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山下洋輔×大谷康子インタビュー



山下洋輔×大谷康子インタビュー

 2015年よりスタートしたジャズ・フェスティバル【かわさきジャズ】。多様な文化が息づく川崎という街にとって、様々なジャンルを源流とするジャズは、ぴったりだ。今年は、「ジャズは橋を架ける」をテーマに、時代や国境を越えた様々なプログラムが川崎市内のホールやライブハウスで11月11日から20日まで10日間にわたって、約40公演行われる。本フェスティバルのグランド・フィナーレ「ジャズtravelsワールド」で共演を果たすジャズ界の巨匠・山下洋輔と、各方面で活躍する人気ヴァイオリニスト・大谷康子に、2人の出会いや、音楽祭への意気込みについて話を聞いた。

大谷:何かを人に伝えるという意味では根本的には同じ

−−山下洋輔さんと、大谷康子さんの出会いを教えてください。

大谷康子:去年、私のデビュー40周年記念コンサートを開催した時に山下さんにご一緒していただいたのがきっかけです。コンサートを企画した時に、今まで自分がやってきたこととは強烈に違う世界に連れて行って下さる方と一緒に演奏したいなと思って、お願いしました。

−−ご一緒されて、いかがでしたか?

大谷:音楽というのはどんなジャンルであっても、何かを人に伝えるという意味では根本的には同じです。でもクラシック音楽にはまず大前提として楽譜がありますし、その通りに弾くということをずっとやってきたんですが、山下さんは「何をやっても良いんだよ」って何度もおっしゃって。

山下洋輔:楽譜はあんまりありませんよって、私からはお伝えしました(笑)。

大谷:はじめは、どうしようかって思いました。「こんなことをしたら恥ずかしいかな」とか、「変だと思われるかな」とか色々考えてしまって。でも山下さんが「何をしても良い」って何度もおっしゃるので、「じゃあもう何でもやっちゃえ」と思って。そうすると、すごく自分自身を解放することができました。

−−大谷さんが殻を破れるようになるまで、どうやって信頼関係を築いていかれたのでしょうか。

山下:大谷さんがどんな方なのかは、僕を選んで下さったことで大体分かりますので(笑)、「Chiasma」という僕の作品をリクエストしてリハーサルでやってみました。この曲は本当に短いテーマしか決まっていないんです。残りの90%はフリーで演奏するというものなのですが、大谷さんは平気で弾いていました(笑)。そもそも、クラシックはすごく長い歴史があって、最先端のことをずっとやり続けてきています。現代音楽の中には、即興で音を出すようなグラフィック楽譜だってありますし、めちゃくちゃアナーキーな作品だってあります。そういう作品を経験されている方は大丈夫なんです。「何でもやってください」ってお願いしたら、素晴らしい音が出てきました。

大谷:最初「Chiasma」の楽譜を見た時は、本当に数行だけだったので、「え?これだけでどうやるのかな」って思いました。

山下:でも、他の楽器には絶対に出せないようなヴァイオリンならではの響きや特性がちゃんと表現されているんですね。

大谷:なので、私も自分ができる技術を駆使して、あらゆる奏法を入れて弾いたんです。

山下:そういう演奏を聴いて嬉しかったですね。即興演奏の相棒がいるのと同じですから僕も思う存分できました(笑)。

−−山下さんと共演してから、大谷さんのその後の演奏活動に影響はありましたか?

大谷:「自分は何を表現したいのか」ということを、すごく自問自答するようになりました。実は、9月11日にミューザ川崎シンフォニーホールの【モーツァルト・マチネ 第26回】で、モーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲 第3番ト長調」を演奏するんですが、今までだったら既成のカデンツァを弾いていたのに、すっかり山下さんに触発されて、自分でカデンツァを作って自由に弾いてみようと思っています。

山下:それはすごい!

−−そんな風に思ったのは、初めてですか?

大谷:初めてです。

山下:いいですね! そもそもカデンツァは、協奏曲の中でソリストが即興で弾く部分だったんでしょ。でもある時、そのカデンツァの部分まで作曲家が楽譜に書き記してしまったから、みんな同じように弾くようになってしまって。ウィントン・マルサリスが書いたモーツァルトのヴァイオリン協奏曲のカデンツァもありますよ。でも、結構モーツァルトっぽかった(笑)。大谷さんは、もっとすごいことをやっちゃってくださいね(笑)。

大谷:いえいえ(笑)でも、こんな風に思うようになったのは本当に山下さんのおかげです。今回のコンサートでは、できればその場で思ったことを弾ければ良いんですが、私はまだ何にも用意せずにステージに立つ自信はないので、枠組みだけは決めつつ、あとは自由に弾こうかなと思っています。

山下:素晴らしいですね。

大谷:あれもやりたい、こんな奏法も入れたいって思うと、電車に乗っていても歩いていても、毎日ワクワクして止まりません。

山下:大谷さん、完全にジャズマン、あるいは作曲家になりましたね(笑)。

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