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「私は弱者のため、そして差別と戦うためにこの世に生まれてきた」― マドンナ 【ビルボード・ウーマン・オブ・ザ・イヤー】インタビュー
その年に最も輝いた女性アーティストや音楽業界関係者を米ビルボードが表彰する【ビルボード・ウーマン・イン・ミュージック・アワード】。毎年恒例となったこのイベントが、現地時間2016年12月9日に開催される。本年度の【ウーマン・オブ・ザ・イヤー】に輝いたのはマドンナ。受賞を記念して、映画『スウェプト・アウェイ』で共演を果たした、女優/監督エリザベス・バンクスが、マドンナに電話インタビューを決行。過去は振り返らず、常に“今”を生き続ける、ポップ・ミュージック界の女王の“今”に迫った。
Photo: Getty Images Entertainment
「ちょっと待って、ドナルド・トランプはまだ大統領だ。」、これは悪夢じゃないんだ
−−今日はどこにいるんですか?
マドンナ:NYにいるわ。マイアミの【アート・バーゼル】で行われるレイジング・マラウイのアート・オークションの準備をしてて、アーティストとかやたら神経質な人たちと接してる。
−−どれぐらいのアーティストがフィーチャーされる予定なのですか?
マドンナ:多分12点ほど素晴らしいものが集まると思う。自身がコレクションしてるアーティスト、友人のアーティスト、私自身のコレクションに限定しようと思ってる。当初はアート作品のみにしようと思ってたんだけど、“体験”も加えることになった。とにかく面白いものにしたいから。例として、息子と娘を養子にしたマラウイに私と一緒に行くツアーやジョナ・ヒル&エドワード・ノートンとポーカーができる権利、それにレオナルド・ディカプリオのパーム・スプリングスの家に1週間泊まれる権利。ここまで複雑なことになるとは思ってなくて…でもなっちゃったものがしょうがないわよね。複雑な理由は、私がすべてに関わっているから―照明、カーテン、花、装飾、ケータリング。ヒドイ味のワインを何本もテイスティングしたわ。このオークションは、私の一部だから、すべて美しく、上品で、設備が整ったものにしたい。出演者、みんなの衣装、音楽のプレイリストまであらゆる面に携わっているから疲れちゃう。
−−主導権を握るのを止めようとは思わない?それとも自分がやらなくては、って感じ?
マドンナ:私がやらなきゃ。
−−その気持ちはどこから生まれているのですか?
マドンナ:私を精神分析するんだったら、幼少期が関連してると言えるんじゃないかな―母が死にそうだったことを教えてもらえなかったことによる、喪失感、裏切り、そして驚き。その後の幼少期をほとんど感情がコントロールできない状態で過ごした。そしてアーティストになり、自分ですべてコントロールしたいと決めた。誰にも代弁させたり、判断を下させないって。ものすごいコントロール・フリークだって言っても過言じゃない。みんなそう言うのが好きだし。自分が誇りに思えないイベントはやりたくない。これは私がやることすべてに関して言える―ライブ、映画、家作り、子供の育て方。ディテールが見過ごされると、すごく気分が害される。
−−音楽界においての、“年齢差別”について伺いたいです。知っているとおりハリウッドでは、意味のある役柄は年齢を重ねた女性にとって希少です。ポップ・ミュージック界においては、状況がさらに厳しいのでは思います。スタジオ入りしたり、【レベル・ハート】ツアーを打ち出す際に、“意味のある”存在で居続けることは気にしますか?
マドンナ:どうでもいいわ。そんなこと気にしてるのは、周りの社会だけ。誰かに指摘されなければ、自分の年齢のことなんて頭にすらない。自分には価値のある、知恵、経験、見解があると感じてる。そこにティーンエイジャーが共感できると思う?多分できないわよね。でも、それはそれでいい、って思ってる。“relevance”(重要性、価値)という言葉は、差別に溢れたこの世の中で人々が無造作に使っているキャッチフレーズよ。年齢の話の対象になるのは女性だけ。それは性差別、優越主義、女性軽視と関連している。レオナルド(・ディカプリオ)が60歳になっても、彼の“relevance”なんて誰も問わないでしょ。女性を憎むこの世の中において私が意味のある存在かって?教養がある、優越主義者や女嫌いでない人たちにとっては、そうだと思うわ。
−−関連して、大統領選の結果についてはどう思いますか?
マドンナ:まるで誰かが亡くなったような心境だった。誰よりも愛する人が自分の元を去った時に感じる胸痛と裏切りが交わった感情、そして死のようだった。毎朝そう感じた。朝起きて、「ちょっと待って、ドナルド・トランプはまだ大統領だ。」、これは悪夢じゃないんだって。女性が私たちを裏切ったように感じる。トランプに投票した女性の数はとてつもなく多かったから。
−−それはどうしてだと思いますか?
マドンナ:女性は女性が嫌い。それが原因だと思う。女性は、本質的に他の女性を支持できない。とても哀れなこと。男性は、お互いをかばいあうことができるけど、女性が守るのは自分の男と子供。女性は内省的で、男性はその反対。大きな理由は嫉妬、そして同性の人物が国を導くことを受け入れられない、人種的なものもあると思う。どちらの候補者にも共感できなかった、またはトランプがまさか勝つわけない、と思ったから、投票すらしなかった人もいる。ハンドルから手を放したら、事故った、というあり様ね。
−−結果に驚きましたか?
マドンナ:もちろんよ。ひどく落ち込んだし、驚いたし、ショックだった。彼が当選してから、一日もぐっすりと眠れてない。私たちは終わりよ。
−−トランプに投票した知り合いはいますか?
マドンナ:いるわ。大口論になったこともある。
−−彼らの言い分は?
マドンナ:嘘つきの女性より、成功を収めたビジネスマンに国を担ってほしいって。ばかばかしい。でも、人々が政府を信用していないのはあからさま。私たちが暮らす国は、銀行家によって動かされている。だから、ある意味ドナルド・トランプが大統領になってもおかしくはない。知性でもなく、経験でもなく、道徳でもなく、賢い決断を下せる力でもなく、人類の未来について考えることのできる能力でもなく、お金がルールだから。
私は弱者のため、そして差別と戦うためにこの世に生まれてきた
−−アーティストたちの反応はどんなものになると思いますか?
マドンナ:マンハッタンで多くの抗議活動を目にしたけど、最終的に何かそれに見合うものならないと。何か形にならなければならない。
−−ご自身も変化をもたらす存在になれると思いますか?
マドンナ:その答えはわかっているでしょ。トランプに対する私なりの回答を考えているところ。就任式の翌日に女性たちがワシントンDCで行進するというアイディアは気に入ってる。彼の晴れ舞台を台無しにしたい。私は弱者のため、そして差別と戦うためにこの世に生まれてきたんだから。
−−同じニューヨーカーとしてトランプ次期大統領に会ったことはありますか?
マドンナ:友達とは呼べないけど、会ったことがあるのは確か。何年も前に(米フロリダの)パームビーチにある(トランプ所有の)マー・ア・ラゴでヴェルサーチのフォトシュートをやったことがあるの。とてもフレンドリーで、いかにも自慢好きで、肉食系マッチョという意味ではカリスマ性があって、中立性を気にしないその偏見的な見解を可笑しく思った。その時、20年後に大統領選に出馬するなんて、思ってもみなかった。世の中にああいう人はいるし、それはそれで構わないけど、元首になってはならない。彼とバラク・オバマを同じ文脈、同じ部屋、同じ肩書きで扱うなんて私にはできない。
−−マラウイに行ったり、世界を旅すると、アメリカの大統領が持つ世界的な影響が手に取るようにわかると思います。
マドンナ:今、私たちは世界中の笑いものよ。他国の政府やリーダーを批判し続けるはもうできない。私は恥ずかしさから、項垂れている。
−−マラウイでの活動を通じてどのようなことを学びましたか?
マドンナ:世界で何が起こっているのか、目を覚まさせてくれた。アフリカの国々の団体やNGOと繋がることもできた。アフリカでは女の子が教育を受けることが推奨されていないから、彼女たちのために中等学校の重要性にも取り組んできた。マラウイでは10年以上活動してる。私には強い責任と国に対する愛情があるから、彼らのことを見捨てたりしない。2人の子供を養子に迎え、彼らと同じ屋根の下で暮らせてラッキーだと思ってる。そしてマラウイを自給できる国にしようと休むことなく働きかけている。孤児のためのケアセンターを建設したり、クリニックや学校ために資金を出したり、他にもまだまだあるわ。
小児外科医のエリック・ボーグスタインをサポートしている。彼はまさに人間の体をした天使で、子供たちの世話に人生を捧げている。彼は忍耐強く、恐れ知らずで、過酷な環境で1日に何度も手術を行っている。それに耐えられなかったから、病院を建設した。彼が一人ですべてをやらなくていいように、外科医の育成に助成金を出している。それが、この【アート・バーゼル】の資金を集めるイベントということ。アートで、病院のために寄付金を募るの。私はアートを通じて自分を表現し、アートで世界を変えていくの。
−−あなたのSNSを見ると大体マラウイのことか、家族のことを投稿しています。
マドンナ:家族は私のすべて。彼らのためだったら“戦争”にも行く。私が戦っていることが何であれ、それは娘や息子たちのため。彼らにはいい未来を歩んでもらいたい。型破りな家族だけど、ディナーを食べているときにみんなで様々なディスカッションを行う。11歳の息子は、マルコムX、マーティン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラやジェームズ・ボールドウィンについて流暢に話せるし、娘のマーシーはピアノが弾けてニーナ・シモンについて語れる。すごく自慢だわ。
−−お子さんたちのことをSNSに投稿する際、決まりごとはあるのですか?
マドンナ:彼らについて投稿する時は、ちゃんと了承を取ってる。大体の場合は、写真を送ってきたときに「これは投稿しないで。」と書かかれているから、その場合はしない。彼らはアカウントをプライベートにしていて、そこは尊重してる。子供たちは、自分の仕事、そして共にする仕事の一部だと思っている。
−−映画監督としては、何か新たなプロジェクトに取り組んでいますか?
マドンナ:もっと映画は作りたくて、作る予定もある。脚本もいくつか書き上げていて、次はそれらを映像化したいと思っているけど、どうなるかしらね。映画を作るのは、とても複雑な作業で、大勢の人が関与してくる。ツアーに出る時は、「OK、これからツアーする。」ってそのまま行動に移す感じだけど、映画の場合はそこまでコントロールできない。ツアー以上に、もどかしいものなの。
−−トランプ以外に、心配事はありますか?マドンナが悩むことなんてあるんですか?
マドンナ:何ですって?あらゆることについて悩んでるわ。一日中子供たちの心配をして、自分の健康について悩んだり、時間通りに物事を終わらせられるか心配したり。自分が携わっているすべてのプロジェクトについて悩み、そして夜眠れるか悩む。世界情勢も心配だし。悩ましくないことなんて一つもないわ。
Q&A by Elizabeth Banks / 2016年12月5日 Billboard.com掲載
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