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「詞やサウンドの変化は、僕の新たな面だと受け止めてもらえれば」― マイケル・キワヌーカ 来日直前インタビュー



マイケル・キワヌーカ 来日直前インタビュー

 来月4月11日に来日公演を行う英国出身のシンガーソングライター、マイケル・キワヌーカ。その近年の活躍については、先日の特集記事(◎マイケル・キワヌーカ来日記念特集 ~英国を代表するシンガーソングライターへと成長した奇才とUK音楽の現在 http://www.billboard-japan.com/special/detail/1877)でも紹介した通り。

 そして、その来日記念特集第2弾として、マイケル本人への貴重なインタビューを実施。今や英国を代表するアーティストの一人へと成長した彼に、最新作『ラヴ&ヘイト』やそのインスピレーション、来たる来日公演についてまで話を聞いた。さらにスケールアップした彼のライブと音楽にぜひ注目して欲しい。

詞やサウンドの変化は、僕の新たな面だと受け止めてもらえれば

――4月には久しぶりの来日公演を行いますが、前回来日時の思い出は?

マイケル・キワヌーカ:前回の来日では、ビルボードライブ東京と大阪で2公演ずつやって、楽しかったのを覚えてるよ。その1年ぐらい前には【FUJI ROCK FESTIVAL】でプレイしたんだ。今回は滞在時間が短いから、あまり観光できないと思うけど、久しぶりに行くのを楽しみにしてる。好きな都市の一つだしね。限られた時間の中で、できるだけ色々見て回りたいね。

――昨年7月にリリースされた最新作『ラヴ&ヘイト』は、批評家たちに絶賛され、商業的にも成功しましたが、その後周囲の状況は変わりましたか?

マイケル:あぁ、確かにね。特にこっち(イギリス)では、活動範囲が広がった。アルバムを2枚リリースしたことで、認知度もあがったと思うし。1stアルバムでは見せきれなかったアーティスト性、音楽性を表現することができた。様々なチャンスも巡ってきて、より多くの観客にむけてプレイできる。すごくクールだよ。ライブに来てくれる若い客層も増えた。たくさんツアーできることが、とにかく嬉しいね。

――スタジオで作業するより、ツアーの方が好き?

マイケル:昔は、ライブをすることの方が断然好きだったんだけど、今回のアルバム制作の終盤に近づくにつれてスタジオでの作業も楽しめるようになった。スタジオがどのように機能するか、きちんと把握できるようになったんだ。だから、今は両方同じぐらい好きだよ。むしろ、スタジオの方が好きな時もある。自分の時間を自分でコントロールできるからね。

――変化をすることで、元々のファンから敬遠されるんじゃないか、という不安は?

マイケル:多少はあったよ。でも、詞やサウンドの変化は、僕の新たな面だと受け止めてもらえればいいな、と思った。まだキャリアが浅いし、すごく大きなファンベースがあったわけでもないから、そこまでナーヴァスにはならなかった。僕的には、また1stアルバムを作ったという認識だったんだ。

――この変化を、むしろ成長と言ったほうが正しいと思いますが、促したものは何だったんですか?

マイケル:そうだね。いつだって、さらに音楽を掘り下げ、演奏も上達したい、と思ってる。アーティストは誰もがそう思ってるだろうけど。今までやったことのないことに挑戦することで、みんなに新たな面、違う面を知ってほしかった。

アルバムをリリースする前って、その音楽は自分の頭の中だけで生きているものだけど、リリースされて、みんなの感想を聞いたりすると、予想外のことだったり、箱に押し込めようとする人や、「君はこうだ、ああだ」って決めつけてくる人がいる。だから、今作を作る時、そういう人たちの偏見を変えれる作品にしたかったんだ。



▲ 「Love & Hate」 (Live on KCRW)


――新作に影響を与えた曲をマイケル自身が選んだSpotifyの「Influence」プレイリストが面白かったのですが、ムーディー・ブルースやピンク・フロイドみたいなサイケデリック・ロックは、昔から聴いていたのですか?

マイケル:うん、10代後半にそういう音楽はよく聴いていたよ。そこからジャズにハマっていった。後は、ヘンドリックスやスライ・ストーンもよく聴いたね。同時に、サウンドスケープの面では、70年代のマイルスやハービー・ハンコックとか。これらは16、17歳の頃に聴いてたもので、大きな影響を受けている。

――作曲家のエンニオ・モリコーネはどうでしょう?

マイケル:エンニオは、それより少しあとで、20代前半に映画音楽にハマった時によく聴いてた。彼の音楽には、タランティーノの映画を通じて出会ったんだ。タランティーノの作品は、昔へのオマージュ的な要素が多いから。すこしダークで、頭から離れないようなインスト音楽に惹かれたんだ。

――最近のものだとテーム・インパラも選んでいましたね。

マイケル:2012年頃、僕が出演していた音楽フェスに彼らもよく出演していて、何度もライブを観に行ったのを覚えてる。彼らの音楽は、昔のレコードのサウンドを彷彿させるから、すごく好きなんだ。

――『ラヴ&ヘイト』の狙いとしては、白人的でも黒人的でもなく、その両方の音楽の要素を持った音楽をやりたかった、ということですか?

マイケル:そうだね、それが僕がずっとやりたかったこと。リスナーとしても、両方聴くしね。マーヴィン・ゲイも聴けば、ニルヴァーナやグリーン・デイも聴いてた。両方好きだし、両方に共感できるから、自分の音楽もその中間をいくものにしたいと思ってる。だから、このアルバムで取り上げてみた。言葉で説明するのが難しいことなんだけどね。

――マイケルがグリーン・デイを聴いていたというのは、ちょっと意外でした。

マイケル:ハハ(笑)。ティーンの頃よく聴いてたんだ。O2アリーナへライブを観にいったこともあるよ。ギター・ミュージックは好きだからね。自分がどんな音楽を聴かなきゃいけない、とかないと思う。もう少し大きくなると、文化や環境に左右されるものなんだろうけど。



▲ 「Black Man In A White World」


――アルバムの中でも特に印象的な「Black Man In A White World」は、アメリカで出会った多くの白人ファンがインスピレーションになったそうですが、楽曲の中には、自分が黒人であるということに反発するようにも、受け入れているようにも感じられる瞬間があります。その葛藤を楽曲を通じて表現するのが狙いだった?

マイケル:それは僕が考えていたことの一つだよ。他にも色々あるけど、その葛藤はこれまで僕がずっと感じてきたことだから。昔からそうなんだけど、好きな音楽だったり、ギターを弾くことだったり、一般的なステレオタイプから外れてることが多かった。「見た目がこうだから、こういう音楽を聴く」とか「こういう種類の人はこういうライブに行く」とかね。音楽フェスだってそうだよね。特定のグループに対してマーケティングされたものだ。そういう疑問や葛藤を表した曲なんだ。

――日本でも難しいところがあって、白人と黒人の音楽でマーケットが分かれることはないけど、リスナーはきっぱり分かれていたりします。ロック・ファンとソウル・ファンみたいに。

マイケル:すごく興味深いと思う。しかもこれって音楽のみで起こっていることじゃないから。何だか、可笑しいよね。なんらかのグループに所属し、安心したい、と思う人間の本質的な部分もあるのかもしれない。そのグループをみつけたら、扉を閉ざしてしまう、というか。

――後ろ向きな、古臭い考え方で、今の時代と矛盾しているような気がしますね。

マイケル:でも、みんな無意識にやってる。悲しい曲が好きだったら、そういうのが好きな人々ばかりとつるむ。何でも色々聴いてるっていう人はあまりいないよね。少しずつ変わってきているとは思うけど。今は、アルバムというよりトラックのほうが消費されるようになったから。たとえば、ドレイクとエド・シーランは全く異なる音楽で、両者を聴く人もいるけど、スタイルが違うだけで、それ自体も実際はグループだ。「最近のヒット」を聴く人たち…的な。僕自身は、集団意識より個々の個性に興味があるんだ。

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バンドが有能だから、すごくいい感じに仕上がってる
新曲は、ライブで演奏するのが楽しいんだ

――では、来日公演はどんな内容になりますか?前作からの曲もやる予定ですか?

マイケル:デビュー作からの楽曲もやるけど、メインは最新作からの楽曲になる。僕は恵まれてて、バンドも本当に素晴らしい。だから、ライブ・バージョンも最高だよ。

――今回のアルバムの複雑な曲をライブで表現するのには手こずりましたか?

マイケル:(苦笑)。もちろんハードだったよ。ツアーを始める前にすごく入念にリハーサルを行ったんだ。キーボードやギターで色々再現したり、試行錯誤してね。バンドが有能だから、すごくいい感じに仕上がってる。新曲は、ライブで演奏するのが楽しいんだ。

――気になるバンド・メンバーについて教えて下さい。

マイケル:リード・ギターは、マイケル・ジャブロンカ。腕利きで、若い頃のヘンドリックスみたいなプレイをするんだ。キーボードは、スティーヴ・プリングル。彼も名プレイヤーでストリングスも担当してる…シンセサイザーのストリングスをね。ホント天才的なんだ。ベースは、僕の友人アレキサンダー・ボンファンティ。ドラマーは厳密に言うと2人いるんだ。ルイス・ライトっていうアメイジングなドラマー、それとコンガとかクレイジーなパーカッションをプレイするグラハム・ゴッドフリー。

――楽しみです。今夏もフェス出演で忙しそうですが、特に楽しみにしているものはありますか?レディオヘッドとジェイムス・ブレイク出演のイタリアのフェスにも出演するんですよね?

マイケル:そう!つい先日発表されたばかりなんだけど、とても楽しみにしてる。レディオヘッドの大大大ファンだからね(笑)。

――マイケルによる「No Surprises」のカヴァーも素晴らしかったです。

マイケル:ありがとう。あれはプレイするのが楽しかったんだ。レディオヘッドを聴いて育ったから、そのフェスは特に待ちきれない。それとNYのガヴァナーズ・ボール。しかもチャンス・ザ・ラッパーがヘッドライナーなんだよね。彼のことは大好き。それと、UKのフェスだとグリーン・マン・フェスティヴァル。PJハーヴェイがヘッドライナーなんだ。彼女は最高だよね。出演だけじゃなくて、ライブを観るのも好きだから、好みのラインアップだと、気分がアガルね。



▲ 「Into You」 (Ariana Grande cover)


――カヴァーの話に戻るのですが、BBC Radio 1の『Live Lounge』で披露したアリアナ・グランデの「Into You」のカヴァーについて教えてもらえますか?

マイケル:(笑)。彼らは、やたらとヒット曲のカヴァーをやらせたがるんだ。大体自分の曲とカヴァーをやるんだけど、カヴァーする曲は、その時のTOP40に入ってる曲じゃないといけなくて…。いくつか候補はあったんだけど、やっぱりアリアナの曲が一番いいかなと思って。当初は、もっとオリジナルに近かったんだけど、アリアナの高音を再現するのはやっぱり難しかったから、最終的に限りなくオリジナルと異なるアレンジにしたんだ。

――最近、エキサイティングだと感じたアーティストや作品はありますか?

マイケル:ソランジュの『ア・シート・アット・ザ・テーブル』は大好き。去年は『カラーリング・ブック』もよく聴いた。あれは、すごくビューティフルなアルバムだと思ったね。ボン・イヴェールの新作も何曲か好きな曲があるし。スティーヴ・レイシーっていうギタリストもいいね。ジ・インターネットのメンバーでもあるんだけど、彼のソロEPは気に入ってる。後は、カナダ人のダニエル・シーザーもすごくいい。若いR&Bシンガーなんだ。ザ・レモン・ツイッグスの『ドゥ・ハリウッド』も好きだよ。

――そういえば、HBOで放映が始まったばかりのドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』(ニコール・キッドマン、リース・ウィザースプーン、シャイリーン・ウッドリー主演)のオープニングに「Cold Little Heart」が起用されていますよね。

マイケル:そうそう。たしか6か月に前ぐらいに連絡が来て、曲を使いたいって言われたんだ。キャストやあらすじを聞いて、面白そうだったから許可した。どこかのエピソードでちょろっと使われるだけだと思ってたから、オープニング曲でビックリしたよ。アメリカが興味深いのは…去年の年末にUSツアーをやったんだけど、新作の楽曲は前作に比べてあまりラジオで流れなかった気がするんだよね。前作の曲はアコースティックで、ストレートなものが多かったからかけやすかったとは思うんだけど。だから、エアプレイは限定されてたけど、『ビッグ・リトル・ライズ』や『ザ・ゲット・ダウン』とかより幅広くメディアに露出されることで、アルバムのリスナーが増えたのは喜ばしい。今度またツアーに行った時の反応が楽しみだよ。



▲ 「Cold Little Heart 」(Live Session Video)


――ドラマのオープニングに使われているのは約1分半ですが、元々は10分に及ぶ大曲ですよね。これまでマイケルが作ってきた曲の中でも一番長いと思うのですが、この曲はどのように形になったのですか?

マイケル:この曲は、デンジャー・マウスとコラボして作ったもの。スタジオで曲を一から作ると…普段だったらアコースティック・ギターで曲を書くけど、そういった制限から解放される。そしてとても直観的になる。コードを追加しつつ、その上にヴォーカルをのせて…特に中盤部分の詞に苦労したんだけど、個々のパートはすごく良くて、次々と音やレイヤーを足していった。で、デンジャー・マウスが「ギターもプラスした方がいいよ」って言うから、ギターを足したらすごい大曲になっちゃったんだ。

――ちなみにライブでは、フル・バージョンで聴けるんですか?

マイケル:もちろんだよ。この曲をプレイするのは個人的に好きなんだ。すごく熱情的な演奏になるから、ちょっと疲れちゃうんだけど、完走すると最高の気分になる。

――ツアーもこなしてきて、きっと今最高に脂がのった状態だと思うので、楽しみにしてます。

マイケル:そうだね。演奏もタイトになってきたし、今回は以前比べてパワフルでラウドに歌ってるから、ヴォーカルにも期待してほしいね。

――では、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

マイケル:東京へ行くのを楽しみにしてるよ!みんなのために歌って、プレイするのが待ちきれない。みんなにぜひ足を運んでもらって、ライブを楽しんでもらいたいね。



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