Special
THE BACK HORN『あなたが待ってる』インタビュー
自分でも止められない感情。
誰かがどう思うからとかじゃない、本当に自分が燃え上がる瞬間。
その純度は昔より高まってきたような気がします。
THE BACK HORN『あなたが待ってる』山田将司単独インタビュー敢行! 来年で結成20周年を迎えるほどのキャリアを積んだ彼(彼ら)の精神論、ボーカリストや表現者としての在り方を生々しく真っ直ぐに語ってくれた。それが宇多田ヒカル共同プロデュースの新曲、万人に愛されるであろう「あなたが待ってる」の話へと集約されていく……ファンはもちろん、すべての音楽リスナーに共鳴してもらいたいインタビュー。ぜひご覧下さい。
胸が締め付けられて……全部を吐き出してしまいたくなる気持ちはまだある
--ゴールデン街で遭遇して以来ですね、こうしてお会いするのは。
山田将司:1年ちょい前ですかね。--酔っ払った客の人生相談に2人で乗った記憶があります(笑)。
山田将司:そんなこともありましたね(笑)。--ただ、インタビュー自体は『バトルイマ』発売時(http://bit.ly/OkfXzf)以来になります。なので、今日はいろいろお話を伺えればと思っているのですが、もう来年には結成20周年を迎えるんですよね?
山田将司:気付いたらそんなになるんですよね。時間は経つんですね、勝手に。--20周年は必死に積み重ねてきた結果だと思いますが、そんなアニバサリーイヤーを来年に控えた今、THE BACK HORNはどんなバンドになっていると感じますか?
山田将司:変わらず不器用にやってますけど、各々が年齢もキャリアも重ねてきて、演奏や曲作りに対する意識がちょっとずつ変わってきているのかな。プライベートは本当に各々違う生活なんだけど、そこで培われた人間的な部分を各々がプレイで表現できる歳になってきてる。それはライブの最中にも感じるし、スタジオに入ったときの空気感からも感じるし、昔とは違う……もっと分かり合えているような感じというか、どこか深いところで繋がっている。ということが前提で、各々がプレイしている感じはあります。--その結果として「あなたが待ってる」のような新曲も生み出せるようになってきたと思うのですが、デビュー当時にTHE BACK HORNがこんなバンドになるとイメージできていましたか?
山田将司:それは全然出来てないですね。逆に今、19歳のときの自分が「あなたが待ってる」を聴いてたらなんて思うのか……良いリアクションではなかったかもしれない。でもちゃんと向き合ってきて、今の自分らが「良い」と思ったものを曲に出来ているから、それは有り難いことだし、嬉しいことだなと思います。--THE BACK HORNはいつの時代もソレをやってきたと思うのですが、その中で「本当にこれで大丈夫か?」みたいな感覚になることはなかったんでしょうか?
山田将司:それは今に至るまでずっとある。曲作りは、それまでの流れとか直前の出来事、バンドのモードによって左右されるから、例えば「With You」が出来たときも今回の「あなたが待ってる」が出来たときも、ちゃんとバンド内で会話して、みんなが納得する選択肢を選んでこの形になってるから、そこに至るまでは「これで大丈夫か?」の繰り返し。それは今でも変わらないです。--その結果、毎回4人が納得いく作品を創れている。では、理想系のバンドになれているとも思う?
山田将司:いやいや、理想系なんてものは「無い」に等しい。俺の中では。人も違えば、性格も違うし、思っていることも違う。それを瞬間瞬間で頭を切り替えながらすり合わせていく作業は延々と続いていくものだと思うし、それを諦めたら終わるなっていう瞬間はいくらでもある。曲に対してもそうだし、普通に会議で意見が食い違ったときもそうだし。--それでも諦めず継続できたのは何でだと思います?
山田将司:何でなんですかね(笑)。そこは一言で言えるような感じじゃないですけど、でも曲が繋ぎ止めていたところは絶対にデカいと思うし、みんながそれぞれにちゃんと意見を言って、各々の表現が凝縮された1曲を4人で創ってきた。それに救われてきたところはやっぱり一番強いんじゃないかな。それがバンドとしての一番の生き甲斐だし、それをライブで表現していくのが自分たちの生き方だし。堅苦しい話になるけど、甘えたりしたらいくらでも逃げることなんて出来る。けど、逃げる前に「何を出来るのか?」って考えてみるとまだ出来ることはいっぱいあるなって思うから、そういう感じで続いてきたのかなって思います。--山田さんは数え切れないほどの曲をこのバンドで歌ってきた訳ですけど、例えば「これを歌ってきた俺がこんなことしちゃいけねぇ」みたいな感覚もあったりする?
山田将司:曲によって励まされてきたところもあるし、すべての曲に感情を入れて歌ってきたつもりだから、それによって自分の性格が形成されたりとか、実際にそういうことはあると思う。それだけを考えて生きてるから。あと、昔の曲たちを今歌ってみると、明らかに今のモードとは違うかもしれないけど、自分のあらゆる感情を呼び起こして、それを表現していくっていう覚悟はもう出来てるから。人と人の繋がりを歌った曲もあれば、個人的な鬱憤を吐き出すような曲もあるけど、その全部を表現し続けていきたいと思ってるし。それは決してラクではないと思うけど、俺はやっぱりそれをやる。THE BACK HORNのボーカルとしてそれはやっていかなくちゃいけないと自分で思ってるし、その為に割り切らないでいることはいっぱいあるかもしれない。悩むのはあたりまえだし……でも苦しくなったらどっかでバランス取らないとやっていけないから、無意識にどこかでバランス取っていたりはするんでしょうね。--具体的に言うと?
山田将司:自分が何者だかよく分からなくなってしまう。それが今も変わらずあるから、もっと俯瞰して見れるような時間を作ったりとか、何も考えない時間を作ったりしてる。もっとデカい目で見たらね、人として感情の振り幅があるのはあたりまえだったりするけど、そのときのモードと違うことがあると凄く心が引っ張られたりするから……でも数年前から覚悟は決まってるから、やれる限りはやっていこうかなと思ってます。というか、やっていきます。--歌っていくこと自体に対しても、よっぽどのことがない限り……いや、あったとしても歌い続けていきたい気持ちはある?
山田将司:よっぽどのことっていうのは?--例えば、つんく♂さんのように声帯を失っても食道発声をマスターして……
山田将司:いやぁー、それは分かんないです。想像がつかない。でも自分がどれだけ体を大事にしているか?と言ったら、そこから目を背けているときもあるし、それがさっき話したバランスということなのかもしれない。気持ちを解放させたり、ちょっと自分を甘やかしたり、そこから自分のケツを引っ叩く瞬間もいっぱいあるし、あたりまえの話だけど、プライベートの生活の中でもいろんなところに気持ちを置いて、自分の心のバランスを取ったりはしてますね。--自分も40手前なのでよく分かる話なのですが、今まであたりまえのように出来ていたことが簡単じゃなくなったりもする。体力的な面では顕著にそれが表れていく訳ですけど、その中で爆裂さも繊細さも必要なバンドのボーカルで在り続けることって……
山田将司:体力的な部分はね、ボーカルなんでいろいろあります。昔の曲たちがライブでなかなか昔と同じように歌えないとか、そういうことは正直ある。悔しいけど……でも出来る限りは歌いたいから「じゃあ、何日前から準備したらその曲がライブで歌えるのか」とか「こういうセットリストでこういう流れだったら出来る」とか、そういうのはありますね。でも歌うと決めたらそこに向かっていくだけというか。--その中で不思議と気持ちだけは折れないどころか、スパークする瞬間はいくらでもあるというか、逆に今のほうが意地みたいなものも生まれてくるから、より爆発力が増したりする部分もあるんじゃないですか?
山田将司:それはたしかにある。かつての爆発のさせ方は怒りだったけど、今は怒りじゃない何かこう……泣ける瞬間みたいなものが増えてきたりして。自分が年齢を重ねてきたのもあるし、自分の経験とその曲の歌詞が当てはまって、胸が締め付けられて爆発する感情だったりとか、若い頃にはなかったそういう感じが増えてきたかもしれない。--例えば、どんな曲の歌詞に胸が締め付けられたりします?
THE BACK HORN - Live DVD『KYO-MEIツアー ~暁のファンファーレ~』 予告編
- “自分がTHE BACK HORNになっていく”感覚は強まってる
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“自分がTHE BACK HORNになっていく”感覚は強まってる
--心の奥底は野生化が進んでいる?
THE BACK HORN - TOUR DVD 『KYO-MEIツアー ~運命開歌~』予告編
--それは若さゆえの野生とは違いますよね。この年齢になると「おい、本当にやっちまうのか? これやったらぶっ壊れちまうんじゃないか?」って一度は思う訳じゃないですか。でも「ここで振り切らなかったら、俺は何の為にこれやってるんだ?」ってなる。
山田将司:そうそうそう。--その葛藤を超えて爆発する野生は、当然ながら破壊力が違いますよね。ゆえに自分へのダメージもデカいから後悔はするんですけど。
山田将司:(笑)--でもそれを爆発させられるTHE BACK HORNは、山田将司に合っていたんでしょうね。
山田将司:どうなんですかね? 俺はTHE BACK HORN育ちですからね。育ててもらってる……とかお客さんは聞きたくないかもしれないけど、実際そうだと思うし。自分の表現とかもほとんどTHE BACK HORNから得たものだし。そこでもう人生の半分を越えて活動しているので、ますます“自分がTHE BACK HORNになっていく”感覚は強まってる。--他の何者でもなくなってく感覚?
山田将司:うん。24時間、THE BACK HORNと直結してますからね。--では、仮にTHE BACK HORNが解散したりしたらどうなっちゃうんでしょうね?
山田将司:どうなるんだろう……歌うことしかやってきてないから、歌はやっぱり歌うでしょうし。でも何をするか分かんないんですね。--これまた答えづらい質問だとは思うんですけど、今、山田将司はどんなボーカリストになってると思いますか?
山田将司:本当に答えづらい(笑)。まぁでも……ヘタクソなボーカリストだと思いますよ? あと、昔って「感情を裸にすることって簡単なことだな」と思っていたんですよ。ちょっとバカになれば、恥ずかしさとか取っ払えば出来ちゃう。だから逆に「裸に出来ないもののほうが美しい」と思っていた時期もここ数年あったんだけど、今は裸になるっていうのは難しいと思っていて。「今、どれだけ自分が裸になれているのか」と言ったら全くなれてねぇと思ったし、改めてもう一度裸になっていく、裸にしていくということを見つめてみようと思ってます。それは爆発するということだけじゃなく、優しさでも痛みでもすべての面において“自分の声を乗せる”“自分の声で言葉を届ける”っていうことに対してどれだけ裸になれているのか、改めて考えてる。--経験値が増えていくと、大体のことが「こういうときはこうするべき」とか「これをやったら誰かが傷つくからやらない」ってフォーマット化できてしまう。その中で「本当の自分はこうしたいんだろう、こう言いたいんだろう」っていう裸の想いを表面化させるのって難しくなっていきますよね。
山田将司:でも変わらず自分は常に迷い続けていて、それは良い意味でフォーマット化されていないことが多すぎるんだなって。整理が全然出来てない。それは放ったらかしにしておいたほうが良いと思ってるんですよ。「整理しちゃうとつまらなくなってしまう」と思ってることがいっぱいある。割り切れないものがある、それがリアルだなって思うし。答えはあるかもしれないけど、答えを表現するわけではなく、そのあいだの感情を表現していくことが人間っぽいんだろうなって常々思ってて。迷ったり悩んだりすることは誰にでもあるけど、調子悪いと「歌、辞めたほうがいいな」って何回も思いますからね(笑)。それぐらいギリギリのところに常にいるし、もう“自分のものだけど、自分だけのものじゃない”ってことも分かるし。“自分だけのものじゃないけど、自分のもの”っていう順序ではない。--それは苦しくないの? それとも苦しいのが当然という感覚?
山田将司:苦しいのにも慣れてきましたね(笑)。苦しくないことはないですけど、そこはバランスでどうにでもなるし、実際「本当にそこまで苦しい状況か?」って言ったらそこまでじゃないと思うし、苦しみは自分から生み出してしまってるところもあるし、他の何かの力で苦しまざるを得なくなった人からしたら失礼な話かもしれないけど……なんかもう混ぜ合わせて何かを作ろうとしている、何かの気分で合致するものを作り上げようとしている瞬間なのかもしれない。悩んだり苦しんだりしてるっていうのは。それでも自分でやんなくちゃいけないと思って感情を作り上げてるのかもしれないし、その辺は自然にやり過ぎててもうよく分からないですね。--そんな山田さんにとってライブってどんなものになってるんですか?
THE BACK HORN - 『KYO-MEIツアー~リヴスコール~ at 日本武道館 2013.1.6』特報
--何をすればどうなるのか分からない(笑)?
山田将司:うん。それは本当に分かんない。ただ、自分が今まで経験してきた物差しで、自分が納得する表現をただしていくしかないなって。--そうじゃない時期もあったんですか?
山田将司:うーん……「求められるからするべきだ」みたいな時期はあったかもしれない。今も「もっとグッと来るものを表現したい」気持ちではあるんですけど、何でお客さんがグッと来るかまでは分かんないから。それこそ「どんな曲が好きなのか」なんて人それぞれだし、流行ってる音楽をやったから良いと思われる訳じゃないし、もうそういう問題じゃなくて、自分の内側から出てきた“本物”を信じないと何も届かないとは思ってる。他のメンバーが作った歌詞を歌ってきた人間だから、より強くそう思うのかもしれない。--その結果だとは思うんですけど、THE BACK HORNのお客さんって「いつになったら老けるんだ?」って思うぐらい熱量落ちないですよね? むしろ増してる。
山田将司:(笑)--長く活動していればファンも同時に年齢を重ねる訳で「お互い老けたな」みたいな瞬間って必ずやってくると思うんですけど、THE BACK HORNの現場は20年間一切衰えない。むしろ若いファンもどんどん加わってる相乗効果で元気になってる(笑)。
山田将司:それは本当に有難いですよね。若いお客さんに響いてくれてるのも嬉しい。--で、毎回とんでもない光景を生んでいる。
山田将司:あの瞬間を楽しんでくれてるんだったら本当に有難いですね。こっちはお客さんのことをどんどん考えなくなってきている気もするけど(笑)、それは突き放している訳ではないし、もっと誘い込みたいし、勝手に昂ぶらせたいと思ってるから。--その力はすげぇ感じます。THE BACK HORNに関しては取材するだけじゃなくて、チケット買ってお客さんもやってたりするんですけど、アラバキ(ARABAKI ROCK FEST)ではいまだに最前目指しますからね。
山田将司:マジっすか? やべぇ、次のアラバキ、最前観てみよう。--今年も行く予定です。
山田将司:毎年行ってるんですよね? ツイッターで見ましたけど、足腫らしたりしてましたもんね(笑)。--あれは虫に刺されたんですけど(笑)、あのモッシュピットの中に入っていかないと見れない世界もあるんですよね。
山田将司:俺はもう15年ぐらい、あの中には行ってないですね。たしか……2001年ぐらいのeastern youthでダイブしたときが最後ですね。--ダイブしたんだ(笑)?
山田将司:しかもみんなと違うタイミングで(笑)。Bメロとかのジワってるところ。でもそこがちょうどグッと来たから、ひとりでダイブしてました。--あの中ってぶっ飛んだ状態の人がいっぱいいるじゃないですか。泣きながら飛び回ってる奴とか見ると……「これだよな」って思っちゃうんですよね。それこそ共鳴がオーバーヒートしてる状態。
山田将司:ハハハハ! 瞬発力が半端ないんですよね。--音楽が聴かれなくなったとか、音楽に金出す奴が減ったとか、ネガティブな変化の話がたくさん溢れていますけど、あそこだけは何も変わらない(笑)。
山田将司:たしかに。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
宇多田ヒカルとの共作「ライブ終盤で将司がMCをする。あの瞬間が……」
--THE BACK HORNはそれを生み続けてる訳ですよ。それこそ「コバルトブルー」なんて何千回も何万回もライブで歌ってる訳じゃないですか。でもそこで生まれる熱狂は一度も沈静化されたことがない。
山田将司:それが音楽の素晴らしさだよね。そうあるべきだと本当に思うし、心を動かせるのが音楽だと思うし、動かせたらやっぱり嬉しいし、そうやって力になってくれれば嬉しいとは思うけど、その為にも自分が満足する形を表現することが大事で、だから誰かに届くんだろうなって思う。--ステージに立つ側がそこで満足していなかったら、お客さんも迷いますからね。
山田将司:でもそれを隠せるのもまたステージですからね。誤魔化すことも出来ちゃうから……でもそこで「誤魔化したくない」って年を重ねるごとにどんどんどんどん思うようになってきた。そういう意味でも、さっき言った「裸にしていく」ってことともう一回しっかり向き合いたいなって思ってます。--もはや『バガボンド』の世界観ですね。若いときはひたすら剣を振り回していた宮本武蔵が、やがて剣を持つ意味を見つめ直すっていう。
山田将司:自分の道を見つめる。--剣を持ち続ける意味を考える。
山田将司:格好良いですね、それ。--山田さん、もうその領域に入ってますよ。
山田将司:(笑)--何故こんなに精神性の話ばかり伺ったかと言うと、今回の新曲「あなたが待ってる」を聴いてめちゃくちゃ沁みたからなんですけど、歌ってみてどんなことを感じましたか?
山田将司:栄純(菅波栄純/g)にこの曲を渡されたとき、最初は感情移入がなかなか出来なくて。どこに自分の気持ちを置いて歌えばいいのか、今までの自分の中にない新しい引き出しだっだから分からなくて。で、栄純に「これ、俺が歌う曲なのかな?」って聞いたんですけど、そしたら「THE BACK HORNのライブでどの瞬間がいちばんグッと来るか」っていう話になって、栄純は「ライブ終盤で将司がMCをする。あの瞬間が俺はいちばんグッと来る」って言ったんですよね。それを聞いたときになんかすげぇ……この曲の雰囲気と、この曲が持つ力と、俺がMCで話してるあの感じが一致して、自分の中で合点がいって。ライブ終わりに栄純と居酒屋で鍋つつきながら話してたんですけど、それから気持ちが乗せやすくなった。--山田さんは「いつでもライブやってるから、いつでもここで待ってるから」といった話をあそこのMCでよくしてますよね。「待ってる」という想いを実は心からの言葉として伝え続けている。
山田将司:そうなんですよ。いつもお客さんに対して思ってることでもある。待つ人がいて、待ってもらえる人がいて……それってすごく幸せなことだし。それがもう会えない人だったとしても、その人のことを想像するだけで胸があったかくなるし……今ちょっと栄純の言葉を借りちゃいましたけど。--そうした曲を歌う必然性も感じますし、だからこれもTHE BACK HORNですよね?
山田将司:そうなんです、そうなんですよ。THE BACK HORNなんですよね。--その上で、宇多田ヒカルさんとの共同プロデュースで新境地も開拓している。
山田将司:この温度感の曲ってTHE BACK HORNにあんまりないじゃないですか。激情的な訳でもなく、静と動が強くある訳でもなく、ずっと日常的な温度感というか……それなのにしっかり熱い感じがあったり、時間がしっかり流れている感じもあったり、鍵盤の柔らかさもあったり、男だけでは絶対に作れない、人間としての芯の太さを感じますね。--宇多田ヒカル×THE BACK HORNの関係性を知らない人の為に伺いたいんですけど、そもそもの出逢いは宇多田ヒカル『ULTRA BLUE』(山田将司が収録曲「One Night Magic feat.Yamada Masashi」にコーラスなどで参加)がきっかけ?
山田将司:最初に会ったのは、宇多田さんがTHE BACK HORNのライブに来てくれたことがあって、そのときの楽屋での挨拶。それからメンバー4人と宇多田さんで飯を食いに行ったことがあって、それが先か『ULTRA BLUE』のレコーディングが先かは忘れちゃいましたけど、そこから10年ぶりの再会。--そして共同で「あなたが待ってる」を制作。いかがでした?
山田将司:とんでもなかったですよ。ジャッジのセンスとスピードが凄くて、メンバーの誰よりも野生的だった。しかも「何でこれが良いのか」ちゃんと俺たちに説明をしてくれるんですよ。そういう理論的な部分もしっかり持っていて。鍵盤のアレンジも泣けるフレーズになってて……何もかもが凄かったです。あと、俺のボーカル録りのディレクションも彼女にしてもらったんですけど、ボーカリストに自分の歌録りを聴いてもらう経験なんてなかったし、宇多田さんも他の人の歌録りに携わるのは初めてだったんですけど、「何か感じたことがあったら言って。試してみるから」「サビの部分、もうちょっと強めに歌ったのも聴いてみたいな」みたいなやり取りをして。そこから最後のエディットも全部やってくれたんですけど、この表情に落とし込むところまで最初からイメージできてたんだろうなって。もし自分がひとりで歌ってたら多分バラードっぽく歌い上げていたかもしれなくて。でも「ごろっとそのまま歌ったほうが表情が伝わりやすいよ」みたいな。それは完全にボーカリストの目線じゃないと口出しできないところだから、すごく面白かったです。--THE BACK HORNそのものの可能性はもちろん、山田将司のボーカルとしての可能性も引き出してくれたってことですよね?
山田将司:うん。だからさっきの話と繋がるかもしれないですけど、裸の気持ちで歌うことが出来た気はしますね。裸になれた気がする。……裸になるって表現、違うのかな?「裸になる」って脱ごうとしている訳じゃないですか。そうじゃないんですよ。「そのまま」っていう意味での「裸」。生まれたまんまっていう。--そうして完成した「あなたが待ってる」ですが、この曲は仕事帰りの電車とかシチュエーションがハマり過ぎると、人前で涙を流すことになります。
山田将司:そうかもしれないですね。余計に沁みてしまう。--気持ち良い涙ではあるんですけど。
山田将司:じわじわじわ……って来るんですよね。--「あなたが待ってる」という言葉の力をこの楽曲で知りました。待っている人がいる人が聴いても沁みるし、待っている人がいない人でも沁みるし、救われるし、THE BACK HORNはここに来て万人に沁み渡る曲を完成させたんじゃないのかなと、個人的には感じています。
山田将司:いや、俺も感じてます。メンバーもみんな感じてますね。--もはやロックファンとかバンドファンとかそういう次元でもないじゃないですか。
山田将司:ロックとか聴かない人にも響いておかしくない曲だと思う。--THE BACK HORNがここに辿り着く未来もあった。それはすごく刺激的な話ですし、しかもTHE BACK HORNをちゃんと感じさせてくれる楽曲でもある。「もっと激しい曲をやってくれよ」という声すらもこの曲を前にしたら出てこない気がします。
山田将司:そんな感じはしますね。この曲にはあったかい部分もあるけど、すごく冷たい部分もあって。優しい部分もあるけど、切ない部分もある。すごく絶妙なバランスで成り立っている曲だなって感じます。それは普遍的という言葉にも置き換えられるのかもしれないけど、本当にいろんな人に聴いてほしいし、必ず響く曲だなって思う。この温度なりの温もりがしっかりとあるんですよね。それがいろんな人の心を温めていくような曲にしっかり育てていきたい気持ちもあります。--では、最後に、結成20周年へ向けての意気込みを聞かせてください。
山田将司:20周年は何かデカいことをやろうと思ってるから、それに向けてしっかり足元を見つめながらライブと曲作りをしていきたい。同時にいろんな刺激も受けて、バンドの内側にもっと根を植えつけていって、そしたらもっと強靭になった自分らを自分らで祝福できるんじゃねぇかなって思ってます。Interviewer:平賀哲雄
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