Billboard JAPAN


Special

アンドリュー・マクマホン×井上竜馬(SHE'S) 『ファイヤー・エスケイプ』スペシャル対談



アンドリュー・マクマホン インタビュー

 2000年代にサムシング・コーポレイトやジャックス・マネキンのフロントマンとして活躍したアンドリュー・マクマホン。2015年から自身の名前を冠したソロ・プロジェクト、アンドリュー・マクマホン・イン・ザ・ウィルダネスで音楽を発信し続けている。2017年6月7日に国内リリースされた最新アルバム『ファイヤー・エスケイプ』は、米ビルボード誌が選ぶ『2017年上半期ベストアルバム50』に選出され、その“エモい”サウンドに、アンドリューが最も憧れるビリー・ジョエルも「彼こそ観るべきアーティスト!」と太鼓判を押すほど。アンドリューは、現在ビリーのスタジアム・コンサートのオープニングアクトも務めている。

 本作に収録のシングル「ファイヤー・エスケイプ~きみがいる世界」は、『パナソニックの家電新キャンペーン』のテーマ曲に起用され、今やTVCMやラジオで彼の曲を聴かない日は無いほどだが、自身のツアーや音楽フェスの出演を控えるアンドリューが、本作のプロモーションのため6月下旬に来日。来日中の6月28日には、16歳の頃からアンドリューの大ファンだと公言するピアノ・ロック・バンド、SHE’Sのフロントマン井上竜馬とインストア・ライブでの共演を実現させている。Billboard JAPANは、これからそのインストア・ライブのリハーサルを行う2人にインタビュー。最近の音楽事情から、夢の共演、そして音楽作りまで、とことん語ってもらった。

できるだけ多くの人に自分の音楽を聴いてもらいたい

−−いま、ここがお二人の初対面の瞬間でしょうか?

アンドリュー・マクマホン:イエス!

−−井上さん、緊張されてますけれども(笑)。

井上竜馬:いや、しますよ(笑)!

−−16歳の頃から、アンドリューさんの楽曲を聴いていたそうですが、今回のオファーが来た時はどう思いましたか?

井上:驚きを通り越して、 正気かな?と思いました。

アンドリュー:僕はすごく楽しみにしてる。SHE’Sのミュージックビデオをいくつか拝見したけど、すごく好きになって、今ではすっかりファンになったよ。

−−アンドリューはこれまで他の国の方と共演されたことはありますか?

アンドリュー:初めて! むしろ楽しみ。

井上:おおお!

−−(笑)。今回、井上さんにとって、アンドリューとの共演は、まさに“夢の共演”になるかと思いますが、アンドリューにとっても、“夢の共演”と言えばビリー・ジョエルのオープニングアクトを務めることになったことが言えますね。彼と同じステージを立つというのはどんな心境ですか?

アンドリュー:ビリーに会った時も、僕もまさに今日の竜馬と同じ感じだったから、彼の気持ちがすごく分かる。9歳くらいからビリーの曲を聴き始めて、自分の曲を作り始める頃からずっと聴いていた憧れの存在だったから、彼と同じステージに立って、そして彼の前座を、しかも大きいステージで演奏するということは、本当に力強い、ものすごいパワーをもらう経験で、夢が叶った瞬間だった。

−−井上さんにとって、これまでの音楽活動の中で、これは自分の音楽キャリアの中でハイライトと呼べる出来事はありましたか?

井上:誰かと共演することが今までなかったのですが、一発目が、自分がずっと好きだったアンドリューなので、今が自分の音楽人生の中で結構ハイライトですね(笑)。

−−アンドリューは、7月14日に行われるビリーのクリーヴランド公演の会場が、これまでプレイしてきた中でも、過去最大級の会場になるようですが、大きなスタジアムでの演奏と、こぢんまりとしたライブハウスでの演奏では、演奏方法は変わるものですか?

アンドリュー:どんな会場であろうと、ライブをやる時は、“お客さんと一体になる”ということを目指しているけど、小さい会場の時は、最前列のお客さんに話かけたりして、観客とその一体感を生むよう務める。今度のクリーヴランドでのライブはビリーと3度目のコンサートになるんだけど、初めて彼のスタジアム・ライブに出た時、1曲目の歌詞が飛んじゃって! しかもそれは「ファイヤー・エスケイプ~きみがいる世界」だった(笑)。「ヤバい!」と思って、バンドや自分がいつも見慣れているものに目をやったら、集中して落ち着くことができて、それからは他のライブと同じ感覚で演奏することができた。大きい会場だろうと、お客さんと繋がることが大事だから、できる限り後ろの観客とも繋がろうと思っている。会場の大きさで違いがあるとしたらウェーヴだね。これは大きい会場でしかできない。これまでやった2公演とも、観客にウェーヴをやってもらったよ。

−−大勢に囲まれていると圧倒されたり、プレッシャーを感じたり、怖気づいたりするものですか?

アンドリュー:そうだね、やっぱり圧倒される。だけど一回やってしまうと、次からは多少楽になるんだ。とはいえ、大観衆の前で大失態なんて、絶対やりたくないことだから、しっかりリハーサルを積んで、ちゃんとしたパフォーマンスをしようと心掛けている。

−−井上さんも9月からホールツアーが始まりますね。会場が大きくなっていくのを目にして、プレッシャーを感じますか?

井上:プレッシャーは、ないですね。嬉しいとか、楽しみが強いです。大きい会場になるほど、どうやって楽しもうかな、こういう演出をしたほうがいいかなと考えるのが楽しいです。

−−分かりました。アンドリューのニュー・アルバムのお話をしようと思います。『ファイヤー・エスケイプ』はニューヨークに影響されて制作されたとお聞きしました。これまで何度もニューヨークを訪れていると思いますが、なぜ今回、ニューヨークに影響された作品に仕上がったんでしょうか?

アンドリュー:このアルバムを制作するにあたり、早い段階で「ファイヤー・エスケイプ~きみがいる世界」をニューヨークで書きあげた。その時の滞在が自分にとってすごく刺激を与えてくれた。ニューヨークには本当にたくさんの刺激があって、街の情景とか、他の街に比べて多彩だとか、色彩の豊かさとか、そういった部分から、たくさんの刺激を受けたところであの曲ができたんだ。ニューヨークでセッションをした時、もうここにしばらく滞在して作品を作ろうと決心したんだよ。

−−その「ファイヤー・エスケイプ~きみがいる世界」は、現在ラジオで頻繁にオンエアされ、6月19日付けのBillboard JAPANのラジオ放送回数で最高2位にチャートインしました。パナソニックのTVCMにも起用され、幅広いリスナーに周知されていますが、アメリカでもラジオやCMといったところで使われると、ヒットする近道になるのでしょうか?

アンドリュー:その通りだと思う。今は人々の音楽の聴き方が、僕がバンドで音楽作品を出していた頃に比べて、大きく変わったにも関わらず、アメリカでは音楽を多くの人に届けるという意味では、まだまだラジオの影響力が大きい。これまでサムシング・コーポレイトやジャックス・マネキンとして活動してきたけど、今回のソロ・プロジェクトが、これまでのバンド活動より、多くのラジオのエアプレイを獲得している。それは実際ツアーを回っていてすごく実感する。

 日本では、パナソニックのCMに起用され、これは僕の音楽活動の中で最もビッグなタイアップになった。その効果の大きさに僕もマネージメントもすごく驚いていて、今回、日本に来て、こんなにもたくさんの日本の人たちに聴いてもらっているんだと、手ごたえを感じている。アメリカでも、大きなCMタイアップが決まったアーティストやその曲の認知度は、ぐっと上がるケースがよく見られるね。


Fire Escape (Official Music Video)


−−多くの方に聴かれるっていうのは大事ですよね。曲作りの時はラジオでかかりやすい曲かどうか気にされますか?

アンドリュー:僕自身ラジオを聴いて育って、ラジオを通してたくさんの大好きな音楽と出会うことができたから、やはり音楽を書く上でも、僕が目指すところはやはり、その音楽をできるだけ多くの人に聴いてもらいたいということに尽きる。曲を書いているときに、この曲がラジオ向きかどうかを考えないけど、ある程度アルバム用に曲を書いていく中で、改めて完成した曲を聴いたときに、「あ、これは結構ラジオに向いているかも」と思うことはある。自分が根っからポピュラー・ミュージックを好きだということと、できるだけ多くの人に自分の音楽を聴いてもらいたいという想いがあるから、必然的に盛り上がる曲、ラジオ向きの曲ができることが多いかな。

−−井上さんはSHE’Sの音楽をリリースするとき、バンドメンバーの方とどういったターゲット層をメインにして作ろうといったお話し合いをされますか?

井上:曲を出す時は聴く層とかを全く考えず、単純に自分のバンドで表現したいことや、こういうバンドって思われたいといったことを考えています。売れる為の曲や、広く周知されやすいからポップで明るい曲がいいとか、そういう考えはなくて、自分らのルーツであり、好きで聴いてきたジャックス・マネキンとかサムシング・コーポレイトらに影響されてやりたいと思った音楽を今作っているだけで、特に難しいことは考えていないです。音楽を出すってなった時も、スタッフと「これがいいよね」とか、「これはこういうところに聴いてもらえそうだよね」みたいな話はしますけど、自分が作る時は特にそういうことは考えていなくて、気持ちいい曲だけをやりたいと考えています。

−−そうなんですね。アンドリューは今の井上さんのお話を聞いてどう思いますか?

アンドリュー:そうじゃなきゃいけないと思う。まず自分たちが納得しないといけないし、自分たちがこれをやりたいんだっていう信念を持っていないと、音楽って書くのも難しいと思う。自分の為じゃなく、誰かの為に書くというのが先に来ちゃうとなかなか難しいよね。そういうところ、僕もすごく共感できる。

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音楽を書くことで得られる満足感は他の何物にも代えがたいもの

−−アルバムの話に戻りますが、『Zombies on Broadway』(『ファイヤー・エスケイプ』の原題)というタイトルは、どこから生まれたのでしょうか?

アンドリュー:タイムズスクエアに群がる観光客たちを見て、この言葉を思いついたんだ。アルバム制作期間中、ニューヨークのブルックリンに滞在していて、マンハッタンにあるスタジオには午前11時とか12時くらいに着くんだけど、そこの駅からスタジオまで、観光客をかきわけて行かなければいけなかった。スタジオの作業が終わると今度は酔っぱらいたちの間をかきわけて駅まで戻らなきゃいけない。そういう日々のプロセスを、このアルバムは象徴しているんだ。最後には、夜な夜ないっぱいお酒を飲み歩いていた自分もゾンビの仲間入りをした。これは冗談だよ(笑)。

−−(笑)。井上さんは、今作を聴いて、どんなことを感じましたか? 好きな曲はありますか?

井上:「ドント・スピーク・フォー・ミー」が好きです。ミュージックビデオは「ファイヤー・エスケイプ」が先で、その後に「ドント・スピーク・フォー・ミー」のビデオが出たはずです。1作目もすごく好きだったんですけど、僕がピアノ・エモとかを聴いていた時代のアンドリューの泣きメロの感覚がすごく出まくっている曲だなぁと思いました。この曲を聴いた時、鳥肌とニヤケが止まんなくて。同じタイミングで、うちのスタッフが「ソー・クロース」のミュージックビデオのリンク をTwitterにアップして、良いっていうコメントを書いていたのを見て、「本作ヤバそうですね」っていう話をしたくらい。あの1曲で持っていかれたな。リリースまでのワクワクがバーってなりましたね。

アンドリュー:聞いていて恥ずかしくなってきた(笑)。


Don't Speak For Me (True) (Lyric Video)


−−今作はこれまでの作品と同じように、爽やかなアップテンポの曲が多いですが、過去の作品とは違う部分はありますか?

アンドリュー:このウィルダネス・プロジェクトは、あえて自分を慣れない環境あるいは、自分がやらないことをやってそこから何か新しいものを生みだそう、というテーマをゆるく決めている。今作の大きな違いは幅広い人とコラボレーションをしていること。あえて普段、自分と違う音楽をやっている人たちと組んでみて、新しい環境に自分を置くことで何か新しいものを作り出すということをすごくやった。今作はこれまでにないくらい、たくさんのコラボレーションをやって、前作からすれば、かなり発展したもの。違うジャンルの人たちとの多くのコラボレーションが今作の特徴かな。

−−井上さんのお気に入りの曲は「ドント・スピーク・フォー・ミー」ですが、アンドリューにとって一番思い入れのある曲とか、最もパーソナルな曲を選ぶとしたら、どの曲になりますか?

アンドリュー:もちろん全部がすごく思い入れが強い特別な曲なんだけど、8曲目の「ウォーキング・イン・マイ・スリープ」は、その中でもすごく好きな曲。曲自体は、かなり早い段階で書いた曲なんだけど、そこから時間が経ってレコーディングとプロデュースをした曲だ。この曲には本当に僕のありのままの感情が出ている。仕事柄、いろいろな場所に旅をしていると、自分の大切な人と離れている時間がすごく多いけど、離れてしまっているけど想いを感じているという気持ちがすごく表れている曲だと、とても気に入っているよ。


Walking In My Sleep (Lyric Video)


−−アンドリューは楽曲を作る時は、メロディーが先ですか? それとも歌詞から書き始めますか?

アンドリュー:何万通りのやり方があるけど、僕の場合は言葉が先。フレーズをメモ書きしたノートや、ホテルの紙切れなんかに書いておいたものを持って、ピアノの前に座って書き始めるっていうことが多いかな。

−−井上さんはどうでしょうか?

井上:僕はメロディーが先ですね。最初にメロディーを、エセ英語的な感覚で作ることが多く、そこにバチっとハマる英単語があれば英語を入れるし、それを日本語にあてはめて書くことが多いです。

−−先程、リスナーが聴く音楽形態が変わってきたというお話が出ましたが、お二人はストリーミング派ですか? それとも、CDを買う派ですか?

アンドリュー:アナログを買う。それにストリーミングも結構活用しているよ。

井上:僕も両方。CDも買うし、ストリーミングも聞きます。

アンドリュー:アメリカには、日本みたいにCDを買える場所がないんだよね。

井上:え!?

アンドリュー:アナログを置いているお店の方が多い。

井上:ええ! 日本ってちょっと遅れてるんですかね? 音楽シーン的な話でも。

アンドリュー:僕は日本のみんながまだCDを買って、アルバムを楽んで聴いてくれる風潮が残ってることが素晴らしいことだと思う。僕自身、Spotifyとかを聴くんだけど、レコード屋に行って好きなバンドのレコードを手に取って、頭から最後まで聴き通すことが、もう無くなっている気がする。今はシングルをメインに聴いて、もし好きだったらアルバムを買いに行く感じ。でもそれって一生懸命アルバムを作った人たちを裏切ってる気がする。でも日本には、CDを買ってバンドを応援する風潮があって、それってすごいことだよ。

−−リスナーにとっては、ストリーミングは手軽でいいですが、作る側としては金銭面で厳しいですよね。成功できるのも一握りで、一層厳しくなってきた音楽ビジネスで、それでもまだ音楽を続けようと思う原動力はどこから来るのでしょうか?

アンドリュー:リスクとは関係なしに、自分がやっていて達成感や満足感を得られるから。お金とか、生計が立てられるかどうかを考える前に、これが僕のやること。音楽を書くことで得られる満足感は他の何物にも代えがたいものだ。今後、音楽ビジネスの在り方が変わっていったとしても、これ以外に、そしてこれだけの満足感を得られるものがないから、僕は今後も音楽を作り続けるよ。

−−井上さんはどうでしょうか? 昨今のバンドブームの中で生き残っていくのも、結構難しいですよね。

井上:生々しい質問ですね、本当に(笑)。なんでしょうね? もちろん昔はバンドで売れてお金持ちになりたいと思ってたけど、最近は、“続けたい!”っていう気持ちがただただ大きくて。その条件として、売れてお金を稼がないといけないというのもありますが、今は単純にメンバーとスタッフとお客さんたちと一緒に音楽を続けたいという原動力でやっています。僕もアンドリューと同じように曲を書くのが大好きで、書いた時の高揚感が病みつきで止められない。

 お金稼ぎっていうのは、音楽を作る側が考え始めたらいけないことだろうと僕は思ってますね。そういう目的で音楽を作る人ももちろんいるけど、本当にお金が欲しいんだったら、商業的な音楽を作るだろうし、僕はそれをしたいわけじゃないですから。




アンドリュー・マクマホン「ファイヤー・エスケイプ」

ファイヤー・エスケイプ

2017/06/07 RELEASE
UCCO-1181 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.ゾンビーズ・イントロ
  2. 02.ブルックリン、ユア・キリング・ミー
  3. 03.ソー・クロース
  4. 04.ドント・スピーク・フォー・ミー
  5. 05.ファイヤー・エスケイプ ~きみがいる世界
  6. 06.デッド・マンズ・ダラー
  7. 07.ショット・アウト・オブ・ア・キャノン
  8. 08.ウォーキング・イン・マイ・スリープ
  9. 09.アイランド・レイディオ
  10. 10.ラヴ・アンド・グレート・ビルディングス
  11. 11.バースデイ・ソング
  12. 12.スローイング・パンチズ (日本盤ボーナス・トラック)
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