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【ビルボードジャパン年間アーティストランキング 2016】大きな潮目の変化を告げた2016年
【Billboard JAPAN 2016 of the Year】は、AKB48が【Artist of the Year】を獲得した。シングル、アルバム売上などを合算した【アーティスト・ランキング】トップ20を見ながら、2016年の音楽シーンを解析してみよう。
※アーティスト・ランキングに使用されているデータは下記の通り
CD(シングル、アルバム)の売上枚数およびダウンロード数、CDをPCに取り込んだ回数、ストリーミング数、ラジオの再生回数、Tweetされた楽曲数、動画再生数
総合順位 | ARTIST |
全国のAM/FM再生回数
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シングルの全国推定売上枚数、 楽曲のダウンロード数、 推定値を含む ストリーミングの合算 |
PCによるCD読取数
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アーティスト&楽曲を両方ツイートした数
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国内においての動画再生回数
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ダウンロード、Twitter、動画の合算
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ダウンロード、ストリーミング、 ルックアップの合算 |
セールス、ルックアップの合算
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1 | AKB48 | 19 | 1 | 10 | 8 | 7 | 9 | 12 | 1 |
2 | RADWIMPS | 4 | 2 | 5 | 2 | 10 | 1 | 2 | 7 |
3 | 西野カナ | 18 | 3 | 3 | 6 | 12 | 5 | 1 | 6 |
4 | 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE |
82 | 5 | 6 | 3 | 2 | 4 | 7 | 5 |
5 | 星野源 | 1 | 8 | 4 | 7 | 5 | 3 | 4 | 8 |
6 | ONE OK ROCK | - | 10 | 7 | 12 | 1 | 2 | 6 | 19 |
7 | 嵐 | 67 | 6 | 1 | 9 | - | 62 | 8 | 2 |
8 | back number | 6 | 9 | 2 | 13 | - | 7 | 3 | 4 |
9 | 宇多田ヒカル | 2 | 4 | 9 | 37 | 72 | 6 | 5 | 10 |
10 | 乃木坂46 | 64 | 7 | 8 | 5 | 56 | 18 | 29 | 3 |
11 | E-girls | 44 | 12 | 18 | 15 | 6 | 11 | 22 | 11 |
12 | AAA | - | 18 | 48 | 4 | 8 | 8 | 13 | 61 |
13 | BIGBANG | - | 15 | 59 | 16 | 3 | 10 | 20 | 40 |
14 | BUMP OF CHICKEN | 7 | 21 | 11 | 39 | 38 | 24 | 18 | 13 |
15 | EXILE | 40 | 14 | 21 | 20 | 35 | 29 | 24 | 16 |
16 | SMAP | - | 54 | 95 | 1 | - | 12 | - | 35 |
17 | 欅坂46 | - | 24 | 35 | 10 | 25 | 19 | 43 | 15 |
18 | Perfume | 22 | 29 | 17 | 31 | 18 | 17 | 27 | 32 |
19 | ケツメイシ | 29 | 16 | 28 | - | 37 | 21 | 10 | 50 |
20 | 安室奈美恵 | 11 | 22 | 16 | 71 | 68 | 16 | 11 | 39 |
1)Insight into AKB48/乃木坂46/欅坂46
2016年のアーティスト・ランキングで1位を獲得したAKB48と、10位の乃木坂46、17位の欅坂46。彼女たちは皆、CDシングルの販売枚数がとかく注目されがちだが、各データに注目してみると、それぞれの違いと新しいトレンドが見えてくる。
【JAPAN HOT100 of the Year 2016】にノミネートした楽曲数は、AKB48は59曲、乃木坂46は51曲、欅坂46は15曲、そのうち100位以内にチャートインした曲数は、AKBは6曲、乃木坂は3曲、欅坂は2曲。一方、【JAPAN HOT ALBUMS of the Year 2016】にノミネートしたアルバムは、AKBが2タイトル、乃木坂が2タイトルで、アルバム・ポイント合計では乃木坂がAKBを上回った。また、ルックアップ(PCによるCD読取回数)でみると、乃木坂が8位、AKB 10位、欅坂35位と、乃木坂がAKBを上回る。
このように、王座を死守するAKBがシングルCDセールスのポイント積み上げに比重を置いている一方で、他の48グループ以上の訴求力を得たといえる乃木坂は、ルックアップやアルバムでのポイントがAKBを上回ることから、楽曲を聴かせるスタンスに比重をシフトしてきている。Twitterでも乃木坂はAKBを上回っており、2016年の動きから、プロモーション戦略での比重の変化が見て取れる。
では、今年デビューし大きく躍進した欅坂は、どのような動向を見せたのだろうか。2アーティストに比べ、エントリー楽曲は少ないのに総合17位に入ったという点で、コスパが良い楽曲をデビュー曲「サイレントマジョリティー」以降もコンスタントにリリースを続けていることが分かる。さらにセールスポイントの高さだけではなく、ストリーミングや動画視聴回数が乃木坂を上回っていることから、同じくシングルセールス以外に比重を置いた戦略の変化を感じることができる。
このように見えてきた女性アイドルによる戦略の変化は、実はAKBでも明らかで、「365日の紙飛行機」は通例と異なり、ダウンロード12位、ストリーミング9位、動画再生21位と、いわゆるコアファン以外にもヒットした曲となった。ちなみに「恋するフォーチュンクッキー」(2013年発売)の動画再生順位は2016年も年間14位で「365日の紙飛行機」よりもいまだに上位にあり、「365日の紙飛行機」も同様のロングヒットを2017年も続ける可能性が高い。
CDシングルセールスから楽曲指向のルックアップやアルバムへ、そしてストリーミングや動画再生へ。マーケットの変化は、アイドルがリリースする楽曲やそのプロモーション戦略にも確実に影響を与えつつあり、その傾向は2017年でより加速するだろう。
2)Insight into RADWIMPS/星野源/ONE OK ROCK/ピコ太郎
今年のJAPANチャートを賑わせた代表的な存在といえる4アーティスト。それぞれのポイント獲得のディテールから見えてくるものは何だろうか。
【JAPAN HOT100 of the Year 2016】にノミネートした楽曲は、それぞれRADWIMPS 32曲、星野源19曲、ONE OK ROCK 36曲、ピコ太郎4曲、そのうち100位圏内は、RADWIMPS 4曲、星野源2曲、ONE OK ROCK 4曲、ピコ太郎1曲だった。そして【JAPAN HOT ALBUMS of the Year 2016】にノミネートしたタイトルは、RADWIMPS 9タイトル、星野源4タイトル、ONE OK ROCK 7タイトルだった。
ピコ太郎を除いた3アーティストは、共に今年を代表するヒット曲が呼び水となって、過去曲や過去タイトルまでも掘り返される展開となったことは共通しているが、細かく分析してみると、それぞれヒットのスタイルは異なっている。
まずRADWIMPSはアーティスト・ランキングでダウンロード1位。この理由は、もちろん映画『君の名は。』のヒットだ。シングルカットされなかった「前前前世」がダウンロードで1位となり、HOT100の100位以内にチャートインした楽曲は全て『君の名は。』関連曲となった。これらは、全てダウンロード解禁前からTwitterが先行してポイントを伸ばし、その影響でダウンロードが伸び、総合的にポイントを積み上げヒットを決定づけた。そして、シングル旧タイトルとニュー・アルバム『人間開花』のヒットに波及していった。
一方の星野源は、TBS系ドラマ『逃げ恥』をきっかけに「恋」のヒットに繋がり、他楽曲に影響していった。アーティスト・ランキングを分析してみると、RADWIMPSに上回る指標は、ラジオ1位、ダウンロード6位、ルックアップ4位、動画5位の4指標。ライトユーザーが、まずは「所有」よりも「接触」することによって、各曲をヒットに導いたことがよく分かる。
【JAPAN HOT100 2016 of the Year】にチャートインした4曲中、2016年リリースは1曲のみで、それ以外は全て2016年以前の曲だったONE OK ROCK。彼らが2016年に前出2アーティストよりも上回ったのは、ストリーミング5位、動画1位の2指標だ。これを牽引したのはNTTドコモCMタイアップソングとなった「Wherever you are」(2010年リリース)。本楽曲は、オフィシャルなプロモーションビデオがアップされておらず、この曲をBGMとして一般ユーザーがネットに動画をアップロードし、その視聴回数が大きく伸びたことが、他アーティストの動画アプローチと大きく異なる点だ。とはいえ、こちらも「所有」ではなく「接触」でライトユーザーを巻き込み、続いて「所有」がヒットを決定づけた流れが見て取れる。ピコ太郎「PPAP」はその極端な形だ。
前項の女性アイドルで述べたプロモーション戦略における「所有」と「接触」のバランスの変化が、こちらではより顕著となっており、まず音楽との「接触」によってコアファン以上のライトユーザーに広がり、その結果ライトユーザーも巻き込んだ「所有」へと繋がっていった。テレビやラジオでの露出だけが「接触」だった時代から、はるかに時は流れ、今はSNSやYouTubeなど「接触」する機会が多様化してきている。
2016年は、接触から所有に大きく流れ込み、その結果ビッグヒットが生まれる時代の到来を告げる大きな潮目の変化を感じることができた年だったと言えるだろう。
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