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全米ALチャート首位獲得!LCDサウンドシステム『アメリカン・ドリーム』発売記念特集

LCD SOUNDSYSTEM

 LCDサウンドシステムが再結成以来初の、7年ぶりのスタジオ・アルバム『アメリカン・ドリーム』をリリース、今週の全米アルバム・チャート Billboard 200で、バンド史上初の首位デビューを飾った。ロック・バンドとして全米アルバム・チャートの首位を飾ったのはリンキン・パーク、アーケイド・ファイア、ブランド・ニューに続き今年4組目(奇しくもブランド・ニューと同じくカムバック作での首位となった)。ここ日本でも【FUJIROCK FESTIVAL 2017】ではホワイト・ステージのトリをつとめ、熱心なファンを獲得している彼ら。一方で、2011年から約5年間の活動休止期間もあり、まだその存在をよく知らないという人もいるだろう。いよいよシーンへの本格的な復帰を果たした21世紀最高のロック・バンドの一つ。この機会に、その軌跡を改めておさらいし、その音楽の魅力に迫ってみよう。

デビュー期〜3rdアルバム『ディス・イズ・ハプニング』
プロデューサー/アーティストとして高い評価を獲得

 LCDサウンドシステムの中心人物、ジェームズ・マーフィーは今年47歳。LCDでのデビュー(2002年)の時点でも32歳と、新進気鋭のロック・バンドのフロントマンとしてはやや年齢を重ねていた。ふくよかな体格も一般的なロック・ミュージシャンのイメージからは外れていたかも知れない。ライブやレコーディングで、パーマネントにバンドをサポートするメンバーはいるものの、LCDは実質的に彼のソロ・プロジェクトとして展開されてきている。

 ジェームズのキャリアを語る上で外せないのが、本格的にアーティストとして成功する前に、プロデューサーとして名を上げたということ。早くから音楽にのめり込んでいた彼は、いくつかのバンドで80年代末から90年代にかけて活動。一方で、シェラックのボブ・ウェストンに師事し、エンジニアとしてキャリアを培ってきた。音楽オタクであると同時に、スピーカーを自作するのが趣味の機材オタクでもある。このことは、LCDの細部まで作り込まれたプロダクションとも関係している。

 転機となったのは、2002年頃にプロデューサーとして立ち上げた<DFAレコーズ>の成功。特に、ザ・ラプチャーの「ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァーズ」(2002年)とアルバム『エコーズ』(2003年)での仕事は、評論家や音楽ファンから注目を集めた。<DFA>を立ち上げた当時、ジェームズが目標としていたのが“ダンス・ミュージックとロックの融合”。ジェームズは、元アンクル(UNKLE)のティム・ゴールズワージーと協力、デヴィッド・ホームズ『Let's Get Killed』(1997年)や、プライマル・スクリーム『エクスターミネーター』(2000年)等のレコーディングに参加し、新しいサウンドーー80年代のポスト・パンクやノー・ウェーブをベースに現代的なダンス・フィールを取り入れたロックーーの基礎を築いていった。

 その最初の成果となったのが、前述の「ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァーズ」であり、LCD名義でのデビュー曲「ルージング・マイ・エッジ」だった。現在でもライブでプレイされ続けているバンド初期のアンセムであり、「俺はだんだんイケてなくなっちまっている」というフックが印象的な一曲。詳細は割愛するが、泣き笑いの感覚を持った歌詞に、反復されるビートの高揚感が組み合わさった圧倒的な名曲だ。


▲LCD Soundsystem - Losing My Edge


 最初はダンス・ミュージックのプロデューサーとして手腕を発揮したジェームズだが、2005年にリリースされたファースト作『LCDサウンドシステム』は、“アルバム”の作り手としても優れたビジョンを持つ音楽家であることを証明した作品だった。過去の12インチ・シングルのほとんどは、アルバム本体とは切り離されたボーナス的なディスク2として収録された。アルバム最終曲の「グレート・リリース」は、初期のデヴィッド・ボウイを思わせるピアノ・バラッドで、この頃から彼らの作品は、たびたびボウイの作品と比較されるようになった。

 そのデビュー・アルバムをはじめ、LCDほど、全アルバムが傑作と呼ぶに相応しいバンドはなかなかいない。2007年の2ndアルバム『サウンド・オブ・シルヴァー』、2010年の3rdアルバム『ディス・イズ・ハプニング』も評論家やファンの高い支持を獲得。前者に収録の「オール・マイ・フレンズ」は、2000年代の代表する1曲と見なされることも多い。2000年代後半から2010年頃にかけて、当時、影響力を増しつつあった北米インディ・シーンの顔役の一組としてバンドは躍進。『ディス・イズ・ハプニング』では全米アルバム・チャートでバンド初のTOP10入りをも果たした。

 それだけに、2011年の解散ライブは大きなインパクトがあった。

2011年4月、歴史に残る解散ライブ

CD
▲『ディス・イズ・ハプニング』

 『ディス・イズ・ハプニング』が最後のアルバムになる、とジェームズが公言するようになったのは同作のリリース前。当初思っていたよりも大きな成功をおさめたことで、パーソナルなプロジェクトではなくなりつつあるのではないかという危機感、さらなるセールス増大へのプレッシャーなどに、ジェームズ自身が嫌気が差していた…ということが、その背景にあったようだ。そのことがここ日本でも、リアリティのある話として伝わってきたのは、2011年4月のマジソン・スクエア・ガーデンでのライブが“最後のライブ”として売り出された時。人気絶頂での解散ライブ。チケットは即完した。

 当日のライブの模様は、ドキュメンタリー映画『Shut Up and Playthe Hits』(2012年)や『The Long Goodbye: LCD Soundsystem Live at Madison Square Garden』(2014年)で、今なお追体験することが出来る。4時間近いライブで、バンドは、その時点までの名曲の数々を、ほぼ余すことなく披露。中盤では、NIKEとiTunesのために企画された『45:33』も全曲再現。DFA組の面々はもちろん、デビュー当初から親交の深いアーケイド・ファイアのメンバーも駆けつけた。「これが葬式だとしても、最高の葬式にしよう!」というバンドの当時の声明も印象的だったが、その意気込みに恥じない歴史に残るコンサートだったと言える。


▲SHUT UP AND PLAY THE HITS (EXCLUSIVE CLIP)


 解散後、ジェームズは、学生時代以降、中途半端になっていた脚本家/物書きのキャリアの可能性を探りつつ、映画への楽曲提供や、プロデュース業にも関わるように。アーケイド・ファイアの『リフレクター』(2013年)では、アルバム1枚を丸々プロデュース。また、パルプの11年ぶりのシングル「アフター・ユー」(2013年)のプロデュースも手掛けた。

 解散後のプロジェクトで、いま振り返って、最も大きな意義があったものの一つが、デヴィッド・ボウイとの仕事。ボウイの2013年作『ザ・ネクスト・デイ』からの1曲「ラブ・イズ・ロスト」のリミックス(Hello SteveReich Remix)を手掛けたのが2013年。また、ボウイの遺作となった『★』(2016年)へ、プロデューサーとして参加することも打診されたという(最終的には1曲にパーカッションで参加)。ジェームズはボウイと多くの時間を過ごす中で、様々なアドバイスも受けたらしく、LCDの再開にもそれが間接的に作用したそう。アーケイド・ファイアの場合もそうだが、ボウイは現代のロック・ミュージシャンにとって、何かしらメンター的な側面があったようだ。

 とは言え、再結成の直接的なきっかけは、ジェームズの頭の中に、新しい曲のアイデアがたくさん溜まっていることに、彼自身が気がついたことにあった。「LCDのどのアルバムを作ろうと思ったときよりも、あるいはハイスクールでひどいものをテープに次々と録音していた頃よりも(多くの曲が頭の中にあった)。とにかく大量にあったから、ちょっと困惑してしまった。」とは本人の弁。ジェームズは、それらの曲をどうすべきか悩み、バンドのパーマネントなメンバーであるナンシー・ワンとパット・マホニーに相談。彼らの後押しもあって、最終的にLCDが再開することになった。


▲James Murphy Chats To Edith Bowman | Virgin Radio


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LCDサウンドシステム「アメリカン・ドリーム」

アメリカン・ドリーム

2017/09/01 RELEASE
SICP-5601 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.オー・ベイビー
  2. 02.アザー・ヴォイシズ
  3. 03.アイ・ユースト・トゥ
  4. 04.チェンジ・ユア・マインド
  5. 05.ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?
  6. 06.トゥナイト
  7. 07.コール・ザ・ポリス
  8. 08.アメリカン・ドリーム
  9. 09.エモーショナル・ヘアカット
  10. 10.ブラック・スクリーン
  11. 11.パルス・ヴァージョン・ワン <日本盤ボーナス・トラック>

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