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手嶌葵 特集~魅惑のウィスパー・ヴォイス

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 天使の歌声、魅惑のウィスパー・ヴォイス。その表現は様々だが、手嶌葵の囁くような声にとりつかれたなら、そこから抜け出すのは難しい。やわらかな質感のトーンや、様々な物語をカラフルに紡ぐ言葉とメロディ、そしてそれらが相まって大きな包容力を醸し出している。他に類を見ない稀有な魅力を持つヴォーカリストは、ライヴ・パフォーマンスにおいてもその世界観はぶれることはない。なぜ彼女が唯一無二の存在になったのか。ここではその秘密を少しずつ紐解いてみたい。

映画音楽の魅力に惹かれた幼少期から「テルーの唄」でデビュー

 手嶌葵は、1987年生まれ。福岡県春日市出身。幼い頃から歌うことが好きだったというが、一風変わっているのが流行りの音楽ではなく、映画音楽だったということ。『オズの魔法使い』や『マイ・フェア・レディ』といった往年のミュージカル映画に触れたことで、映画音楽の魅力に惹かれていく。なかでも、思春期の彼女を虜にしたのがベット・ミドラー主演作品の『ローズ』だ。ジャニス・ジョプリンをモデルにしたという物語と、その破滅的なストーリーを彩るせつないバラードの主題歌「The Rose」は、彼女のお気に入りであるだけでなく、人生までも変えていくことになる。

CD
▲『テルーの唄』

 中学を卒業後、地元福岡の音楽専門学校で本格的にヴォーカルを学び始め、アマチュア・シンガーとしても活動を開始する。地道に活動を続けるうちに。ヤマハ音楽振興会が主催するライヴイベントにも出演。そして、たまたまヤマハの担当者が持っていたデモテープが、スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫の手に渡ることになる。このデモテープに入っていたのが、他でもない「The Rose」だった。このカヴァーに惚れ込んだ鈴木プロデューサーは、宮﨑駿の息子である宮﨑吾朗にも聞かせたところ、彼が準備していた処女作『ゲド戦記』の主役テルーの声優に抜擢。主題歌である「テルーの唄」を歌ってデビューすることになった。

 2006年6月に映画公開に先駆けてリリースされた「テルーの唄」は、30万枚を超える大ヒットを記録。7月には映画の挿入歌を集めたアルバム『ゲド戦記歌集』を発表し、高く評価された。翌2007年には、新たな旅立ちをテーマに出会いや別れの楽曲を集めた作品集『春の歌集』を発表。谷山浩子や新居昭乃といった作家陣の楽曲もぴったりフィットし、手嶌ワールドを確立させた。

ルーツをアピールする映画音楽主題歌集、『コクリコ坂から』主題歌担当

CD
▲『さよならの夏』

 2008年にはデビューのきっかけとなった「The Rose」を収めた映画音楽主題歌集『The Rose ~I Love Cinemas~』をリリース。彼女のルーツをアピールする名カヴァー作品となっている。同年にはオリジナル楽曲に荒井由実や竹内まりやのカヴァーを交えた『虹の歌集』を発表。その後も、映画音楽集第2弾『La Vie En Rose ~I Love Cinemas~』(2009年)や、クリスマス・アルバム『Christmas Songs』(2010年)と企画色の強い作品をコンスタントにリリースを続けた。2011年には再び宮﨑吾朗監督とタッグを組み、映画『コクリコ坂から』の主題歌を担当。アルバム『コクリコ坂から歌集』も発表した。この年は、大橋トリオや菅野よう子との共演曲を含む企画性の高いアルバム『Collection Blue』もリリースしている。




レーベル移籍から新たなステージへ

CD
▲『Ren'dez-vous』

 2012年に入ると心機一転し、ヤマハからビクターに移籍。スタンダード・ナンバーばかり集めたアルバム『Miss AOI - Bonjour,Paris!』を配信およびライヴ会場限定でリリース開始(翌年一般発売された)。そして、2014年には初めての本格的なオリジナル・アルバム『Ren'dez-vous』をリリースする。この作品は、手嶌自身が初めてセルフ・プロデュースしたアルバムで、作詞を手がけた楽曲も2曲収められている。作家陣には、大貫妙子、杉真理、いしわたり淳二、北村岳士といった個性派を取り揃え、通算10枚目にして彼女の持つ童話的な世界と等身大の姿がオーバーラップする傑作となった。本作から新しいステージに移ったといってもいいだろう。




 2016年になると、さらに新しい展開が始まる。『Ren'dez-vous』に収められていたバラード・ナンバー「明日への手紙」が、フジテレビ系の月9枠ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の主題歌に抜擢。確実に新しいファンを獲得することとなった。この曲を含むベスト・アルバム『Aoi Works ~best collection 2011-2016~』もリリースされたが、同年9月にはたたみかけるようにオリジナル・アルバム『青い図書室』を発表。こちらも本人がプロデュースを担当し、加藤登紀子が書き下ろしたという「想秋ノート」を筆頭に、これまでの寓話的な世界観だけでなく、大人の女性シンガーとしての魅力もアピール。これまでのキャリアにおける最高傑作と評価される作品に仕上がった。シンデレラ・ガールとしてデビューしてきた彼女が、最も充実しているのは間違いなく今であることが伝わるはずだ。




癒しのウィスパー・ヴォイスでありながら、しっかりと一本筋の通った歌声

 手嶌葵の魅力はレコーディング作品だけではない。彼女のライヴもデビュー時から定評がある。映画のイメージが強かったためライヴもイベントなどが中心だったが、徐々に自身のライヴを充実させてきた。ピアノやアコースティックギターといった小編成のミュージシャンとともに再現する彼女の音楽は、その場の空気をがらりと変えるような清冽な印象がある。冬の恒例となったビルボードライブでも、2009年に初めてステージに立って以来、多くのファンから高く評価されてきた。これまでは年末公演が多かったが、今回は年が明けてからの登場となる。おそらく、新春の凜とした雰囲気に似会うライヴになるに違いない。

 癒しのウィスパー・ヴォイスでありながら、しっかりと一本筋の通った手嶌葵の歌声。きっと、寒さから守るように聴く者をそっと包み込み、新鮮な気持ちにさせながら、この冬を彩ってくれることだろう。




 

手嶌葵「青い図書室」

青い図書室

2016/09/21 RELEASE
VIZL-1016 ¥ 3,850(税込)

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