても泣きますよ。僕は、撮影現場などで音楽がついていない映像を見るんですが、そこでも全然泣いちゃいます(笑)それはとってもいい事だと思っていて、音楽がない状態では泣けないのに音楽ありきでやっと泣けるという物語はダメなんです。

−−映画をこよなく愛していらっしゃるからこその劇伴に対する強い想いがとっても伝わってきました。

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清塚信也「For Tomorrow」

For Tomorrow

2017/10/18 RELEASE
UCCY-1083 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.For Tomorrow
  2. 02.candle (TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」(2017)より)
  3. 03.Baby, God Bless You
  4. 04.恋心 (映画『新宿スワンⅡ』より)
  5. 05.水の妖精 (映画『新宿スワンⅡ』より)
  6. 06.心の声 (映画『新宿スワンⅡ』より)
  7. 07.Variation for DEVIL ~Four Hands ver.~
  8. 08.虹彩
  9. 09.FATES
  10. 10.good morning
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