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鬼龍院 翔(ゴールデンボンバー)インタビュー
新曲「#CDが売れないこんな世の中じゃ」をQRコードで無料配布するという斜め上の企画を行い、ファンのみならず世の中に大きなインパクトを与えたエアーバンド・ゴールデンボンバー。その企画を考案し、実施までを先導したのがVo-karuの鬼龍院翔だ。彼がどんな思いでこの無料配布を行ったのか、さらに彼が考えるいまの時代の“ヒット”とは?全曲の作詞作曲も手掛けるバンドのフロントマンは何を見ているのかをじっくり聞くことができた。
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大きなマイナスはない、いいパフォーマンスじゃないかと思って
−−最新作『#CDが売れないこんな世の中じゃ』は、どのような経緯やコンセプトで生まれたのでしょうか?
鬼龍院:そもそも僕がバンドを始めて、事務所に入ってCDを何枚かリリースして感じていたのが、「ファンの方に何枚もCDを買わせて申し訳ない」という気持ちだったんですね。あと、初めてCDセールスランキングで1位を獲った時も大規模な握手会をやって、ファンの方が同じCDを何枚も買ってる上で成り立った1位だったのでなんか嬉しくなかったんです。買ってくれた人への感謝として握手をするというのは全然良いんですけど。でもなんだろう。音楽を売るって、ミュージシャンってこんなものだったっけなって、なんかもやもやがあったんです。けどいまの時代、そうしないといけないという流れもわかっていて。そんな中、事務所と僕の関係がすごく悪くなってしまったんです。それで「言うことを聞いてくれないんだったら事務所辞めます」という状況に僕自身がしまして。そして、「次のシングルは、特典や握手なし」という形にしました。一応、僕のスピリットはミュージシャンらしく(笑)。特典に頼ったまま、ランキングに入っても嬉しくないというもやもやをどこかで解消したかったんでしょうね。でも会社としては、そんな売り方をしてもしょうがないんですよ。売り上げが下がるだけですし。だからこれは、ミュージシャンがわがままを言うしかできないことなんです。それを半ば脅迫するような形でやらせてもらって。でもそこからいろいろなものが見えてきました。その前まで連続で1位を獲っていたんですが、その特典なしのCD『ローラの傷だらけ』は1位じゃなくて、2位だったんです。でも、その時の2位の方が、握手会で獲得した1位よりも全然嬉しかったんですよね。
−−その経験があって、今度は違う形でやってみたいという気持ちがあったということですか?
鬼龍院:そうです。僕は“CDを無理やり売る”ということから解き放たれたんです(笑)。1度、極端に“特典なし”ということをやったら、ファンとバンドの関係も良くなると思ったんです。「複数枚買うのは大変」って思っていたファンの方が、いきなり特典を極端になくされると、どこか寂しく感じる部分があったりすると思います。だから、特典がなければいいということではなく、1度そこでファンもミュージシャンも何を感じるかっていうことをお互い感じてもらって、「じゃあこの特典だったら嬉しいよね、ファンもミュージシャンも」というものを付けていこうってなりました。
−−それで思いついたのが今回のQRコードという方法?
鬼龍院:そうですね。CD発売を自分でプロデュースするようになってきまして。ファンの方が、発売日を楽しみにできるようにしたんです。例えば、CDに3曲入っていたら、1曲目はMVで早めに公開しておいて、2曲目はサビくらい聞ける。でも3曲目はタイトルしかわからなくて、どこにも音源を出さないとか。だから、CD発売日でどんな曲なのかわくわくする楽しみを取っておく。そんな感じでいろいろとわがままを言わせてもらえる環境を整えました。そんな中、シングルを発売するつもりはなかったんですけど、『ヒットの崩壊』という本を読んだんです。いつもどんな形でCDを売るべきなのかを考えていて、その本には音楽がどんどん無料になっていく流れが海外ではできていると書いてあって、「あ、日本もこうなるんだな」って思ったんです。でも、まだ日本ではその認識はないなとも思って。CDを売って入ってくるお金って少ないし利率も悪いし、そこにしがみついていてもしょうがないなと思いました。そんな時に、日本はまだCDを売らないといけないと世の中が思っているうちに「無料でくれてやるー!」ってぶちまけていたら、それはたいそう面白いんじゃないかと考えたんです。「そんな大事なもの無料にしちゃだめだよ」って世間は思うかもしれないけど、実はこっちはあまり被害がない。衝撃的に映るけど、こちらには大きなマイナスはない、いいパフォーマンスじゃないかと思って。すぐにマネージャーに「歌っている途中にQRコードを出して、その曲を無料ダウンロードさせるっていうのを思いついたんだけどできるか確認してください」って言って。
−−すごい企画ですよね(笑)。
鬼龍院:「できれば『ミュージックステーション』がいいです」っていうことも伝えました。生放送でゴールデンタイムの歌番組は『ミュージックステーション』だけですし。そうしたら、マネージャーから「できる」って連絡が入ったので、「じゃあ、曲を書く!」ってなって、そこから曲作りました(笑)。
−−企画が先行して曲が出来た形だったんですか。ではタイトルはそこから考えたんですか?
鬼龍院:いや、タイトルはそのパフォーマンスを思いついた時にすでに頭に浮かんでいました。「CDが売れないこんな世の中じゃ」っていうタイトルだったらわかりやすくてウケるなって(笑)。
−−なるほど(笑)。私は『ミュージックステーション』を見ていましたが衝撃的でした。その後のバズり方もすごかったですね。
鬼龍院:でも、僕が少し計算できていなかったのは、CD発売ってもっと事前にテレビ局やラジオ局に情報を出しておかないといけないんだということです。今回は情報をかなりシャットダウンしていました。でも、1か月以上前から情報を出しておかないとゲストに呼んでもらえない(笑)。
−−情報がないとメディアの人間も声掛けにくいところはありますね。
鬼龍院:そこは難しいんだなと思いました。驚いてもらわないといけないので、本当に情報を出さなかったんです。だから全然ゲストとかインタビューとかなくて。でも、なんでリリースタイミングにこだわるんでしょうかね。それもおかしいと思うんですよ。発売から半月経っていても別にいいじゃないかと。というか、発売前に出るほうがダメだと最近僕思うんです。例えば『ミュージックステーション』は毎週金曜日ですけど、発売から3日後の金曜日に出るのが1番いいと思っていて。
−−すぐそのCDを買えるから。
鬼龍院:そうです。あとすぐにダウンロードできるようにしないといけないとも思っているんです。金曜日に番組に出て「来週水曜日から手に入れられる」ってなったら、それまでにいろいろな情報を見るから、CDを買う気がなくなってしまうと思うんです。見た瞬間にその物にアクセスできるということをすごく気を付けていますね。
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