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いであやか『A.I. ayaka ide』インタビュー
亀田誠治プロデュースの新アルバム完成。
シンガーソングライターという肩書きすら脱ぎ捨てた境地へ―――
「別にそんなに「弾き語りじゃなきゃダメ」とは思ってないんですよ。ただ歌うことが好きだったからピアノを弾いただけなんです。すべては歌主導なんです。」いであやかの脱皮していくストーリーは、シンガーソングライターという枠組みすら脱ぎ捨てた境地へ。亀田誠治プロデュース、これまでとは音楽の成り立たせ方が一切違う3rdアルバム『A.I. ayaka ide』が出来るまで。そして、また「ただ歌うことが好きなんだな」という気持ちになっているという、今のいであやかについて語ってもらった。
まさか亀田誠治さんにプロデュースして頂けるとは思っていなかった
--現役女子高生シンガーシングライターとしてメジャーデビューを飾ったいであやか(当時は井手綾香)も6年目、インディーズから数えると8年目になります。紆余曲折ありながらも、こうして3rdアルバム『A.I. ayaka ide』発売までに至った今の心境はいかがですか?
いであやか - 「コンビニ」ミュージックビデオ(YouTube ver.)
--すごくシンプルで明確な結論ですね。
いであやか:デビュー当時からずっと曲を作ってきて、その「曲を作る」というところにプライドがどんどん付いちゃって、絶対に自分の曲は自分で作るとか。でもこの3年の間で「いや、良い歌ならそれをただ歌いたい」と思って。それが自分で作れた曲ならラッキーだけど、でもそこにあんまり縛られたくないと思ったんですよね。で、話は前後しますが、前作『ワタシプラス』でやりたいことを存分にやらせてもらったんです。セルフプロデュースという形で作曲もアレンジも全部自分のイメージ通り形にさせてもらって、それを作りきったときから「全部出し切っちゃったな」という感覚はあって。なので、そのアルバムが出来たときから「次は誰かが私に対して感じている良さを引き出してくれる、そんな作品作りがしたい」とは思っていて、その気持ちと「初心に戻りたい」という気持ちが合体して、もっといろんなものを受け入れられるようになったというか、いろんなことをやってみたくなったんです。--なるほど。
いであやか:それで名前も、シンガーソングライター色が強かった感じの“井手綾香”からひらがなの“いであやか”にしたり、髪をガッツリ金髪にしたりとか(笑)、イメージをいろいろ変えてみたりもして。一度区切った感じですね。それで今回のアルバム『A.I. ayaka ide』は亀田誠治さんにプロデュースして頂いたんですけど、プロデュースされたいと思っていたとは言え、まさか亀田誠治さんにプロデュースして頂けるとは思っていなかったので、日頃の行いが良かったのかなって(笑)。こんな機会はなかなかないので、有り難くお願いさせて頂きました。--前回インタビューさせて頂いたのが、2013年夏の『235 / 消えてなくなれ、夕暮れ』リリースタイミング(http://bit.ly/2oXTVFT)だったんですけど、その当時もいでさんは「悩んでいて、そこから抜け出した」話をしていて。
井手綾香 - パンテーン 2013春 CMソング「235」Music Video
--それで今日の話も聞いて感じたのは、いであやかは脱皮していくストーリーなんだなって。
いであやか:今回はもっと思い切って脱いだ感じです。前回がその脱皮していくストーリーの最初の一歩だったのかもしれないですね。--では、だんだん軽くなっている感覚ではあるんですか?
いであやか:そうですね。なんかそんなに難しく考えなくていいのかなって。そういう感覚にはなってます。何も知らずにこの世界に入って、私は気にしいなので、いろんな方の話を聞いて「それを吸収しよう」とし過ぎちゃうところがあったので、あれもこれも守らなきゃいけないと思っていて、いっぱい身に付け過ぎてキャパオーバーしてしまった。それが髪を切る前の自分だったんですけど、「いやいや、もっとシンプルに考えたほうがいいんじゃないか」と思い始め、やりたい音楽を形にしていって、そこから3年。今はもっともっとシンプルに考えることが出来るようになっていて……そうですね。軽くなったかもしれない。--そこまで辿り着くのに3年は必要な時間だった?
いであやか:その間で「次どうしようか?」とずっとみんなで考えていたんです。それを考えているうちに、今お話した答えに辿り着いた。だから自分ひとりだったらその答えを出せずにいたかもしれない。--ちなみに“井手綾香”からひらがなの“いであやか”にした、具体的なきっかけは何だったんですか?
いであやか:そのきっかけは『水曜歌謡祭』という音楽番組のオーディションで合格して、水曜シンガーズというコーラスグループのメンバーになったんですけど、その番組に出演する前に“いであやか”になったんです。それまで私も含めみんなで一致していたのは“シンガーソングライター・井手綾香”。そうファンの人たちも認識していたけど、私は「もっとシンガーである自分でありたい」と思うようになっていたので、表記を漢字よりひらがなにして“歌をうたう”ということにもっと特化していきたくて、それで『水曜歌謡祭』が始まった時点から“いであやか”になったんです。--たかが名前、されど名前で、それによって何かが変わった実感は得られました?
いであやか:自分でツイッターの名前をひらがなに変えたりとか、ブログのトップ画面もひらがなに変えたりしていくにつれて、最初はモゾモゾしてました。でもだんだん慣れてきて、響きは一緒なんですけど、芸名を持ったような気持ち。ずっと本名だったんで、もうひとつ……なんて言うんだろう? 歌い手としての自分とプライベートの自分の区別が出来るようになったかな。あと、ひらがなって広いですよね。どんな意味にもなるというか、自由度が高いイメージ。漢字の名前のときは、やたら顔の濃い日本人だと思われることが多くて、意外とハーフに見られないんですよ。でもひらがなにすると、ちょっと不思議な感じが醸し出るのかハーフに見られる(笑)。- カヤックにギターを積んで無人島まで行って、そこでプチライブ(笑)
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Interviewer:平賀哲雄
カヤックにギターを積んで無人島まで行って、そこでプチライブ(笑)
--前回のインタビューで「一人じゃ何もできなかった自分から、例えば一人旅できちゃえるような自分へ。なので、第二期の目標は、自分発信。」と仰っていたのですが、その目標は達成できたんですか?
いであやか:そんなこと言ってたんですか(笑)?--言ってました(笑)。
井手綾香 - 消えてなくなれ、夕暮れ(Music Video)
--そんな経験もしながら変化しているいであやかなんですが、今作の先行配信シングル「ずっと」を聴いたときは、もはやシンガーソングライターという枠組みからも完全に脱皮していて、サウンドもエレクトロで、かなり衝撃を受けました。
いであやか:亀田さんとタッグを組んで作っていくことになり、曲を作る前の段階から実際に会ってお話をして。なので、まず私が作った曲のデモをお渡ししてアレンジしてもらうような流れではなくて、最初に話し合って、それから亀田さんが詞曲を書いて下さって、その最初の曲が「コンビニ」だったんですけど、それを基準にアルバムを作っていったんです。で、最初にどんな話をしたかと言うと、私は今までと違うことに思いっきり挑戦する気持ちでいたので、今まで通りやるつもりは元々なかったんです。なので、亀田さんが私の声をどうしたいか? そのイメージを伺ったときに、私がやりたいと思っていたことと結構マッチしていて。最初に頂いた「コンビニ」という曲も、派手さはないんですけど、洋楽のような雰囲気があって、ガッツリ打ち込みで、ちょっと暗い要素もあって、メロディーラインも私好みのものだったんです。そこから亀田さんと「こういう感じの曲が他にあってもいいかもね」と話し合って、自分も制作に入ったんです。それで物凄くいっぱい曲を書いたんですけど、その「ずっと」という曲がいちばん亀田さんの反応が良くて。--そうだったんですね。
いであやか:「キター!って感じだね」って(笑)。すごく嬉しかったんですけど、この「ずっと」は……最初に伝えたい事を頭の中に入れて作るというよりは、メロディーが残るもの。歌のテクニックとかクセで逃げないような、誰が歌っても「このメロディーは良いメロディー」と感じられるものを作っていこうと。それだけは絶対守ろうと思って作ったんですけど、サビの頭が「Oh Oh Oh~♪」なんですよね。でもそこが最初に浮かんで、言葉がなくても「このメロディーの強さだったらアリかもしれない」と思って、そこから作っていったんです。あと、アレンジの雰囲気とかも頭の中でちょっとイメージして作っていたんですけど、亀田さんのアレンジがあそこまで思いっきりエレクトロになってるとは思っていなかったんで、最初にそれを聴いたときはビックリしたというか。でも「ここまで思い切っていいんだ」という嬉しさ。ワクワクしたことをよく覚えてます。--MVもSFですもんね。いであやかとSFが重なる未来は想像できなかったです。
いであやか:ハハハハ! いや、私もです(笑)。でもそういう世界観にも挑戦してみたかったんで。これまではシンプルにカメラ1,2台で歌ってる自分を撮ってもらう。そういうものが多かったんですけど、自分じゃない登場人物がフォーカスされて、しかもそこにストーリーがあるようなMVは初めてだったし、それが曲の世界に物凄くマッチしていて嬉しかったです。あと、私も出演してるんですけど、リップシンクの撮影で監督さんから「感情をあんまり出さないで」と言われたんですよ。いであやかとしての役じゃなくて、人造人間として歌わなければいけなかったので、すごくクールに、ずっと睨みを利かせながら撮ったんですけど(笑)、自分もストーリーの一部になっていく。そういう気持ちでMVの撮影が出来たのは楽しかったです。--そこでも新境地を開拓してますよね。
いであやか:今回のアルバム『A.I. ayaka ide』自体も、自分でほとんどの詞も曲も手掛けてはいるんですけど、「自分の気持ちを聴いてくれ」「自分のことをみんなに知ってほしい」と云うよりは、もっと広い意味での「聴いてほしい」という気持ちで作っていて。「この曲は絶対これについて歌ってるな」と分かる世界観じゃなくて、「私の声でこういう感情について歌ってみたので、皆さんに当てはめてください」という感じ。ちょっと説明が難しいんですけど(笑)。--曲の成り立たせ方がシンガーソングライターのソレとは全く変わってる。ということですよね?
いであやか:そうです!--「届け、私のこの想い」と云うものではなく、もっと音楽至上主義というか、歌が良ければ、音楽が面白ければそれでいい。ある意味、音楽に対してより純粋になっているアルバムですよね。
いであやか:そうですね。前作と今作で絶対的に違うところはそこ。曲を作っていくアプローチが全然違う。深く刺さる曲も好きですし、機会があればまたそういう曲も作りたいですけど、今回のアルバムでは純粋に“歌”を届けたかったので。何よりも“歌”が耳に入ってくるもの。アレンジも歌詞もそれを一番に考えて作っているし、スッとメロディーが入ってくる言葉選びを心掛けて作ってるんです。メロディーと言葉がどれだけ合っているかどうか。デモ段階から内容はそんなにないような言葉でも、いちばんメロディーに対してピッタリ来る言葉を当てはめて作ってるんですけど、そのときにはめていた言葉がすごくしっくり来て、そこから自分の経験も反映させつつ、歌詞を完成させていった曲が結構あるんです。だからメロディーが最初から持っていた言葉を生かしている感じ。--それこそ井上陽水さんの「歌詞」は「歌の詞」だから意味が無くてもいい、という発想ですよね。
いであやか:造語でもいいとかね。今、私もそういう格好良いことが言いたかったんです(笑)。リリース情報
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また「ただ歌うことが好きなんだな」という気持ち。それが今のいであやかです。
--とは言え、前作と新作の音楽の成り立たせ方がここまで異なるアーティスト、なかなかいないですよ(笑)。
いであやか:そうですよね! でも、これを機に完全に『A.I. ayaka ide』の方向性のいであやかにシフトするかもしれないし、これまでの私と今の私のミックスが次に打ち出されるかもしれないし、そこは自分から出てくる曲によって変わっていくと思っているんですが、これまでのいであやかを知っている方は今回ビックリすると思うんですよ。受け入れられる人と受け入れられない人が出てくるとは思うし、それぐらいの覚悟で作ったアルバムなんですけど、でも本当に良いアルバムが出来たと思っているので、今まで私のことを全く知らなかった方が聴いたらきっと「良い」と思ってくれるはずなんです。それは「もっと広くいろんな方にいであやかを知ってほしい」という気持ちで亀田さんと一緒に作っているので。いであやかのこれまでのイメージを守るんじゃなくて、もっとたくさんの方に自分の声を聴いてほしいから作ったアルバムなんです。元々の望みはそれぐらいシンプルで、そういう想いからここまで面白いアルバムが出来たことは、自分でも嬉しいです。出来ることがグッと広がった、今のいであやかを知ってほしい。--今のいであやかの音楽を知ってほしいですよね。
The Beatles - Don't Let Me Down
--音楽の作り方が変わっても『A.I. ayaka ide』と銘打っているように、いであやかであることには変わりないんですよね。
いであやか:今回のタイトルは敢えて深いことは言わないようにしたくて、自分の名前にしたんです。コンセプトという感覚でもなくて、記号みたいな感じ。とにかくまず歌に聴く人の耳が行くようにしたかったので、タイトルがそれを邪魔しないようにしたくて。そこは亀田さんとも話し合って決めたんですけど。--亀田さんと、その価値観や方向性が共有できたのは大きいですよね。
いであやか:大きかったです。私は今回のアルバムで「思いっきりいくぞ」という気持ちだったので、亀田さんも「じゃあ、僕も本当にやっちゃうよ」みたいな(笑)。亀田さんのアレンジのイメージって皆さんの中にあると思うんですけど、今回は亀田節みたいなアレンジともちょっと違うんですよ。「こういう風にしてくれと言われなかったから、僕も初めてのことをやっちゃった」と言っていて、全編打ち込みになってるんですけど、それはあれだけ多くの作品を手掛けている亀田さんですら初めてのことだったみたいで。だからお互いに初めてのことをぶつけ合ったアルバムなんです。--お互いに自分のイメージやパーソナルに縛られず、とにかく「面白い音楽を作ろうぜ」というアプローチですよね。その結果、全編打ち込みのアルバムが完成した訳ですが、ということはライブの内容も思いっきり変わる訳ですよね?
いであやか:そうなんですよ! 今、それをイメージしていかなきゃいけないところなんですけど(笑)、最近のインストアライブではハンドマイクとかカラオケで歌っているんですよ。ずっとピアノかギターの弾き語りでやってきたので、その時点でもう自分の中では「ガラッと変わったな」という感覚なんです。それも「何よりも歌を」という発想から来てるんですけど、その形が一番伝わると思っていて……でもワンマンとなるといろいろ欲張りたくなりますよね。サウンドが生楽器じゃないので、敢えてそこに生楽器をミックスさせて、アルバムと全く一緒じゃない部分も作っていきたいと思うし、どこかでピアノも用意して、やっぱり弾き語りの自分も見せたいし、ハンドマイクでも歌いたいし。--ずっと弾き語りでライブしてきた人がハンドマイクで歌う。最初はやはり違和感もあったんですか?
いであやか:ありました! それはもう手持ちぶさたですよ(笑)。--「この片手どうしよう?」みたいな。
いであやか:そう! やっぱり楽器って凄いんだなと思いました。--そこに楽器がある安心感の凄さ?
いであやか:楽器って格好良いんですよ! なので「歌にいちばん集中できる」と思ってハンドマイクにしたんですけど、すごく難しいなと痛感しました。でも楽しいですよ。新しい事をやるのは、まだ好きです。--今後のいであやかに注目してほしい皆さんへメッセージを。
いであやか:ツイッターか何かでファンの人が「本人はピアノ弾き語りのほうが良いと思ってるんだろうけど、でも今回のアルバムも僕は好きですよ」と書いていて、それを見て「いやいやいや」と思って。ピアノ、別にそんな好きじゃないし(笑)。--それはそれでなかなかの衝撃発言ですよ(笑)。
いであやか:いや、別にそんなに「弾き語りじゃなきゃダメ」とは思ってないんですよ。ただ歌うことが好きだったからピアノを弾いただけなんです。すべては歌主導なんです。だから今回のアルバムも生楽器が入ってないからと言って「イヤ」なんて思ってないんですよ。むしろすごく良いアルバムが出来たと思っているし、私が今いちばん作りたいと思っていたものを亀田さんと形に出来たと思ってるんです。だから「本当はこういうことしたいんだけど、渋々こういうことをしてるんだろうな」みたいなことを思っている方がいらっしゃったとしたら、全然そんなことはなくて、私はこれが出来て喜んでいるし、新しいことが出来ることに対してすごくワクワクしているし、今の自分は「これが良い」と思ってやってます!ということを知ってほしいです。あと、ライブも「新しい自分が出せるかもしれない」とすごくワクワクしているので、楽しみに待っていてほしいなと思います。--女子高生シンガーシングライターだった自分がここに辿り着くと思っていました?
井手綾香 / 「雲の向こう」 Short ver. ハイチオールCプラスCMソング
--では、そこに戻っていってる感覚なのかもしれないですね。
いであやか:そうです!「テレビに出たい」とか「目立ちたい」とか、ただの田舎の女の子だったんで(笑)。もちろんシンガーシングライターとしての「自分の伝えたいものはこれだ! これを貫いていくんだ!」という格好良さもあると思うんですよ。私もそうじゃなきゃいけないような気がしていた時期もあったんですけど、元々音楽を始めたきっかけやこの世界を目指したきっかけはミーハーな感覚だったので。そこからいろんなことを知って、いろんなことを経験して、また「ただ歌うことが好きなんだな」という気持ちになっている。それが今のいであやかです。Interviewer:平賀哲雄
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Interviewer:平賀哲雄
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