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フィル・マンザネラ来日記念特集&高橋幸宏コメント掲載

 自身のソロ活動に加えて、ロキシー・ミュージックのギタリスト、そしてピンク・フロイドやブライアン・イーノ、ロバート・ワイアットといった英国ロックのレジェンド達とのコラボレーションを通して、幅広い活動のキャリアを紡いできたフィル・マンザネラ。そんな彼による初のソロ名義での来日公演が、いよいよ6月末より開催される。フィル・マンザネラというギタリスト/ミュージシャン/プロデューサーの功績を、音楽評論家の保科好宏の文章で改めて振り返る。

 2ページ目では、1981年にリリースされた『NEUROMANTIC』でフィルとコラボレーションを行った高橋幸宏によるコメントも掲載。当時ライブやレコーディングで共演した高橋の貴重な証言は必見。

ロキシーのギタリスト/ブライアン・フェリーの右腕的な存在


▲ロキシー・ミュージック
『アヴァロン』

 ロキシー・ミュージックのギタリストとして、また近年はピンク・フロイドやデイヴ・ギルモア作品のプロデューサー、ソングライターとしても活躍するフィル・マンザネラが、ロキシー・ミュージックで出演した2010年のフジ・ロック以来、ソロではキャリア初となる待望の来日公演を行なう。まずはロキシー・ミュージック(以下ロキシー)について簡単に説明しておくと、グラム・ロック・ムーヴメント真っ只中のロンドンで1972年にデビュー。ブライアン・フェリー、ブライアン・イーノ、アンディ・マッケイ等、才能豊かなメンバーが在籍したこのバンドで、名作『アヴァロン』(1982年)等を発表。70~80年代を代表するレジェンド・バンドの一つとして、英ロック史に名を刻む存在であることは覚えておいていいだろう。

 そのロキシーもスタート当初こそブライアン・フェリーのワンマン・バンド的色合いが強かったものの、徐々にマンザネラもギタリストとしてだけでなくソングライターとしても頭角を表すようになり、後半はフェリーの右腕的な役割を果たすとともに、レコーディング・エンジニアとしても手腕を発揮するなど、ますます存在感を強めていったのはよく知られるところだ。

ソロ・デビュー~クワイエット・サン~801

 そんなマンザネラのユニークなギター・スタイルや音楽性が形成されたのは、イギリス人の父、コロンビア人の母の下にロンドンで誕生後、幼少~少年時代を南アメリカのキューバやベネズエラで過ごしたことと無関係ではない。両親の影響もあって早くから音楽に興味を持った彼は、6歳にして母からプレゼントされたスパニッシュ・ギターを手にキューバのフォーク・ソングを演奏するようになり、8歳の時にエレクトリック・ギターを買い与えられると、ロックとラテンのリズムの融合を試みるなどロックだけでなくジャズにも傾倒していくことになる。その後、ビートルズやジミ・ヘンドリックスの洗礼を受けた彼は、10代後半に大学進学のため生まれ故郷のイギリスに戻り、そこで知り合った仲間と1970年にプログレ・ジャズ・ロック・バンド、クワイエット・サンを結成。しかし翌年、ロキシー・ミュージックに誘われてプロ・デビューが決まったことから、クワイエット・サンは短期間で解散することになる。


▲クワイエット・サン
『メインストリーム』

 その後、ロキシーで成功を収めた彼は、75年に初ソロ・アルバム『ダイアモンド・ヘッド』をリリース。このレコーディング時に彼はクワイエット・サン時代の仲間で、ゴングに参加していたチャールズ・ヘイワード(Dr)、マッチング・モールに参加したビル・マコーミック(B)をレコーディングに誘って旧交を温め、並行してクワイエット・サン唯一のアルバム『メインストリーム』(1976年)を制作し、大学生時代に果たせなかったレコード・デビューの夢を叶えている。

 一方ロキシーは、76年に初ライヴ作『VIVA!』をリリース後に活動を一時休止することとなり、その間マンザネラは、初期ロキシーのメンバーでアルバム2枚のみで73年に脱退したブライアン・イーノ等とプロジェクト・バンド、801を結成。精力的にライヴ活動も行なう中、このメンバーを核にしたバンドで次々にアルバムを制作。10ccのゴドレイ&クレームも参加した『リッスン・ナウ』(77年)や、スピリット・エンズのティム&ニールのフィン兄弟(2人は後にクラウデッド・ハウスで成功を収める)が参加した『K-スコープ』(78年)といった名作を残している。



▲801 LIVE (COLLECTOR'S EDITION) (EPK)

ピンク・フロイドへの参加と精力的なソロ活動

 その後、78年にフェリーの呼び掛けでロキシーが活動を再開すると、大ヒット・シングル、アルバムを連発。中でも『アヴァロン』(81年)は、彼らの最高傑作として今でも高く評価されているが、このアルバム・リリース後のワールド・ツアーを最後にロキシーは正式に解散を発表。マンザネラはロキシー時代からの盟友、アンディ・マッケイとのコラボ作品や、今年1月末に他界した元キング・クリムゾン~エイジアのジョン・ウェットンとのプロジェクト・バンドでのアルバム制作など、意欲作を次々にリリース。


▲ピンク・フロイド『モメンタリー・
ラプス・オブ・リーズン』

 またマンザネラ・ファンにとって嬉しいサプライズだったのは、デイヴ・ギルモアに請われてピンク・フロイドの87年の復活作『鬱』(モメンタリー・ラプス・オブ・リーズン)にソングライターとして参加したことだろう。これを機にギルモアのソロ・アルバムやピンク・フロイドの『永遠』(2014年)の共同プロデューサーとして名を連ね、ギルモアのライヴ・ツアーにもギタリストとして同行するなど、今ではフロイド・ファミリーの一員として重要な役割を担っていることもロック・ファンなら知っておいて損はないだろう。

 もちろんフロイドとの活動と並行し、コンスタントにソロ活動も継続していた彼は、90年には自らのレーベル、エクスプレッション・レコーズを設立。ロバート・ワイアット等をゲストに迎えてソロ・アルバムをコンスタントに発表するなど、ワーカホリックと呼びたくなるほど精力的な活動を続け、ロキシーやピンク・フロイド関連の作品を除いても、ライヴ作を含めればこの40年で約30枚もの作品を発表しているのだから驚かざるを得ない。


▲フィル・マンザネラ
『ザ・サウンド・オブ・ブルー』

 そんなアルバムの中でも、2009年には自らのルーツを見つめ直したようなラテン・ミュージックのアルバム『Corroncho』を南米出身のミュージシャンや、元ユーリズミックスのアニー・レノックス、プリテンダーズのクリッシー・ハインド等をゲストに迎えてレコーディング。そこでは、典型的なラテン・ビートとエキゾチックなメロディを用いながら、モダンなアレンジのエスノ・ロックを聴かせているのが彼らしい。そして現時点での最新スタジオ作『ザ・サウンド・オブ・ブルー』(2013年)では、更にラテン・ロックを発展させたまるでサンタナの泣きのギターを彷彿させるエモーショナルなナンバーを始め、イーノとのアンビエント・ミュージックを連想させる曲やアラブ風のエスニックな楽曲など、彼の音楽キャリアの集大成的とも言えるバラエティに富んだサウンドを聴かせてくれる。

ソロ初の来日公演 ロキシーのレパートリーにも期待

 今回、ソロでは初めてとなる来日公演は、そのアルバムに参加したサウンド・オブ・ブルー・バンドの6人を核に、新たにキーボーディストを加えた総勢7人編成でのステージが予定されている。ラテン系ミュージシャンも含むメンバーでは、華やかな女性シンガー、ソニア・バーナードの存在も注目で、最新作からの新曲だけでなくロキシー・ミュージックの代表曲もたっぷり聴かせてくれるはずだ。今年リリースされた最新ライヴ作では、「夜に抱かれて(モア・ザン・ディス)」や「恋はドラッグ」、「レッツ・スティック・トゥゲザー」といったロキシー・ファン、ブライアン・フェリー・ファンなら是非聴きたいと思うはずの名曲も収録されているだけに、日本でもそれらの選曲を期待してもいいだろう。

 繊細にしてアグレッシヴ、テクニカルでトリッキー、ポップでアヴァンギャルドでもあるマンザネラの多彩かつ変化自在なギター・プレイを間近で堪能できるビルボードライブ公演は、全ロキシー・ミュージック&フィル・マンザネラ・ファンなら必見のスペシャル・ライヴだ。



▲Phil Manzanera "Live At The Curious Arts Festival"


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フィル・マンザネラ「ライヴ・アット・ザ・キュリアス・アーツ・フェスティヴァル2015」

ライヴ・アット・ザ・キュリアス・アーツ・フェスティヴァル2015

2017/03/31 RELEASE
VSCD-4381 ¥ 2,860(税込)

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Disc01
  1. 01.アトラス山脈からの風
  2. 02.夜に抱かれて(モア・ザン・ディス)
  3. 03.1969年、カラカス
  4. 04.遥かなるマグダレーナ
  5. 05.嵐の日
  6. 06.テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー
  7. 07.恋はドラッグ(ラヴ・イズ・ザ・ドラッグ)
  8. 08.自分を信じろ
  9. 09.レッツ・スティック・トゥゲザー
  10. 10.ピッツィカ・マンザネラ (日本盤のみボーナス・トラック)

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