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ジュディス・ヒル 来日記念特集&プレイリストを公開!~マイケル・ジャクソンとプリンスに寵愛された歌姫

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 マイケル・ジャクソン、プリンス、スティーヴィー・ワンダー、スパイク・リーといった大御所たちに才能を買われた日系女性シンガー/ソングライターのジュディス・ヒル。映画『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』(原題『20 Feet From Stardom』)への出演でも注目を集めた彼女は、R&B/ソウルを軸としながらロック、ポップス、ジャズ、ゴスペルなど幅広いフィールドで数々の著名アーティストと共演を果たし、2015年には生前のプリンスが指揮をとったデビュー・アルバム『Back In Time』を発表して、そのファンクな音楽性とゴスペルをベースとする力強い歌声が評判を呼んでいる。そんな彼女が、ファンク・レジェンドとの共演でも知られる両親のロバート&ミチコ・ヒルを帯同してビルボードライブ東京/大阪で公演を行う。本国でのパフォーマンスも絶賛の声が相次ぐジュディスの、地道でありながらも華麗なキャリアをライヴへの期待も込めながら振り返ってみたい。

 マイケル・ジャクソンとプリンスに寵愛された女性シンガー/ソングライター。彼らとは単に同じ場所で同じ時間を共有したというだけでなく、それぞれの晩年にツアーや作品を通して密接に関わったというあたりからして特別な存在だ。しかも、日本人の血を引いているとくれば親しみがわかないわけがない。マイケル・ジャクソンのツアー・リハーサルの様子を収めたドキュメンタリー映画『Michael Jackson’s THIS IS IT』(2009年)で世界的に存在が知られるようになった後、2010年にはAIの“For my Sister”でデュエットもしており、ここで親近感を深めた日本のリスナーもいるだろう。



▲「For my Sister feat. Judith Hill 」AI


 本名ジュディス・グローリー・ヒル。1984年カリフォルニア州ロサンゼルス生まれの彼女は、アフリカン・アメリカンのベーシストであるロバート“ピーウィー”ヒルと東京出身の日本人ピアニストであるミチコ・ヒルを両親に持つ。スライ・ストーンなどに関わってきた両親は盟友トニー・メイデン率いるルーファスがビルボードライブで来日公演を行った際にもバック・バンドのメンバーとして参加。つまりジュディスはファンクな音楽一家に育ったわけだ。

 4歳から作曲を始め、LA近郊のバイオラ大学では作曲の学位を取得。ピアノやギターも弾くが、やはり突出していたのは歌の才能で、2007年にフランスでミッシェル・ポルナレフの公演に参加し、帰国後、バック・ヴォーカリストとして、アナスタシア、テイラー・ヒックス、ロビー・ウィリアムズ、イヴリン・シャンペーン・キング、ロッド・スチュワートなどの作品で歌声を披露していく。彼女の名前はアンドレ・クラウチのアルバムにも見つけることができるが、ソウル、ポップス、ロック、ゴスペルなどに幅広く対応できる力強いヴォーカルは聖歌隊で培われたものであった。バック・コーラスにジュディスを従えて歌ったことがあるスティーヴィー・ワンダーも彼女の並外れた歌唱のスキルを聖歌隊出身であることに結びつけていたように、その声には教会のルーツが色濃く滲む。

 ここまでのキャリアだけでも十分に輝かしいが、ジュディスの名前を一気に広めたのが、幻に終わったマイケル・ジャクソンのツアー〈THIS IS IT〉にバック・コーラスのひとりとして起用されたことだろう。オーディションを受けて合格した彼女は、バックで歌うだけでなく、かつてマイケルがサイーダ・ギャレットと歌っていた“I Just Can’t Stop Loving You”のデュエット相手にも抜擢された。結局ツアーはマイケルの急逝(2009年6月25日)により中止となり、ジュディスも悲しみを味わうが、リハーサルでのふたりの様子は後に映画化された『Michael Jackson’s THIS IS IT』にしっかりと記録されている。同じ年にはマイケルに捧げた自作のピアノ・バラード“I Will Always Be Missing You”も発表。世界で10億人が視聴したとされるマイケル他界直後の追悼式典では“Heal The World”のリード・ヴォーカルを務めて注目を集めた彼女は、この先もマイケルの最期とともに記憶されていくのだろうが、これも運命だろう。



▲「Michael Jackson's THIS IS IT」Official Trailer


 2011年から2012年にはランダウ・ユージン・マーフィーJr.やスティーヴ・タイレルのアルバムでデュエットし、映画『Happy Feet Two』のサントラに参加したり、ヨーロッパ最大のエイズ/HIVチャリティ・イベント〈Life Ball〉の2012年オフィシャル・ソング“Blindfold”をトゥルース・ハーツらと女性4人で歌うなどしていた。だが、この頃、彼女のキャリアを一歩先に進めたのがスパイク・リーとの邂逅だ。リーは自身が監督する映画『Red Hook Summer』(2012年)にジュディスが書いた曲を使いたいと申し出て、結果的に同映画のサントラは全10曲をジュディスが歌うという、実質的なデビュー・アルバムと言ってもいいほどの内容となる。ソングライターおよびシンガーとしての彼女を改めて世に広め、勇気を与えたのがリーだったと言えるのかもしれない。

 さらに転機となったのが、2013年に公開されたモーガン・ネヴィル監督のドキュメンタリー映画『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』への出演だ。ダーレン・ラヴやメリー・クレイトン、リサ・フィッシャーらのヴェテランに交じって新世代を代表するバック・コーラスの歌姫として登場したジュディスは、あるシーンで「バック・シンガーの仕事は副業かな」と話していたが、劇中とサントラでは母ミチコと共同制作した“Desperation”というソロ曲を披露していたように、これと前後してコロンビアと契約していたこともあって本格的にソロ・デビューを目指していたのだろう(ちなみに映画やサントラのカバー・アートに写る横顔の女性はジュディスだ)。



▲「Desperation」Judith Hill


 また、シンガーとしてワンランク上を目指そうとする姿は、人気オーディション番組「The Voice」(シーズン4)でも見ることができた。結果は上位8位に残ったところで敗退してしまうが、クリスティーナ・アギレラ“What A Girl Wants”を歌って審査員のアッシャーらを興奮させ、バトル・ラウンドでジェイムズ・ブラウン“It's A Man's Man's Man's World”をソウルフルに歌い上げたことは今や輝かしいキャリアのひとつと言っていい。また、番組のオーディションでは敗退したものの、この頃にはジョージ・ベンソンがナット・キング・コールに捧げたアルバム『Inspiration: A Tribute To Nat King Cole』(2013年)にてナタリー・コールを思わせる上品な声でベンソンと“Too Young”をデュエット。さらにジョシュ・グローバンの北米ツアーに参加したり、ジョン・レジェンドの英国ツアーでも前座を務めるなど、人気アーティストとの仕事が増えていく。



▲「Remember When It Rained (Behind-The-Scenes at Paisley Park)」Josh Groban Ft. Judith Hill


 そんな折、ヨーロッパでTV出演した際にプリンスへの憧れを口にしたことがキッカケとなり、プリンスのもとでソロ・デビュー・アルバムを作るという話に発展する。そうして完成させたのが、ペイズリー・パークで録音した『Back In Time』(2015年)であった。リリースは以前契約していたコロンビアからではなくプリンスのNPGからで、当初は期間限定でハイレゾ音源にて無料配信されるという大盤振る舞いも話題になり、その後デジタルでの販売を経てCDでもリリース。一部の曲には名匠ガイ・ロッシェやR&B方面でもお馴染みのマケバ・ウッズ(リディック)、ケリー・ブラザーズJr.らが共作者としてクレジットされているが、演奏にはプリンスを筆頭に、カーク・ジョンソンやジョン・ブラックウェル(ともにドラムス)、アンドリュー・グーシェ(ベース)、NPGホーンズなどが参加しており、当然のようにプリンス色が強い。スライ&ザ・ファミリー・ストーン風のファンクに、ブルース、ジャズ、ゴーゴー風のビートなどが入り乱れたアルバムは、ベースで参加した父ロバート(および母ミチコ)の音楽キャリアをそのまま受け継いだかのようでもあり、ジュディスは力強いヴォーカルで真っ直ぐに歌い込んでいく。時にその歌声は NPGで活躍したリヴ・ウォーフィールドやシェルビー・Jを連想させるし、肝の据わった女ファンカーぶりはプリンスのツアー参加経験もあるベーシストのニック・ウェストにも通じている。冒頭の“As Trains Go By”はスライ風でありながら現代的なエッジがきいたファンクに仕上がっているあたり、ディアンジェロ『Black Messiah』の世界ともかなり近い。ジュディスはカルヴァン・リチャードソンの2014年作『I Am Calvin』に収録された“Dark Side Of Love”というブルージーなファンクでエリック・ベネイらとバック・ヴォーカルを担当していたが、やはりこうした曲を歌う時の表情はイキイキとしている。プリンスの2015年作『HITnRUN Phase One』にてジュディスがフィーチャーされた“Million $ Show”も彼女のファンクな資質が活かされた曲だった。



▲「Back In Time (Behind-The-Scenes at Paisley Park)」


 もちろん、そんなファンカーぶりはライヴでも存分に発揮される。昨年7月、ジュディスはニューオーリンズでのR&Bフェス〈Essence Festival〉に出演。筆者はその一部を観たのだが、父ロバート(ベース)と母ミチコ(キーボード)、トニー・メイデン(ギター)らからなるバンドを従えて、スライやグラハム・セントラル・ステーション、ミーターズなどに通じるアーシーなファンクからスケールの大きいバラードまでを緩急自在に歌うステージに釘付けになってしまった。ゴスペルのバックグラウンドが浮かび上がってくるようなスピリチュアルで力強く伸びていくヴォーカル。ピアノを弾きながら歌ったバラード“Beautiful Life”は、まるでプリンスが乗り移ったかのようでもあった。そして今回、誕生日(5月6日)を目前にして、母の故郷でもある日本にソロ・アクトとしてやってくる。バンドは、両親のロバートとミチコ、それにウォズ・ノット・ウォズへの参加でも知られる名ギタリストのランディ・ジェイコブスがトニー・メイデンの代役として参加し、ドラムスを元メイズでスティーリー・ダンなどにも関わっていたマイケル・ホワイトが務めるといった布陣。2名の女性バック・ヴォーカリストもやってくる。アルバム収録曲の“Turn Up”では途中で「みなさん…盛り上がりましょう。準備してください」と日本語で呼びかけるが、今回の公演でジュディスにこう言われたら大きな声で反応したいところだ。



▲「Andra Day & Judith Hill Jam Session | 2016 ESSENCE Festival」


 マイケル・ジャクソンとプリンスという、まったくタイプの異なるふたりのスーパースターに寄り添えたという事実…それだけでジュディスがいかにヴァーサタイルなシンガーであるかがよくわかる。生前の彼らから寵愛を受けて一緒に仕事をしたことは彼女にとって間違いなく誇りであるだろう。だが、ソロ・アーティストとして歩み始めた現在の彼女は、もうマイケルやプリンスとの話を持ち出されるのは窮屈かもしれない。それだけいろいろな可能性を感じさせるし、今後はマイケルもプリンスもいない世界で自身のファンクネスを追求していくはずだから。“バック・コーラスの歌姫”から卒業したジュディス・ヒルの勇ましい姿をぜひこの目で確かめてほしい。



▲「Cry, Cry, Cry」Judith Hill

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(オリジナル・サウンドトラック) ルー・リード トーキング・ヘッズ メリー・クレイトン リサ・フィッシャー デヴィッド・ボウイ ジュディス・ヒル ダーレン・ラヴ「『バックコーラスの歌姫たち』オリジナル・サウンドトラック」

『バックコーラスの歌姫たち』オリジナル・サウンドトラック

2013/11/27 RELEASE
SICP-3926 ¥ 2,640(税込)

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Disc01
  1. 01.ワイルド・サイドを歩け
  2. 02.スリッパリー・ピープル
  3. 03.ノーバディズ・フォルト・バット・マイン (MONO)
  4. 04.ヒーズ・ア・レベル (MONO)
  5. 05.スペース・キャプテン (『マッド・ドッグス・アンド・イングリッシュメン』より)
  6. 06.ギミー・シェルター
  7. 07.この輝ける夜に
  8. 08.レッツ・メイク・ア・ベター・ワールド
  9. 09.ヤング・アメリカンズ
  10. 10.サザン・マン
  11. 11.デスパレーション
  12. 12.ア・ファイン、ファイン・ボーイ (MONO)
  13. 13.リーン・オン・ミー
  14. 14.クリスマス (MONO) [日本盤ボーナス・トラック]

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