Special

『Jazz The New Chapter 4』柳樂光隆(監修)×荒野政寿(編集者)インタビュー

 ロバート・グラスパーやクリス・デイヴなど、現代の音楽/ジャズ・シーンを牽引するミュージシャンに焦点を当てた企画で、発売のたびに話題になる『Jazz The New Chapter』シリーズ。今から約2か月前の3月に、その最新シリーズ『Jazz The New Chapter 4』が発売となった。ビラルやジル・スコットをはじめ、ネオソウルの要人の貴重な証言が集まったフィラデルフィア特集。またアントニオ・ロウレイロ、カート・ローゼンウィンケルらが起点となったブラジル音楽特集など、今回もディープかつ新鮮な切り口の特集が並ぶ。では、その“中の人”たちは、今、どんな風に考えてこのシリーズを紡いでいるのか。本作の監修でジャズ評論家の柳樂光隆氏と、シンコーミュージック・エンターテイメント所属の編集者、荒野政寿氏に話を聞いた。

マイルス本は『Jazz The New Chapter 3.5』

--(本インタビューは4月上旬に収録)発売から一月ほどですが反響はいかがですか?

柳樂:そうですね。例えば、冨田ラボさんから感想をいただいたりとか…

荒野:とても長い、ありがたいTweetをしてくださいました。

柳樂:後は、People In The Boxの波多野くんとか、bobonosの蔡忠浩さんとか、ミュージシャンからの反響が多いですね。あと、小池(直也)くんっていう、今回レビューを書いてくれてるサックス奏者がいるんですけど、彼がやっている、ライブとレクチャーを組み合わせた【ネオホットクラブ】っていうイベントがあって。それに出た時に、来場者のミュージシャンとかジャズ研の子たちにも「読んでます!」って言われましたね。

--ミュージシャンの中でも特に音楽のリテラシーが高い人たち、という感じがします。

柳樂:そういう方にも読んでいただけているのはうれしいですね。

--本を作ってる時も、そういう読者想定はあるんですか?

柳樂:リスナー半分、演奏したい人半分みたいな。『ミュージック・マガジン』と『ドラム・マガジン』の間というか、そういうところを狙ってますね。

荒野:私見ですけど、ド文系っぽいジャズ評論って、理屈で物事を冷静に語らないものが多かった印象があって。音楽的な根拠とか理論より、どちらかと言うと感情や思い込みの方が重視されているような感じが、古くからあったと思うんですね。そういう意味で(『Jazz The New Chapter』は)あんまり文系っぽくない。「どういう風になってるんだろう?」っていうのを一個ずつ解析していっているような本で、それが4冊続いて、ますますそうなって来てる感じがしますね。

柳樂:でも、その“菊池・大谷”があったじゃないですか。僕としては、彼らがいて、その後に自分がいるという認識ですね。あの流れはありつつ、でも、あれはあれで、コードネームとかがいっぱい出てきて、実際に音楽をやっていない人には(本としては)ちょっと難しいので。もうちょっと『ミュージック・マガジン』的な人にも読めるように説明を考えてる感じですね。

--そういった狙いは早い段階からあったんですか?

柳樂:そうですね。

--なるほど。その辺りは当初から一貫してるんですね。

柳樂:『1』と『2』が前任の編集者と作って、『3』が荒野さんと彼の半々。で、マイルス本(『MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』)と今回の『4』が荒野さんとなので、今ちょうど2.5冊くらいずつ一緒にやってる感じですね。

荒野:いや、『3』は少し手伝っただけで、ほぼ全部(前任者の)小熊だけどね。正直、彼が離れる時に「次はどうしようかな?」と思ったんです。最初に「柳樂くんに本を作って貰ったらどうだ?」と焚き付けたのは僕だけど、ブレーンとしてあの本を動かしてきたのは、ずっと彼だったので。最初の2冊は、全体の構成とかに関しても、編集者のビジョンや意見がかなり入ってたし。そこから、ゼロに戻ってやらなきゃいけないなと思って、意図的にマイルス本を挟んだんです。柳樂くんがどういう人で、何をどういう風に見て、どういう風に思うのか、感覚的にはなんとなく分かってたつもりだったけど、もう少し具体的に知りたいなと思って。マイルスは、素材としてすごく分かりやすいし、結果として、彼のジャズに対する考え方もよく分かりました。だから、あの本は独立したものじゃなくて、完全に連動した『Jazz The New Chapter 3.5』だったんです。

柳樂:グラスパーとか、ホセ・ジェイムズとか、エスペランザ(・スポルディング)とかは、(『Jazz The New Chapter』の前は)ほとんど誰もやってなかったんですけど、マイルスはもう手垢がついていたので、むちゃくちゃ知恵を絞って本を作りました。あれをやったことで、自分で書くだけじゃなくて、「他人に説明してもらうこと」とか「いまこれを一番的確に説明できるのは誰か」とかをより強く意識するようになりました。今まで山のように取材していて、ミュージシャンとも仲が良いから、そういうのをどうシェアするか?っていう方向に意識が向いたというのもありますね。それで『4』は特に取材が多いんですよね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. ロイ・ハーグローヴのブレイクダンス
  3. Next >

関連商品