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吉澤嘉代子『残ってる』インタビュー
「……こんなインタビュー、初めてです(笑)」
メジャーデビュータイミング以来3年ぶりに再会インタビュー敢行。朝から日本の上空をミサイルが飛んでいくという不安定な日、なんとなく気持ちの落としどころのないアレコレが起きる現実の中で音楽を届けていく理由について語ってもらった。今日に至るまでの表現に対する気持ちの変遷や、現代における女性シンガーソングライターというイメージとの乖離、朝帰りの女の子の物語「残ってる」についても。ぜひご覧下さい。
自分が子供だった頃みたいな子供に知ってほしくって、どうしても私を。
--吉澤さんにこうしてインタビューさせて頂くのは、2014年5月『変身少女』でのメジャーデビュータイミング(http://bit.ly/1p7MNR0)以来、約3年ぶりになります。この間、心折れたり病んだりすることもなく活動できていた感じですか?
吉澤嘉代子:いや、いっぱいありますよ。それはいっぱいありますね。「もうダメかも」と思うことはあんまりないですけど、メンタルはそんなに強いほうじゃないんで……。メンヘラって訳でもないですけど。--今日は朝から日本の上空をミサイルが飛んでいくという、こんな不安定な日に吉澤嘉代子と再会するんだなと思いながら……
吉澤嘉代子:ほんと、寝てるあいだに死んじゃうんじゃないかと思いましたね。--新曲「残ってる」を聴かせて頂いたんですけど。こういう歌に切なくなったり嬉しくなったり背中押されたりする日常。どうにかこうにかいつまでも続いて欲しいなと思ったりしました。良い曲ですね、「残ってる」。
吉澤嘉代子:ありがとうございます。--なんとなく気持ちの落としどころのないアレコレが起きる現実の中で、音楽を作ったり、歌をうたったりしていく理由について考えたりすることってありますか?
吉澤嘉代子:あー、そうですね。人それぞれ傾向ってあると思うんですけど、どうしようもない気持ちっていうのが……おそらく外に出さないと耐えられないぐらいあるほうの人間で。でも歌をうたうことでバランスが取れている実感はあるので、歌は自分にとって必要なものだなと思いますね。--例えばどんな事柄に対して「外に出さないと耐えられない」状態になってしまうのでしょう?
吉澤嘉代子:そうだなぁー……、電車乗っただけでも傷ついたりします。電車ってなんか「上司だったら良い人なんだろうな」とか「友達だったら良い人なんだろうな」とか「親戚だったら良い人なんだろうな」っていう人が凄い顔を見せたりするじゃないですか。そういうことでなんかモヤモヤする、みたいな。あと、最近、夜中によくおなかをマッサージするんですけど、おなかを触ると「あ、私、すごく緊張していたかも」とか「疲れてるかも」とか思うんですよね。なんの話しているんだろう?--どうぞ、続けてください。
吉澤嘉代子:それぐらい気付かないレベルでも蓄積されちゃうものだと思うので、外に出すのが苦手な人とか溜まりやすい人は……何とか出さないと病気になっちゃうんじゃないですかね。--でも吉澤嘉代子の場合はソレを音楽で放出することができると。
吉澤嘉代子:だから音楽をやってるんだと思うんですけど……--では、音楽を続けている理由はどちらかと言うと自分の為?
吉澤嘉代子:音楽を歌っていくのだったら自分の為なんですけど、仕事にするってなるとまた違うと思いますね。私は自分が子供だった頃みたいな子供に知ってほしくって、どうしても私を。その為にはたぶん自分の趣味の範囲では伝わらないから……仕事にしたいんです。--そもそもはどんな経緯で音楽を始めた人なんですか?
吉澤嘉代子:よくきっかけを聞かれるんですよね。でもなんて言ったらいいのか分かんなくって。おしゃべりをしようと思うとなんか言葉が上手く出てこなくて、泣いちゃうような子供だったので……その頃から歌をうたうのと、文章を書いたり物語を作ったりするってことだけはずっと続けてて。それが組み合わさったのがシンガーソングライターという職業というか……。だからいちばんの理由としては、喋るのが苦手だったから。--コミュニケーションツールでもあった訳ですね。
吉澤嘉代子:そうですね、まさに。--そこから人前に立って歌っていくようになる訳じゃないですか。そのときはまだ「仕事にする」という感覚ではなかった訳ですよね?
吉澤嘉代子:高校生になって、軽音楽部に入ってバンドをやったんですね。そのときにとある人のコピーをして歌ったんですけど、自分の言葉じゃないことに違和感があるなと思って、それで曲を作るようになったんですけど、初めて曲が出来たときに物凄くクラクラして。「これで世の中と繋がれるかもしれない」みたいな。「やっと見つけた」って感じでした。だからそれが自分には出来るっていうので……お仕事というか、それぐらいしか出来なかったという感覚。--音楽だけが世の中と繋がれるツールだったんですね。先程仰った「仕事にする」というのは具体的にはどういうことなんでしょう?
吉澤嘉代子:お茶の間……と言っても、今はみんなテレビ見たり見なかったりだと思うんですけど、そういうところまで規模を広げていかないと、子供っていちばん最後に情報を得るから。幼稚園で流行るものって少し前に流行っていたものだったりするじゃないですか。そこまで行きたいと思うと……「お仕事にしたい」と思いました。--3年前のインタビューでも「私はお茶の間に行きたいんですよね」と仰っていました。そして「なので、音楽性のバランスも考えなきゃいけないし、キャラクターとかも大事なのかもしれないんですけど……万人ウケするところと、マニアックなところ。その大きな輪の中の小さい輪を狙っていけたらなとは思っていて」とも。その考えは今も変わりなく?
吉澤嘉代子:うーん……--というか、ソレを試してみたこの3年間だったんですかね?
吉澤嘉代子:そうですね。2年目ぐらいまでそうだったんですけど、アルバムによって変わっていってますかね。前回のアルバム『屋根裏獣』とかは「もう自分が好きなことしかやらない!」と思って作っていて、どんどんと自分の好きなことをやっていく形になってきちゃってますね。デビューした頃に言われたんですよね。好きなことというより「今はがんばろう」みたいな。でもそれやってたら若い時間というものが……そう思ったら「それは自分がやんなくてもいいかな」って。だから今は自分が「良い」と思うほうを選ぼうと思っています。変わったかもしれない。- 逃げた先に出口があったんですね。それで世の中と繋がることが出来て。
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
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