Special
マンハッタン・ジャズ・クインテット来日記念特集~結成33周年を迎えたMJQの人気の秘密を探る
結成33周年を迎えた人気ジャズ・バンド、“マンハッタン・ジャズ・クインテット(以下MJQ)”の来日ツアー『MJQジャパン・ツアー2017 ~スイングしなけりゃ意味ないね~』が9月に決定。9月9日の熊本県・大津町文化ホールを皮切りに国内10カ所で行われる。さらにMJQは、ジャズ界では前代未聞の3ヶ月連続新作アルバムをリリース。その第3弾『恋人よ我に帰れ』が8月23日発売される。30年以上のキャリアを誇り、今なお、不動の人気を誇るMJQの人気の秘密を探ってみよう。
1. マンハッタン・ジャズ・クインテットの誕生と評価
記念すべきMJQの1作目『マンハッタン・ジャズ・クインテット』が吹き込まれたのは、 1984年7月11日のこと。たった一日で録音されたデビュー作は、発売されるや否や一大反響を巻き起こし、15万枚も売れた。日本のジャズ・ファンの心をがっちりと掴み、大人気となったのだ。結成当時のメンバーは、デビッド・マシューズ(p:当時41歳)、ルー・ソロフ(tp:40歳)、ジョージ・ヤング(ts:36歳)チャーネット・モフェット(b:17歳)、スティーブ・ガッド(ds:39歳)だった。当時のジャズ・シーンは、長老のカウント・ベイシーが亡くなり、革新的な演奏を続けてきたウェザー・リポートが解散した。1970年代に流行ったフュージョンも元気を失っていた。そんなとき、理屈抜きにスカッと本格的な4ビート・ジャズを演奏するMJQが登場したのだ。まさに時代が求めるジャズ・バンドだった。
ジャズ評論家の第一人者である油井正一(1918-1998:享年79歳)は、このデビュー作を聴いて、ジャズ専門誌<スイングジャーナル>のディスクレビューに、『デビッド・マシューズは、ジャズという名のプールに小石を投げ、このさざ波は次の世紀まで波を立て続けて行くだろう』と記した。これには、驚いた。まだデビュー作の評価に、ここまで褒めて書くとは。さすが油井先生は、慧眼である。油井先生の予言はあたり、21世紀になってもMJQは活躍している。次いで1985年にリリースされたMJQの第2作『枯葉』は、なんと販売20万枚を記録した。ジャズ・ディスク大賞・最優秀CD賞を受賞し、MJQの名声が確立した。1986年になると、ベースは、エディ・ゴメス(当時41歳)に代わり、MJQはさらに強化された。
▲ 「Take The A Train」(Live)
2.MJQの新作は、3ヶ月連続発売の“パワフル・スイング三部作”
結成33周年を迎えたMJQは、なんと6月、7月、8月と3ヶ月連続で新作アルバムをリリースする。タイトルは、『スイングしなけりゃ意味ないね』、『サム・スカンク・ファンク』、『恋人よ我に帰れ』で、MJQの通算31作目、32作目、33作目となる。
今年は、ジャズが初めてレコードに録音されて100年目を迎えた。ジャズは、ニューオリンズで生まれ、世界中に広まった。演奏のスタイルは時代とともに変遷してきたが、いつもジャズは人々を楽しませ、励まし、困難な時代も乗り越えてきた。
そしてMJQは、2016年1月19日~23日の4日間で、なんと30曲も録音したのだからものスゴイ。今回は、ジャズレコード生誕100周年を祝うのに、相応しい名曲が厳選されている。選曲は、スタンダード、ラテン、ファンキーなど、ふるえるほど壮観で多彩だ。
例えばデューク・エリントンの「スイングしなけりゃ意味ないね」、デューク・ジョーダンの「危険な関係のブルース」、ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」、ディズニーの「いつか王子様が」、コール・ポーターの「夜も昼も」、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、ジョージ・ガーシュウインの「アイ・ガット・リズム」、ビリー・ホリデイの「恋人よ我に帰れ」、「酒とバラの日々」、キューバの「キサス、キサス、キサス」、プエルトリコの「エル・クンパンチェロ」、メキシコの「ベサメ・ムーチョ」(「もっとキスして」という意味)、黒人霊歌の「ダウン・バイ・ザ・リバーサイド」、オードリー・ヘップバーンの「ムーン・リバー」、ジェームス・ブラウンの「ザ・チキン」(ジャコ・パストリアスの演奏でも有名)、ブレッカー・ブラザーズの「サム・スカンク・ファンク」、ウェザー・リポートとマンハッタン・トランスファーの「バードランド」、ジャコ・パストリアスの「ティーン・タウン」など魅力満載である。
今回の来日公演では、この中から、一体どの曲を演奏してくれるのだろうか?今から楽しみである。新作の“パワフル・スイング三部作”『スイングしなけりゃ意味ないね』、『サム・スカンク・ファンク』、『恋人よ我に帰れ』を聴いて予習しておくのも楽しいだろう。MJQの真価は、ライブ演奏で発揮される。ビルボードライブ東京、ビルボードライブ大阪での演奏がとても待ち遠しい。
3.MJQの変わらない魅力の秘密
MJQの最大の魅力は、リーダーであるデビッド・マシューズの高いアレンジ能力とMJQの高い演奏能力にある。アレンジは、デビッド・マシューズのジェームス・ブラウン時代(1970年から73年まで、マシューズはソウル・ミュージックの巨匠ジェームス・ブラウンのアレンジャーだった)のファンク、CTI時代(ドン・セベスキーと並ぶ作編曲家だった)のフュージョン、ポップス・サポート時代(サイモン&ガーファンクルやビリー・ジョエルたちのアレンジを手掛け、ベストセラーを続出した)のポップス、MJQでのジャズというこれらの全ての経験が巧みにバランスされ、MJQサウンドの個性となっている。また忘れてならないのが、MJQの最強のメンバーである。マイケル・ロドリゲス(tp)、クリス・ハンター(sax)の二大実力者が中心となり、極上のソロを展開していく。もちろんマシューズのピアノも良い。今作から、リズム・セクションが、新メンバーに変わった。ドラムは、米国サンディエゴ生まれのクリフ・アーモンド。ミシェル・カミロ・トリオ、マンハッタン・トランスファーのメンバーだった。日本の人気ロックバンド“くるり”のメンバーだった時期もある。ベースは、オーストリア、グラーツ生まれのハンス・グラヴィシュニク。名門、バークリー音楽大学で学んでいる。ボビー・ワトソン、メイナード・ファーガソン、チック・コリアのメンバーだった。さて、マシューズは、例えば「枯葉」など誰もが知っている名曲を更に魅力的にする。音に魔法をかけていると言ってもいいだろう。脂の乗った手練れの仕事ぶりだ。アレンジは精密、演出、即興的工夫にも怠りがない。すべての曲に、新たに作曲されたイントロが加わり、ソロの間には中間アンサンブルも加わる。MJQが織り成すアンサンブルは、エキサイティングかつダイナミックで他の追随を許さない。新リズム隊の驚異的なリズムのバネ感が緊迫感を醸し出し、トランペットのマイケル・ロドリゲスとサックスのクリス・ハンターが炎のようなソロや美しいバラード・ソロを取る。
▲ 「Autumn Leaves」(Live)
4.デビッド・マシューズの日本語会話の先生は、ジョン・レノンの先生
さて、MJQのリーダー、デビッド・マシューズは、日本語がとても上手い。ビックリするぐらいうまい。ライブの時のMCは、ほぼ全部日本語で話す。だから私たち聴衆は自然と親しみを感じるのだ。マシューズが日本語を習ったのは、ニューヨークのベルリッツである。その先生は、ビートルズのジョン・レノン(1940-1980:享年40歳)に日本語を教えていた。マシューズは、日本が大好きで、勉強家で、耳もいいので、急速に話せるようになった。新宿西口にある「思い出横丁」に一人で行って、「熱燗と煮込み」とオーダーする。たまたま横に座った人とも気楽に話してしまう。そんなマシューズは、抜群の日本語会話能力と人柄を買われ、NHKの英会話番組「英語でしゃべらナイト」にもたびたび出演して人気を博した。
5.松田聖子のジャズCD『SEIKO JAZZ』のヒットの陰に、マシューズあり
現在、日本のジャズ・チャートの上位でその存在を放っているのは、松田聖子の初のジャズ・アルバム『SEIKO JAZZ』である。この成功の陰に、MJQのリーダー、デビッド・マシューズがいる。松田聖子は、マシューズと全面的に手を組み、全曲のアレンジをマシューズに頼んだ。CDの中身は、ストリングス・オーケストラをバックに、聖子が愛するバート・バカラックの3曲、ボサノバの名曲3曲、映画の主題歌のスタンダード、そしてノラ・ジョーンズとバラエティに富んだ楽曲をジャズ・アレンジで聴かせてくれる。演奏には、MJQのメンバーも協力している。アルバムを聴くと驚かれるだろう。“見事なジャズ”である。松田聖子が、素晴らしいのだ。彼女は、すべての曲を深いレベルで理解している。デビュー当時から豊かなソウルを持っていたがさらに経験を積み、マシューズのバランスの良いアレンジと相まって、とても素敵なジャズ・アルバムを完成させたのだ。セルジオ・メンデスの「マシュ・ケ・ナダ」は、聖子の声が心地よい。続いて、すごく格好いいトランペット・ソロが流れるが、それを吹いているのは、MJQが誇る名トランペッターのマイケル・ロドリゲスである。アレンジも実に素晴らしく曲の終わり方も絶品である。
▲ 「追憶 / The way we were」MV
公演情報
マンハッタン・ジャズ・クインテット
MJQジャパンツアー2017 ~スイングしなけりゃ意味ないね~
熊本県・大津町文化ホール:2017/9/9(土)
開場16:30 開演17:00
>>公演詳細はこちら
静岡県・島田市プラザおおるりホール:2017/9/10(日)
開場17:00 開演17:30
>>公演詳細はこちら
名古屋ブルーノート:2017/9/11(月)
1stステージ開場17:30 開演18:30 / 2ndステージ開場20:30 開演21:15
>>公演詳細はこちら
千葉県・浦安市 浦安コンサートホール:2017/9/13(水)
開場18:45 開演19:15
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2017/9/14(木)
1stステージ開場17:30 開演19:00 / 2ndステージ開場20:45 開演21:30
>>公演詳細はこちら
北海道・新冠レ・コード館:2017/9/16(土)
問合:新冠レ・コード館 0146-45-7833
北海道・幕別町百年記念ホール:2017/9/17(日)
開場17:30 開演18:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2017/9/20(水)
1stステージ開場17:30 開演18:30 / 2ndステージ開場20:30 開演21:30
>>公演詳細はこちら
岡山市・未来ホール:2017/9/21(木)
開場18:30 開演19:00
>>公演詳細はこちら
神奈川県・大和市やまと芸術文化ホール:2017/9/23(土)
開場13:30 開演14:00
>>公演詳細はこちら
BAND MEMBERS
デビッド・マシューズ / David Matthews (Piano)
マイケル・ロドリゲス / Michael Rodriguez (Trumpet)
クリス・ハンター / Chris Hunter (Saxophone)
ハンス・グラヴィシュニク / Hans Glawischnig (Bass)
クリフ・アーモンド / Cliff Almond (Drums)
マンハッタン・ジャズ・クインテット KING RECORDSオフィシャルサイト:http://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=18772
Text:高木信哉
関連商品