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ライアン・アダムス 来日インタビュー
米ノースキャロライナ州ジャクソンヴィル出身のシンガーソングライター、ライアン・アダムス。1995年にバンド、ウィスキータウンでデビューし、その後ソロとして15枚のアルバムをリリース。2015年にリリースしたアルバム『ライアン・アダムス』は【グラミー賞】に2部門でノミネートされた。またプロデューサーとしても傑出した才能を発揮しており、ウィリー・ネルソン、フォール・アウト・ボーイ、ジェニー・ルイスなどに楽曲を提供している。
去年フジロックのレッド・マーキーでのステージで2度目の来日を果たし、すばらしいステージを披露した彼が、2017年リリースするアルバム・プロモツアーの一環で一夜限りのスペシャルなライブの為に来日した彼のインタビューをお届けする。
Interview: ERINA UEMURA
TOP Photo: Kokei Kazumichi
人間はもっと猫みたいに(自由気ままに)生きなければ
−−2月にリリースされる『プリズナー』(Prisoner)にはどんな意味が込められていますか?
ライアン・アダムス:人間誰にもあることだと思うんだけど、心と体が囚人のように囚われの身になったように感じたことがアルバム制作中にあったんだ。その時は分からなかったけど、欲望は自分を不幸にしてしまうことに気づいたんだ。何かをものすごく欲してどうにかして手に入れようと必死になったけど、拒否されそれが痛みとなり暗闇に囚われたような感覚に陥って、過ぎ去った愛の記憶や欲望をいつまでも引きずって混沌を作り出してしまった。そうじゃなくて現実に目を向けて、そこから楽しさとか喜びを見つけないといけないことに気づいたんだよ。
そんな経験から、人間はもっと猫みたいに(自由気ままに)生きなければと思うんだ(笑)。
僕が思うに人間は不幸に囚われて不幸の種を巻いている。僕はその不幸の種を植えて曲を作れた。多くの人はその種を飲み込んでしまう。それってとても苦いんだ。僕はその辛い感情の種を植えてそれが曲という形で成長したから乗り越えることができた。僕の曲がその種を飲み込んでしまった人の治療薬になるといいな。
−−前作を発表してから最近までツアー続きでしたが、新作の曲作りはいつ行なっていましたか?
ライアン:僕はいつもギターを弾いていて、ツアーバスやホテルでも。そしてオフの日も。スタッフは僕に演奏をストップさせることが重要な仕事なくらい、それくらいギターを弾いて曲を作ってるんだ。
−−『プリズナー』を視聴して、このアルバムは一貫して失恋がテーマのように感じたのですが、ツアー中はどんな気分でしたか?
ライアン:当時の僕は心の中にある嵐が胸を刺すような痛みを抱えていて、何を言っていいのかすらも分からなくなってしまい、ページが全て破かれた本のようだった。何もかもがどうでも良くなってしまったんだ。その気持ちを表しているのが「To Be Without You」なんだけど。その時は本当にそう(歌詞にあるように)思っていたし、そんな感覚だった。でももう立ち直ったよ。それらの瞬間は僕の人生の一部であるということを受け止めたんだ。僕は以前はすごく怒りっぽかったけど、今はとても謙虚になったよ。
−−バックバンドメンバーについて教えてください。以前はザ・カーディナルズと長年一緒にいましたが、新作からは新しいメンバーになりましたね。どういったメンバーですか?
ライアン:ザ・シャイニングのメンバーのベーシストのチャーリーは僕のレーベルの人間になって、キーボードのダニエルの奥さんは今月赤ちゃんが生まれて、ドラマーのフレディも結婚したばかりで彼は別の仕事を持っていて映画のカラリストをしているんだ。だからみんなそれぞれ多忙で今彼らを拘束することが難しかったから新しいメンバーを見つけたんだ。でも僕らは友達だから今も良い関係だよ。
新しいメンバーは、まだ彼らの新しいバンドネームは決まってないんだけど、いつも酔っ払って毎日違う名前をつけるんだ。「トーストってどう?」とかね(笑)。ベーシストのチャーリー・ステヴィッシュはザ・シャイニングでもプレイしていて、彼はエンジニアでプロデューサーでもある。ドラマーのネイト・ロッツは僕の親友で、以前はホージー (Halsey)のバンドにいたんだけど、僕とプレイするためにバンドを離れたんだ。セカンドギターとキーボードのベニー・ヨーコとベン・オールマンはグレイス・ポッター&ザ・ノクターナルズのメンバーだったんだ。僕らは以前からお互いのことを知っていて、一緒にプレイすることを楽しんでいるよ。『プリズナー』のツアーでは彼らとプレイする予定だよ。
−−ご自身のレーベル<PAX-AM>を持つきっかけは?
ライアン:実は14歳のときから架空のレーベルを持っていて、高校の時「僕はレーベルを持ってるんだ」ってみんなに言ってたんだ。そのときから名前はPAX-AMなんだ。15歳の頃にはギターやドラムやベースをプレイして、当時持っていた4トラックレコーダーで多重録音してた。キーボードもボロいけど持ってたんだ。周りから「君って本当にレーベル持ってるの?」って聞かれて信じてもらえなかったから、11個の架空のバンドを作って各バンドごとに声やプレイスタイルを変えて、11曲を宅録したんだ。例えばこの曲はニュー・オーダーっぽく、別の曲はブラック・サバスだったりザ・キュアーだったり、パンクロックソングだったりね。それでコンピレーションアルバムみたいに1つのカセットテープを作ったんだ。それらをブームボックス(カセットレコーダー)でダビングして、オリジナルのテープカバーも作って、それにはバンド名やレーベル名を記載して、キンコーズに行ってコピーし、実際に売られてるような本物っぽいカセットテープを何本も作ったんだ。タイトルは『PAX AMコンピレーション vol 1』!「レーベル持ってるなんて嘘だろ?」っていう人に、これがそのレーベルで出した作品さって見せてたんだ。PAX-AMはPAX Americanaっていうのが正式名称で、アメリカーナってラテンっぽい響きが気に入ってて、あとピースフル・アメリカって意味合いも込められてる。それからサーストン・ムーアのレーベル<Estatic Peace!> (エスタティック・ピース)からインスパイアされてるんだ。実際のレーベル兼スタジオはロサンゼルスにあるよ!
−−そのスタジオではご自身以外のアーティストもレコーディングしたりしますか?
ライアン:去年ジェニー・ルイスのアルバム『The Voyager』をプロデュースしてレコーディングしたよ。あとフォール・アウト・ボーイの『PAX・AM Days』に、ブッチ・ウォーカーの7枚目のアルバム『Afraid of Ghosts』とかね。
2016.12.09 RYAN ADAMS @ SHINKIBA STUDIO COAST / Photo: Kokei Kazumichi
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Interview: ERINA UEMURA
それって僕に「ケーキってどういう味してるの?」って質問してると同じこと
−−あなたのインスタグラムで、スタークローラー(Starcrawler)というニューバンドがPAX-AMスタジオにいる写真を見かけました。彼らがレモン・ツイッグスのショウの前座としてプレイしたのを見ました。
ライアン:イエス!今まさに彼らとレコーディングしてるんだ!半分くらい進んでるよ。
−−スタークローラーのシンガーのアロウは、あなたのアルバムジャケットやエリオット・スミス、ベックを撮影したことでも知られる有名フォトグラファーのオータム・デ・ワイルドの娘さんですよね?
ライアン:彼女の母親のオータムと僕は長年親しくしてて、僕のとても良い親友なんだ。彼女の娘のアロウはまだ17歳なのにすごい才能の持ち主だよ!それに彼女のベストフレンドでギターのヘンリーも天才だよ。彼らを初めて見たとき「ワオ!すごいや!」ってものすごいインスピレーションを彼らから受けたんだ。それってあまりないことなんだけど、それくらい彼らはすごいものを持ってるんだ。
どうやって彼らのすごさを伝えたらいいのか…例えばT・レックスがガンズ・アンド・ローゼズの『アペタイト・フォー・ディストラクション』をカヴァーするくらいの衝撃で、それから17歳のパティ・スミスに会ったような、しかもキッスにもちょっと似てるんだ。とにかく最高なんだ!僕らはレコーディングをアナログテープでやって半分くらい終わってるよ。世に出たらセンセーションを巻き起こすだろうね!楽しみだよ。
−−今ではヘッドライナーとしてツアーをしているあなたが、以前はフィル・レッシュやオアシスとツアーを共にしていましたが、過去のツアーを振り返って印象に残っているアーティストはいますか?
ライアン:昔、ザ・ローリング・ストーンズの前座を数回やったことあるんだけど彼らはとても親切にしてくれて、特にキースとミックはクールだったよ。彼らのプロデューサーのドン・ウォズとも仲が良いよ。
オアシスとのツアーでは、普通前座ってあまり観客に聴いてもらえないんだけど、彼らはアメリカではそんなにビッグではなくて、僕はちょうど上り調子(人気が)の時だったから観客も僕の演奏もちゃんと聴いてくれたし、双方ともにバランスが取れてたと思う。ツアー中は僕らはとてもメロウで良い関係だったんだ。ギャラガー兄弟がいつも喧嘩するんで僕は彼らにとって良い緩和剤みたいだったよ(笑)。
RYAN ADAMS & DANNY CLINCH @ SHAKY KNEES FESTIVAL 2015 / Photo: ERINA UEMURA
−−去年アトランタの【シェイキー・ニーズ・フェスティヴァル】のステージでフォトグラファーのダニー・クリンチと共演して「ニューヨーク・ニューヨーク」を演奏しましたね。
ライアン:ダニーとは90年代後半からの友人で、彼に『Live at Carnegie Hall』のアルバムジャケットを撮影してもらったこともあるんだ。彼はブルースバンド(The Tangiers Blues Band)を持っていてブルーハープを演奏してるんだ。あのフェスの時は彼がたまたまいて、彼から「ステージで一緒にプレイしていいかい?」って聞かれて「OK!」て感じで出てもらったんだ。クールだったよ。
−−あなたがザ・スミスの大ファンだということは周知の事実ですが、彼らの魅力とは?
ライアン:それって僕に「ケーキってどういう味してるの?」って質問してると同じことなんだ。「デザートってなに?」ってね。彼らの良さを言葉で説明するのはとても難しい。でもすごくすごく良いよ!まだザ・スミスを聴いたことがないのならすぐにでも聴くべきだよ!
Photo: Neal Casal
−−前のツアーメイト、ザ・カーディナルズのギタリストのニール・カサールが撮影した写真集ではあなたが大きなスケートボウルで滑っている写真がありますね。あの大きなボウルで滑れるのはかなりのスケートボードの腕前だと思います。
ライアン:僕にとって大きなスケートパークやボウルで滑ることは、ストリートで滑ることより簡単なんだ。最初に始めた時にビッグランプがあるパークで滑ってたから。見た目はビッグランプは怖そうに見えるけど僕にとっては楽でリラックスできるんだ。でも一番怖いのは僕のマネージメント会社だろうね。「怪我するからもう滑らないで」ってね(笑)。
−−お気に入りのスケートボーダーはいますか?
ライアン:オー!僕のお気に入りはナタス・カウパス (スケートブランドSanta Monica Airlinesの元ライダー)で、彼は80年代のレジェンド的存在で彼のメロウな滑りに憧れたんだ。それから、当時僕はカナダのスカルスケーツ(Skull Skates)のライダーやLAのドッグタウン(Dogtown)のメンバーに憧れてて彼らが大好きだったんだ。今でも僕の滑りは80’sのオールドスタイルなんだ。
−−愛用のメガネについて教えてください。
ライアン:Moscot (※NYの老舗アイウェアブランド。ウディ・アレンも愛用)を長年愛用してるんだ。社長の息子と知り合いでマンハッタンの14丁目にあるお店には僕の度数とか全てのデータがあるから、無くしても電話すれば一晩で作ってもらえるんだ。何度も無くしてるからお世話になってるよ。それからレンズにこだわりがあって絶対にガラスで作ってもらう。なぜならギター弾いてる時に気合が入りすぎちゃってメガネが曇ってしまうから。ガラスだと曇りにくいんだ。
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