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「逆にヒットに対してのアンチテーゼもありますよね」― 箭内道彦 インタビュー



「逆にヒットに対してのアンチテーゼもありますよね」― 箭内道彦 インタビュー

 クリエイティブディレクター箭内道彦が、2016年4月に立ち上げたコミュニティFM『渋谷のラジオ』。地域密着×世界の最先端をキーワードに放送されてきた、この半年間で、どんな出会いや番組が誕生したのか。また、NO MUSIC,NO LIFE.キャンペーンなど数多くのヒットを生みだしてきた箭内が感じるヒットとは?ラジオが果たすべき役割とは?

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渋谷のラジオの役割は、渋谷の町内会

−−2016年4月1日にコミュニティFM「渋谷のラジオ」を開局されて、約半年が経ちました。この半年間、いかがでしたか?

箭内道彦:僕たちは渋谷のラジオを「聴くラジオから、出るラジオへ」と呼んでいるのですが、小泉今日子さん、建築家の槇文彦さん、ファッションデザイナーの山本耀司さん、ピーター・バラカンさんなど、渋谷にまつわる様々な方々に、一般の方々も含め数多く出演していただいています。あと半年で5,000人に達成する勢いです。

−−渋谷のラジオには、台本がないんですよね?

箭内:そうなんです。なので、突然 飛び入りゲストが加わることもあります。たまたま飲み会に行く途中に通りがかられた、しりあがり寿さんが出演してくださったこともありますし、スタジオを観に来て下さった一般の方に喋っていただくこともあります。

−−すごいですね。

箭内:渋谷のラジオのスタジオは1階にあって、ガラス張りなので外から様子が見えるようになっているんですが、TOSHI-LOWの番組の時にはファンの方がビールを差し入れしに来てくれます。差し入れしてくださった方のお名前を伺って、「本日は、○○さん、××さんの提供でお送りしています」とアナウンスしています。TOSHI-LOWは、これを給水と呼んでいます。

−−ビールを渡したら、番組のスポンサーになれちゃうんですね。

箭内:コンテンツという言い方は堅苦しいですが、渋谷のラジオはフリートークだからこそ起きるアクシデントや本音など、他のラジオ番組にはないような内容になっていると思います。様々な人が出会ったり、繋がったりできる場所を作りたいと思って、渋谷のラジオを立ち上げました。なので有名人の方以外にも、渋谷の焼き鳥屋さんや、学生さん、おじいちゃんやおばあちゃんまで、本当に色んな方に喋っていただいています。

−−渋谷のラジオを始められた目的は何だったのでしょうか。

箭内:渋谷のラジオには2つ目的があって、1つは災害対策です。いざという時に機能する地元メディアとして、今は豪華な試験放送をしている期間だと思っています。多くの人に「渋谷のラジオ」の存在を知っていただいて、災害時にはここから生活情報や、災害情報を毎日発信していきたいと思っています。もう1つは人が集まったり、新しい繋がりを生む場所になるということです。なので音楽番組や情報番組を作るというより、「町内会」というイメージで番組を編成しています。

−−渋谷という町のイメージと、町内会という言葉は少しイメージが離れているように感じます。

箭内:渋谷はファッションビルや遊ぶ場所としての機能だけでなく、笹塚や幡ヶ谷をはじめ、商店街も住宅街もたくさんあります。なので、全国ツアーをするようなアーティストも住民としてウロウロするような街の1つとして、このラジオが機能すればと思っています。

−−この半年間で、どのような面白い番組が生まれたのでしょうか?

箭内:たくさんあります。立川談春師匠が斉藤和義さんやクリープハイプの尾崎世界観さん、ライムスターの宇多丸さんなど、落語好きのアーティストをゲストに迎えて話す番組もありますし、奈良美智さんが、好きな音楽をかけて語る「親父ロック部」も人気ですね。

−−奈良美智さんは、ご自身の作品や美術については話されないんですか?

箭内:ロックの話ばかりです。番組を始めた当初は、渋谷のスタジオから生放送をしていただいていたんですが、制作活動の兼ね合いで今は録音機材をわざわざ買って、アトリエで録音してデータを送ってきてくれてます。放送日には奈良さんも一緒にラジオを聴きながらTweetしてくださるので、皆さん楽しみにしてくださっているようです。あとは他のメディアとのコラボレーションも盛んです。例えば、一時休業中の渋谷パルコの最終営業日には、TOKYO FMのスペイン坂スタジオから「渋谷のラジオ」を公開生放送しました。

−−別のラジオ番組で、公開生放送なんて可能なんですね。

箭内:渋谷のラジオは、町内放送を全国に流しているようなイメージですから(笑)なので、渋谷のラジオの一部をJ-WAVEで流してもらったこともあります。ラジオ以外のメディアだと、Huluで配信したり、NHKや日本テレビの方が渋谷のラジオに出演してくださることもあります。

−−色んな垣根を越えられるのは、渋谷のラジオならではですね。

箭内:私達がOSAと呼のでいる谷村新司さんは、渋谷のラジオ開局発表の記者会見で「聴取率や視聴率から解放された時に自分たちがどれだけ面白いものを作れるのかということに挑戦したい」とおっしゃいました。その言葉は、今も僕の心に残っています。

−−純粋な表現な場としてラジオを使ってみたら、こうなったというラジオ局なんですね。箭内さんにとって、渋谷とはどんな街でしょうか?

箭内:渋谷のことは「世界最先端の田舎」だと思っています。集まってくる人や物はすごく刺激的で世界最先端ですが、やっぱり地域の1つであるという意味では他と変わりありません。住んだり働いたりしている人と、実際に喋ってみると皆さん面白い人達ばかりですから。自分は東日本大震災の時にラジオを通じて人が助け合って、色んなものを乗り越える場面を見てきました。なので、渋谷のラジオを通じて渋谷がもっとローカルとしての強さを持てば良いなと思っています。

−−渋谷のラジオでは街の皆さんの生の声を聴くことができるので、渋谷以外に住んでいる皆さんも渋谷に対するイメージが変わるかもしれませんね。

箭内:渋谷は若者の街だと思われがちですが、この番組に出演している人の年齢層はわりと高いんです。 僕は町内会が元気であるには、まず大人が元気であることが重要だと思っています。その中に若い人達を巻き込んでいきたいなと。だって面白い大人がいない街は、面白くありませんから。

−−2020年の東京オリンピックに向けて、渋谷という街も大きく変わろうとしてきています。

箭内:2020年に渋谷では卓球、バドミントン、ウィルチェアーラグビーの3種目のパラリンピックが行われる予定です。なので、渋谷のラジオではパラリンピックの競技のルールや選手について、もっと知るために『渋谷の体育会』という番組で、バラリンピック選手とアスリートの対談を放送しています。パラリンピック選手は、オリンピック選手と比べてメディアに出演する機会が少ないというのが現状です。ただ、2020年には今までのオリンピック以上にメディア出演が増えるでしょう。なので、メディアトレーニングの意味も込めて出演していただいているんです。対談相手となるアスリートは、メディアに慣れた方ばかりなので、とても勉強になるようですね。

−−箭内さんは、渋谷のラジオも含めてご自身が出演なさることもありますが、箭内さんにとってラジオとはどんなメディアなんでしょうか。

箭内:すごく面白いなと思うのが、街で「テレビで見ました」って声をかけられる時と、「ラジオを聴いてます」って声をかけられる時とでは、距離感が全然違うんですよ。テレビだと、ちょっとよそよそしいんですが、ラジオを聴いてくれている方は友達みたいな距離感で話しかけてきてくれるんです。

−−面白いですね。たしかに、テレビ番組を作ってらっしゃる方と話しているとテレビは“マス”に向けて作られているんだなと感じますし、逆にラジオを作る方はリスナーの1人をイメージして作ってらっしゃるんだなと感じます。

箭内:ラジオのマイクの前に座ると、なぜかちょっと良い人になれるんですよね。人をけなしたり批判したりする気持ちが消えてしまって、優しくなったり、素直になったり、正直になったり。

−−リスナーを思い描きながら喋ってらっしゃるのでしょうか。

箭内:そうかもしれませんね。

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逆にヒットに対してのアンチテーゼもありますよね

−−私達は、2008年にラジオの放送回数とCDシングルの売上枚数のデータを使った日本版Billboardチャートをスタートさせました。その後、音楽の聴き方の変化に合わせて、ダウンロードやYouTube、Twitterなどのデータを追加し、今は8種類のデータを合算した複合チャートを作っています。箭内さんは、日頃どのように音楽を聴いてらっしゃいますか?

箭内:そう言われて、今ドキッとしましたがインターネットが多いですね。

−−YouTubeとか?

箭内:YouTubeもありますが、ダウンロードしたり、CDをパソコンに取り込んだり。昔はオーディオ機器じゃなくパソコンを通じて音楽を聴くのはどこかで邪道だって思っていました。でも慣れたと言うと雑かもしれませんが、パソコンやスマートフォンでも音楽を感じながら聴けるようになってきましたね。昔だったら、あり得ませんけどね。

−−パソコンの方が検索したり、管理したりする時に便利ですもんね。新しい曲を知るのは、どんなきっかけが多いですか?

箭内:仕事を通じて知ったり、YouTubeで検索したりすることが多いですね。あとはBillboardさんはチャートをニュースとしても配信してらっしゃいますよね。そういうニュースは知らない曲と出会うための、とても良いきっかけだなと思います。そしてラジオもまた、知らない曲と受動的に出会うことができるメディアだなと思います。僕がパーソナリティをしているTOKYO FMの番組の中で、「新しい音楽と僕が出会う」という企画があるんです。日頃は好きな曲を何度も何度も聴くタイプなので、これぐらい強制的に自分の知らない曲を誰かに押し付けてもらわないと、なかなか音楽のインデックスって増えていかないなと思うので、ディレクターの選曲をいつも楽しみにしています。

−−たしかに、信頼できる人からのレコメンドって重要ですよね。

箭内:昔からCDを貸し借りしていたように、好きな曲や感動をお互い薦めあうのは今も大事なことだと思いますね。

−−今、TwitterやYouTubeなどインターネットを通じて世界的なヒットとなる流れが増えてきています。ヒットを生むメディアとして、ラジオは今も有効だと思いますか?

箭内:トレンドやヒットを作るには、流す回数だけではヒットは作れないと思います。ラジオは、かける側の想い入れを一番乗せることができるメディアで、SNS以上にパーソナルなメディアだと思いますから。参考になるかどうかは分かりませんが、僕は是非お薦めしたいと思った曲があったら、一晩で4回かけることもあるんです(笑)。もちろんフルコーラスで。「4回も流したらバカだと思われるかな」とか「飽きられちゃうかな」とかって思うんじゃなくて、4回も流したら「そこまで応援したいんだ!」ってリスナーの皆さんに伝わると思うから。すでにたくさんの人が好きな曲をかけたら、聴いている人は楽しいかもしれませんが、それってヒットを生むんじゃなくてヒットチャートに合わせているだけですよね。そう思っている間は、ラジオは流行を牽引するメディアにはなれません。なので、ラジオからもっともっとヒットが生まれたら良いなと思っています。ただ、今は世の中の一部に逆にヒットに対してのアンチテーゼもあるのが残念です。

−−どういう意味でしょうか?

箭内:ヒットには、大きなお金が動いているんじゃないかとか、作られた流行なんじゃないかとか。売れていないものに対して劣っているというレッテルを貼る必要は全くありませんが、今は逆にヒットに対しての偏見の方が大きいように感じます。以前、亀田誠治さんが『カメダ式J-POP評論 ヒットの理由』を出版された時に、僕は帯に「ひとりでも多くの人を幸せにすること。それがヒットの本懐」と書かせていただきました。たくさん売れる物を決して毛嫌いする必要はありませんし、ヒットを出せる人はすごいなと思います。

−−昨年から「ヒット」をテーマにインタビューを続けていますが、アーティストの方に「自分がヒットしたなと感じた瞬間」について質問をすると、「幼稚園のお遊戯会や、運動会など自分と関わりがなさそうなシーンで自分の作品が流れた時にヒットを体感する」と答えた方が何人かいらっしゃいました。

箭内:それは、たしかにヒットですね。ヒットというか、大ヒットですよ。音楽の聴き方が増えた結果、この賞を獲ればヒットなんだとか、何万枚売れたらヒットなんだというような明確な基準はなくなりました。でもCDが何十万枚も売れて、みんなが聴いて幸せになって、さらに幼稚園のお遊戯会でも歌われる曲というのは、これからも必ず生まれると思いますし、生み出していかなきゃなと思っています。

−−インターネットを通じて、情報が圧倒的に増えたことによって人の好みが分散し、世の中の大多数の人が感じるヒットは生まれにくくなってきているのではという考えもあります。ただ、ピコ太郎の「PPAP」のように誰もが知るヒットも生まれています。

箭内:渋谷のラジオでは、渋谷を「ダイバーシティ、シブヤシティ。」と呼んでいますが、これだけ人が バラバラな時代は、今までになかったと思います。東京藝術大学で教えながらも感じていることですが、これだけバラバラになっている人達を、ほんの一瞬でも1つにすることができる力を持っているのは、もうアートやエンタテインメントしかないんじゃないでしょうか。イデオロギーだけで、1つになるのはもう絶対に無理だと思いますし、今こそエンタテインメントが必要な時代だと思います。全然違うことを考えている人どうしが、同じ曲を口ずさむことで、その瞬間だけはお互いを認め合うことができる。そのために、ヒットは必要だと思います。今は、世代や性別によって局地的なヒットはたくさん生まれています。それも重要なことですが、全員が夕焼けを見て「綺麗だな」と感じるようなヒットが生まれたら良いと思います。そして、Billboard JAPANチャートに含まれているTwitterや、YouTube、ラジオなど、全てのメディアにその可能性の入り口があるんじゃないかなと思います。

−−唱歌の「ふるさと」のように、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまでが口ずさめる歌って素敵ですもんね。

箭内:そういう曲を、みんな絶対に作りたいんだと思いますが、そんな簡単にはいかないからまずは目の前の人にどうやって売るかという方向に向いてしまうんですよね。でも僕ではなくても良い。誰でも良いので、そういう歌を生んで欲しいなと思います。あとは、Billboardチャートに今後どんなデータが追加されていくのかも楽しみですね。10年前にはTwitterやYouTubeの回数を通じて、音楽のヒットが分かるなんて想像もしなかったし、10年後にスマートフォンは、ないかもしれませんから。

−−Billboardジャパンチャートには、パソコンにCDを取り込むルックアップ数というデータを取り込んでいます。この数字によってレンタルショップの動向や、友達どうしの貸し借りなどを見ることができるんですが、この4~5年の間にすごく減ってきているんです。その理由には、CDが売れなくなってきたということもありますが、CDドライブが付いているパソコンを持っている人が減ってきていることもすごく影響しています。なので、ルックアップは、あと数年で必要ではなくなるかもしれません。一方でカラオケ文化はなくなるとは思えないので、カラオケの歌唱回数は合算したいなと思いますね。

箭内:僕はNO MUSIC,NO LIFE.キャンペーンをやっていることもあって、以前からシンポジウムなどに参加すると「10年後、20年後、音楽はどうなってしまうのでしょうか」という質問を受けることが、よくありました。皆さん、「メディアが変化することで、音楽はなくなってしまうんじゃないか」っておっしゃるんです。でも自分の気持ちを代弁してくれたり、癒してくれたりするものが音楽ですし、そういう曲を探し続けることが音楽との出会いの素晴らしさです。なので、音楽の届け方は変化していきますが、人間が感情を持っている限り、音楽は絶対に衰退しないし不滅だと思います。東日本大震災の後、ミュージシャンたちはみんな「音楽は無力だ。何の力にもなれない」とこぼしていました。でも、今振り返ってみると、音楽が救えたものは、たくさんありました。Billboardチャートは、そんな1曲ずつを繋いで、音楽を支えていこうとされている気持ちを感じます。

−−ありがとうございます。最後に、箭内さんにとっての2016年のヒット曲はなんですか?

箭内:まだ1ヶ月あります。まだわかりませんよ。来週発表される誰かの新曲かも知れません。

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