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スプーン 来日インタビュー~ブリットが語る最新作『ホット・ソーツ』、プリンス&ボウイの魅力、フクロウカフェ
1996年に名門インディー・レーベル<マタドール・レコード>からデビュー作『テレフォノ』リリース以降、9枚のスタジオ・アルバムを発表し、名実とともにアメリカを代表するロック・バンドとなったスプーン。フロントマンでソングライターのブリット・ダニエルとドラマー/プロデューサーのジム・イーノを中心に、米テキサス州オースティンを拠点に活動する彼らの9作目となる『ホット・ソーツ』は、米ビルボード・アルバム・チャート4位をマークした前作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』(2014年)の共同プロデューサーでもあるデイヴ・フリードマンを再び起用し制作。常に進化し続ける彼らが、ギターを大々的に使わない“未来的なロック・サウンド”を提示した、最高にダンサブルでスタイリッシュかつ濃密なプロダクションに息をのむ傑作となっている。また、今作は10年以上在籍し、主にキーボードを担当していたエリック・ハーヴェイが脱退してから初の作品となる。アルバム・リリース直後にプロモーション来日したブリットに、新作を軸に、日本にインスパイアされた詞、敬愛するボウイとプリンスの死や気になるアーティストについて話を訊いた。
TOP Photo: Zackery Michael
このバンドにいることにエキサイトしてて、
「Inside Out」で示した新たな方向性がすごく気に入っていた
――【SXSW】でのレジデンシーはいかかでしたか?ヴェニューは、“Emos”じゃなくて“Enos”ですよね。
ブリット・ダニエル:そのこと知ってるんだ!クールだったよ。深夜にプレイして、ラジオ出演するために朝早く起きなきゃいけなかったから、日本へ来るフライトの中でやっと睡眠不足を解消することができた。とても疲れた1週間だったけど、すごく楽しかった。
――一緒にプレイしたアーティストたちもバンドが自ら選んだそうですね。
ブリット:そうそう、全部で15バンド。
――トータルで何ショーぐらいプレイしたんですか?
ブリット:メインのショーが3つで…(数えだす)8だな。
――スゴイ数ですね!
ブリット:我ながらね(笑)。でも、大体いつもこれぐらいプレイしてるよ。10回…いや13回が過去最高。あれはディヴァイン・フィッツの時だっけな。1週間音楽にどっぷり浸かることができるのはすごくいいよね。
――今回はちょうどニュー・アルバム『ホット・ソーツ』のリリースと重なっていましたし。
ブリット:そう、インタビューとかラジオ出演を並行してやってたから、いつもとはちょっと違う体験ができた。【SXSW】でレジデンシーをやったバンドは、僕たちが初めてだったしね。
――新作からの楽曲で、ライブでプレイするのが特に気に入ってるのは?
ブリット:まだ収録曲全部は演奏してないんだけど、個人的に気に入ってるのは、「Do I Have To Talk You Into It」と「I Ain't The One」。後者は、今となってはレコーディングされたバージョンよりもいいプレイができてると思う。
▲ 「Do I Have To Talk You Into It」(Live on KCRW)
▲ 「I Ain't The One」(Live on The Late Late Show with James Corden)
――新作は、ブリットがギターを演奏する曲が少ないですが、その辺りの変化は?ちょっと違和感があったりする?
ブリット:あぁ、前作のツアーでもギターを弾かない曲がいくつかあったんだけど、今回は半分以上の曲で弾いていないからね。個人的には気に入ってるよ。ちょっとした小休止にもなるし。自分でも意外だったんだけど、前作のツアーの時、ギターを弾かない曲をプレイする方が、ギターを弾く曲より好きで…なによりヴォーカルに集中できる。曲にのめり込むことができて、よりパフォーマンスを意識できるんだ。
――今作にはシンセやキーボードをはじめ、様々な要素がちりばめられているので、ライブでプレイするのに手こずったのでは?
ブリット:それはあるね。「Pink Up」と「Us」はまだライブやってないんだけど…。
――その2曲は特に、演奏、再現するのが難しそうですもんね。
ブリット:う~ん、いずれ「Pink Up」はやりたいと思ってるんだけど、まだどういう風にプレイするか答えが出てない。「Us」に関しては、サックス奏者が必要だし。あのパートを演奏してくれた奏者はLAに住んでるから、もしかしたらLA公演の時はできるかもしれないけど、やや労力がかかるね。
で、質問に答えると、プレイするのが不可能じゃないような曲もなかなか手こずった。今回からはゲラルドっていう新たなバンド・メンバーが参加してて、今年の初頭はリハに明け暮れてたんだ。
――新曲に加え、彼は100曲ぐらいとか憶えなきゃいけなかったでしょうし。
ブリット:そこまでじゃないけど(笑)、かなりたくさんあったのは確かだよ。機材を色々引っ張り出してきて、どれが使えそうか、って考えたり。
――興味本位なのですが、今年【SXSW】のヴァイブは例年と異なりましたか?海外アーティストの入国規制に関する措置が話題となっていたので。
ブリット:僕の感覚的には、例年から特に変わりはなかったと思う。フェスが開催される前にニュースで頻繁に取り上げられていたのは見たよ。あんまりこういうこと言うのは嫌だけど、この問題を使って売名行為をしたんじゃないか、って思ったよ。昔から明記されてたのは事実だし。現在のアメリカの政治情勢のせいで、過敏になってるのは理解できる。それを指摘された【SXSW】も来年から文言を変えるって言ってるわけだし。だから、この件に関して【SXSW】は悪くないけど、それ以外に関しては問題があると思う。たとえば、出演するバンドにギャラを払わないのは正当じゃない。けれど、すでにシステムとして出来上がってしまっているから、しょうがないんだけどね。
――新作の曲作りはいつ頃スタートしたのですか?
ブリット:前作のツアー中にすでに初めてた。1か月間オフがあって、その後にオーストラリアに行く予定だったんだけど、僕だけ前乗りしてその1か月をオーストラリアで過ごして、曲を書き始めた。それが2015年の1月。で、その約1年後にレコーディングがスタートした。前作のツアーがすべて終わって、レコーディングまで、実際にオフを取ったのは2か月ぐらいだな。
――創造意欲に溢れてたということですね。
ブリット:あぁ、とても。
――前作の中でも際立っていた「Inside Out」などの影響が新作から伺えるのも、それを物語っているような気がします。
ブリット:その通り。このバンドにいることにエキサイトしてて、「Inside Out」で示した新たな方向性がすごく気に入っていた。前々作の制作はあまり楽しくなかったんだけど、『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』の制作はとても楽しくて、実りがあった。すごくポジティヴな心持ちだったんだ。世の中はそうではなかったけれど…。
▲ 「Inside Out」MV
――少し話が戻りますが、前々作『トランスファレンス』のどんな部分がハードでしたか?内容自体、過小評価されてるとも感じます。
ブリット:僕もいいアルバムだと思うよ。ここ数か月の間に、とりわけそれを実感した。ライブで演奏するために、曲と再び向き合ってたから。
実は、あの頃のツアーもあまり楽しいものではなかった。メンバー間に確執があって、僕自身もやや扱いにくい(笑)…振る舞いをしてた。パーソナルな面で、色々問題を抱えてた部分があってね。そのせいで、あんまりいいライブもできてなかった。“一緒に”演奏してなかったんだ。ステージに上がる前、まったく話さないまま演奏することもあって、全然いいヴァイブじゃなかった。だから、ディヴァイン・フィッツをダンと結成したことに意味があったんだ。
――それがいい転機となって、そこから再びスプーンとして活動する意欲が沸いてきた。
ブリット:そういうこと!
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ややカントリーぽいものから、エモーショナルで生き生きとしてて、官能的な曲に変えていった
――昨年プリンスが亡くなった後、多くの人々が彼の音楽と再び向き合いましたが、ブリットもそのうちの一人でしたか?
ブリット:もともとプリンスのことは、すごく好きなんだけど、昨年は本当によく彼の音楽を聴いた。僕はティーンになる前からプリンスのことが好きだったから、彼の死は痛打だった。彼のことを初めて知ったのは『1999』。友達がアルバムの白いテープを持ってて、カヴァーすらついてなかったんだけど、それをくれたんだ。「Let's Pretend We're Married」っていう、卑猥な表現がたくさん使われてる曲が収録されてるんだけど、それをずっと繰り返し聴いてた。当時11歳だったから、とにかくド肝を抜かれたよ。すごく興味をそそられ、聴くとワクワクするような曲だったんだ。そこから色々聴き始めて、他にもいい曲がたくさんあることに気づいて、彼の魅力の虜になっていった。あのアルバムの真価を見出したのは、多分それから何年も後のことだったと思う。特に後半。冷ややかでダンサブルなニューウェーヴっぽい感じで、今となってはそれらの曲が一番好きかも。
――新作で女性のコーラスを起用しているのも、プリンスっぽいなと思いました。
ブリット:うん、そうだよね!
――そのうちの一人がシャロン・ヴァン・エッテンだったのに驚きました。彼女の普段の歌声は独特なので、ライナーを見るまで全然気づかなくて。
ブリット:そう、「First Caress」でハーモニーを歌ってる。いわゆる“フィーチャリング”という形ではないからわからないと思う。彼女には、何曲かに合わせて歌ってもらったんだ。僕が「こうハモって」とか指示したり、一緒にデュエットみたいな感じで歌ったものに加えて、彼女が曲に合わせて適当に歌ったものがあったんだけど、最終的には彼女のアイディアが一番良かったから、他は全部カットしたんだ。
――シャロン以外の女性ヴォーカリストたちについても少し教えてください。
ブリット:サブリナ・エリスは、ア・ジャイアント・ドッグってバンドに所属してて…参加してもらった女性たちには、色々な曲に合わせて歌ってもらって、その中から合う、合わない、って判断していった。だから、この曲はこの人みたいな感じではなかったんだ。それとジムの知り合いのシンガー2人には、「ロボットみたいに歌ってほしい」って指示したんだ。崇高で、無感情で、女性のロボットっぽく(笑)。
――それでは、ボウイに関してはどうでしょう?
ブリット:ボウイも昨年よく聴いたよ。ボウイにハマったのはプリンスより後で…まぁ、『レッツ・ダンス』がリリースされた時はレコードを買ったけど、長い間それしか持ってなかった。で、大学生の時に<ライコディスク>から再発が出た頃に、他の作品も聴き始めた。その頃聴いたもので、一番印象に残ってるのは『ロウ』だな。
――ベルリン時代ですね。すごく腑に落ちます。
ブリット:最初は『ジギー・スターダスト』が一番好きで、あのアルバムにはノックアウトされた。こんなにも素晴らしいアルバムなのに今まで何で聴かなかったんだろう、って思ったね。そして『ロウ』。『ロジャー』は初めて聴いた時、あまり興味をそそられなかったけど、のちにすごくハマった。
――今の話を訊いて、「Never Let Me Down」をカヴァーしたのは意外だったのかなと。
ブリット:そうかも。しかもレコードで持ってない曲だったから、もう何年も聴いていなかった。午前1時にボウイが亡くなったと聞いた後、寝つけなくて彼の曲をランダムに聴いていたんだ。YouTubeで視聴してると、次に再生される動画がランダムにセレクトされるでしょ?その時に「Never Let Me Down」が流れたんだ。きっと自分では選ぶことのない曲だった。曲は記憶してるけど、自分に大きなインパクトを及ぼした曲じゃなかったから。でも、その時にふさわしい、物哀しげさがあった。そこで、その日のうちに曲をレコーディングして、その晩に公開したんだ。
――では、ディヴァイン・フィッツのメンバーで、その後スプーンに加入したアレックス・フィッシェルは新作にどのような影響を与えましたか?主にシンセやキーボードを担当しているので、今作のサウンドに大きく貢献したのでは?
ブリット:彼はウィザード!とても大きく貢献してくれた。元々「I Ain't The One」はアコースティック・ギターで書いた曲だったんだけど、アコギを取り入れた曲はアルバムに収録したくなかった。土臭いアルバムにはしたくなかったから、アレックスと一緒にキーボードを弾いたり、ある特定の演奏方法をしながら、ややカントリーぽいものから、エモーショナルで生き生きとしてて、官能的な曲に変えていった。彼は、多くの曲でそれをやってくれた。本当に素晴らしいミュージシャン。昔は、レコーディングだとほとんど僕がキーボードを弾いていて、今作でも少し弾いてるけど、彼はすごくプレイが上手いんだ。
――脱退したエリック(・ハーヴェイ)は…?
ブリット:すごくいい質問(大笑)!聞かれたの初めてだよ。
――でもエリックって10年以上スプーンにいましたよね…(笑)。
ブリット:レコーディングにはあまり参加してなかったんだ。「My Mathematical Mind」でピアノをプレイしたのと…彼の演奏はあまりレコーディングしてない。
――え、スタジオにはいたんですよね?
ブリット:もちろんいたよ。
――脱退は友好的なもの?
ブリット:そうだよ。昨日も電話がかかってきたけど、出れなくて。今エリックはハミルトン・リーサウザー(ザ・ウォークメン)のバンドにいるんだけど、彼らには【SXSW】でやったレジデンシーにも出演してもらった。その時エリックもいたし、いいリユニオンになったよ。僕はまだエリックのこと友達だと思ってるし、友達という体になってる。
▲ 「Hot Thoughts」MV
――アルバムのタイトル・トラックである「Hot Thoughts」は、制作プロセスのいつ頃に書かれたものなのですか?
ブリット:あれは、最後の方に書かれた曲。いい曲だと分かっていて、タイトルも気に入ってた。それが理由でアルバムのタイトルにもなった。タイトル・トラックが、アルバムのオープニング曲で、1枚目のシングルで、その曲がアルバムを総括するっていうアイディアに惹かれてて、アルバムのアートワークに起用されてる作品を見た時…骸骨の頭の中にあるたくさんの円が渦巻いているようだったから、「これはまさに“Hot Thoughts”だ」と思ったんだよね。
――すべてがピタリとはまった。
ブリット:うん、うまく収まったと感じたんだ。
――今ちょうど渋谷にいるので、同曲に出てくる“シブヤ”という詞について教えてもらえますか?
ブリット:昨年、僕のガールフレンドが一人で日本に来てたんだけど、ある晩電話がかかってきて…多分彼女のタイムゾーンだと午前3時ぐらいだったのかな。出かけてたらしくて、具体的にどこにいたのかはよくわからないけど、たくさんの人がいる場所で、あまり英語が流暢じゃない男性が彼女に声をかけてきたそうなんだ。その時に「歯が白くて、美しい」って伝えようとしてたみたいだった、って。
――変わった口説き文句ですね(笑)。
ブリット:僕もまったく同じこと思ったよ!ほとんど会話にならなかったみたいなんだけど、それが唯一彼女に伝わったことだったんだ。そんな風に、僕の彼女をナンパするなんて、逆に褒めてあげたいぐらいだ(笑)。単なる笑い話だけど、“Hot Thoughts”っていうタイトルがすでに浮かんでいたから、その曲を作ってた時に…なんて説明したらいんだろう、そうなっちゃったんだよね。計画性はなくて、自分の中でまだフレッシュだった話の中から、何かを見い出そうとしてたんだ。
――他にも、いくつか気になった詞があって…。
ブリット:ココナッツ・ウォーター(笑)?
――それもなのですが…(笑)、「Tear It Down」の冒頭に出てくる“フクロウカフェ”というのも、日本に関連した詞ですよね。
ブリット:実際に行ったのは、ガールフレンドなんだけどね。曲の最初のドラフトを書いた時にすでに入っていて、デモをみんなに聴いてもらった時に「フクロウカフェはやっぱりイマイチだな…しかもなんでフクロウカフェなんだ?みんなきっと意味が分かんないだろうな」と思い惑いはじめた。で、詞を変えてみたんだけど、全然面白くなくて、インパクトがなくなったから、他のメンバーに「やっぱり戻したほうがいい」って諭されて、“フクロウカフェ”でいくことにしたんだ。もともとは、彼女が日本へ行った時に訪問するのをすごく楽しみにしてる、って話してたところからとったんだ。
――ではココナッツ・ウォーターは?これも彼女に関する詞?
ブリット:いや、これは違うんだけど…どうやって思いついたか覚えてないな。恋愛関係においてありがちな、くだらない些細な口論を上手く捉えてるような気がして、面白いと思ったもので、実際に起こった出来事に基づいたものではないんだ。
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僕らは、従来バンドが歩む道とは少し変わった道を歩んできた
――実際に起こったことだと、「Pink Up」や「Tear It Down」はトランプ政権の発足や現在のアメリカの政治情勢に感化されて書かれたのですか?
ブリット:「Pink Up」は違うんだけど、そう解釈されるのは気に入ってる。(女性の権利を訴える)【女性マーチ】のテーマ曲にいいかな、なんて。
「Tear It Down」に関しては、LAに住んでる友人のソングライター、LPと一緒に書いたんだけど、彼女が“down”っていう言葉とライムするメロディを歌ってて、僕が「じゃあ、“tear it down”にしよう」と言い、「何を“tear down”(=破壊する、取り壊す)してるんだ?」って考え出した。僕が「やっぱり壁しかないよね」って言った瞬間に、これってものすごく時事的になる可能性があるな、と不安になったんだ。“例の壁”についてだ、ってきっと瞬時に思われるだろうけど…最終的にはまぁいいか、って。
――それはトランプが大統領になると思ってなかったから?
ブリット:その当時は、まさかなるなんて思ってなかった。実際に、曲に取り掛かっていた夏の間、この曲がリリースされる頃には、時を得ない、いまさらな感じになってるだろうな、と考えてた。残念ながら、そうはならなかったけどね。そもそもは、他人に対する思いやりについての曲にしたかったんだ。そこで“now we're never gonna meet~”という一本立ちしてた詞の部分を、すでに曲に合わせてLPと書いてた“tear it down”の部分と合わせたら、何だかしっくりきた、って感じだったんだ。
――本作を制作する過程で、ブリット自身も驚かされたような偶発的な出来事はありましたか?
ブリット:スタジオで偶発的に起こることには常に目を配ってる。たとえば「Us」は、サックスが曲を通して演奏されるのではなくて、冒頭のみ…最初の30秒位を演奏してもらう予定だったけど、彼がずっとプレイし続け、僕もそれを止めなかった。そして次のテイクで彼は自分がプレイした部分にハモりながら再びプレイした。それを聴いた時に、これはいい曲になるって確信した。サックスを軸に曲を再構築していこう、って。あの曲は一番僕らしさがない、って感じてて、繰り返し聴き続けてた。本当に偶然の産物で、僕だったらあんなメロディは絶対書くことがなかったけど、それが曲の中核となっている。そこが面白くて、ニュー・アルバムの収録曲で一番よく聴いてる曲なんだ。
――このアルバムのラストを飾るのに、まさにピッタリな、見事な曲だと思いました。
ブリット:ありがとう。
――ちなみに、ブリットが考える最強のクロージング・ナンバーは?
ブリット:『ジギー・スターダスト』の「Rock 'n' Roll Suicide」。あの曲は大大好き。あとは…。
――スプーンの過去の作品にも「Black Like Me」など素晴らしいクロージング曲がありますよね。
ブリット:あれはまさに「Rock 'n' Roll Suicide」を下敷きにしてるからね(笑)!他には、「Tomorrow Never Knows」とかもいいね。
――新作からはヒップホップの影響も伺えましたが、意識した部分はありましたか?前作収録の「Inside Out」をDJクイックがリミックスしてましたし。
ブリット:あれは面白いコラボだった。新作からだと、どの曲?
――「Do I Have To Talk You Into It」は、色濃いかなと。
ブリット:あ~、確かにそうだね。この曲は、書いてる時すごくテンポの速い曲を想定してたんだけど、実際に音を作りこんでいったらBPMがスローになって…90ぐらいかな、それってヒップホップのビートによく使われてるスピードなんだ。それに気づいた時に、もっとヘヴィーな何かを乗せないとと思っててね…。
――ジムとは、どんな会話をしながら作業を進めていくんですか?今話していたビートの部分などは、ドラム・パートにも関わってくると思うので。
ブリット:フィードバックをしょっちゅう求めるよ。大抵の場合、意見を聞きたいと思ってる。曲をよりいいものにしたいからね。自分が書いたものだと、距離が近すぎて、良し悪しが見分けられない時もあるし。一応メンバー全員に聞くんだけど、ジムが最も遠慮せず、フランクにフィードバックをくれるね。彼とは一番付き合いが長いし、プロデューサーとしても長けている。考えついたビートを聴いてもらって、「これはクールだね」、「これはちょっと変えた方がいい」というぐあいに。「Hot Thoughts」の場合は、僕がドラム・マシンでプログラミングしたものを「これじゃダメ」って言われて、ジムがその上から実際にドラムを叩いて、少し付け加えていった。ベースとなったビートは、ほとんど変わっていないけど。
――今回再びデイヴ・フリードマンをプロデューサーに起用した理由は?
ブリット:彼との制作プロセスがすごく楽しかったから。前回はアルバムの半分しか一緒に作ってないけど、紛れもなく、うまくいったパートナーシップだった。あまり彼のスタジオに行くのが好きじゃない、って僕が言うのを聞いて彼は驚きもしないと思うけど…なぜって、人里離れた森みたいなとこにあって、気がおかしくなりそうになるから。唯一変えれることがあるとしたら、彼にオースティンに来てレコーディングをしてもらいたい。「行くよ」って言い続けてるんだけど、それがいつもレコーディングの終盤なんだよね(笑)。「ジムのところに行ってやるのもいいね~」って、飄々とさ。僕らは1年前からずっと「そう言ってるのに!」って感じなんだけどさ。
――相性の良さはすごく感じますね。デイヴは、サウンド面においてややアクの強いプロデューサーだと思いますが、バンドの魅力と上手く融合され、昇華していると。
ブリット:デイヴが携わるレコードって、とにかく“ラウド”なんだよね。それに彼は境界線を押し広げてくれて、すごくラディカルなんだ。本当のところ、僕がデイヴと仕事をしたいって言った時に、ジムを含め何人かのメンバーは「それってうまくいくの?」って半信半疑だった。彼のサウンドというよりは、彼が携わってきたアルバムのクオリティ、あと僕はスリーター・キニーのジャネットと仲良しなんだけど、彼女がデイヴと一緒に仕事をした時のことを絶賛してたのに惹かれた。それに彼が面倒なことがない人だから―プロデューサーと仕事をするのって、時にはすごくインティメイトで、長期に渡るものだから。デイヴはとても面倒見が良くて、いい父親的存在なんだ。
――今回、アートワークにはどの程度携わったのですか?
ブリット:ジャケットのアートを選んだのと、裏面のレイアウトをやって、フォントとかを選んでるよ。これまでずっと携わってきてるからね。
――大学でアート系の学科を専攻してたんですよね。映画でしたっけ?
ブリット:そう、ラジオ/TV/映画学科。
――それはなぜ?
ブリット:オーディオ/トラック・プロダクションを学べる授業があって、それがレコード・プロダクションを習得できるものに最も近かったから。4年間時間稼ぎしてくれるから、大学に行かなきゃとは思ってて…ミュージシャンとしてやっていくためにお金を稼ぎながら、色々なコネクションを構築して、バンドを結成して、その先どんな風にレコードをリリースしていくかを考えるために。
――振り返ってみて、そういう時間があったことは有意義だった思いますか?今だと、デビュー作から文句なしの作品をリリースしなければならないというプレッシャーがあったり、成長できるような時間が与えられないですよね。
ブリット:新風を吹き込んだとは思うね。僕らのデビュー作は、お世辞にもグレイトとは言えないから(笑)。
――レーベルから契約を切られるというハードルもありましたし。
ブリット:あぁ、そういうことが起こらないために時間をかけて“真っ当な”作品を作るっていうのは、僕らはしなかったことだ。頑固さ…とも言いたくないな、自分たちがやったことを肯定してるみたいだから。創造性がないのに、そのまま突っ走っていったら、やがてうまくいくようになったんだ。僕らは、従来バンドが歩む道とは少し変わった道を歩んできた。すごくラッキーだと思うし、一緒に仕事をしてきた人々にも恵まれてて、レーベルに関しても今回古巣の<マタドール>に戻ってきたしね。
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ただ自分がハッピーになれる、満足できる作品を世に出したい
――レーベルと言えば、リリース前に新曲がアメリカン航空の搭乗曲の一つに起用されたことで、潜在的なプロモーションを行いましたよね。これは彼らのアイディアだったのですか?
ブリット:あれはマネージャーのアイディア。彼はアメリカン航空によく乗ってるんだけど、搭乗する時に流れる曲として前作から3曲ぐらい使っていることに気づいて、「バンドのことが好きみたいだから、何か一緒にできたらいいね」という話になったんだ。そこで、まだ4~5か月リリースできないアルバムがあるから、その中の1曲を流してもらって、潜在的に聴き手に訴えかけたら面白いんじゃないか、ってことになった。曲が気になってShazamしても、バンド名が“Can I”と曲名“Sit Next To You”とかになってた。曲と人の潜在的な繋がりについて知りたかったんだ。
▲ 「Can I Sit Next to You」(Live on Jimmy Kimmel Live)
――人々がカヴァーに惹かれるの原理と少し似てますよね…カヴァーって懐かしさと新しさが程よくバランスされてるので。
ブリット:(ザ・KLFの)ビル・ドラモンドがこれについて本(『The Manual (How to Have a Number One the Easy Way)』)を出版してたよね。てっとり早くヒット曲を作る方法的な。自分が持ってる楽器をすべて売るのに次ぐ方法は、カヴァーを演ること。実際に彼らもやってみて1位になったと記憶してるよ…それか本を買った誰かが書いてあることに従ってやってみたら1位になったのか。でも、カヴァーで名声を得ようとするのは安易すぎるよね。
――ちょっとズルしてる感がある…。
ブリット:そうだね。でも、いい曲はいい曲だから、歌いたい、演奏したいという願望もある。ただ自分なりの何かをプラスできないとダメだね。だから、ビートルズの曲をカヴァーするのは困難だと思う。ビートルズの曲をさらに良くする方法なんてそうないから。
――最も好きなビートルズの曲は?
ブリット:え~、難しいな(笑)。パッと思いつくのだと…(しばらく考える)、「No Reply」はいいよね。でも待って、もっといい曲考えるから。あ、「I'll Be Back」。しかもさっき話してた、クロージング曲だ。『ハード・デイズ・ナイト』の。じゃあ、こっちで!
――スプーンは、常にクオリティの高い作品を作り続けている希少なバンドですが、心がけていることは?また、それがプレッシャーに感じることはありますか?
ブリット:誰もがいいアルバムを作りたいと思っているはず。だから、みんなが感じているプレッシャーと同等のものは感じている。けれど、それ以上のものはない…何かに応えなきゃいけないとか。ただ自分がハッピーになれる、満足できる作品を世に出したいと思ってる。自分が満足したものじゃなければ、プレスの人と話したり、曲を演奏してもハッピーじゃないから。バンド自身が気に入った作品かというのが最も大事。自分たちが気に入ったもので、それをリスナーが気に入ってくれれば、言うことないね。
――決めるのが難しいと思うのですが、ぶっちゃけどのスプーンのアルバムが一番好きですか?
ブリット:新作以外だと、『ガールズ・キャン・テル』。あれは、いいレコードだと思う。
――もうすぐ結成25周年を迎えますが、活動を開始した当初、ここまで長く続けているとは思いましたか?
ブリット:ノー。レコードはリリースしたいと思っていたけれど、このバンドでするとは思ってなかった。このバンドに入る前の5年間で、3つものバンドに所属してた。どれも短い活動期間で終わってしまって、このバンドも変わらないだろうと思ってた。僕が所属してきたバンドの中で初めて、レコードをリリースしたいと言われたのが、多分大きかったと思う。デビュー作を制作した時、色々なメジャー・レーベルから話があった中、<マタドール>が声をかけてくれた。僕は、<マタドール>が大好きだった。その当時彼らが僕の好きなアーティストの作品ばかりリリースしていたから。そこが、その前に所属してたバンドとの一番の違いかな。何かが起こりそうな予感がしたんだ(笑)。
――クリエイティヴ面においてのジムとの関係性は、どのように変化していってる?
ブリット:とても良好になった。誰かとクリエイティヴなプロジェクトに取り組んで、最初の頃って、自分のアイディアを譲れない部分だったり、自分の意見に反対されると簡単に気分を害したりするよね。今は、むしろそういう反対意見が聞きたい。昔は…クリエイティヴな作業をしているときって、自己中心的になりがちで、全体像が見えてない。でも、経験を重ねていくことで見えるようになってくる。「これ昨晩思いついたんだけど、スゲーいいアイディアじゃん。気に入らないお前がおかしい」みたいな感じに思ったり…特に夜遅くに浮かぶアイディアは、そのほとんどが自分でいいものだと思い込む節があるだけど、実際はその1/3ぐらいしかいいものはない(笑)。けど、浮かぶには浮かぶから、今もやってるけど、多く場合そこまでいいものじゃないね。
――ちなみに、次回作の構想は進めていますか?
ブリット:ノー。う~ん、ノーだね(笑)。
――最近、エキサイティングだと感じたアーティストはいますか?
ブリット:ブラッドフォード・コックスのプロジェクトには常に注目してて、彼のことは大好き。ジ・オー・シーズも大好き。この質問すごく苦手なんだ(笑)、いつも忘れちゃうから。
――若手はどうでしょう?
ブリット:若手!?え~誰だろう。ハミルトンは好きだけど、彼は“若手”じゃないよね(笑)。
――そういえば、S U R V I V Eが大ブレイクしたことを受けて、オースティンのシンセ・シーンが今アツいと聞いたのですが。
ブリット:シーンについてはよくわからないけど、S U R V I V Eは知ってるよ。いいシンセ・ショップがあって、そこはみんなから注目を浴びてる。あ、オースティン出身だと、ア・ジャイアント・ドッグがすごくいいよ。彼らはやや若手だし。日本でアルバムがリリースされてるかはわからないけど、アメリカでは何枚か出していて、曲がアメイジング。フロントウーマンのサブリナはすごくカリスマ性があって、とってもワイルドなパフォーマンスをする。1年に2枚もアルバムを作ってるし。あ、もう一枚は、彼女がやってる他のプロジェクトのためなんだけど、ノリに乗ってて、本当に作品が素晴らしいんだ。
――他のアーティストのプロデュースとかは興味ないんですか?
ブリット:2009年にホワイト・ラビッツのアルバムをプロデュースしたことがあるんだけど、あれは楽しかった。
――メンバーのスティーヴでしたっけ?スプーンのツアーに一時期参加してましたよね。
ブリット:そうそう。ロブ(・ポープ)が産休で前作のツアーの初めと終わりにかけていなかったから、スティーヴが代わりに参加してたんだ。スティーヴは「Pink Up」でドラムを叩いてるよ。彼はいい友達なんだ。今は、ハミルトンのバンドでプレイしてて、素晴らしいドラマーでもある。
――しばらく日本でライブをやっていないので、近々戻ってきてください。前回の来日から10年ぐらい経っているので…。
ブリット:まだ具体的なスケジュールは決まってないけど、戻ってくる予定だよ。願わくば、単独公演ができたらいいなと思ってるよ。
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Hot Thoughts
2017/03/17 RELEASE
OLE-11372 ¥ 2,420(税込)
Disc01
- 01.Hot Thoughts
- 02.WhisperI’lllistentohearit
- 03.Do I Have to Talk You Into It
- 04.First Caress
- 05.Pink Up
- 06.Can I Sit Next to You
- 07.I Ain’t the One
- 08.Tear It Down
- 09.Shotgun
- 10.Us
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