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カマシ・ワシントン来日記念 rockin'on 渋谷陽一インタビュー

 現代的なブラック・ミュージックやロックとの邂逅を果たし、拡大と進化を続ける“新しいジャズ”。ケンドリック・ラマーやフライング・ロータス、デヴィッド・ボウイなど、現代の最重要アーティストの作品にもジャズ・ミュージシャンが度々に起用され、その注目度は日に日に高まっている。

 日本でもその潮流は変わらない。その象徴とも言えたのが、今年のフジロック3日目での、ロバート・グラスパー・エクスペリメントとカマシ・ワシントンの出演だろう。かねてからルーツ色の強いアーティストが数多く出演し、ファンの信頼も厚いフジロックとは言え、今年の注目度の高さはやはり格別だった。そして、そのカマシ・ワシントンは早くも12月に再来日、東阪にて公演を行う。

 今回は、その再来日を前に、ロッキング・オン・グループの経営者である渋谷陽一氏にインタビュー。長年ロックの音楽評論家としても知られてきた渋谷氏だが、前述の【フジロック】でのグラスパーやカマシの演奏への感銘や、後者の実質的ファースト・アルバムである『エピック』の愛聴を公言する一人でもある。長きに渡り洋楽シーンを見てきた渋谷氏に、現在の新しいジャズの潮流はどのように見えているのか。聞き手は『Jazz The New Chapter』の柳樂光隆氏。

カマシ・ワシントンとロバート・グラスパーの“立ち位置”

渋谷:僕はロックの音楽評論家を長くやっていて、ジャズは聴かないわけではなかったけど長年距離がありました。だから、ここ最近のロバート・グラスパーを中心とした新しい形でのジャズと、ヒップホップやロックといった一連の音楽の接近について、逆に事情を聞きたいなあと思ってます。

 単純にカマシ・ワシントンとロバート・グラスパーでも、その立ち位置はかなり違いますよね。【フジロック】で両方を観ることが出来たのですが、ケンドリック・ラマーとかフライング・ロータスとか、その触媒になるような(ポップスの)アーティストは同じなんですけど、ジャズの表出の度合いはすごく違う。今のこのシーンにおける、ロバート・グラスパーとカマシ・ワシントンは、具体的にどんな立ち位置なんですか?

柳樂:まず(活動拠点が)NYとLAというのがやはり大きく違います。ロバート・グラスパーはNYで、ブラック・ミュージック全般のシーンに関わってきて、現代的なジャズのシーンから出てきた。一方、カマシ・ワシントンはLAで、ジャズの中では、どちらかというとフュージョンのシーンから出てきた人ですね。

渋谷:ただ、カマシもヴォーカルのバックや、ヒップホップのバックもやっていて、ポップ・フィールドでの仕事もやってはいるんですよね?

柳樂:そうですね。LAはNYと違って大きいジャズ・シーンが無くて、色んな仕事をしながらやっていくのがジャズ・ミュージシャンのスタンダードみたいです。そういう意味では、ライアン・アダムスやクアンティックと一緒にやったり、カマシは仕事の幅はすごく広いですね。だから、カマシはスタジオミュージシャン的な側面もありますね。逆にNYはジャズだけでもなんとか食えちゃうんですよ。


▲Ryan Adams - New York, New York


▲マイルス・デイビス&ロバート
・グラスパー『エヴリシングス・
ビューティフル』

渋谷:ただ、ソロ・アーティストとしては、ものすごく単純に言うと、カマシの方がジャズを前面に押し出している。もっとシンプルに言ってしまうと、佇まいも含めて非常にコルトレーンっぽい。例えば、ロバート・グラスパーが(『エヴリシングス・ビューティフル』で)マイルス・デイヴィスをああいう風に批評的に切るスタンスと、カマシ・ワシントンの吹きまくる吹きまくるみたいなスタンス。本質的には同じだと思うんだけど、なぜ、このようなスタイルの差が出てくるんでしょうか?(参考:マイルス・デイヴィス&ロバート・グラスパー特集対談

柳樂:カマシに関しては、LAコミュニティの地域性がすごく強いですね。【フジロック】でも連れて来てましたけど、彼のお父さんがいたパン・アフリカン・ピープル・オーケストラ(Pan Afrikan Peoples Arkestra)という、ホレス・タプスコットがやっていたコミュニティ/レーベル/グループからの音楽性の影響も強いですし、『エピック』にも参加しているドワイト・トリブルというボーカリストや、ピアニストのネイト・モーガンなど、70年代からスピリチュアル・ジャズをやっていた人たちがそのままコミュニティに残って指導者になっていて、彼らからの教育や共演の経験もすごく大きかったみたいです。逆に、ロバート・グラスパーはニュー・スクールでジャズを学んで、その後、テレンス・ブランチャードとケニー・ギャレットというシーンの大物に起用されて出て来たという、NYのジャズ・シーンのよくある感じですね。

渋谷:彼らの音楽的な差異も面白くて、この新しいジャズのアプローチも多様だな思うのですが、その中でも、彼らにとって“ジャズ”がどういう風に位置付いているのかっていうのが、僕が一番知りたいところです。ロバート・グラスパーもカマシ・ワシントンもすごく面白いけど、それぞれの面白さの質、そして向かっている方向性みたいなものが、今のジャズがポップ・ミュージックとの良い関係性を保ちながら、新しいスタイルを作り続けられるか、という可能性に関係している。つまり「どこまで行けるのか?」ということのキーになる感じがするんです。

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スロットル・エレベーター・ミュージック/カマシ・ワシントン Matt Montgomery Gregory Howe Mike Hughes Erik Jekabson「スロットル・エレベーター・ミュージック・フォー フィーチャリング・カマシ・ワシントン」

スロットル・エレベーター・ミュージック・フォー フィーチャリング・カマシ・ワシントン

2016/09/08 RELEASE
AGIP-3581 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.Gibralter Road (feat. Kamasi Washington)
  2. 02.Rocovery (feat. Kamasi Washington)
  3. 03.We Can Work with That (feat. Kamasi Washington)
  4. 04.Back to Form (feat. Kamasi Washington)
  5. 05.Bridging the Barrier (feat. Kamasi Washington)
  6. 06.Throwing the Switch (feat. Kamasi Washington)
  7. 07.Way out of Line (feat. Kamasi Washington)
  8. 08.Sweet Spot (feat. Kamasi Washington)
  9. 09.Bridging the Barrier II (feat. Kamasi Washington)
  10. 10.No One to Vote For (feat. Kamasi Washington)
  11. 11.Boeseke Trail (feat. Kamasi Washington)
  12. 12.Retuen to Form <日本盤ボーナストラック>

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