Special
bonobos インタビュー
2016年に結成15周年を迎え、6月には初のビルボードライブ公演を行うbonobos。レゲエ、ダブ、エレクトロニカからヒップホップ、ネオソウルに至る様々な音楽要素を常に自分たちの音に昇華していく彼らの公演を前に、メンバーの蔡忠浩(Vo,G)、森本夏子(Ba)、田中佑司(Key)の3名にインタビュー。田中佑司(Key)、小池龍平(G)、梅本浩亘(Dr)がサポートメンバーから正式メンバーとなった新生bonobosのバンドの現状や音作り、そして公演について、じっくりと話を訊いた。
すごくいいタイミングでバンドが新しく生まれ変わりました
--2016年のリリースやツアーを経て、サポートからメンバーに加入した当初と今で、関係性に変化はありますか?
蔡忠浩(Vo,G):より仲良くなったよね。後はライブのアレンジを少し任せるようになりました。
--楽曲制作の際には意見を出し合うんですか?
蔡:基本は僕がコード進行を決めて、リフとかは任せてます。アイディアは出すこともありますが、基本的に任せるほうが長くやっていくにはいいだろうなと。なぁ、田中。
田中佑司(Key):はい。でも、関係は上手くいってますよね。現段階では(笑)
森本夏子(Ba):多分、お互いがすごくリスペクトというか尊敬し合っているんです。
蔡:バンドの音楽が時代に合わせて変わっていく中で、歳の近いミュージシャンとじっくり音楽を作りたいなと思って。バンドを10年以上やっていると、やれることが減って歳も取るし、「どうするかなー」なんて思っていたところに龍平と佑司がきてくれて、梅も居て。すごくいいタイミングでバンドが新しく生まれ変わりました。歳も近くて、みんながそれぞれのプレイを尊敬し合っているので、スタジオにいても褒め合いですよ、基本(笑)
田中:「いいねー。おっ、それいいなー」ってね(笑)
--今、「新しく生まれ変わる」という表現がありましたが、現在のbonobosからはブラック・ミュージックの要素が濃く出ているように感じます。そういったフィーリングは田中さんがお持ちだったんですか?
田中:そうですね。前からよく聴いていたし、ソウルなんかは好きです。
蔡:龍平も割とそうだし、梅もファンク・バンドをやってたからそういう要素は強いと思います。bonobosで面白いのが、この人(森本)だけがずっとレゲエ・ベースなんです。
森本:そんなことないよ!弾き分けてるよ!(笑)
--確かに森本さんのベースが太いグルーヴだというのは感じます。その一貫性がbonobosらしさだとも思うのですが。
蔡:本当そうですね。北欧っぽいアレンジでも基本は変わらずレゲエ(笑)
森本:確かに…根底はそうですね。でも、弾き分けてます!(笑)
--一森本さんは、現在のバンドの中でベースの弾き方に変化はありましたか?
森本:ベース自体は変わってないんですけど、梅のドラムはすごくベースが弾きやすいです。合わせなくても合うというか…何て言うの?佑司(笑)
田中:(笑)おそらく「せーの」の1歩目の歩幅が2人は一緒なんです。そうすると2歩目も合ってくるんで、お互いを見なくてもずっと並行して弾いている感覚っていうのが外から見ていても分かります。
森本:梅のことなんかまったく見ないもん。
--一合わせるぞ!というバンド感ではなくセッションを楽しむ感覚のほうが近いですか?
田中:いや、これがある意味バンドなんだと思います。これこそが僕らにとってのバンドなんだなって。
蔡:そうだね。いわゆるインディー・ロック・バンドみたいな感じではなくディアンジェロみたいな。
田中:そう、あの人たちも全く顔を見てないですもんね。
蔡:ディアンジェロ、もしくはザ・ルーツとか。あの辺のバンド感が理想です。今度ビルボードに(ロバート・)グラスパ―も観に行きますし、もっと定期的に見に行かなきゃなって思います。ビルボードに出てるドラマーって、音量が大きいドラマーもいるけど、小さい人も多いですよね?
--一確かに、そうですね。
蔡:ダイナミクスのコントロールが上手ですよね、最近はbonobosでもそういうことをやっていて、昔だとロック・バンドやパンク・バンドみたいに、ずっと同じ音圧でやっていたんですけど、今はもう少しドラムの点を繊細で軽くして、ぴしっと皆でグルーヴを作ってます。点が小さくなると後ろの残響や歌もよく聞こえるし、音量が大きいと速いフレーズは潰れちゃうんです。そこをちゃんと聴こえるようにしてます。
▲bonobos - Cruisin’ Cruisin’
--一楽曲制作時は、曲ごとのグルーヴは、蔡さんが決めてらっしゃるんですか?
蔡:デモを最初に作り込んだ時に、ドラムのパターンやベースのラインなど、余裕があれば鍵盤の譜割とかもかなり細かく作るんですけど、グルーヴは、ベースの音符が短い長いとかバチバチバトルをしながら作って行きますね(笑)。「そこの解釈はそうじゃない!」とか。
森本:「こっちの方が絶対かっこいい!」とか(笑)
蔡:それぞれ思う感じで弾いてみて、皆で聴き比べて、「ベースがそうならドラムのハイハットはもっと前だね」っていう具合に決めていきます。昔だったら、ほんとただの言い合いだったんですけど(笑)今はもっとフラットにスタジオで聴きながらジャッジしてます。
--一「これがいい」と思う基準がバンド内で共有できているということですかね。
蔡:そうですね。ビシッとはまるとグルーヴするし、単純にばっちりはまっている演奏になった時は体が勝手に動くのでそれが正解だ!と。
田中:蔡さん以外のメンバーが全員リズム隊みたいですよね。
森本:そうだね。佑司はリズム隊の一環として居てもらってます。
蔡:元々彼はドラマーなので。まぁ、鍵盤の方がいいんですけど(笑)
田中:それは、認めます。もうずいぶん弾いてきたので(笑)
蔡:タイム感がきっちりしているし、フレーズとか弾かせるとカッチリしていて。今作ってる曲で速いフレーズがあるんですけど、手弾きなのに「これMIDI?!」って思うやつもあるんで(笑)すごいよ~佑司!
今のbonobosとしての最大の“武器”じゃないかと思います
--今も楽曲制作はされているんですか?
森本・田中:作ってます。ミニアルバムです。
蔡:歌以外は録り終わっているんですけど、歌詞が…出てこなくて(笑)
--(笑)バンドの演奏が変わっていく中で、歌詞の作り方も変わりましたか?
蔡:日本語でポップスを歌おうとすると、どうやっても根本にフォークとか、“ニューミュージック”と呼ばれる時代の感じになっちゃうんですよね。そうじゃないのを作りたいと思っているんですが、曲から作ると日本語がはまらなくて…すっげー困ってます、今(笑)
森本:オケはすごくかっこいいのが録れているんですけど(笑)
--なかなか日本語の歌詞が乗っかっていないような曲ということですか?
森本:はい、日本語で歌うのが想像できなくて。(田中に向かって)できる?
田中:(笑)うーん。リズムのことや日本語の節を今までも蔡さんは面白くやっていて、どんどんオケの精度も上がってる気がするので、難しいだろうなぁっていうのは、思いますね。やっぱり、ご本人としても…
蔡・森本:ご本人って!!(笑)
田中:(笑)ご本人としても、オケに対する内容やクオリティとのバランスの取り方で、ご苦労されているんじゃないかと思います。
一同:(笑)
田中:だから、単純に歌詞が書けないというよりも、その部分とのせめぎ合いが大変ですよね。
蔡:よくわかってんな~田中君!
--田中さんはとても分析力があるなとお話し伺っていても思いました。
田中:いやいや、そんなことは…こんなことぐらいしか頭使ってないんで(笑)
一同:(笑)
蔡:でも、聴いたときに入ってくる歌詞の意味やイメージのバランスをどこまで保持するのかというのはあります。言葉の持つリズム感を壊しすぎると意味として機能しなくなるし。
--それは歌詞としてどうかな、と。
蔡:せめぎ合いですねまさに。解体しちゃえばいいんだろうけど、中々そこに踏ん切れずモヤモヤした感じです。でも、ハイエイタス・カイヨーテとかも英語で歌っているけど明らかにおかしいところでリズム変わっていますよね。あれは「なるほど」と思いながらも、英語は音の言葉だし…うーーん(笑)
一同:(笑)
--bonobosの音楽は、ダブ・ロックやエレクトロなど常に新しい要素を取り込んで制作されている印象ですが、それはその時に聴いている音楽の影響が大きいですか?それとも、その時々で出会う人や場所からインスパイアされるんですか?
蔡:基本的にはいつもその時自分がやってみたい音楽が多いですかね。でも、例えば前のドラマーだと、ネオソウルやヒップホップ的なアレンジは彼の特徴ではなくて。無理に叩かせるぐらいだったら別のアプローチを考えたいと思っていました。(結果的に)それはその時にしか出来ない音楽だったと思います。そういうのを探り当てていくように作っていましたね。
--では、ブラック・ミュージックの要素が増えたのは今のメンバーだからできる音楽、ということですか。
蔡:そうですね。その辺の音楽を彼らはすでに分かっているので。
田中:僕、印象的なやり取りがあって。蔡さんが気になった音源が送られてきて「これ、どういうふうにできてんの?」ってメールが来るんです。で、さっき仰って頂いたように僕は分析好きなので(笑)音を解体していって「こう作られているんだな」っていうのを各方面に言ってみるんです。ドラムは2000年代後半あたりからどんどん難しくなってきてるんですけど、僕なりに分析した結果を梅に伝えると、梅は凄くフィジカルに長けているので、「ちょっと練習しとくわ」と言って、次に来た時には出来てしまうんですよ。そこが、今のbonobosとしての最大の“武器”じゃないかと思います。
蔡:うん、梅がドラムにいるのは凄く助かる。この前もクリス・デイヴのことを話したよね。
田中:そう、なぜ普通の8ビートがあんなに黒く聞こえるのか?という。
▲Chris Dave
蔡:ハイハットに対するアプローチだったね。佑司が「クリックの頭を変えてみよう」と言ってくれて。彼らは、拍の頭の時に体が沿っているんです。そういう合わせ方でやってみようって皆でやると、途端にグルーヴのノリが変わるんです。そうするとテンポが91とか89とか、ちょっと遅めのやつでも、ドラムのハットの感じを変えるだけでぐっと変わるんです。
--刻み方を変えるというイメージですか?
蔡:(リズムの)取り方ですね。あとドラム以外はクリックを聞かないようにして、ドラムに絶対合わせるようにしています。よく考えると基本なんですけど、それをもう1回見直して高いクオリティの演奏ができるようにしたいですね。
田中:そのうちクリックも聞かなくなるかもしれないですね。
--ちなみに参考音源として分析したのはどういった曲だったんですか?
蔡:ハイエイタス・カイヨーテの曲でしたね。
田中:あの人たちって(曲によって)鳴ってる楽器や位置関係も変わるじゃないですか。すると「この曲のここはどうなってるの?」っていう質問が来て。
▲Hiatus Kaiyote - Nakamarra
蔡:後はグラスパ―とかね。
田中:グラスパ―はボイシングの取り方ですね。ベースとの関係性とか。
蔡:俺は俺でYouTubeの黒人がやっている“弾いてみた”を見て「なるほど、こうなってんのか」ってメモを取ったり弾いてみたりしてます。それで「スネアの音色は何だろう」とか「チューニングはどうなってるんだ」って佑司に投げたり。
森本:佑司、ドラムテックもできるもんね。
蔡:すごいよね、5人分ぐらい働いてるよね(笑)
来てくれる人、コサージュいらないよー!
--今回はビルボードでの初めての公演ですが、これまでにお客さんとして足を運んだことはありますか?
蔡:3年ぐらい前に、ローラ・マヴーラを観に行きました。後、ソウライヴやジミー・クリフも。
森本:だいぶ前に、ベベウ・ジルベルトも行きました。
--結成15周年を経て、今のタイミングでの初登場となります。
蔡:憧れのステージなので嬉しいですね。ステージ中の音量を下げて平熱でコントロールできるように演奏しようっていうのをやり始めたのも、ビルボードが決まってからという部分もあったし。
森本:うん、ビルボードを見据えてだもんね。
蔡:演奏者として、もう1つクオリティの高い演奏を常にできるように、トライするきっかけというか。頑張ります!
--ビルボードの会場は“敷居が高い”というイメージを持たれている方もいらっしゃるんですが、いかがでしょうか?
蔡:そういうイメージはあると思います。でも、普通にライブに来て楽しむことも大事だけど、いつもより少し贅沢なところで楽しむという感覚を味わってもらえるといいですね。
森本:カジュアルな格好でもいいんですね! うちらお客さんにMCで「コサージュつけてきて」なんて言っちゃったけど…。
蔡:嘘のドレスコードだったね(笑)皆、真に受けてコサージュつけてたらどうしよう(笑)
蔡:お客さんも緊張せずに来てもらわないとだね。
森本:メンバーも「いい服買わなきゃ」って言ってたけど、ラフな感じでもいいんだね!
蔡:いいTシャツ買おう。
田中:僕いい短パン買おう。
森本:来てくれる人、コサージュいらないよー!
--(笑)ライブの構成はもう決まっているんですか?
森本:今日中にセットリストを決めないと。
--セットリストは森本さんが担当ですか?
蔡:そうです。それがよっぽど「ん?」てなった時にはちょっと文句言いますけど(笑)
--では、断片でもいいので当日のアイディアがあれば教えて下さい。
田中:この日はホーン隊が入るんだよね。
▲『23区』
森本:そうだね。『23区』は割とホーンが入っているんですが、まだホーンを入れてライブしたことがないんです。それを入れて初めてアルバムの曲をやるっていうのはビルボードのための演出として考えてます。今までのライブでは、ホーンの音も佑司がめっちゃやってたもんね!
田中:そうなんです。
森本:やっと託せるというね。
田中:僕や龍平さんの立ち位置が、管楽器が入ることによってどう変わるのか、というのは僕も楽しみの1つとしてありますね。
森本:今制作中の曲もやろうと思ってるんですけど、歌詞待ちなので何とも…その頃には歌詞も絶対終わっているはずなんですけどね(笑)
蔡:その頃には終わってる!そこで終わってなかったら、それこそ“終わってる”わ(笑)
一同:(笑)
森本:新曲もビルボードにすごく合うと思います。
田中:でも、すっごく難しい!!
--そういえば『23区』では、ネオソウルやヒップホップでよく使われるループの感じよりも、メロディーやテンポに変則的なものがあって、大変そうだなという印象を受けました。
森本:私も聞きたかったんですけど、聴いてる人ってあの変則的な展開はどう思うんですか? やっぱりループって気持ちいいじゃないですか。
--個人的には「Hello innocence」の、先ほども名前が出たローラ・マヴーラのようなイントロからスタートして、途中でガラッとバンド・サウンドに切り替わるところに引き込まれました。
蔡:作業している時はMIDIで打ち込んで、オープン、クローズ、ハーフと色々分けてMIDI上でもグルーヴが出るようにドラムを作るんですけど、さすがに5分の曲を頭から最後まで打ち込むのは大変なので、4小節か8小節ぐらいでコピペをするんです。それでベースのラインも作るんですが、MIDIはタイトなので自分で作っていて飽きるんですよね。だんだんイレギュラーなことを入れたくなって(笑)途中で半拍ずらしたりして、気が付くとすげー複雑なものが生まれます。
--半拍ずらしたりする手法はハイエイタス・カイヨーテもよく使ってますよね。
蔡:ラップトップなんかで音楽が作れるようになって、そういう環境で音楽を作っている人は皆、偶然生まれるサウンドとの出会いはあると思います。それこそレコードをサンプリングして、ループを作って、変なとこで切れたグルーヴがすごいよかった、みたいな、機械のイレギュラーによる新しい発見は、ラップトップでもMIDIでもありますね。
--なるほど。
蔡:リージョンの動かし方がちょっと雑でずれて、再生したら変なポリリズムで面白い、とかもたくさんあります。
--それをバンド・サウンドに昇華するというのがすごいですね。
蔡:ラップトップ置いてステージ立つ面白さはもちろんあるけど、演奏するのが好きなので。打ち込みでめちゃくちゃしたやつをバンドでそのままやるという。
森本:デモを聴くじゃないですか。ベースを持ちながら聴くんですけど…。固まります(笑)佑司もそうじゃない?
田中:まず「このコード何?!」って(笑)ピアノに手を置くんですけど、動かないんです。蔡さんの頭の中どうなってんだろうって思います(笑)
森本:今の話を聞いて、ずれて間違ったやつが入ってんのかー、そりゃそうなるわーって思いました!
田中:妙な組み合わせで最終形ができてることもあるんだろうなって思いましたね。
蔡:あるね。それが面白いですからね。
--聴き手にとっても、すごく面白いですね。
蔡:聴いてる人、も音楽に対して経験が蓄積されてくから「次どういうコードだ」とか「ここからこの展開だ」って何となく分かるじゃないですか。そういうのを先回りしていきたくて。
森本:裏切っていかないとね。
関連商品