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砂原良徳×國崎晋(『サウンド&レコーディング・マガジン』)が語るアート・オブ・ノイズ 「ほんの一瞬のひらめきで世の中が逆転する世界」



砂原&國崎対談インタビュー

 2017年9月、アート・オブ・ノイズのメンバーであるアン・ダドリー、J.J.ジェクザリック、ゲーリー・ランガンによる来日公演が行われる。昨年リリース30周年を迎えたアート・オブ・ノイズの名盤『イン・ヴィジブル・サイレンス』のリブート・ツアー。彼らにとっても30年以上ぶりの来日ツアーとなる。今回はそんな記念すべき公演を前に、彼らのファンであることを公言する砂原良徳と、『サウンド&レコーディング・マガジン』の編集人、國崎晋の対談を企画。アート・オブ・ノイズについてたっぷりと語って貰った。砂原・國崎とも、私物のアート・オブ・ノイズのコレクションを持ち込み、話に華を咲かせた。

「フェアライト」の低ビット・サンプリングの魅力


▲YMO『テクノデリック』

國崎:砂原さんがサンプリング・ミュージックを知ったのって何がきっかけでしたか?

砂原:やっぱり(YMOの)『テクノデリック』(1981年)じゃないかなぁ。その時はまだ本人達も“サンプリング”って呼び方をしてなかったと思います。

國崎:なんか「デジタル・メモリーでできてる」みたいな感じでしたよね。その後にアート・オブ・ノイズが出てきた時に、『テクノデリック』と聴いた感じの差ってありましたか?

砂原:全然違いましたね。『テクノデリック』は、サンプリングはサンプリングなんだけど使い方が上品で、音楽を分かってる人の使い方というか。でも、アート・オブ・ノイズが出てきて「やっと、音楽的な教育を受けてなくてもアイデアで音楽を作れるようになったな」と思いました。そういう意味では、立花ハジメさんの「REPLICANT J.B.」とかに近い。

國崎:すごく暴力的なサンプリングの使い方でしたよね。僕も、サンプラーが出てきた時、テレビ番組とかで犬の鳴き声とかで音階を鳴らしていたのを聴いて、「馬鹿っぽいけど、すごいな」と思っていて、でも、それだとあんまり音楽的にはならないから、YMO的な、ちょっと品の良いリズムとして使う物なのかなと思っていたんです。でも、アート・オブ・ノイズって、言ってしまえば「犬の鳴き声で音楽作ります」みたいなのを、本当にドカンとやってしまうくらいの乱暴さで、結構びっくりしましたね。


▲Art of Noise - Beat Box Version 1

砂原:ドラムとオーケストラ・ヒットだけの曲にも衝撃を受けました。この時代、たしかアート・オブ・ノイズはヒップホップの括りだったと思います。当時、アメリカにはハービー・ハンコックがいて、ヨーロッパにはトレヴァー・ホーン一派がいて、日本でそれに一番反応してたのが細野さんだった。その時はまだRun-DMCもいなかったし、ヒップホップがラップと合体してるっていうのも、いまいちぼんやりしていた時代だったので。

國崎:音数が少なくて、リズムだけの音楽っていう点が共通の特徴ってことですよね。この頃のアート・オブ・ノイズって、すごく派手な音だったと思うんですけど、なんででしょうね?

砂原:元の音が派手だったのと、サンプリング・レートが低いっていうのがあったんじゃないですかね。フェアライトの<シリーズI>っていうのが(サンプリング分解能が)8ビットだったのかな。レコーディングできる周波数も、かなり下まで設定できたんですよね。<シリーズⅡ>からはそれが上がっちゃって、J.J.が「あんまり好きじゃない」って言ってると聞きました。

國崎:サンプリング周波数が低いほうが良かったんですね。あの頃はみんなハイファイこそが正義で、もっとスペック上がって欲しいって思ってたのに…

砂原:彼はこの時点で気づいてたんです。

國崎:サンプリングの周波数やレートが低いと、なぜ音が派手になるんでしょう?

砂原:曖昧な部分というか……映像や静止画と同じで、ギザる。

國崎:ジャギーが出る感じですか?

砂原:そうです。そこに角度が付いてくるので、エッジが立ってガタガタになるから派手になってくるんだと思います。

國崎:カセット・テープにとってロウ・ファイになった、とかではなく?

砂原:ちょっと違いますね。デジタルのディスト―ションみたいなものだと思います。弦とかを「ファー」ってやっても「ギャーン」ってなっちゃうみたいな(笑)。

國崎:当時はそれを聴いて「音が良いな」って思った記憶があるんです。それは派手だったからですかね?

砂原:派手だったのと、あとやっぱりZTTの作品は全部、音が良いですね。

國崎:何が良いんですかね? マスタリング?

砂原:いや、もう工程が全部良いんじゃないですかね。クオリティー・コントロールが相当厳しいし、あのスタジオにいた人の作品を聴いて「なんだこの音?」って思ったことは一度もないです。MELONの『DEEP CUT』もZTTで録って、エンジニアとしては上のレベルじゃない人たちだったんですけど、それでもめちゃめちゃクオリティの高い録音でした。

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